ハンマーを打ち下ろすような音が空気を切り裂く。水差し、バケツ、ボトル。水を入れられる容器に飲用水が満たされる。ラジオとテレビは、全国の家庭や職場に気象研究所の最新情報を発信しだし、何万人をも収容する避難所が準備され、屋根は片付けられ、家畜は安全な地区に移され、柑橘類は急いで収穫されていく。かくして、過去50年でキューバに襲来した最強のハリケーン、カリブ海に襲来した5番目に強力なハリケーン、イワンへの対応準備に数日がすぎた。
持続風力124mph以上。そして、約200万人が避難したにもかかわらず、死傷者が皆無であったことは、世界の防災モデルとして国連がキューバを称賛することにつながった。国連災害削減国際戦略のディレクター、サルバノ・ブリセノ氏によれば、「キューバ方法は同じ経済状況の他国にも簡単に適用できるし、さらに豊かな国であってもキューバがやっているようにはその国民を守ろうとしない国にさえ適用できる」のだ。リポートは、ハリケーン・イワンによって、米国では52人、カリブ海では少なくとも70人の死者が出たことを示す。
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ハバナを抜け、4人の死者が出て、10億米ドル以上の物的・作物被害をもたらしたハリケーン・チャーリーのちょうど1月後、カテゴリー5級のハリケーン・イワンでは、世界モデルとして役立つ、とてつもない準備によって対応されることとなった。
小さな発展途上国が、ダメージを押さえ、人命の損失なしに暴風雨を乗り切れるよう、専門家は、キューバの戦略のいくつを指摘する。まずなによりも、総合的なリスク削減プログラムを立て、実施するために、防災を最優先させ、市民と協働するキューバ政府の意思がある。これには、毎年更新される全国、州、ムニシピオ、そして、地元レベルにおける緊急対策がある。こうしたプランを立てて実施するのは主に「市民防衛」の仕事であって、防災は、周知、警告、警報、復旧と4段階に区分されている。
キューバの戦略においては、人命救助が最優先される。そして、このことは、ハリケーンに伴う危険やそれにどう備え、どう行動するかを幼少期から教え込んでいることから達成されている。また、ハリケーンで避難するための情報を発信する信頼のおける早期警戒体制がある。これは決定的だ。というのも、災害評価の専門家たちがハリケーンの主な死因として指摘するのは、避難しないことだからだ。
ハリケーン・チャーリーを含め、最近フロリダを襲ったハリケーンで、なぜキューバよりも多くの死者が出てしまうのかは、避難をしないことからわかる。キューバでの死者は4人だったのに、フロリダでは27人もが命を落としたのだ。
「大嵐:キューバのリスク削減の教訓」と題するオックスファム・アメリカの入念なリポートによれば、キューバはハリケーンが襲来するとタイムリーな避難によって人命を救えている。この成功は、政府主導の有効な防災モデルだ。
しかも、この避難の多くが、何世代もハリケーンを経験してきた人たちによる、賢明で良心的な態度によってなされた自己避難であることも指摘しておく必要があろう。全避難者の78%は、友人か親戚の家に滞在していた。そして、ハリケーン・イワンで一番被災したピナル・デル・リオ州では、その数値は驚異的なことに90%だったのだ。
一部の国際誌での報告とは異なり、キューバにおいては、避難は義務ではないし、それをする必要もない。だが、カテゴリー3や4級のハリケーンにいては、避難することのメリットに説得力がある。
それ以外にキューバのプログラムで重要なことは、ハリケーンの最中やその後に、国民の健康が保証されていることだ。飲用水の供給確保からゴミ収集を早く行うことまで、疫病の蔓延を防ぐため、キューバの何十年間もの極端な天候状況の中で戦略を磨いてきた。
例えば、ハリケーン・イワンでは、2,000人もの医療と衛生チームが、一番リスクが高い地域に配備されたし、迅速な衛生とヘルス対応が必要だったから、飲料水を確保するためにディーゼル発電機が設置され、水質を担保するための塩素も準備された。しかも、避難が求められるときはいつであれ、病人、高齢者と妊娠中の女性が優先され、医師と看護師が現場で治療を行うために同行する。
