2009年12月1日 本文へジャンプ

キューバの電力分散化

はじめに


 キューバの発電力は、深刻な投資不足や米国の引き続く経済制裁によって、不利な状況におかれてはいる。とはいえ、悪条件のもとで最善を尽くしている。分散型の発電は、キューバの電力の苦闘を一時的にでも先延ばしできているのだろうか。

 キューバの電力部門は危機におかれている。最近、分散型の電力ネットワークに数億ドルも投資したにもかかわらず、キューバは深刻な経済危機を乗り切るために苦労しており、消費者たちは計画停電や節電の命令に直面している。

 現在、政府の経費削減で、国営のキューバ電力公社は、発電用の輸入石油予算の縮小を強いられている。これは、切羽詰まった消費者が、空調やテレビなしに日々の夜を送ることを意味する。キューバは十分な経済基盤を欠き、GDPを増やすうえで抱えないエネルギー部門に適切な投資ができない。

 キューバ政府はあらゆる問題の原因を米国の経済封鎖のせいにしたがる。たしかに革命以来、経済封鎖には圧倒的な影響がある。封鎖のために電力公社は操業を維持するうえで欠かせない新たな対外投資、技術、商品、サービスの入手が困難なだけでなく、経費もかかるものとなっている。

 1990年に、キューバは、共産圏から援助の終焉を突然に目にした。もはや、革命以来建設されてきた発電所への投資やサポートはもちろん、発電用の廉価な輸入石油も電力公社は得られなくなった。結果として、経済危機で全国で大規模な停電が起きた。このやむなき結果について、マイアミ大学の西半球政策センターのエネルギー研究者ホルヘ・ピニョン氏はこう語る。

「兌換通貨を節約するため、石油から国産の硫黄を多く含む原油に切り替えるという近視眼的な決定が経済危機につながったのです」

 石油は1970年代にキューバで発見されていたが、発電用に適切な燃料にこの重油を変換できる最も近隣の石油精練所は、オランダ領アルバ島と米国領ヴァージン諸島のセント・クロイ島に近いところで米国が所有する精製所に位置するのだ。

 腐食性が極めて高い石油を燃やす決定が、ソ連時代からの発電所に大ダメージを引き起こし、頻繁に故障したり、維持のために長期閉鎖することとなった。とはいえ、1998年までには、電力公社はその発電力の約60%まで使えるように火力発電所を何とか改良し、今もその率に留まっている。


キューバの発電力


 7つの主な火力発電所は、2960 MWの発電力があるが、現在のキューバの総発電量は5766 MWである。主力発電所は、ヤディラ・ガルシア産業大臣が2005年に「老朽化し、複雑な維持が必要で、それが停電を引き起こす」と説明したほどだ。

キューバの電力源(2007) MW
総電力 5766
ピーク需要 2500
火力発電 2940
ディーゼル発電クラスター 1300
火力発電クラスター 587
独立コジェネレーション発電 446
天然ガス(エネルガス) 376
117


 米国国際開発庁のファン・A.B.ベルト氏は「非常に低い労働生産性が極めて低く、ロスも高く、液体燃料に過剰依存し、国際基準からして非効率な企業だ」と電力公社について述べている。2009年10月にメキシコのフェリペ・カルデロン大統領は、メキシコ・シティーにある国営発電所ルス・イ・フエルサの閉鎖を強いられたが、これと同じ根の問題があるように思える。前述したように、電力部門は、新たな外国資本の投資や技術、スペアにアクセスできない。とはいえ、EUは2005年にキューバ制裁を中断させ、2008年にそれらを終えた。さらに、キューバは、ロシア、中国、ベネズエラとの同盟取引を結び、このことが、信頼性の改善のために電力公社が近代化を進める支援となっている。それは、最大規模で最新の発電所フェルトンの更新も含まれ、250MWの発電力を備えた二つのシュコダ・ユニット(Skoda units)を備えているのである。


