米国人によるキューバ防災力の視察リポート
最も進んだ先進国から最も遅れた開発途上国まで、いずれも、嵐、洪水、旱魃他の自然現象のリスクから逃れられることはできない。だが、こうした出来事は、必ずしも自然災害となる必要があるわけではない。
「自然災害というものはありません。適切な計画と防災手段があれば、自然災害は避けられます」
ワシントンにあるキューバ利益部のダゴベルト・ロドリゲス元代表は、こう主張する。これは過去30年、キューバで成功してきたアプローチである。その間、キューバは、毎年、数回のハリケーンの経路に直接おかれていた。だが、死者はごくわずかしか出ていない。なぜ、キューバの防災モデルはかくも成功しているのだろうか。いったい米国はキューバから何を学ぶるのだろうか。国際政策センターがフォード財団から支援を受けて、探究しているのはこの課題なのだ。
自然現象、ハリケーンが突発した際、人命を救うため、専門技術をわかちあい最善の実践事例を、米国とキューバのハリケーン専門家が交換できるようにする。2007年に政策センターは、そのためのワーキング会議を開催した。この会議の完全な内容は、国際政策センターの2007年8月のリポート、「共に嵐に直面する(Facing
Storms Together)」を見ていただきたい。
さて、この2007年のハリケーン対策会議をフォローし、キューバの防災モデルを直接現地で学ぶため、2008年4月に国際政策センターは、キューバに対して米国の専門家からなる視察団を率いた。同視察団は、キューバの防災システムの課題をキューバの最高の専門家たちから学んだ。予測や早期警戒については、主任気象学者でキューバ気象研究所の予測センター長、ホセ・ルビエラ博士、国家気候変動センターのチーフ、アベル・センテージャ、気象研究所の農業気象センター所長、オスカル・ソラノ・オヘダ博士が話した。
また、コミュニティに根ざした準備や避難について学ぶため、視察団は、ハバナのサン・ホアン地区の市民防衛のリーダーとも会った。また、保健省のギジェルモ・メサ・リデル博士とフリオ・テハ・ペレス博士は、緊急状況のため、医療専門家や施設を準備するために講じられる予防政策を視察団に説明した。
■災害予測
1963年、ハリケーン・フロラでキューバが荒廃した後、キューバ政府は、その防災体制の見直しを始めた。キューバの防災モデルに加えられた改革は、その時以来、大変な影響力を持っていた。
「ハリケーン・ミッチが2001年11月に襲来したとき、タイムリーな避難を通じて人命救済にキューバが成功したことは、政府主導による効果的な防災モデルとなっています」
国際赤十字連盟は2002年の災害リポートで、このように述べている。
革命的な変化がモデルとして作られた。それは、いかなる物質的なモノよりも、一人の人命に価値を置き、準備手段において人命を最優先に順位づけるのである。その後に改良されたものには、教育や準備、復旧努力の方法がある。1970年代には失望されていた状態だったが、防災モデルの改革によって、現在では政府主導の効果的な防災モデルにまで高まってきている。
1970年代から1980年代にかけては、キューバの気象サービスは、「気象研究所」ではなく、冗談で「偽りの研究所」(Instituto de Mentirologia)と称されていた。スペインの単語「meterologia」は、「mentirologia」と同じように聞こえるのである。センターは天候を正確に予測できず、キューバ人々たちから信用されないことにつながっていた。
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| 1981年に登場した若き日のホセ・ルビエラ博士 |
だが、1980年代から良好なレーダー画像を得るため技術装置のアップデート、人々とのコミュニケーションの強化、国内の気象センター数の増加、既存センターの更新を含め、改革が始まる。1980年代には、一般庶民が技術的な科学を理解できるように予報で用いられる言葉も簡素化された。その後まもなく、1981年には気象リポートが正確に伝達されることを担保するため、夜のニュースではテレビ・キャスターの後任に気象学者が座った。
1999年には、キューバの気象研究所は89~92%の精度で嵐を予測していた。これは米国とヨーロッパと同じレベルである。キューバの予報力を高めるため、中国からのさらなる投資によって、キューバの研究所は、さらに高レベルの精度に達するであろう。