キューバがハリケーンに備えるにあたって、それ以外に必要となるステップには、①ハリケーン最中にどのように自宅を守り、どこが一番安全な場所かを詳細な印刷物と放送メディアで指示すること、②食料を確保するため収穫を急ぐこと、③学校、診療所、病院を防備し確保すること、④復興段階では短期で収穫できる作物を植える準備をすること、⑤電話線や電線にふれる樹木を剪定することがある。おまけに、一定の風速に達すると、電力公社は電気を切ってしまう。さもなければ、感電死するかもしれない多くの人命を救うためにだ。
他人のために避難所を提供し、ハリケーンに耐えられるように家の補修を手伝い、空腹であれば食べさせ、ひとたびハリケーンが立ち去れば復旧のためにやれることは何でもする。友人、家族、そして、地区の連帯感。これは、キューバが勝利する方程式の別の強力な要素だ。
ハリケーンの予報と備えに向けた連帯感は海峡を越えても広まっている。ワシントンとキューバとの関係は何十年間も政治的に対立している。にもかかわらず、両国の気象学者と科学者は、命を救いリスクを減らすという共通目的のために、協力するという記録を築き上げてきている。
とはいえ、脅威的な天候が、その凶暴さを増して頻発する中、とりわけ、グローバルな南側の国々では、さらに改良する余地がある。ハリケーン・イワンの襲来では、とりわけ、避難で、いくつかの新たなイニシアチブが記された。例えば、嵐のために家をあけることは簡単ではないし、気分もよくない。キューバでは、ペットを連れて逃げることもできるようにしている。なんと、避難現場には獣医がいるのだ。また、いくつかの州では、箱に貴重品を入れて、安全な場所に輸送・格納するサービスが前提となっている。さらに、コミュニティの住民たちが、安全のために自分たちで学校の屋根を解体・格納するのを引き受けさえしている地元さえあった。こうしたことは、モデルとされるべき賞賛に値する開発だ。
だが、その裏面では、電線と電話線を安全にするため、枝葉をどのように剪定したらよいのかという教育も必要だ。ハリケーン・イワンの以前には、ハバナでは人々が無差別に樹木を切り倒し、ときには肩の高さだけの切り株しか残さないという環境の大虐殺が起きたのだ。これはまたやってはならない。また、ハバナでは、とりわけ、定期的な大きなゴミの日を含めて、さらに系統的なゴミ収集が必要だ。カテゴリー4級の嵐が襲来する前の日には、通りの散らばらないようあらゆるゴミを人々は屋根から片付ける。
災害に直面するなか、政府が規則を制定するよりも、むしろより安全なスタンダードと実践に向けて、政治的な意思を持ち、その大衆と協働するときにのみ、それ以外のカリブ海や米国での惨事も例外となろう。幸いなことに、キューバは、災害リスク削減のための貴重な教訓を提供してくれている。そのひとつは、2005年1月に日本で開催される国連防災世界会議において聞くことができるだろう。
統計、とりわけ壮大で、計りにくい種類の統計は、ただ数値を連ねるだけとなって、感覚を失わせる傾向がある。だが、いくつかの統計数値は、キューバのハリケーンへの気構えと対応戦略をみごとに自ら語っている。例えば、ハリケーン・イワンのものはこうなる
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持続風速は124mph、突風は161mph以上に達した
イサベル・ルブイオの町では24時間で記録的な150ミリの降雨量
余波で、15万m3の廃棄物がハバナにあふれ、ゴミ旅団は毎日最大3万m3を収集
早めの避難プランで3時間もかからず10万人が安全に避難
2492の避難所を設立
総人口の15%以上にあたる189万8396人が避難
避難者の78%、147万1058人は親戚、友人または近所の家で保護
8,026人の観光客が安全な地域に移動
35万9644人の寄宿学校の生徒が帰宅
危険な地域の189万8160頭の農場の家畜が、より安全な場所に移動
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