市民防衛責任者は語る
 |
2005年は世界にとってもキューバにとっても災害マネジメントの分水嶺だった。世界各国の代表たちは日本に集まり、リスク軽減戦略のため、国際的な青写真と全国プラットフォーム開発のためのガイド、兵庫行動枠組み(2005-2015)を作成した。キューバでは、それ以前の破壊的なハリケーンの激発が、いかに国が災害をマネジメントするかの再査定、そして、2005年の全国、州、ムニシピオの災害計画の徹底的な見直しにつながった。その努力の中心にいるのが、そのリスク削減マネジメントチームの隊長、キューバ市民防衛のハイコマンドとコントロールのホセ・ベタンクール大佐である。ベタンクール博士は、35年も医療行政の経験があり、6年前に市民防衛に加わった。メディック・レビュー(MEDICC
Review)は、市民防衛本部でベタンクール博士と語り合った。
2005年以降の変化のことについて入る前に、キューバの市民防衛がどのように運営されているのかについてお話しいただけますか。
ベタンクール それ以外の国とは違って、キューバの市民防衛は政府機関というよりも、主要な省庁や政府機関、そして、国内の社会的、政治的団体から構成される国家システムです。市民防衛の最高司令は、このようなあらゆる部門と防災と関連した努力を全国で調整する組織となっています。ある面ではとても中央集権的で、別の部分はとても分権化されていますが、そのアプローチが省庁間が連携(intersectorial)したものとなっていることが最も重要です。例えば、どの州やムニシピオであれ、市民防衛ネットワークの代表は、各州やムニシピオ政府の代表が兼ねています。
ですから、彼らは医療、教育、輸送、食品産業、ローカルな社会組織等、そして、その管轄内にある全組織が関与する市民防衛ネットワークの議長となるわけです。このアプローチは、すべてのステークホルダーが直接、市民防衛の責任を負い仕事に取り組むことなのです。
キューバの記録は2005年に再評価される以前もかなり良いものでした。なぜ、改革がされたのでしょうか。そして、それはどのようになされたのでしょうか。
ベタンクール 人名損失は最小でしたが、深刻な被害をもたらした巨大なハリケーン・チャーリーとイワンが2004年にありました。そこで、私たちは、それまでの経験のすべてを評価し、より良くて、より系統的な仕事をするため、最近の最良の実践を国際的に見てみることを決めたのです。ローカルな会議が、州レベルの各169のムニシピオ、そして、国の機関と省内で組織されました。1,000人以上が参加し、彼らは何らかの災害マネジメントにかかわりました。この運動で得られた示唆と提案が中央で分析され、国家国防委員会副代表による国家災害計画・組織・準備指令に結びつきました。
これまでと哲学的に大きく変わったことは、緩和(mitigation)、リスク削減、そして、事前の計画が大きく重視されたことです。この採択によって変わった重要な点は、災害マネジメントのサイクルの複雑な全4フェーズ(①緩和、②準備(preparedness)、③対応、④復旧)を多く注意するようになったことです。
国の開発への努力が災害上のリスク削減と両立するように、法的、技術的なツールが作り出され、私たちが潜在的に直面する様々な災害と関連する地域的、そして、制度上のリスク・アセスメント分析がアップデートされました。その主な点はこうです。雨、風、あるいは波浪を止めることができない。ですが、その影響から人々や経済をさほど脆弱でないようにすることはできる、ということです。
実際にはどのように変化したのでしょうか。
ベタンクール リスク削減と互換性があるようにされた社会経済開発の5ヵ年計画をとりあげてみましょう。今、すべての主な投資計画では、既に必要とされていた環境アセスメントに加え、災害リスクアセスメントを行わなければならないようになっています。人々や財産を守るために明確に設けられた基準に応じ、リスク削減を文字通りビルトインすることがその目的です。
政令(省庁段階で提案され、委員会が承認)では、、こうした研究のガイドを開発するために、市民防衛が科学技術環境省とともに働くことを求めています。環境省の科学者たちは、専門的な技術を提供し、市民防衛はプライオリティを確立します。そして、国内にある機関だけが、厳密な過程に基づき、こうしたアセスメントを実施するために信任されています。
こうして、徹底的にリスクが考慮されているかどうかがわかります。例えば、ハバナの海岸沿いのホテルを見てください。何年も前に建てられたホテルの中には、まさに海辺道路沿いにあるものがあり、熱帯暴風雨が襲来すればいつも浸水します。その後でより知的な計画のもとに建てられたホテルは、損害やダメージを予防するため、十分に高い場所にセットバックされています。いま、私たちが行っていることは、こうした種類の計画を全国的に体系化することなのです。
住宅も別の事例です。国家物理計画庁のプランナーたちによる研究を考慮し、全国住宅庁は、土砂崩れや洪水他の危険性のある場所で、新たな住宅建設を避けることを義務付けています。そして、キューバ東部では、技術的に耐震建築を求める事項があります。新たな開発プロジェクトのためのこうしたリスクアセスメントは、各州やムニシピオにより実施されたリスク削減のアップデートされた研究に基づいています。