キューバの防災の取り組みの第一歩は、早期の暴風雨の警報である。衛星、レーダー、サウンド・ステーション、船舶、ブイ、飛行機から情報を収集し、気象研究所のルビエラ博士や同僚たちは、全国気象リポートを作り出す。収集された情報は慎重に予測数値モデルと比較され、可能な限り正確な予報と嵐の予測がなされる。ルビエラ博士はこう指摘する。
「人民とのコミュニケーションなしには、正確な嵐の予測は意味をなしません」
キューバの防災システムの第二ステップ、コミュニケーションは、起こるであろうリスクや避けられる脆弱性を避けるために、全市民にできることを周知することを目指す。キューバでは、国民の96%はテレビを見れ、97%はラジオ放送を聴ける。ネット接続は限られているが、暴風雨警報は気象研究所のウェブサイトでも見ることができる。
最も激しいハリケーンにおいても、キューバの警告システムが高率で成功している要素のひとつには、さし迫る気象で引き起こされる危険性を人々が認識している意識レベルにある。嵐が島に襲来する72時間前に、来たるべき事態に対し精神的に人々に準備させるために最初の警告が出される。48時間前には避難が始まるが、その際、地元当局は、妊娠中の女性、高齢者、障害者等、援助が必要となるかもしれない市民に対し特別な注意を払う。子どもたちは学校から家に戻され、収穫可能な作物は直ちに集められ、輸送ネットワークが動員される。最終的に、嵐が直撃する24時間前には影響を受ける地域で避難が行われ、ローカルな緊急供給によって、避難所には水と医薬品が蓄えられる。
米国の緊急マネージャーたち(emergency managers)がハリケーン・カトリーナの中で、直面した数多くの問題のひとつは、住宅からの退去を拒否する米国の市民たちだった。いくつかの地域では義務的な避難がアナウンスされたにもかかわらず、地方自治体はこうした命令を実施する能力を欠いていた。この強制避難の問題について問いかけてみると、キューバの専門家は、ほとんどのキューバ人は、ハリケーンの経路にとどまっていたときに引き起こされるリスクを深く理解しているため、結果として、自発的に避難しようとし、強制避難の問題はさほど起こるわけではない、と述べた。例えば、2007年のハリケーン・ノエルの際には、被害額は約5億米ドルで、8万人が避難したにもかかわらず、水かさが増えた川を渡ろうとした男性一人が死んだだけだった。
しかも、キューバの人民教育と準備は嵐が発生するはるか以前からスタートする。毎5月、国全体が緊急避難訓練、メテオロに参加する。この訓練で、市民たちはキューバで生じるハリケーンの頻度を認識することに加え、応急処置についてもとても若い年齢からキューバ人たちが教育されているのである。
子ども向けにデザインされた資料は全国配布され、緊急時の放送は、俗人の言葉でなされ、グラフィックスが補完する。キューバ人たち全員が、こうした自然現象の情報にアクセスし、それを理解できることを確実にしている。ルビエラ博士はこう説明する。
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| 迫り来るハリケーンは、紛らわしい直線経路より、円錐内を動くものとしてキューバの人々にプレゼンされている |
「人民は、ハリケーンをある一定の経路に沿って動く点とみなしがちです」
だが、実際にはハリケーンで影響を受ける地域ははるかに広い。ハリケーンがどこに向かうことができのるか。そして、ハリケーンの風や氾濫でどのエリアが影響を受けるのか。円錐形のレーダーイメージで人々に示すことで、キューバ人たちは、自分たちが直面するかもしれない危険を良く理解できる。年々、かつ、この地域あの地域と災害管理のやり方が連続していることも、国家の緊急時の混乱レベルを引き下げ、リスクを減らしている。例えば、病院は、ハリケーンやそれ以外の自然現象の間の患者用の指定エリアを持つのである。どの壁にも色分けされたマーカーが適切な方向を患者に示して病院の効率性を高め、混乱を減らしている。一年中病院はマークされ、あらゆる病院は統一でラベルされている。
キューバも米国も、被害を最小とし、人命を救うという同様の目標を持つ。だが、ハリケーンに備え、マネジメントするやり方は全く違う。明らかに違うのは、避難命令を実施する二政府の能力差、そして、米国の高度なインフラである。米国とキューバとでは、民間と公共セクターの役割においても食い違いが見い出せる。米国は自由市場経済体制に基づいている。資産の被害評価や還付は民営保険会社にアウトソースしている。だが、キューバでは政府がそれ自身でこうした件をすべて扱う。とはいえ、防災努力の成功に大きく影響するように思えるそれ以外の違いは、共産主義と資本主義の違いとはまったく関係ない。