エネルガスはサクセスストーリーか


 エネルガスは、カナダのシェリット・インターナショナルとの合弁企業だが、国産の天然ガスを燃料とする発電所群を経営している。米国の経済封鎖という問題があるにもかかわらず、海外の投資家が、キューバで合弁事業に投資しようと思うとき、達成できることを示す最近の事例である。エネルガスは、三つの複合サイクルの火力発電所からなり、376MWの総発電力がある。シェリット・インターナショナルはこれを2011年までに526MWまで増やすと期待している。天然ガスはキューバの海洋油田の由来のもので、以前は燃焼処理しており、ハバナ東部の観光地バラデロからも目にできた。疑いなく、さらなる拡大は、たぶん全体で国の石油産業の拡大に依存するであろう。
 しかも、キューバには、島の採掘やサトウキビ産業で、国営企業か政府が許可した外資系のいずれかで経営されるそれ以外の独立した発電者もある。2007年に、こうした生産者は、約446MWの余剰電力を国営送電網に供給した。キューバの精糖業は有名だが、より知られていないことは、発電用の燃料としてサトウキビ廃棄物を用いていることはさほど知られていない。現在、約22の精糖工場が電力を送電網に販売している。
 ピニョン氏によれば、ここ将来には、こうしたバイオマス技術が、キューバの発電にさらに貢献するかもしれない。彼は、米国の経済封鎖がひとたび終われば、米国の投資家が精糖業に投資することに関心を持つと示唆する。キューバのサトウキビからエタノールを製造する方が、米国のトウモロコシから製造するよりも廉価だからである。キューバの将来の成長する経済のため、余分なパワーに廃棄物は変換できる。

再生可能なハリケーン問題


 さらに、風力、ソーラー、水力を含め、様々な場所にある様々な再生可能なエネルギー源から約117MWの電力が供給されている。

キューバは、米国かドイツがそのオペレータに与えるような高額の補助金は得られないが、いくつかの風力発電基地がある

 中部のマニカラグアには43MWの小規模水力発電所があり、さらに、送電網とつながった26の小規模な水力発電所もある。うち、二つの発電所、ピナル・デル・リオ州のは1912年、グアンタナモ州のものは1917年にまで遡る。とはいえ、この拡大は地形や水量が十分ある場所が足りないことで限りがある。

 キューバにとって、手頃で信頼のおける送電ができれば、ドイツや米国とは異なり、大規模な補助金をそのオペレータに与える余裕はないものの、他国でも見出せたように、風力技術には取組み価値があることが判明している。

 現在、国内には、様々な国から技術提供を受けた風力発電基地がいくつかあり、2009年に建設された最新のものは、プンタ・ラサにあり、6台の中国製のGolwind S-50マシンを備え4.5MWの発電力がある。
 とはいえ、風力技術は、断続性と島に襲来するハリケーンに耐える能力という二課題を克服しなければならない。現在、キューバは、後者で電力をストックする方法を全く手にしていない。その上、キューバ電力公社が購入している風力技術は、4カ月のハリケーン・シーズン中に強風の警告がなされれば、風力タービンをたたむことが必要なのである。

 とはいえ、米国国防総省は、米国内のエネルギー企業、ノレスコ社の協力で、このハリケーン問題を解決しているように思える。2005年にグアンタナモ湾にある米軍基地には1200万ドルで山上に3.8MWの風力発電基地が設置されたが、この発電所は最大225kphの風力に耐えるよう設計されているのである。

 また、ソーラー・エネルギーは、潜在力が高いにもかかわらず、追加資源として、病院や学校を含む建物、水力ポンプの発電用に僻地の農村地域で小規模に使われているだけだ。

 これまで、7098台の太陽光発電システムを導入されているが、その発電力は2.57MWだ。さらに大規模にこうした技術が開発されるには、断続性の問題が再び取り組まれる必要があるであろう。


2005年のエネルギー危機


 2005年に、何年も不十分な投資や無視の後、電力システムは再び崩壊し、1990年代前半に経験されたものと同じ計画停電を引き起こす。主な原因は、メインの火力発電所の故障で引き起こされた頻繁な送電中断や国家送電網へのハリケーンの影響を無視してきたためだった。ピナル・デル・リオ州では130の送電塔が倒れたのである。
この危機が、広範な経済的ダメージと社会不安を引き起こした。キューバの発電システムは不十分に設計されただけではなく、半分の送電線や配電線は25年以上も経っていた。多くの発電所は主な消費地から遠く、長距離送電が必要で、結果としてロスもあった。また、厳格な価格設定の料金制度が、配電線との違法な接続も増やした。