こうしたレベルでは、どのような研究がなされているのでしょうか。
ベタンクール こうした研究のための新たなガイドラインは2005年8月に完成し、2006年からこれに応じた仕事がスタートしました。そして、基本的な技術ガイドラインを確立するため科学技術環境省の専門家もかかわって、各レベルで研究の責務を担う人向けの方法論のセミナーも開催されました。現在、全14州が、リスク削減アセスメントを終えています。ムニシピオでは、ハバナ市の15ムニシピオを含め、いくつかの最も脆弱なムニシピオを最優先させています。大規模な事故、あるいは、動物が媒介する感染症、豪雨、強風、波浪、氾濫、山火事、地震、地滑り、毒物の流出まで、キューバで最も一般的な災害のタイプを最優先させ、私たちはマクロから始めているのです。
潜在的な各種の災害のリスクを評価するために、コアとなるのが、技術的要求事項です。これは科学技術環境省により決定されているだけではなく、例えば、潜在的な流行病では保健省、事故や原油流出等では運輸省と各活動の責任を負う政府機関によっても決められています。
これはどのように働いているのでしょうか。
ベタンクール 沿岸や山地等の地理的な位置、ハリケーンや熱帯暴風雨等の災害の歴史や強さ、その地域にある工場やそれ以外の生産やサービスセンターへの風等の影響、住宅の建設状況等の様々なファクターに基づいて、その地域と住民にとってのリスクをムニシピオ政府は分析します。これが、管轄地域内の人々や財産の脆弱性を減らすためのムニシピオ政府の仕事の第一ステップです。また、こうした研究について、お互いがわかるように各職場でも、同じリスク削減のアセスメントを行うことが必要です。
いくつかのムニシピオや州には「リスク削減マネジメントセンター」があるそうですが、これは、より大きなピクチャーとはどう適合しているのでしょうか。
ベタンクール 2005年の国際会議と兵庫行動枠組みの結果、私たちは、国連や様々な国際NGOからの援助を受けて、こうしたセンターをキューバに設立することを決めました。
キューバの災害の第一である水害史に基づいて、169あるムニシピオのうち50ムニシピオを最優先させました。現在、36ムニシピオと8州にセンターがあり、別の20が設立中です。センターには少人数のスタッフがいて、コンピュータ、短波ラジオ、オーディオ・レコーダー、カメラ等が装備されたとオフィスがあり、ローカル政府のアームとして機能しています。
この各センターは、地域のリスク削減のアセスメントのための主な情報源となります。私たちは医療、教育、交通等のセクター毎に早めに話し合い、データを収集してまとめあげ、リスクを地理的に地区レベルまで階層化します。また、いくつかのムニシピオでは、このセンターは、コミュニティの「早期警戒ポスト」と関連しています。それは、ハリケーンが襲来すれば簡単に遮断されてしまいます。あらゆる場所で、センターのスタッフは、地域に影響するどのような新たな災害も記録する責任があります。これがローカル政府にツール、地域内のリスクや脆弱性を指摘するエビデンスのベースをもたらします。そして、たとえ、控え目であるとしても自分たちの資産をどこに置かなければならないかが示されます。とはいえ、この考え方は、まさに分析するためのものではなく、行動するためのものとなっているのです。
資源が限られていることは、もちろん、多くの国にとっての問題ですね。
ベタンクール ええ、もちろんそうです。それ以外の国と同じように、キューバも一夜ではなくすことができない蓄積された脆弱性に対応しています。私たちは少しずつ働いています。とはいえ、最も重要なことは、災害が起きた後に、同じ脆弱性が再び起きないようにすることなのです。
それ以外の面では物的資源に依存するのではなく、変化を産み出すため理解を深めることにおかれています。2005年に東部グランマ州に襲来したハリケーン・デニスの経験をあげましょう。デニスはキューバにとっては大きな痛手で17人の死者がでました。とはいえ、詳細に見れば、リスクの認知の低さが大きな役割を演じたことがわかります。この地域にはこれほど激しい嵐は何年もなかったことから、経験が集団的な記憶から薄れていたのです。ですから、アドバイザーたちの数やアドバイスの中身は私たちが想定していたほど効果がありませんでした。
避難についてお教えください。これは国際的な議論の話題ですし、キューバでは進歩している分野に見えるのですが。
ベタンクール 避難(evacuation)よりも保護(protection)についてお話したいと思います。私たちは全国民100%を守ることは、政府の責任だとの前提からスタートしています。例えば、嵐の場合であれば、風速がある速度に達すれば、電力は中央で止められ、料理用のガスもそうなります。