キューバのシステムで最も際立つ三つのポジティブな点は、(a) 全市民がリスクの知識を持ち、結果として、リスク緩和手順に従うことを保証する準備の度合い、(b) 資産保護の保証、(c) 財産をはるかに超えて、ありとあらゆる人々の人命の価値を重視していることである。
キューバでハリケーン・シーズンに準備されるのは、ただ災害準備用に資材を備蓄するだけでなく、災害を緩和するため可能なすべてを行うことである。この準備は、小さな年齢から大衆を教育することを含んでいる。明らかに、かつ、永久に緊急施設(病院や避難所等)も印しており、かつ、最も重要なことは、人々の心理的な準備を確実にしていることである。
ルビエラ博士が説明したように、キューバのシステムは、自分たち自身を守ろうとするよう人々をエンパワーするため、彼らが直面するリスクをできる限り市民に知らせ続けようとしている。可能である最も早い瞬間に危険を彼らに警告することで、キューバ政府は不快な驚きを最小に抑えている。迫り来るハリケーンにより引き起こされるリスクを理解することに加え、キューバ人たちは政府によって彼らに保証される備蓄のことも理解している。
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| 自然災害が起こるまでに、キューバの医療従事者や医療機器の準備ができている |
迫り来るハリケーン等への緊急避難シナリオでは、キューバ政府は、家族を避難所に避難させるだけではなく、精神的な安全を確実にするため医師や看護師を配置した妊婦のための特別施設も提供する。さらに、ペットやと物的資産の安全を保障するための準備も取られる。近づく嵐のために心を準備することは、嵐の後には、すばやく正常な暮らしに戻ることがわかっていることを含む。キューバ政府は、可能な範囲内で、保護された避難所や浸水しな英らに格納されることで、家庭の貴重品をリスクを取り除くことで保証する。洪水の場合は、家庭の貴重品や冷蔵庫等の大形家庭電化製品はアパートの上階へと動かされる。
嵐の後、政府は、被害資産の損害を評価し、優先順にそれを置き換えるか修理する。キューバ側のホストは、そのモデルは機能すべきであるように常に機能しているわけではない。だが、たとえモデルがないとしても、物品の高い生存率と遺失物が置き換えられる約束とが、災害に向けた心理的な準備を助け、結果として、災害から生じる精神的苦痛の範囲を下げることを認めた。
最後に、そして、最も注目に値するキューバの防災システムの面は、有形財よりもはるかに人命に価値を置くことである。ダメージの費用や修理の責任を負う人に焦点をあわせる代わりに、キューバの防災モデルは、ただ人命の保護に焦点を合わせている。
国際政策センターの視察団のキューバ側のホストが明確に説明したように、キューバは全国民、とりわけ、子ども、高齢者、身体障害者、妊婦等、最も脆弱な人々の安全を確保することに力を尽くしている。市民防衛のメンバーとコミュニティのボランティアは個人的に特別な支援を必要としている人々を援助する責任があり、災害によって引き起こされる高ストレスで不意に陣痛を起こすかもしれない妊娠中の女性のために特別な避難所が用意されているのだ。
米国で模倣することがほとんど不可能なキューバのシステムの面は、失われたり、ダメージを受けた資産の交換の保証である。キューバでは嵐の危険が去った後、地区ベースでダメージのアセスメントがなされ、次に、それを必要性に応じ、政府の費用で修復する。直ちにダメージを受けた材料が修理されるか交換される。この習慣を米国にコピーできると考えることは現実的ではない。とはいえ、キューバからは重要な教訓が学べる。
嵐の直後に資産交換が保証されていることは、避難中や復興の努力がなされている間のストレスを減らす。ダメージを受けた物品を担保したり、正常な状態に迅速に戻ることを担保する点では、米国のシステムは弱い。それらを主に扱うのは民営保険会社の役割だからである。とはいえ、もし、市民が災害への準備をする際に、リスクや選択肢を意識して、どんな項目がカバーされるのか、あるいは、ある特定状況ではされないのかを知っていれば、そして、より急速にかつ、効率的に保険へのクレームを集める能力を持っているならば、米国民もキューバ人が持つのと同じように多くの回復が保証(そして、同じく減ったストレスへのインセンティブ)されるであろう。
