2006年3月 |
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2005年11月17日、ハバナ大学で、カストロは、不正や窃盗によってニューリッチ階層の手にキューバ人民の資源が搾取されている状況に対し、どのような対抗手段をとるのかを演説した(ソシャリスト・ボイス67)。また、カストロは最近なされた電気供給制度改革のベースとなっている経済原則が経済全般にも適用されるとした。いま、政府はその代償として給料をあげながらも、同時に電気代をアップしている。 「補助金や無料サービスは基礎的なものだけが考えられるだろう。医療サービスは無料で、教育も同様だろうが、住宅代は無料にはならない。補助金はあるものの、家賃は実費に近づくだろう」 カストロはこう語った。この変化のバックにある考えは、12月国会の演説でフランシスコ・ソベロン・バルデス(Francisco soberón valdés) キューバ国立銀行総裁も説明している。 「最も重要なことは、商品やサービスの分配が明確に、われわれの経済構造で占める各ポジションでの努力と直接結びつくことです。スペシャル・ピリオドによって、この戦略目的からはるかにずれてしまっています」 スペシャル・ピリオドとは1990年代前半にソ連との経済の連携が破綻したことによって生じた経済危機のキューバの表現である。資本主義社会では、何も生産せずに手や頭を使う労働者の何倍もの所得をあげる企業の社長が「努力」という言葉で正当化されてしまっている。だが、キューバ経済においては、総裁が強調する点によれば、給与水準は「可能な限り平等な分配」という目標を担保するため、各自の仕事に常時密接に応じているのだ。 キューバでは、住宅等、多くの基本必需品の料金が長年、助成されてきた。そして、こうした補助金は海外からのドルを含め、多すぎるほどの貨幣を手にするキューバ人に利益となり、特権階級に経済資源が流れ出ることになっている。その結末は、大きな格差という傾向の強まりだ。 補助金制度は労働者には最低の生活費を保証するだけなのだ。今の労働者の状況について総裁はこう説明する。 「労働者たちが稼ぐ金銭は、市場価格で売られる必要な物品を買えるほど十分ではありません。結果は労働倫理の腐敗です。給料はもはや労働者の動機づけになりません。労働者たちは社会に貢献しているにもかかわらず、自分や家族に物質的商品をなるたけ手に入れる戦いに送り出されるのです。人間が物質的な富の上で権威を持つとき、この傾向は特にダメージが大きいのです。そのうえ、自分の生活水準に影響することなく、働かないことを選ぶことができるものもいます。こうした状況は経済にとって壊滅的で、道徳的にも容認できるものではありません」 ソベロン総裁は、電力業に適用された解決策を拡充することを提唱している。 「このやり方はスペシャル・ピリオドの間に生じたり広がったりした格差を徐々にですが減少させています」 キューバの政策はマルクスが100年以上も前に論じた、各自が完全にその能力を用い、その仕事に応じて、支払われるべきだという論理を維持している。 ■思想の戦い カストロとソベロン総裁が概説する新政策は、国の資源が特権階層に流れることを抑え、経済全般の効率性を高め、その代わりに生産性を大きく促進することを目指している。だが、キューバの指導者は、生産性の増加そのものを解決策にはしていない。むしろ、国からの給料や年金の実質価値を高めることでキューバの労働者を支援することを目指している。また、ソシャリスト・ボイス67で論じたキューバの電力改革は、格差の縮小、女性の家庭労働への負荷の軽減、省エネの奨励等、それ以外の社会的目標も追求している。こうした政策は、資本主義社会に取り囲まれる中、キューバやキューバ労働者を強化することを意図している。政策はキューバの共産党員たちの言葉では「思想の戦い」の一部であり、資本主義の体制への後退に対して、社会主義の戦いの優越性を示す努力でもある。 イデオロギー面での挑戦の性格については、12月23日の国会でフェリペ・ペレス・ロケ(Felipe Perez Roque) 外相が詳しく説明している。
「歴史的な記憶がある程度、失われつつあります。世界で起きていることについての比較した理解が失われているのです。キューバ人の中には資本主義への幻想を持っているものがいるのです。いつかの日にか「ヤンキー」が私たちを圧倒すれば、実のところは米国の新植民地と化したハイチやドミニカ共和国、貧しい第三世界国になるだけなのに、彼らは高度なヨーロッパ諸国の資本主義が得られると思っているのです」 そうした幻想に対抗するため、11月17日の演説で、カストロはキューバの革命家の努力を中心に位置づけた。キューバの敵、帝国主義者について述べ、「彼らはわれわれを決して滅ぼすことはできやしない。だが、われわれは自滅できる。そして、それがわれわれの欠点になるだろう」と宣言した。そして、カストロはこうたずねた。 「いかなる思想といかなる意識レベルならば、革命の過程を転覆させることが不可能になるだろうか」 ■修正 社会主義の意識を高め、労働者階級を強化するための経済政策では、キューバ革命には長い歴史がある。ペレス・ロケは、経済構築において労働者のイニシアチブやボランティアのプロジェクトを広げる目標を含んでいた1980年代の「修正キャンペーン」を想起する。 「残念なことにこの修正はスペシャル・ピリオドが始まり、ごく短期間で打ち切られました。その目標の多くを実現できなかったのです。ですが、今では、多くの経験を積み、確固とした基盤の上で、こうした多くのプランを救い出しています」 修正という言葉を用いないまでも、カストロも11月17日にその課題をこう呼び起こした。 「資本主義的なやり方で社会主義を構築できると考えるものがいる。だが、それは大きな歴史的誤りではあるまいか。それが、革命のはじまりから革命の間でも、最も重大な誤りのひとつは、社会主義を築きあげる方法を誰かがわかっていると信じたことだと、私がコメントした理由なのだ」 ■チェの経済への文 キューバのリーダーの最近の声明は、チェ・ゲバラが「モラル」の重要性を強調した1960年代の革命の最初の歳月に戻るテーマを反映している。