私が説明したリスク削減の研究は、特定の災害から守る必要のある人々の数も含まれています。同時に、私たちは、脆弱性を最小限まで減らすため、リスクによって国民を階層にわけています。例えば、ハリケーンでは海岸等にいる人々が、地理的に危険ですから、人間が最優先されます。高齢者、病人、障害者、妊娠中の女性、そして、子どもたちを自動的に最優先させます。もし、避難する必要があれば、彼らのことは誰もよく知っています。人々は、彼らが誰なのか、そして、どこに行くのかがわかっています。いくつかのアプローチがこの助けとなっています。
 |
| ハリケーン後により頑丈な住宅を再建。グアンタナモ州 |
第一に、家族は一緒にいます。たいがい学校は閉鎖されるわけです。第二に、避難所は地元にあればあるほど良いとされています。時には、産院や学校、あるいは文化センター、また時には近所の住宅が安全な場所を提供することになります。ハリケーン・デニスがグランマの山岳地に襲来した後、孤立した領域では危険な10戸毎に、一戸が地元の避難所となるように補強されることが決められました。その選択はコミュニティ次第です。これは、乏しい資源をさし向ける別のやり方です。最後に、私たちは、保護のケアの下、基本的な器具を避難させることで、それが保護されるのを確実にしています。そして、私たちは家畜とペットも避難させます。
ペットもですか。
ベタンクール そうですとも。猫、犬、馬、牛、そして、豚もです。これは、2001年にキューバ中部のサンクチスピリツス州のレブリーヘ・ダムの近くから4万人を避難させなければならなかったとき、私たちが学んだ教訓でした。
 |
| 熱帯暴風雨ノエルで、列車による避難、グランマ州 |
人々は退去させたのですが、8〜10時間後、私たちは、家畜用の餌や水を取りに戻らなければなりませんでした。もし、それがより長期にわたれば、こうした家畜には本当の問題が起きたでしょう。国際的にも飢えた動物が救護員を攻撃した事例があります。
キューバの災害軽減の取組みにとっての主な課題は何でしょうか。
ベタンクール 前に申しあげたように、仕事をより確実に行えば、脆弱となることはありません。人々や資産を保護するように、新たな社会経済的な開発プロジェクトが、厳密なすスタンダードに従うように取り計らう。それは、総合的なタスクです。私たちは、リスク削減の研究を改善し、災害削減の意思決定者たちをより教育し続けなければなりません。とはいえ、私たちにとって最大の挑戦は、既に進行している気候変動です。エコロジー的なダメージは国際的にも明確で、最近の研究から、キューバでも年間気温が0.5゜C増加し、旱魃を含め、極端な水門気象現象の頻度が増し、エル・ニーニョや全体としてのENSO(エルニーニョの南方振動)現象でより影響を受けていることを示しています。残念なことにキューバよりも強力なそれ以外のもの(注:米国の意味)が自分達でしなければならないことがわかる場合にのみ、逆転できる気候変動が変化している事実に直面し、長期的な戦略手段を採択しなければならないのです。
2001~2007年にかけてのキューバの嵐
|
年
|
名称
|
時期
|
級
|
死者
|
被害*
|
移動者Mobilized Persons
|
避難者Evacuated
|
|
2001
|
ミッチ
|
11月4~5日
|
4
|
5
|
1,866.0
|
102,468
|
783,259
|
|
2002
|
イシドロ
|
9月20日
|
1
|
0
|
713.0
|
48,847
|
284,805
|
|
2002
|
リリー
|
9月30日
|
2
|
1
|
|
81,771
|
941,617
|
|
2004
|
チャーリー
|
8月9~13日
|
3
|
4
|
1,222.7
|
45,082
|
232,929
|
|
2004
|
イワン
|
9月7~14日
|
5
|
0
|
923.1
|
215,122
|
1,266,066
|
|
2005
|
アイリーン
|
6月9~10日
|
TS
|
0
|
0
|
5,907
|
68,226
|
|
2005
|
デニス
|
7月7~9日
|
4
|
17
|
1,124.8
|
186,565
|
1,551,667
|
|
2005
|
カトリーナ
|
8月27日
|
4
|
0
|
0
|
117
|
19,441
|
|
2005
|
リタ
|
9月17~20日
|
3
|
0
|
207.0
|
75,559
|
265,478
|
|
2005
|
ウィルマ
|
10月17~22日
|
3
|
0
|
704.2
|
85,914
|
721,916
|
|
2006
|
エルネスト
|
8月27~29日
|
TS
|
0
|
95.1
|
91,660
|
662,598
|
|
2007
|
ディーン
|
8月17~20日
|
4
|
0
|
12.0
|
74,936
|
613,591
|
|
2007
|
ノエル
|
10月29~11月3日
|
TS
|
1
|
499.0
|
6,889
|
104,261
|
|
計
|
|
|
|
28
|
8,269.7
|
1,020,837
|
8,515,954
|
*キューバCUC(Cuban Convertible Pesos)で百万ドル。1 CUC=0.926 US$
TS:熱帯暴風雨、他のすべてはハリケーン
出典:全国市民防衛本部、ハバナ、2008年6月8日。
|