キューバのエネルギー革命
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キューバは、その経済や発電力を強化するために長期にわたってロシアに依存してきた。だが、ソ連圏が崩壊して以来、石油や天然ガス発電所を含め、キューバは自ら電力市場を発展させ、再生可能エネルギーに向けて動かなければならなくなった。
キューバを旅する者にとっては、路上の古めかしいアメ車や暗い通りや家屋、そして、オールド・ハバナではっきり目することができる星々と出会えることは、ロマンチックに思える。とはいえ、キューバ庶民にとっては、それは、強硬な独立路線を歩むこの国が直面する深刻なエネルギー問題のまさに事例なのである。
にもかかわらず、革命、ハリケーン、貿易封鎖、世界経済の危機、そして、ソ連の終焉でも、キューバのエネルギー部門の送電は、発電力が限られているとはいえ止まっていない。
1991年、キューバはその最大の挑戦である「エネルギー問題」を経験した。ソ連からのキューバへの援助の終焉で、米国の経済封鎖に対して国は脆弱となり「何年もの燃料不足」をもたらすことになった。そう、クーバ・エネルヒーアのエネルギー専門家マリオ・アビラ氏は見ている。
ソ連からの毎年50億ドル、廉価な石油、エネルギー部門への寛大な投資は1991年に終わった。ロシアの投資財やサービスに対して、競争力のある価格をキューバは支払えとモスクワは主張する。その一撃で、ハバナは、その値段が高く、非効率な精糖業の輸出市場を失った。
1991年まで、キューバの中央計画経済は、その貿易の80%を東欧に依存していた。1991~1993に輸入が50%落ち込むと、原油輸入も20%も落ち込んだ。これでエネルギー部門は「屠殺場」へと変わった、とマイアミ大学のエネルギーの研究者、ホルヘ・ピニョンと観察する。国はもはや、その発電所のために必要なスペアパーツも輸入燃料も提供できなかった。この間、国営のキューバ電力公社は、やむを得ず厳しい計画停電を科し、ハバナ市民は一週間に2、3時間の電力を受けられただけだった。
1993年には経済は回復し始め、国産の原油生産は増え、限られた石油輸入も増え始める。とはいえ、キューバの石油消費量は今日もいまだに1990年以前の水準には戻っていない。
こうした地政学的なファクターの結果、ハバナはその多くの政治的、社会的な問題へのアプローチを変えることを強いられた。古典的なソビエトのアプローチはもはや適切ではなかった。キューバはそれ自身の解決策を見出すことを強いられた。
中国やベトナムで行われている「市場社会主義」からはまだ圃と遠いが、これが、共産主義やビジネスのプラグマティズムのカクテルである、よりフレキシブルなアプローチをもたらした。
この新たなアプローチの一部が、エネルギー輸入を削減し、国内エネルギー資源のメリットを最大とすることを目指す、国家エネルギー・プログラム(FNE)だった。新たなエネルギー・プログラムを実施した成果には顕著なものがある。とはいえ、その市場社会主義改革が完全に達成されたならば、さらに成果は良かったであろう。しかも、1960年以来、米国からの投資や先進技術へのアクセスが米国政府によって封鎖されているため、ハバナが1991年以降に得られる投資資金は極めて限られ、利用できるものも石油開発、食料、バイテク部門に重点がおかれた。
キューバは、長年、価格のメカニズムを用いることで、エネルギーを供給することを拒否してきたため、需要のマネジメントは数多くの問題を引き起こした。これは、多くのユーザがエネルギーを効率的に利用するにあたって、経済的インセンティブがほとんどないことを意味した。配給は別として、キューバは、1993年にエネルギー節約のための大規模な公共教育キャンペーンを立ち上げる。国全体で、広告版で、メディアや職場で、この目的を達成するためのキャンペーンが始まった。
全国の送電網かオルタナティブな燃料減からの電気を用いて、中国政府からの支援で、電球、台所用品、湯沸かし器がより効率的な(まだ時代遅れだが)中国の技術に交換された。オルタナティブなエネルギー源とは、ソーラー、そして、キューバの成長する海底石油採掘業の副産物である天然ガスである。だが、こうした手段は、高まる需要をコントロールするには不十分なことがすぐに明確となり、さらに死に物狂いの政策が実施される。
これは、無駄なエネルギー使用を罰するため、個々の家庭に電力計を導入し、消費者のために踏み絵の価格決定メカニズムの導入がかかわるものだった。職場では厳格なエネルギー使用計画が導入された。この目標の達成に失敗した組織は、重い罰金を課され、その電気は長期間、切断された。
さらに、ハバナは、精糖業、工業、機械等のエネルギー集約型の産業に支配されたものから、観光業、バイテク、そして、米国や世界の他の場所で働くキューバ人からの送金のように低エネルギー使用産業へと経済を再編した。米国の技術と資金へのアクセスが制限されることで妨げられ、1991年以来、キューバ経済への石油とガス供給の改良では、限られた進歩しかされていない。とはいえ、キューバはその油田で、ヨーロッパ、アジア、カナダ、そして、ラテンアメリカの投資を誘致できた。カルロス・ラへ副大統領によれば、この投資で、キューバは国内資源でエネルギーニーズの50%を満たせることとなった。
さらに、キューバは、ベネズエラから好条件で、オリノコの原油を主に輸入し、カナダから高品質な石油をいくらかを輸入することで、その石油需要を補完できている。
緊急的な解決を必要としている第一の問題のひとつは、7つの老朽化した3GWのソ連が建設した火力発電所の既存のネットワークが頼れないことだ。それは、2007年で国内の総発電力の51%以上をいまだに提供している。1991年の経済危機以前は、こうした発電所は、80%稼働していたが、1993~94には50%まで落ち込んだ。