それは、経済構築における出来高仕事やボーナス・プログラム等による「物質的なインセンティブ」と並ぶ政治的なインセンティブである。チェは、その後のソ連崩壊を予言したかのような言葉で、生産を奨励する資本主義的なやり方に依存する結果も警告していた。 「社会主義を達成するという空想的な希望は、資本主義(経済単位としての商品や収益性、レバーとしての個々の物質的利益等)が残したつまらぬ道具の助けを借りれば、袋小路に導かれてしまう。そして、経済的な基盤は意識開発の基盤を腐食させてしまう。共産主義を築きあげるのには新たな素材の地盤で新たな人間を構築することが同時に必要なのだ」 (キューバにおける人間と社会主義) ソ連の経済モデルを批判的に評価するゲバラの原稿がハバナのチェ・ゲバラ研究センターと連携し、Ocean Pressで初めて発行されたことは注目に値する。チェが中心人物であった1963~64年のキューバの経済政策への議論の文書収集も登場してきた。両書は、スペイン語で、キューバで広く利用できるようになるだろう。 ■ソ連の教訓 ゲバラの思想は、今、ソ連の経験への教訓として、多くのキューバ人が関心を抱いている。カストロの11月17日のハバナ大学の学生への演説は、ソ連共産党との外交政策についてこの話題をとりあげた。 「凄まじい悪が作り出された。権力の乱用、残酷さ、そして、とりわけ、ひとつの国家が他のあらゆる国や党の上に課す権威。こうした歴史的な出来事は、社会主義闘争における倫理的な要素の重要性を切り捨て、共産主義のための目的が、手段を正当化するという考え方に影響を及ぼした。今、われわれは新たな局面に入りつつある。だから、このテーマについて話すことができる」 カストロは1930年代と1940年代のソ連共産党の国際政策についての見解を説明する。カストロは、「政治的に血を流して死ぬことを残した激しい一撃だった」とし、1939年のナチス・ドイツとソ連共産党との同盟を非難し、独裁者のフルヘンシオ・バチスタ(Fulgencio Batista)との同盟に導いた1930年代と1940年代のキューバ共産党の政策も批判した。 「反ファシスト前衛を組織化せよと、その要請はモスクワからやって来た。それは悪魔との契約だった」 バチスタのような資本主義的政治家に労働者の闘争が従属させられたことは、1930年代半ばから後半のソ連の反ファシスト連帯の結果だった。カストロは、ラテンアメリカにおける革命運動とのキューバ共産党との関係をこの歴史と比較する。 「彼らが何をすべきかについて誰かに告げるということはわれわれには一度たりともおきたことがない」 ■キューバと世界戦い ソ連の体験について国際的な次元でカストロがコメントしたことは、カストロが全世界の労働者の闘争の経験や解放でのキューバの親密な関与での中心的な役割を示している。キューバのインターナショナリズムは「ヒューマニティこそがわれらが祖国だ」(Patria es humanidad)と語った独立闘争の指導者ホセ・マルティの思想に根ざしている。国際的な人道救助に捧げられるキューバの資源の割合は、カナダ等もっと経済が豊かな国のそれよりもはるかに大きい。この努力を促進するため、キューバは自国の需要よりもはるかに大きな医療システムを構築している。ベネズエラやボリビアのように大衆運動が大躍進を遂げた地区において、キューバは支援をすすんで提供している。そのうえ、キューバの医療連帯はラテンアメリカやカリブ海だけに限定されない。例えば、キューバの医療チームは、昨年の地震でパキスタンの人々が死や病気、破壊を切り抜けることを支援するうえで重要な役割を演じた。キューバのリーダーは、資源の節約について議論しても、この貢献問題については少ししか言及しない。被援助国の独立、自助開発権を尊重することから、キューバの海外援助は帝国主義のパワーのそれと比較し、歓迎されている。それは、キューバの社会制度の優れた物的デモンストレーションとしても役立ち、米国の封鎖に対する戦いでキューバへの大きな共感を呼んでいる。 そして、現在のキューバ経済は、ラテンアメリカ、中東の一部での帝国主義者への戦いや中国の世界での役割の高まりで、より柔軟性を享受している。キューバ人民は、全世界の反資本主義者や反帝国主義思想家の視点で、思想をわかちあおうとしている。ハバナではほぼ一月に一回は重要な国際会議が開かれる。海外渡行するキューバ人たちの人数も増え、その最近の一例がカラカスで開かれた世界社会フォーラムに参加したキューバの大人数からなる代表団である。 キューバ革命の指導者は、その始めから、革命が長期にわたって生き延びることは、反帝国主義者や反資本主義者との戦いをどう成功させるかによるということがわかっていた。それが、ベネズエラにおける革命の進展やボリビアでの在来民族の勝利が、キューバに大きく影響する理由だ。キューバの運命は、ラテンアメリカ全域やそれ以外の大陸での闘争の結果と深く結びついている。そして、キューバの進展はベネズエラ、ボリビア他での戦いを支援するだろう。キューバ人はこうした条件で行動しており、私たちも同じように行動しなければならない。生き残り、その未来を自由に造るキューバの能力は、少なからず私たちがこの英雄的で戦いの準備を整えた人民との国際的連帯を築くことによっているのだ。 (カナダのソシャリスト・ボイスからの記事) |
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John Riddell and Phil Cournoyer, Economic Reforms Fuel, Cuba's Battle of Ideas, Cuba Seeks Revolutionary Renewal, Part Two, Number 69, March 1, 2006. | |||||
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