キューバの災害医療
過去数年にわたって、キューバに影響する深刻な災害は、最低の人命の損失しか引き起こしていない。2001~2007年にかけてキューバに襲来したハリケーンと熱帯暴風雨は13回あるが、28人が命を落としただけである。とはいえずっと過去からそうであったわけではなく、1963年には、ハリケーン・フロラだけで1,200人以上が命を落としている。
今もキューバは、深刻な資源不足の問題に直面する開発途上国である。とはいえ、いくつかの点でそれ以外の多くの貧しい国とは異なっている。キューバの成人識字能力は99.8%で、学校教育は9年が義務教育で高等教育も利用しやすく、無料である。防災では、こうした要素が、公共の認識、参加、組織化において重要な意味を持つ。
医療では、ただ一つの普遍的な公共システムが、約1万4000の地区のファミリードクターと看護師のオフィス、498のコミュニティのポリクリニコ、243の病院、そして、他の専門的なクリニック、ラボラトリー、リハビリテーション、研究機関を通じて、無料で予備医療から専門治療までを提供している。老人ホーム、障害者用施設、産院、歯科医院、薬局、そして、眼科他のサービスも全国的に普及している。このシステムには、全国的なテレコミュニケーションのネットワークとポータル、衛生と疫学センター、ライブラリ、そして、22の医療科学施設が含まれる。医療制度には、約49万人のスタッフがおり、うち、69.4%は女性である。
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2005年の兵庫行動枠組みが開発されて以来、キューバ他の国は潜在的な災害のインパクトの危険の脆弱性を減らす努力を高めている。キューバの場合、直面している主な脅威は、周期的なハリケーンと熱帯暴風雨と氾濫で、カリブ海では以前よりも一般的になってきている。キューバの医療システムは、国全体に及ぶ防災計画、準備、対応、復旧で極めて重要な役割を果たしている。それは、全レベルで過去45年で発展してきた国家市民防衛によって調整された包括的な努力の一部である。
2004~2005学校年から、キューバの医学生が受講する市民防衛のトレーニングでは、6年間のうち、3年、4年、5年目の授業に災害医学が含まれている。看護師、心理学者、情報通信技術の専門家等、医師やそれ以外の医療専門家は大学院のコースも受講できる。修士課程プログラムは、いま最終承認段階にある。さらに、ラテンアメリカ医科大学では、キューバで学ぶアメリカ、アフリカ、アジア出身の医大生に120時間の災害医学の授業を行っており、2007年7月までに、32カ国からの5,360人の学生が、卒業しこのコースを終えている。
災害医学のアカデミックなコースの一般テーマ
1.概論、定義、原理
2.災害の決定因としての社会経済的な側面
3.災害と健康と病気の均衡の中断
4.災害対応でのコミュニティの役割
5.負傷者と病人、人命救済のための大規模な第一応答者
6.非常時と災害のための医療部門の備え
7. 条約と国際人道法。国際赤十字社
8.災害時の大量の遺体管理
9.様々なタイプの脅威と危険性の管理のための計画
10.環境と災害
11.疫学調査と災害
12.災害時の医療ケアと緊急医療総合システム活動(SIUM)の組織化 |
キューバの医療チームの代表は海外でもサービスし、災害と疫病の専門のヘンリー・リーブ・チームの全メンバーも、キューバにある22の医科大学の災害医療学部でなされるスキルの特訓を受けている。彼らの知識をアップデートするためのトレーニング・プログラムの内容の責任はラテンアメリカ災害医療センター本部の9人の博士と15人の修士の教授を含め、全国的なアカデミックなクラスタが負う。また、センターは、医療システムの災害準備と対応のため、全国的な情報収集とマネジメントのハブとしても機能している。
UNDPのカリブ海リスクマネジメント・イニシアチブ
カリブ海リスクマネジメント・イニシアティブは、正式に、2004年に立ち上げられたが、キューバとバルバドスに二つ本部があり、高まる自然災害や環境リスクに適切に対応し、気候変動や社会的な脆弱性の概念を重視し、カリブ海領域の能力を築きあげるようデザインされている。イニシアティブの主な仕事は、その地域で人的キャパシティ、ツール、ネットワークを構築し、様々な国の最良の実践を強調し、政府間協力を強化することに重点をおいている。プログラムマネージャのカレン・バーナードはこう言う。
「カリブ海の住民の80%は海岸から1キロ内の距離のところに暮らしているため、脆弱性は高いのです。ポイントは、経験と技術をわかちあうことにあります。それ以外のカリブ海諸国は、ハリケーンに直面する中、キューバから人命保護を学ぶことを切望しています。こうした小さな国には、地域の施設も重要です。どの国にもハリケーンの予測探知システムやモデルを立ち上げる能力があるわけではありません。それが、キューバのインプットとデータベースが鍵となっている別の理由なのです」
