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図2:平均被災者(100万人)
出展: IFRC 2002, 9 |
ハザードは必ずしも災害となるわけではない。国際赤十字連盟が普及する災害の「方程式」によれば、災害の危険度は、ハザードにさらされる人々が傷つきやすいときだけだ。この方程式
「リスク=ハザード×脆弱性(risk = hazard x vulnerability)」
は、リスクが脆弱性で高まることから、まさに、ハザードや脆弱性が減らせることも示す。災害やそれによって生じる損害がいずれも急速に増える中、リスク削減が緊喫の課題として重要となってきている。 1970年代には年間の平均被災者は7400万人だったのが、1990年代にはその数値が年平均2億人に増えている(図2)。約65%も増えたのだ(IFRC 2002, 9)。
洪水、干ばつ、地震、サイクロン、異常な気温変動等、極端な天候があることは統計からもわかるが、これが世界中で増えることで、ハザードを増やしている(3)。後述するように開発の失敗も災害を増やす。だが、気候変動にはさらにドラスティックな影響の可能性がある。科学者たちの大半は、極端な気象事象を引き起こす気候変動が、化石燃料の燃焼を通して大気中に放出された二酸化炭素による地球温暖化によって起きていると信じている。グリーンピースや地球の友等の環境保護団体は、この数年、地球温暖化に警鐘を鳴らし続けている。これらのアドボカシー組織は、国連気候変動に関する政府間パネル、世界気象機関(WMO)、世界水会議を含む主要な科学的グループによって2003年に参加した。いずれも、現在の気候変動への極端な天気とつながっている(4)。
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| 天災は世界で最も弱い人々に最も影響する。2002年に襲来したハリケーン・リリー後にダメージを評価するキューバの農民 |
悲しいことだが、高まるハザードで最も影響を受ける人は、それらに最も対処できない人々だ。IFRCのディディエール事務局長は「災害は、まず発展への大きな脅威であって、明らかに世界での最も貧しく、最も取り残された人々の発展への脅威となっている。災害は、貧しい人々を捜し出し、彼らが貧しいままに留まることを確実にしてしまう」と主張している。
最も深く影響されし者、そして、最もハザードのリスクのありし者は誰なのか。それらは以下の3つのカテゴリとなろう。
地理的に南にありしもの
相対的に貧しく、ほとんど備えがないために、南側の国々では、実質的に極端な気象災害が数多く起こっている(5)。2001年に、世界中から2,000人以上の科学者が参加した気候変動に関する政府間パネル、国連機関は、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの貧しい国が、地球温暖化の初期段階をマークする破壊的な干ばつ、洪水、熱波、ひどい嵐、伝染病の感染に最も傷つきやすいと強調している。
貧しい国の人々
貧しい国では、たいがいインフラが脆弱で、復旧資金が限られ、経済力もほとんどない。だから、ハザードにかなり傷つきやすく、豊かな国よりもハザードが災害になるリスクも高い。復旧力も裕福な国よりもはるかに乏しく、経済発展や社会開発のための努力が損ねられている。しかも、災害は一番お金が必要なときに外為収入にも影響するし、人命の損失も人的資源に影響する。例えば、ホンジュラスのカルロス・フロレス大統領は、1998年にハリケーン・ミッチで数千人が死んだことで、ホンジュラスの経済発展が20年も後戻りしたと評価している(IFRC 2002, 10)。
貧しい国の最も周辺化された人々
ハザードへの弱さは、たいがい人々の社会的、経済的な地位とも直接相関する。ハリケーンの激しく降りを受ければ、薄いトタンで作られた家で暮らす貧しい都市住民は、現場打ちのコンクリート製の家屋の所有者よりも、明らかに傷つきやすい。氾濫原の縁などのマージンの地域には、貧しい人々が多く住むことにもなる。サービスも利用しにくければ、暮らしを災害から守るための経済的資金もなければ、復旧に向けた経済的援助にアクセスするための政治上のリソースもない。災害は全員に影響するのだが、貧しい国の周辺化された人々が最も傷つきやすい人口であり続けていることは明白だ(PAHO
1998, 76)。極端な気象がその脆弱性をさらに致命的にする。
だが、貧しいからといって、様々なハザードのリスクを抱えた国々が、ハザードを緩和したり、あらかじめ防ぐ選択肢がまったくないわけではない。専門家は、気象と関連するリスクの方程式で、ハザードに対処する方法が主に4つあると考える。物理的工事、災害予報の改善、気候変動への対処法、そして、環境劣化に対処する努力だ。多くの南の国々は、前2者の努力には配慮している。だが、後者の2領域はさほど管理していない。