配電の分散化


 2005年、キューバは、メインの火力発電所からの電力を補完するため、小中規模の発電所からなる分散型電力ネットワーク創設プログラムに着手する。これは戦略的な位置づけとリンクされた、エネルガスや再生可能発電所等、独立した発電事業者と同じく、新たな小規模発電所のクラスタからなっている。

 現在、キューバの分散型電力ネットワークは、電力の40%を供給している。この政策にはいくつかの野望がある。第一は、当初の国内電力危機を早急に治すことであり、第二は、電力需要変化に直ちに対応でき、ハリケーンによりもたらされるダメージにより強健な電力システムを構築することだ。2005年の危機への最も目に見える対応は、2005~2008年にかけ、韓国のヒュンダイ、ドイツのダイムラー・ベンツ、スペインのガスコル等の外国企業から、石油とディーゼル動力で可動する数千もの2MWのエンジン発電機に12億ドル
費やすというハバナの決定だった。

 こうしたユニットは、送電でのロスを抑え、全国電力網が被害を受けるときに電力を供給するための政策の一部として、キューバ全土の116ヵ所にあり、需要地の近くに位置している。

 とはいえ、米国の経済封鎖のため、関係した船舶がキューバを訪問した後少なくとも1年間は米国港を訪問するのが禁止されるため、さらなる費用が輸送でかかった。

 こうした様々な位置のエンジン発電機が一緒になったものは、キューバエネルギー公社から「Grupos Electrogenos」と称されているが、2007年に1887 MWの発電力を持っていた。

 にもかかわらず、キューバの分散型電力ネットワークは、故障や自然災害に対するネットワークの丈夫さを改善する助けとなった。キューバの長期的な問題を解決せず、化石燃料への依存をわずかしか削減していないとはいえ、分散型発電への投資は確実に国のエネルギー需要への迅速で、短期的な解決策はもたらしたのである。
確かに、エネルガスプロジェクトは、対外投資の参加が認可されれば、驚異的な結果が獲得できることを示している。それ以外のセクターも対外投資まで開かれるならば、おそらく同様の成果が得られるであろう。

キューバの将来


キューバのフラグア原発は440MWの二基のロシア型加圧水型原子炉(VVER)からなり、1992年には工事中だったが、ソ連の経済援助の打ち切り後、放棄が発表された

 全体的に見て、ハバナとワシントンとの関係が改善されるまで、将来のキューバの電力は有望には思えない。最近の政策は、電力部門が直面する長期的な課題ではなく、短期的な問題を解決するものだ。投資そのものを行うにもGDPが不十分なことは明確で、高まる経済的な野心を満たすつもりならば、電力部門に必要なスケールでの投資と技術を提供するために、北側の大きな隣人に依存しなければならないであろう。

 とはいえ、ピニョン氏のようなエネルギーの専門家は、国内で成長する長期的なニーズを満たすために十分な電力を提供するには、かなりの制度的な改革と共に、現在の発電インフラにも何十億ドルもの投資が必要なことを示唆する。

 キューバは、高まる需要を満たすため、十分な電力基盤を維持するため、その発電インフラに投資し始めなければならない。2008年のフィデル・カストロの引退に続き、成長が予想される経済があったとしても、現在の投資政策は、全体からみて信頼のおける発電力をかなり増やすにはわずかである。これは投資家たちが疑問をなげかけること意味する。もし、経済封鎖が解除されれば、キューバの新たな発電所は、どの範囲までが動力源となるのだろうか。天然ガス、石油、石炭だろうか。そして、フラグアの原発は再開するのだろうかと。


ニコラス・ニューマン氏は、エネルギー関係のフリーのジャーナリスト

 Nicholas Newman, Decentralized energy aids Cuba’s power struggles, powergenworldwide, Dec 1, 2009.