2005年1月

思想の戦いと社会主義の改善

 その業績を台無しにしようと唯一の超大国が良く練った計画を立てているにもかかわらず、キューバ革命の直りは早い。

12月23日のハバナ国会の年末の開会でのフィデル・カストロ国家評議会議長とラウル・カストロ国防大臣

 キューバ人たちは、1月1日に革命46周年を祝ったが、南と南東アジアでの津波被害に配慮しそれは控えめであった。キューバは海による被災に慣れており、ほぼ毎年、被害を受けている。2004年にも大型サイクロンに見舞われたが、政府が進展させた効率的な早期警戒制度とその有効な対応制度のおかげで、死傷者は少ない。一方、米国のフロリダではサイクロンで何百人もの命が奪われた。

 キューバが懸念しなければならないのは、まさに人災である。ジョージ・ ブッシュ大統領の再選と、「政権交代を引き起こす」という米当局からの度重なる脅威によって、キューバは自らの防衛体制を強化している。ブッシュ政権は「キューバの民主化への移行」に向けた壮大なプログラムを提唱し、2004年12月の2週目からは、キューバ軍と民間防衛組織は3 1週にも及ぶおおがかりな運動に参加した。この運動の成功で、「キューバはいかなる不測の事態にも準備ができた」とラウル・カストロ国防相は語る。

 キューバ共産党(PCC)中央委員会の古参メンバーである、ホセ・アルバレス(Jose R. Alvarez)は、「この軍事演習はこの40年間で最大規模のものです」と口にする。アルバレスは、キューバはどの国とも友好関係を望む「平和主義」であることを強調し、この軍事演習は革命を動揺させる2004年のブッシュ政権のプランに対応したものなのだ、と語る。

「ベトナムとイラクがその実例です。私どもは、現実に最悪の事態に備えなければなりません」

 

オールド・ハバナの広場
近年は通りに多くの車が見られるが、都市は交通渋滞とは無縁だ

アルバレスは、革命以来、カストロと行動を共にしてきたが、大量破壊兵器を持ち、テロや麻薬取引きを奨励してきたとの主張を含め、ブッシュ政権はキューバについてデマを盛んに流していると語る。

 カストロは、革命を最前線で率いており、ここ2カ月で、胡錦涛中国国家主席、ベネズエラのウゴ・チャベス大統領、マレーシアのアブドラ・バダウィ(Abdullah Badawi)首相を含め、キューバを訪問する首脳たちと会見している。チャベスは11月と12月に続けてキューバを訪れた。最初は、カストロが負傷した直後の表敬訪問で、公式訪問は12月の2週目のものだった。

 12月の初週には、カストロは第8回共産党青年同盟会議の結論セッションで重要な演説を行っている。1998年に開かれた同組織への対処を想起しつつ、カストロは共産党とキューバの若者たちとの強い絆を強調しつつ、参集した若者にこう語った。

「諸君らは、世界のいかなる国よりも強力な絆のもとに存在し、この革命にいつも深く存在している。「われわれの革命は、日々生まれかわっている。なぜなら、われわれの思想、われわれが守る正義、われわれが闘うための理由は、今日的な理由であり、この惑星上で生きる何十億人の人民のため以上の理由があるはずがないからだ」

 カストロは若き共産主義者たちが、新規参入者の入党訓練を成功させたことを称賛する。党員の60パーセント以上は、30歳以下で、共産党青年同盟の出身である。だが、カストロはその演説で、いまだにキューバ社会を苦しめている多くの欠点を言い繕くろうとはしない。

「われわれは、不正、社会的な無秩序、そして薬物使用に対する厳しい戦いを行い続けなければならないだろう」

 カストロは、1998年にすでに国家が防衛されなければならないと強調している。

「だが、われわれはたとえ一分たりとても防衛のことをむげにはできない。なぜなら、パワーを持つファシストの如き、極右政党が古いやり方で冒険をし、避けられない危機、政府転覆を図ろうとしているからだ。われわれは軍事侵略の危険性を見逃せない。今、真の戦いは思想の戦いなのである」

 ジョージ・ブッシュが大統領になる2年前のこのカストロの予言はまさに的中した。カストロは「思想」こそが、それ自身を救うための人類の戦いで最も大切な武器であると若き共産党青年同盟の会員たちに言う。そして、キューバ人民よってなされた「思想の戦い」の結果、過去5年でかなり暮らしが向上したとも言う。

オールド・ハバナの通り

 9年前にはキューバはかなり苦しい状況に置かれ、東欧社会主義圏の崩壊と従来からあった貿易相手国の消滅に、人民たちは勇ましく対処しようとしていた。多くの人民が輸送手段として自転車を用い、大通りは、車に便乗しようとする通勤者で満たされていた。だが、今は、ほんのわずかしか自転車に乗る人を目にできない。いまだにヒッチハイクをしようとしているが、その数は今ははるかに少ない。まだなされる必要があることは多くあるが、公共交通制度はかなり向上した。そして、役人や車の所有者は、通勤者が目的地にたどりつく着くことを支援するよう求められている。今、1950年代のアメ車は、インドからの約500台を含め世界各地の新車と共存している。