物理的工事
ダムや堤防を建設したり、マングローブの沼沢地の工事等、物理的な構造物や工事は、災害に対する防衛線となる。例えば、ベトナムにある堤防を保護するための海岸線に沿った3,000ものマングローブの沼沢地は「1.5mの台風の波を数センチの高さのさざ波に減らせる」(IFRC
2002, 95)。
予報、追跡と情報の改善
技術的進歩、国際協定、そして、気象学の地域協力から、自国の気象学センターにわずかな資金しかない国であっても、ずっとハザードの情報を得やすくなってきている。
とはいえ、この技術を効果的に活用するためには、政府に政治的な意思があって、それに資金を投じることに同意しなければならない。 経験上は、それは可能なことがわかっている。例えば、バングラデシュでは、政府、国内赤十字と国際赤十字が、迫りくるサイクロンについて国民に周知するため、ラジオ、バッテリーで動くメガホン、手動のサイレンを用いて、非常に効果的なサイクロンに備えるプログラムを設けている(IFRC
2002, 16)。
気候変動への対処法
気候変動を打ち消すための調査、研究、方法論の提案もますます一般化してきてはいる (前述したリポート)。とはいえ、政治的にこうした対策を講じる意志は、まだまだ程遠い(Gelbspan 2002)。
環境劣化への対処法
環境劣化に対して、国が行使できる権限は、土地分配や土地利用規則、民間企業の役割等の一連の内因によって制限がある。おまけに、環境劣化に対抗する政府の力は外因によってもますます限られてきている。国際的な融資機関の規則や国際貿易協定がそれで、その領域内で運営する多国籍企業に対する環境規制力を減らしている。おまけに、海外からの投資を規制しようとすれば、貧しい国は経済的に不利な立場におかれる。
「自然」と「人工災害」は、伝統的には学問的に峻別されてきた。だが、人々の行動や環境に対する振る舞いの影響の累増を科学者たちがより理解し始めるにつれ、その区別は今、あいまいとなってきている。「天災」は、方程式の二つの要素、つまり、ハザードそれ自体と、傷つきやすい人々によって決まるようになってきている。
例えば、開発の失敗から、現実的に「天災」が増えているとの証拠がある(Von Oelrich 2002)。規則や配置計画、コードが立てられず、その広範な遵守が欠落し、経済開発にあたって市場のパワーが規制されないと、災害が悪化したり、実際に引き起こされてしまう。開発の失敗には多くの形態があるのだが、例えば、規制を受けない森林破壊やそれにつながる経済開発は基本的に失敗だと言えよう。例えば、ブラジルの熱帯林を材木用に直接伐採している木材企業の事例や、グアテマラでおけるその副次的な影響だ。グアテマラでは、キチェ県イシュカンに再移住する難民たちが、農地造成用にジャングルを全焼させているのだ(Trujillo
2000, 61)。
同じく、すぐに明らかになるわけではないものの、農村から都市に急速な移住が起こったり、人口が過剰となることは、危険を抱えたまま脆弱な地域の住民が増えることにつながる。建築基準法が不十分で、実施されなければ、安全基準を満たさない住宅を、建設会社は建てられてしまう。安全で低コストの住宅や土地が手に入らなければ、貧しい人々が、より良き解決策がなく、危険な峡谷に家を建てることにつながる。
国有資源の民営化も、特定の開発モデルが、リスクを削減できる国家の能力にどれほど影響を及ぼすかの別の事例だ。ひとたび資産が民営化されてしまえば、非常時にサービスを提供するため、国家がその資産を活用できるかどうかは、その購入力で制約されてしまう。国家にもはや資産がなければ、維持利用や災害を緩和する「余裕」すらなくなる。国の公共事業部局が機械を所有していれば、例えば、さほど忙しくない時には、メンテナンス用にそれらを使える。つまり、民営化は、さほど目には見えにくいが、リスク削減に大きく影響する要素を周辺から侵食してしまうのだ。
エル・サルバドルの民営化の事例
エル・サルバドルの雨期は、貧困な環境への取り組みや規制のため、地滑りや氾濫に傷つきやすい何百もの地域が国内にできてしまう。2001年3月、政府は公共事業省を「改革」し、6,624人の職員を減らし、その大型機械のすべてを民間に安く払い下げた。雨期にもこの処置が定期的に同省から求められた。現在、同省は、すべての公共事業とその維持のため、民間契約を監督する調整している。公共事業を実施するには民間部門に支払わなければならず、このことは、契約機械予算によって、公共事業省のハザード対応が決まってしまうことを意味する(Wisner 2001, 262)。 |
| 2. キューバのリスク削減モデルはいかに発展してきたか |
