2001年11月14日 本文へジャンプ

キューバの防災力


社会主義と嵐


ベン・ウィスナー博士は、オハイオ州立オーバーリン・カレッジの災害の専門家である

 キューバは、ハリケーン・ミッチの人命損失を最小とすることに成功している。それは、自然災害に対応する社会のあり方を際立たせている。ハリケーン・ミッチはカテゴリ3の嵐だった。風速216km/時でキューバ南部のピッグス湾に上陸し、島の北部を通り抜け、2万2400戸の住宅を破損し、2,800戸を破壊した。ハバナと西部の5州の農業、産業、インフラにダメージを与えた。1944年以来、キューバに襲来した最悪のハリケーンだった。だが、これまでに報告された死者は5人、建物崩壊による4人と溺死1人だけなのだ。

 これとは対照的に、勢力を弱めたミッチが中米を抜けたときには、10人が命を落とし、さらに26人が行方不明となっている。中米では1万人以上の命がハリケーン・ミッチによって失われた。それは、防ぐことができたかもしれない災害だった。

 では、なぜキューバでは人命が救済されているのだろうか。最も重要な要素は、タイムリーな避難であるように思える。キューバの人口は1100万人だが、約70万人が避難した。キューバにはオンボロの車両しかなく、燃料も不足し、道路網も不十分なことを考えれば、これはかなりの功績だ。

 それは、事前の準備や計画、核となる地元政府職員、提供される警告への信用、そして、赤十字との協力によってのみ可能だった。ハバナでは、感電による死傷を避けるために電気が切られ、汚染の危険があることから水道水も切られた。

 リポートは、ハバナ市民は水や食料を備蓄するようアドバイスを受け、それに応じたと述べている。そして、市民たちも、強風で通りからあおられれば危険となる残骸の片付けを助けた。

 キューバ国営テレビは、3,000人以上が命を落とした1932年のハリケーンが示唆することを放送している。こうした準備は、効果的なリスク・コミュニケーションを示している。当局は、過去の災害の歴史的な記憶を活発に想起させ、地区を拠点とする組織は、労働力を動員でき、一般住民側には政府への信頼があるのだ。

 ハバナの人口は約200万人だが、過去にはハリケーンで多くの死者を出してきた。1844年には500人がハバナで命を失い、1866年には600人の死者がでて、1944年には330人が死亡し、269の建物が崩壊した。

 だが、事前準備によって人命が救えたのは2001年が初めてのことではない。1996年にもハリケーン・リリーで伝統的な建物が破壊されたが、誰一人として死ななかった。

社会主義が助けとなっているのか


 1978年に、私は、極端な自然災害への人的影響の緩和で、社会主義国と非社会主義国との成功の体系的な比較する論文を「ジャーナル災害」で発表した。米軍がベトナムのレッドリバーの堤防の爆撃を準備していたとき、米国の軍事立案者が計算した災害による大量死とこの河口での大洪水でのわずかな人命損失を比較した。

 中国、キューバ、ソ連、ソマリア、モザンビーク等の社会主義国における慎重な備え、緩和、復旧について研究者たちが調べてみるよう私は提案したのだ。とはいえ、うち三国は、もはや社会主義ではない。ソマリアは内戦後には論理上、中央政府が失われたし、モザンビークも海外からの寄付国と考えられている。

 とはいえ、私はいまだに1978年の私の疑問は、災害の研究と関連していると思っている。それは、イデオロギーではなく実際的なものだ。

 人間のニーズ(医療、教育、公営住宅、低所得者への補助金)やインフラに対する公的支出により極端な災害時にも人命が救済できることを、さらに系統的な比較研究が示すのであれば、これは重要な発見だからだ。これが社会主義と呼ばれようが、良きガバナンスと称されようが、私は気にかけない

 いわゆる現在や過去の共産主義国といわゆる資本主義国との比較が、必ずしも必要なわかではない。都市の比較も非常に顕著かもしれないし、中央政権のイデオロギーは最重要要素ではないかもしれない。

 この体系的な研究は、慎重で正確な定義を必要としよう。地区レベルでの自助努力や市民ベースの社会的保護、当局と国民との信頼関係、基本的ニーズや地区活動家への訓練等のソーシャル・キャピタルへの投資、災害のリスク防止や緩和に対して透明性を持って運営される政府機関への投資、ハバナの気象研究所や公衆衛生サービス等のような科学力への投資、効果的なリスク・コミュニケーション・システム、そして、歴史的記憶の定着等が含まれよう。

 キューバには、こうしたものすべてはないかもしれない。そして、ハリケーンの中で人命を救済する能力をキューバにもたらしているのは社会主義でないかもしれない。それは、もっと複雑なものかもしれない。

 私は、ある年齢集団において、フィンランドよりもスコットランドの方で多くの人が毎年低体温で死ぬと仮定している。これはフィンランドが社会主義国だからではない。80年代前半に始まった福祉国家への攻撃以来、イギリスに残された最小の福祉装置よりも、ヨーロッパの社会民主主義と関連して、フィンランドでは公共支出が優先されているからだ。

 その理由が何であれ、キューバには、我々にとっての教訓がある。キューバを米州機構から公式に除くことが、そして、今度の西半球の防災会議に参加させないことがどれほど恥であるかが。会議ではそれ以外の国からの専門家たちが、いかにして人命を救うかについて話すことだろう。

 Ben Wisner, Socialism and storms, The Guardian, 14 November 2001.