ラテンアメリカ災害医療センター
キューバ保健省の下、ラテンアメリカ災害医療センターは1996年に設立され、災害医療やその分野の最新の国内外の研究情報を収集し、まとめ、わかちあうことに従事している。そして、災害に直面する中での人的資源と社会的な参加を開発している。多国間協力とリスク削減プログラムの奨励を目指し、センターの仕事は、国と地域に重点をおいている。センターはカリブ海災害情報ネットワークに属し、その本部はジャマイカの西インド諸島大学にあり、4ヶ国語のデーターベースが利用可能である。
キューバ気象研究所プロジェクト、カリブ地域気候影響研究
カリブ地域気候影響研究は、中米、メキシコ、カリブ海の地域気候モデルの対話的なウェブサイトで、イギリス気象庁のハンドレーセンターによって開発されたモデルを用い、キューバ気象研究所により開発された気候変動シナリオへのオンラインアクセスができるようになっている。同研究は、気候変動の影響を評価し、その適応手段を発展させるためのカリブ海地方の取組みに研究所が寄与するもので、カナダ国際開発庁とUNDPから支援を受けている。
全米保健機構(PAHO)、ユニセフ他の国際機関からの援助を受け、ラテンアメリカ災害医療センターは、そのポートフォリオを拡充させている。様々な問題の理解を深めるための州の防災ワークショップ、災害時の精神的な支援、水害や地震のリスク削減のための有効な計画づくり、激しい災害用の医療従事者の準備、被災状況下での家畜の健康、突然の災害のためのコミュニティの備え、危険な有毒物質と関連した災害軽減、準備、対応等である。
災害医療センターとキューバ赤十字は、コミュニティのボランティアや学校の子どもたち向けの一連の教育の努力でも協力している。そして、医療システムは、ローカルや全国的な災害への用意をテストするため、活発に年に一度市民防衛によって組織される「メテオロ」災害準備と対応エクササイズにも参加している。ファミリー・ドクターや看護師から始まるシステムを通じたヘルスケアの提供者たちにとり、公共教育と認識が重要な役割を果たすことが強調されるべきである。これは、市民防衛によって調整されるより大きな努力の一部で、学校、授産所、マスメディア、そして、社会的組織も関わっている。
医療システムは、各州とムニシピオに位置する衛生疫学センターを通じ衛生検査を維持している。ファミリー・ドクター、看護師、コミュニティのポリクリニコ、そして、病院は定期的に市民防衛当局に報告しており、医療制度自身の「早期警戒システム」、国家医療傾向分析ユニットへのデーター提供で寄与している。キューバの税関当局とも緊密に働き、この役割は国境でもなされている。
全国市民防衛のプロトコルによれば、医療システムは、媒介由来他の流行病等の災害の準備と対応の主な責任を担う。公衆保健省の専門職員は、災害マネジメントの技術的な基準や鍵となる活動を行っている。それにより、必要なリスク削減が研究がなされているため、それは、全国やローカルの機関、州、地域のガイドとして役立つ。
さらに、災害マネジメントのサイクルの中で、州、ムニシピオ、機関の医療ディレクターは、市民防衛の医療部門の最高の当事者を勤める。彼らはローカルな政府委員会の医療セクターも代表する。セクターは、リスク削減の研究を準備し、スペシャリストや医療専門家に提供している。
病院とポリクリニコを含めて、より厳密なリスク削減の研究を行うことが、国内の全組織に適用される2005年の「市民防衛省令#1」で毎年義務づけられている。各センターはその危険への脆弱性を評価し、それを減らすためのアクションプランを続行することが必要である。それは、年度の予算に組み入れられる。
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| ハバナの改築されたコミュニティのポリクリニコ。修理と共に物理療法やリハビリ等の新サービスももたらされた |
効果的な災害対応には病院やクリニックを運営し続けることが欠かせないことから、これは医療セクターには、とりわけ重要である。そして、国内のポリクリニコや病院他の医療施設に発電機が取り付けられたことで、いくつかの脆弱性は過去4年で大きく減少した。国内にある498のコミュニティのポリクリニコのうち250以上、そして、数多くの古い病院も同時期に更新された。それ以外は改築中である。
とはいえ、これだけで自動的に十分な保護が提供されるわけではない。例えば、ハバナの海岸線からわずか数ブロックのところにあるアメリカ・アリアス産院のように、いくつかの施設は脆弱な場所に位置している。
