2004年
多くの政府は、様々な社会集団に対する不公正で、非道理な格差の影響を減らす、と述べている。この懸念は何も新しいものではない。だが、かくも、巨大な科学技術的なポテンシャルがこの悪を正当化するためにあったことはなかったし、かくも、並外れた所得配分の能力を豊かな者たちが手にしたこともなかった。
社会正義や国民の健康と関連する平等についての考え方を研究・定義・解釈しようと試みた重要な学者として、ジ ョン・ロールズ、アマルティア・セン、マーガレット・ホワイトヘッドがいる。健康や幸せであることは、潜在的には誰に も可能なはずだ、との前提から出発し、その社会構成員に対して、正当なる社会は、平等な基礎教育、平等な政治 参加の権利、そして、平等な機会を誰しもに保証すべし、と主張している。この観点からすれば、平等は、正義の概念をもって法の役割に対峙していることとなる。
医療やそれ以外の決定的なサービスを個人が利用できるかどうかには、所得は言うまでもなく、ジェンダー、年齢 、人種、民族的背景、地理的状況がすべて影響する。いずれもが、総合的な健康や幸せに影響を及ぼす。ここ数 十年の科学技術には目を見張る進展がある。にもかかわらず、今日の世界で社会辺境で暮らす人々には、いまだ に伝染病が最大の死因にとどまっており、国内外で医療格差を広げている。
それは、教育や文化を含め、商品、サービスの不平等な生産・分配・消費の別の一面でもある。アメリカ大陸では 、災害の影響や規模が高まり、再発しているが、ハリケーンの暴風、豪雨による洪水といった絶対的な自然災害に 対応できない以上に、社会的、経済的、環境上、そして、制度上他で犠牲者への対応はさらに少ない。その意味で 、脆弱性は社会的である。
一般的に、不利な自然現象は、最もフラジャイル(fragile)な状態で生きる社会集団に、最も重大な損害をもたらす。農民、原住民、都市の貧乏人--。言うならば、排除された人々だ。現在の開発モデルに、この「悪」の是正はほとんど期待できない。その開発モデルは、捕食者であって、持続不可能なものだ。そして、大衆が貧しくなればなるほど、大衆は参加するための政治的なパワーや場を失い、ますます弱くなった民族国家は、社会的な投資を減らし、脆弱性が高まっているときでさえ、その対応能力を失っていく。国際援助はすでに起こった災害の被災影響をせいぜい減らせるだけだ。輸出を増加させて、雇用水準を高め、防災プログラムに資金供給するために欠かせない収入を得る。長期の低利貸付の形で、貧しい国の能力を改善するという持続的な解決策を提供するかわりにである。この関係からすれば、格差問題に対処せずに、一般住民の健康を改善する政策を提案することは意味をなさない。
取り組みは、女性、子ども、高齢者、障害者、少数民族を含め、社会的に不利な人々を組み込むことに焦点がお かれなければならない。こうした人々は、被災のダメージが絶対タームで小さくても、貧しいことから、その生活水準 への影響度を考えれば、相対的な損失は高いのだ。
このことから、市民参加のメカニズムを制度化することが必要だ。とはいえ、ただ貧困を減らすだけでは、健康格 差は取り除けない。というのも、貧しい人々に健康、医療、保健教育、福祉、失業保険給付金を提供している国にお いても、いまだに格差が見出せるからだ。この格差は、最低限のメリットというよりも、健康が社会的なヒエラルキー として役立っているように見えるのだ。災害とは、社会・政治構造で引き起こされるものであって、機会や不運の結果でないことを理解することが欠かせない。医療や防災分野では、すべての国が、必要な改革をなすべく協働しなければならない。現在の世界においては、ただ一種類の人を除き経済危機は全員に影響してしまう。その一種類の人とは金持ちだ。金持ちはそれほど影響を受けないのに、貧しいものはさらに影響を受けてしまう。これは、危機の影響がすべての個人やすべての国に、同じでないことを意味する。
それゆえに、人民は、医療に加え、教育、文化、スポーツ、暮らしを高めるそれ以外のすべての手段に公正にアクセスできなければならないのだ。そして、この鍵となる部分は、関連する全機関やコミュニティ組織がかかわる、総合的な災害削減プランでなければならない。
キューバでは、あらゆるコミュニティとあらゆる保健医療施設に影響するハザードのことを知ることがベースとなり、その脆弱性に基づいて、関連するモニタリング調査や人的資源の育成プランが開発されている。公的医療機関は、それ以外の全機関と緊密に連携し、地元段階で働く総合的な専門家チームを通じて、早期警戒、気構えと対応を含む方法論を用いて、災害を削減する役割を果たしている。
最近ではネッタイシマカが発生し、結果として、わが国、とりわけ、ハバナでデング熱が流行したが、これは、我々にとっての試練であり、再度、平等な医療に基づく包括的な学際の解決策を見いだすことが求められた。すなわち、最も必要とされるところへの資源配分だ。
ユニセフ、全米保健機構(PAHO)、DIPECHO他の国際機関の貴重な援助やNGOの協力を得て、我々は総合的な防災・緩和のアプローチを完成させているが、研究、情報、救援と救出作業のコーディネート、疫学上の衛生への懸念対応を含め、全体としてのすべてが予防活動を通じて、可能な限り国内の科学力をうまく使う調整の作業も進行中だ。予測、緊急援助、トレーニング等の分野での国際協力、とりわけ、ラテンアメリカやカリブ海への協力はいうまでもない。
我々は、健康上の格差への警告にダイナミックに対応しなければならない。キューバでは、最も高度な健康上の平等を確実化する決定ができるよう、「ヘルス平等モニタリング・システム」構築にとりかかっている。このプロジェクトでは、政府の政治的意思、信頼できる情報の存在、そして、それにかかわる人的資源の質が高まっている。自然災害や人災防止と緩和の分野で、全国医療システムに支えられた総合的なアプローチが、この世界的問題に対して、構え、早期警戒、そして、対応力を築き上げることが可能となった。それは域内諸国と世界と協働し、援助を行い、提供する立場に我々を位置づけている。それは、我々が喜んでしたいことなのだ。
【用語】
ネッタイシマカ
(Aedes aegypti)
ラテンアメリカ災害医療センター
(CLAMED)
asic Industry)
【人名】
ジョン・ロールズ
(John Rawls)
アマルティア・セン
(Amartya Sen)
マーガレット・ホワイトヘッド
(Margaret Whitehead)
アベラルド・ラミレス
(Abelardo Ramirez)
ギジェルモ・メサ・リデル
(Guillermo Mesa Ridel)
アベラルド・ラミレス博士は健康組織とマネジメントの専門家。ギジェルモ・メサ・リデル博士は、ラテンアメリカ災害医療センター所長
Abelardo Ramirez Marquez, Guillermo Mesa Ridel, Equity in Public Health: A Challenge for Disaster Managers, MEDICC Review, Dec.1, 2004.