 今、キューバの石油の需要の約50パーセントは国産である。そして、残りのほとんどは、1バレル28ドルという「友好的なレート」でベネズエラから輸入されている。一方、キューバは何千人もの医師、看護婦、運動インストラクターをベネズエラに派遣している。

過去10年で、キューバは教育と医療分野で大きく進展し、キューバに滞在する多くの西洋人によれば、米国の厳しい経済封鎖にもかかわらず、この分野で先進国の水準を達成している。

「今、小学校の教師はたった20人の生徒を受け持つだけだ。それはより質の高い教育を提供する」カストロは12月5日の演説でこう語った。

 今、幼稚園レベルでもコンピューター教育がされており、自閉症の子どものための初めての学校も設立した。これは、ほとんどの国で実施されていない政策である。

「思想の戦いを通じ、われわれは古き夢を実現させた。その結果、高等教育の大学化、それが、革命プログラムを終えたすべての若年や一般労働者が利用しやすい大学の普遍化を達成した」カストロはこう演説する。

 キューバは福祉医療にも大きく投資をしている。27の病院の外、全国に444の総合診療所がある。全国民が無料の医療を利用でき、病院や診療所に行けない患者は自宅で医師による治療を受ける。

キューバの専門医療技術は多くの開発途上国でも用いられている。2万3413人のキューバの医師や医療技術者が66カ国で働いている。カストロは、それを「人間味のある連帯のミッション」と呼ぶ。西半球で最も貧しいハイチには450人のキューバの医師がいる。カストロは言う。

「工業国はたった50人の医師さえハイチに送ることができない。金融資本を持っていても、人的資本を欠いているからだ」

 バイテク革命もこれとは別のサクセス・ストーリーだ。キューバはラテンアメリカに対する最大の医薬品輸出国で、50カ以上とバイテクでビジネスを行っており、インドを含め、こうした多くの国に工場設立の支援も実施している。キューバ人たちは、それを「南から南への」技術移転と呼ぶ。キューバの研究者は100以上の特許を持ち、うち26は米国のもので、世界初の髄膜炎Bワクチンも開発している。肺癌細胞に対し免疫系を刺激するワクチンも開発している。

 カストロは、かつてこう語っている。

「すべての社会の人間と物的資源が、人民のサービスに対して位置づけられるとき、いかにわずかの資源であっても多くのことがなしうるか。それを示すわれわれのささやかな努力は、より良き世界のための闘争におそらく最も役立つことだろう」

 キューバは2004年には5%の経済成長を達成し、観光は対前年比で7.6%も伸びた。政府は、平均所得が15%も高まったと発表している。そして、2005年の新年はほとんどのEU諸国との関係正常化でスタートした。ブッシュ政権からの資金で反対しているベルギーを例外として、キューバは、EU諸国と外交関係をはじめた。それまで、EUとの協力協定は見合わされており、スペインのホセ・マリア・アズナル(Jose Maria Aznar)元大統領は、キューバへの反対運動を組織していた。EUは、ジュネーブの国連人権委員会等のフォーラムで、キューバの場合にのみ、盲目的に米国の主張を指示する人権と関連した問題を採択することを決定していた。

 だが、スペインの社会主義新政権は、より実践的なアプローチを取ることとし、その国家的レセプションに他の主要なEUメンバーを招待することで、反対者を奨励することを止めるよう説得したのだ。そして、EUはドルを禁止し、国際貿易通貨としてユーロを便りとするキューバ政府の決定を歓迎した。キューバの外務事務次官は、EUとの貿易関係は、いまではそれほど複雑ではないと語る。キューバを旅する観光客のほとんどはEU諸国からのものだ。

 2004年11月のドル禁止は大きな反響をよんだ。それまでドルは法定貨幣だったが、キューバ人たちは自発的にすべてのドルを2週間以内に国立銀行に預け、この通貨の蓄積でキューバ・ペソの力は強まった。

「われわれは金融の自主権を取り戻しました」とアルバレス閣僚会議副議長は言う。

 ホルヘ・レズカノ・ペレス(Jorge Lezcano Pere)国会副議長は「ブッシュ政権は、アル・カイダのマネーロンダリング活動を絶えず監視するのはただ一人の職員なのに、キューバへのドルの流れの動向を抑えるためだけに国務省に20人の職員を配備している」と語る。最近、スペインの銀行は、キューバにドルを振り込んだことで、米国政府から罰せられた。ペレスは、米国の経済封鎖による多岐にわたる問題に国家が耐えることの一助となったのは、革命によって築かれた構造だと語った。

(インドのナショナル・マガジンからの記事)


  John Cherian, Progress of a revolution, India's National Magazine, the publishers of The Hindu, Volume 22 - Issue 02, Jan. 15 - 28, 2005.

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