キューバが珍しいのは、その社会経済の発展モデルと災害対策政策とが結びついて、災害への人民の脆弱性をかなり減らしていることだ。過去40年、キューバ社会主義政権は、資源を公正に分配し、社会サービスに普遍的にアクセスできるようにし、都市と農村との地域発展の格差をなるたけ小さくすることを最優先させ、社会と経済の発展を重視してきた(Uriarte 2003, 6)。
社会サービスの唯一の提供者で、経済を計画・指示し、最大の雇用者で、市場を統制しているのは政府だ。一党の政治体制のもと、キューバ人たちは十分な教育を受け、連帯感や社会的一体感を強力に育み、大規模組織を通じた組織的動員、専門家集団、そして、政治構造で非常に広範な経験を持っている。
ソ連が崩壊したとき、キューバは深刻な経済危機に苦しめられた。主な貿易と援助パートナーを失い、資源はほとんどなく、外貨が不足し、海外からの援助も限られるという時期に突入した。現在、国はその危機から抜け出ており、経済は回復の兆候を示してはいる。だが、人民には生き延びるためのベーシックなニーズは満たしているとはいえ、余分なものはほとんどない。
キューバの経済危機が人民の危険性への脆弱性を高めていないのは、顕著だ。この論文では、キューバの社会経済発展モデルの徹底的な分析はしないが、以下は重要であって、リスク削減の手段として実証されている。
- サービスへの普遍的なアクセス(6)。キューバ人たちは、それ以外のラテンアメリカの人々の大半と比べ、教育、医療、そして、物的インフラをよく利用できている。このことが、全体的に国民の脆弱性を減らしている
- 社会経済的格差を減らす政策。社会経済の格差を是正する政府の努力は必然的に脆弱性を減らしている
- 人間発達へのかなりの投資。 人的資本への40年にわたる投資から、十分に訓練されて使える専門家を国は確保できている
- インフラへの政府投資。 都市と農村との双方への投資は不均等な発展の発生を最小にし、災害の緩和、備えと対応に使える開発のためのさまざまな資源を国に提供している
- 社会的・経済的組織 キューバの特定の形式の社会組織は、連帯、団結、協力を促進し、リスク減少に適用できるソーシャル・キャピタルを生み出している
開発モデルのこの後半の3原則はいずれも、様々なやり方でリスク削減を機能アップする「乗数効果」を生み出している。これを例証するには、以下の事実を考えてほしい。
- 国民の95.9%が、読み書きができ、災害についての教材にアクセスでき、すべての子どもが中学3年まで学校へ通っている。このことは、災害教育の主要な手段として、学校カリキュラムに子どもたちが接することを意味する。
- 適切な道路網が国全体にわきわたり、それは、迅速な避難を容易にし、脆弱な建設を減らす建築基準法が励行され、さらに、国内の家庭の95%には電気があるため、人々はテレビかラジオから災害情報を受け取れる(Reinmuller
2002, 2)。
まさに「失敗した開発」が脆弱性を増やすように、キューバの開発モデルのこうした部分は脆弱性を減らし、リスク削減につながっているのだ。
今、世界では、気候変動が気象災害の暴走ドライバーとなっていることは明白だ。高まる気象災害の深刻度を厳しさに遅くするか、または影響をもたらす試みは、複雑で、政治上の戦いで泥沼にはまっている。ロス・ゲルブスパン)、「The
Heat is On: the Climate Crisis」の著者なのだが、こう述べている。
「気候変動を減速させるための長期的な努力は、化石燃料以外の資源由来のエネルギーを使うよう国や産業が劇的に転換することと関連している。これにはグローバルなシステムの社会的、経済的な大改革を必要とし、この改革は、数10年間はかかるだろうし、最悪の場合には、増加する異常気象の発生を抑えるほど早くは、あるいは、減速させることができるほど包括的に起こらないであろう」(2003, 6)
危険をもたらす異常気象が増えつつある中、危険を緩和する短期間の介入効果には、かぎりがあるというわけだ。
リスク=ハザード×脆弱性という「災害の方程式」に立ち戻れば、現在の世界では、短中期でリスクを減らすには、その人民の脆弱性を減らすことを意味するのは、明らかだ(CRID Biolides 1999, 11)。
世界気象機関の事務総長、G.O.P. Obasi教授は、2003年9月29日の世界気候変動会議に祭し、この点に焦点をあわせた。教授は、「市民を危険にさらし、何年もの経済成長を破壊する極端な事象に対して、その弾力を高めるよう」、各国に促した。2003年5月の第14回のWMO会議では、災害復旧よりも、むしろ、防止とリスクの管理を強調した新たな横断的なプログラムを打ち出した。それは、まさにキューバの経験が提供する防止とリスク管理の領域にあるものだ。リポートの次節では、キューバのリスク削減モデルを詳細に調べてみよう。
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