米国でも、ハリケーン等の自然災害の危険によって潜在的に影響を受ける大衆に教育することを目的としたキャンペーンやそれにどう備えるか(キューバのシステムを模倣)を行うことは、米国人の人命保護に役立つツールとなろう。ハリケーンの混乱の中で、人々に指示するため、明確なサインで緊急避難方法を標準化することも、自然災害に対する米国の対応を改善するであろう。大がかりなコミュニティ参加、ハリケーンが起こる前の大衆教育、そして、安全域に到達するまで市民を支援すること。これらは、いずれも、米国の緊急マネジメントシステムを改善するであろう。
キューバは上述した分野で明らかに計画や実践の成功事例をデモンストレーションしている。全地球市民の安全や幸せを改善するため、さらに情報をわかちあうことを通じて、こうした最良の実践例を交換することが国際政策センターが望んでいることなのである。
両国はいずれもハリケーンの経路にあるのですから、キューバと米国が追跡や準備、それに対する備え、そして、その後の復興でできる限り協力しあうことには論理的に意味があるはずです。お互いが助け合えますし、そうするための確立されたシステムがあるはずです
国際政策センターキューバプログラム代表ウェイン・スミス
ニューオリンズ出身で、ハリケーン・カトリーナとリタのいずれも生きのびた人から、私は気にかかり恐れていた質問をしなければなりませんでした。被災後の精神的な痛みをどう扱っているのですかと。私の地域では、人々は、外傷性ストレス症候群、憂うつに深く影響を受け、自殺率も高いのです。ところが、キューバ人たちは、被災後も彼らをケアしてくれると政府を信頼していますから、精神的に病むことが起こりそうにないことを私は確証しました。被災者に対しては精神的な医療ワーカーや強力なコミュニティのサポートがあり、たとえ、所有物や住宅を失っても、それを取り替えることが保証されているのです。
NO-MASの創立者・代表ランディ・ポインデクスター
私たちが出会った中で最も印象的な人は、地方の役人、元歴史教師でした。彼は、大変な情熱をもって自分のコミュニティへの責務、すべての人を守る、とりわけ、糖尿病患者、子どものいるシングルマザー、車椅子の高齢者であるかどうかに関係なく、最も傷つきやすい人々を守るという責務について語ったのです。
ハリケーンへの備えと避難のためのキューバのモデルは、綿密な計画、ローカル・レベルでの市民社会からのサポート、そして、トレーニングがかかわっています。それは、すべての緊急時の準備ワーカーたちにその最も重要なミッションは人命を救うことだとの哲学をしみ込ませているのです
国際政策センター国際政策のための制度改善センター長ジェーン・バートン・グリフィス
キューバは、適切な手順、コミュニケーション、そして、協力を持って、貧しい国々が死傷者数を著しく減らせる方法を開発できることを示しています。専門家と一般庶民への双方の教育のために、その独立以降、嵐によるキューバの死者は大変少なくなっています。さらに、幼児でさえ抵抗の活発な部品となるように、低学年からハリケーンへの備えが公立学校で教えられています。これは、キューバにとって実用的なプランであるだけではなく、中米やカリブ海の全諸国にとってのモデルなのです。
キューバには、強力な中央政権があるために、そうした避難を管理できるとのコメントへの答えで、キューバには義務的な避難がないと指摘されました。人々は自分たちのリスク要因について非常に知識があるために、自分自身の決定で避難できるのです。人々が自分たちの脆弱性についてかなり学んでいるため、政府の布告がなくても正しい決定ができるように思えます。
米国キューバ姉妹都市協会ジェイ・ヒギンボータム
国際プレスは、事実を歪める傾向を持っています。予報官は、ハリケーンがいつ襲来するのかがわからないし、本当の精度では決して予測できません。予報のビジネスの中に私たちはいません。備えのビジネスの中に私たちはいるのです。
気象研究所ホセ・ルビエラ博士
以前のハリケーンの経験は、米国人が、自分たちや子どもたちが、いかに災害によく備えるかを自分たちで学ばなければならないことを立証しました。国民は、自分たちのための用意で政府だけに依存することはできません。多くの人は、共産主義政府がその市民のためにすべてをやると想定していることでしょう。ですが、これは真実ではありません。キューバ政府は、災害に備えて対応するために、その人民をエンパワーしています。政府が身に降りかかる危険について警告するとき、彼らは、指示に耳を傾け、それに応じるのです。
フロリダペンサコラ、緊急マネジメント・チーフ、ジョン・ドッシュ

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