「省令#1」は、医療施設を新たに建築する際の要件も科している。設計図や建てる場所を決めるにあたり、カタストロフィーへの脆弱性を最小にとどめるため災害の専門家による許可が必要となっている。
キューバは、2008年に実施された重要なイニシアチブ、WHOと国際防災戦略事務局が率いる「災害から安全な病院」キャンペーンにも参加している。「安全な病院運動」は、医療施設がダメージや破壊を受けることが災害上で深刻な問題であるとし、これら施設が最も必要とされる時期にサービスが行われ続けることをミティゲーション対策に組み込むことを目的としている。また、PAHOとキューバの医療当局は、「安全な病院」だけではなく、安全なポリクリニコ、ファミリー・ドクターのオフィス他の医療施設も決めるため、協働で特定指標を確立している。その位置、構造条件、災害時の患者の動き、資源(水、電気、コミュニケーション、ゴミ処理)、そして、備蓄品(医薬品、水、食料他)の詳細なレビューを含め、6病院が現在、その評価過程にある。
こうした計画は、リスク削減(緩和)、準備、対応、復旧を含め、各地域レベルの総合防災プランの一部となっている。公共医療の場合、計画の方法論は、以下のように整理できる。
- リスク評価
- 緩和手段(脆弱性を削減)
- 災害対応手段(準備、被災中、復旧)
・予防医療の組織化
・衛生と疫学手段の組織化
・病人や負傷者の避難
・保健衛生調査と、食料準備施設を含め、すべての大型避難所の認証
・ロジスティクス(各センターのためのカテゴリによる医療従事者、様々なタイプの災害に利用可能な病院用 ベッド、特定の期間と貯蔵施設に必要である最小の医薬品、消毒剤と鍵となる供給物、水、ガス、薬用酸 素源、救急車と輸送)。
・マネジメントとコミュニケーションの組織(コマンドとコミュニケーションのライン、オルターナティブなコミュニ ケーション)。
- 一般大衆と医療従事者の教育。そして、他のセクターとの協力
- ヘルスユニット、震災時の避難場所、医療チームで補強されるべき場所、住民にとってリスクが高いゾーン、倉庫、給水源等の地区のマッピング
- 警戒計画、各フェーズの計画、コミュニティ・レベルでのリスクマップ、他のセクター(輸送、コミュニケーション等)との協定、そして、被害報告のためのノルマ
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| デング熱を媒介する蚊Aedes aegyptiに対するキャンペーン中の公共医療の掲示板 |
こうしたプランには、災害時に最初に対応する総合緊急医療システム(SIUM)も含んでいる。通常の状況では、SIUMの救命救助活動は、個々の患者が安定するまで、ポリクリニコか病院の救急サービスに輸送したり重大なサポートを行うものだが、医療システムの全組織と同じく、大規模な犠牲者がでる災害のため、ムニシピオ、州、そして、全レベルでSIUMも準備する。
緊急的な復旧段階では、ヘルスケア施設は、その人的・物的な損失の範囲を評価し、ほとんどが不可欠の状態から始まり、それらが中断しているところでサービス回復の対策を実施する。衛生や疫学調査での医療システムの役割は、水質検査や媒介動物感染症の予防を含め、このフェーズでとりわけ重要である。例えば、2005年にハリケーン・ウィルマでハバナが海岸線に沿って浸水した際には、何百人もの医大生を含めた公共医療チームは、戸別ごとに水質汚染がないかどうか検査した。
この面については上で言及したプランによってカバーされているが、妊娠中の女性、病人、幼い子ども、身体障害者、そして、災害で影響を受けた人々への心理的なケア等、特定の人々への医療を担保するために特別に計画が立てられていることを強調しておくことには価値がある。災害によって孤立しがちな地域のために、計画は、コミュニティ内に水、食料、医薬品の備えを維持することも含めている。外科チームは、その機能に必要な資源をそれぞれ割り当てられる。
今後の災害に直面する中、キューバの医療制度にとっての挑戦は、同時多発的なカタストロフィーの計画を含んでいる。
国の経済的な制約を考え、「災害のため安全な」ヘルスケアユニットとして認められるに値し我々も我々自身の機関の脆弱性を最小限まで減らす「省令#1」の目標を実現させるように挑まれている。最後に、社会全般と医療業務従事者たちの間に確固たる「安全の文化」を開発するには、多くの仕事がなされる必要がある。つまるところ、この教育の成果が、脆弱性の削減が行動の永久的な方針になることを最も保証するであろう。
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