1991年以降ソ連の技術と廉価な石油供給へのアクセスが拒否された結果、こうした発電所は、国産の重油を用いることを強いられる。
とはいえ、国産石油への対外投資とシエンフエゴスの精製所とマタンサス港の石油補給施設の最近の完成の結果、キューバ火力発電所は、まもなく良質の石油にアクセスでき、その結果、電気機械の信頼性は改善されるであろう、とホルヘ・ピニョン氏は示唆する。とはいえ、キューバは、いまだにこうした時間満期の発電所を取り替えるつらい決断に直面しなければならない。
信頼できる新たなエネルギー源は登場している。1997年に、キューバは、以前に石油生産のため、その沖合で焼却処分されていた天然ガスを利用し始めた。これは、ガスを岸辺に運び、処理し、次に、国内用にハバナの100万人以上に配送することを意味した。さらに、天然ガスは、現在、2007年に376MWを発電するため「エレクトリカ」に販売されている。キューバ電力公社との間で、カナダのエネルギー企業シェリット・インターナショナルと国営石油企業、キューバ石油公社(CUPET)との合弁企業「エネルガス」を設立し、電力の20%供給を目指しているのだ。
2004年はキューバのエネルギー革命のターニングポイントを立証した。世界的な経済環境で、キューバは燃料輸入を減らすことを強いられ、その主な火力発電所のひとつは、厳しい機械的な異常に取り組むため、数カ月休止しなければならなかった。ロンドン首都大学の国際キューバ研究所のエミリーモリス所長はこう報告する。
「全国送電方式は、2004年に崩壊しました」
ホルヘ・ピニョン氏は、これは驚くべきことではないと語る。
「維持不足でシステムが悪化していたからです」
キューバがこの時、歴史上最悪のハリケーンを経験したこともそれを助けなかった。145mphもの風は、何度も東西の全国電力網を切断し、国内の数週間もメインの発電所から断ち切られたままとし、ハバナでは、1日に6時間も停電が続いた。ハバナ・ジャーナル(Havana
Journal)は、国内経済が2004年には失われた生産だけで、2億ドルものダメージに及んだと報告じている。キューバ電力公社は、2006年に全国送電網への信頼性を改善するため、3.62億ドルかかるプログラムを設け、送電のロスを減らした。
2004年には、劇的な政策の方向転換が目にされ、それは革命的であることが実証された。それは、新技術、エネルギー計画と価格メカニズムを用いることで、エネルギー効率を改善したのである。とはいえ、この政策の最も革命的な部分は、再生可能エネルギーの増加の重視ではなく、分散型の発電ネットワークの導入だった。このシステムは、ディーゼルから風力まで様々な技術やタイプを用いることで、戦略的なポイントで全国の送電網とつなげる小規模な数多くの発電所のクラスタがかかわっている。
現在、国内電力の40%以上が、ここからもたらされていると、マリオ・アビラ氏は報告する。
こうしたシステムには、機械的な故障や自然災害に対応できるより剛健なシステムがあることを含め、いくつかのメリットがある。また、大規模発電所よりも、比較的安く、迅速に導入できるというさらなる利点もある。キューバは、値段のかかる大規模発電所に依存せず、エネルギーの供給や自然条件の変化をみたすため、その燃料の混合で、より調整できるようになっているのである。
とはいえ、ホルヘ・ピニョン氏は、このアプローチの不都合が「将来的な経済成長や生活水準の向上により生じるキューバの長期的なエネルギー課題を満たせない」と示唆する。
エミリー・モリス氏もこう加える。
「昨年の停電の不足から証明されるように、最近の投資は短期的な問題の多くは解決しています。とはいえ、過去2カ月、当局が更新した省エネ対策を要請していることは、中長期的なエネルギー問題が解決されていない証拠です。キューバはいまだ輸入石油に依存しています」
現在、分散型の発電の主な源は、1280 MWを供給するディーゼル、石油燃料での540MWからもたらされている。さらに、熱併給発電所は529MWの過剰な電力を送電網に供給している。経済的で社会的に重要なセンターに位置する6,000もの非常時のミニのポータブルな発電機があり、総能力は690MWである。
多くの可能性があるとはいえ、再生可能エネルギーの寄与は控え目なものだ。今までのところ、出力は69MWに限られ、モリス氏はこうコメントする。
「再生可能エネルギーは巨大ではありません。水力、ソーラー、風力は極めて小さく、今までのところ、バガスが最も重要です」
バガスは、サトウキビの廃棄物だが、キューバが米国への輸出用にサトウキビからエタノールを製造できれば、これはさらに寄与するかもしれない。
それ以外のタイプの再生可能エネルギーの使用も、旱魃、ハリケーン、洪水のために困難であることが判明している。ハリケーンは風力発電基地にかなりのダメージをもたらすケースもある。研究者たちは、そうした嵐の前に、安全にパックできる風力発電基地について調べている。キューバの東部の州で経験される旱魃も水力発電を深刻に制限している。
数多くのエネルギー問題を解決するうえで、キューバは明らかに大きな成果を挙げている。とはいえ、将来的な経済成長や生活水準の向上が達成されるならば、競争価格や環境的に健全で長期的に経済的・政治的に効果的な戦略を創り出さなければならない。これは、新たなその隣人との関係がかかわり、将来の進歩に欠かせない投資の機会を国家や外国企業にもたらすことであろう。
ニコラス・ニューマン氏は、エネルギー関係のフリーのジャーナリスト
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