2009年 本文へジャンプ

キューバの防災力は評価できない


はじめに


 前の論文(Aguirre, 2006)では、私は、キューバの防災プログラムが、それ以外の国のモデルになるべきだとの主張を批判した。警告と避難の防災対応では、キューバには優れた成果がある。政府が国民を統制し、効果的な国家社会組織が、ハリケーンや熱帯暴風雨による潜在的な病的状態や死亡を最小限に抑えるうえで極めて効果的に用いられてはいる。

 しかしながら、キューバは、災害復旧や緩和の対処においては、極めて不十分な実績しかない。慢性的な環境的、社会経済的な問題や国民の脆弱性の解決への着手は遅れている。災害で影響を受ける社会・技術システムの脆弱性、レジリアンス、そして、適応力の問題もほとんど系統的には調べられておらず、ただの一度も回復や緩和の国家プログラムの一部となっていない。この慢性的な不足、社会リスクの本質のホリスティックな理解不足とも呼べるべきものは、適切な政治システムの如何にかかわらず、キューバで対処する必要がある社会・経済発展の重要課題となっている。

リスクマネジメント


 1960年代後半と1970年代に環境保護運動によって警告や解決策が提案され、自然環境に対する人間社会の社会文化的な適合の近代的な理解が本格的に始まった。以来、それは、危険な自然のプロセスと化学物質の流出他の技術的災害への適合はますます統合されるようになってきている。元々は社会学者や地理学者により別々の分野として研究されてきたものが、現在は、社会的リスクマネジメントの一部として理解されている。

 いわゆる自然災害は、実際には自然と社会文化システムとの相互作用だが、残念なことに自然現象としてよく誤解されている。自然プロセスそのものは災害ではない。その影響に脆弱なコミュニティや地域が影響するとき、それらは災害となる。災害は自然ではなく、たいがい決定によって引き起こされている。人々に対する集団的な究極の結果に無関係の決定によって、持続可能な生活パターンを採用することに無能であるか、気がすすまないことによって引き起こされているのである。

 さて、災害の科学的な研究は、以下のステージを特定している。備え、対応、再建、そして、復旧である。そして、各フェーズが災害の影響を最大限に緩和することに向けられるべきであることが理解されてきている。それは、悲惨な影響を排除するか緩和するやり方で、環境を修復・強化することと、そして、新たなものを構築することの双方が関わる。

 災害マネジメントとその災害緩和(disaster mitigation)の努力では、試行錯誤やしばしば痛みある経験の結果としての文化的な変容と同系の集合的な社会的な学びを伴う。


キューバの事例


 さて、キューバの場合、そのリスクマネジメントのシステムは不ぞろいである。予防医療プログラム等、公共医療に関してはかなり高度である。また、別のミティゲーション・プログラムの優れた事例は、様々な旱魃の影響に対し、地元住民ニーズを満たすため、貯水池や用水路の全国システムを創り出すために進められている取組みである。ただし、それは、環境をマネジメントし(Portela and Aguirre, 2000)、自然災害の影響を緩和するには不十分である。

 一方、災害と関連するプログラムでは、予防と対応策がほぼその中心に据えられている。中でも象徴的なのが、市民防衛の国家オフィスによって、全国で実施される何十万人もの人々が参加する毎年の「メテオロ」運動である。ハリケーンや地震で引き起こされる脅威が、リスク・マップを用いることで、ある程度は決められ、人々は守るために何をすればよいかのを告げられるのである。

 キューバの市民防衛は、防衛省の一部であり、軍事組織、全国市民防衛コマンドとして組織化されている。市民防衛は、人民権力の州議会とムニシピオ議会の議長がメンバーで、彼はその領域の市民防衛の代表として行動するのである。

 ハリケーンに対し市民防衛の災害準備や対応システムが有効なのは、大きくは、緊急時のマスメディア、大規模組織、そして、地元や州政府機関に対する指令、そして、気象研究所の優れたサービスを利用できる能力にある。市民防衛は、人民に避難を強制し、もし、必要があれば、武力行使によって、それを実施する法的権利も持つ。

 全国地理データ・センターの情報によれば、1678~1992年にかけ、キューバでは14回の地震と5回の津波が起きている。5回の津波のうち4回はサンチアゴ・デ・クーバ沖で起きており、14回の知られた地震のうち9回は都市部のものである。オリエンテ地域のマンサニヨ市では1992年に地震があり、ハバナ市は1693年と1810年で2回、サンタ・クララ市では1939年に一回起きている。

 公式上最大の被害を出した地震は、1766年のサンチアゴ・デ・クーバの地震で40人が命を落とし、700人が負傷した。この既知のリスクを考慮し、現在では、地震のアセスメントが強調され、オリエンテ地域には8カ所の有人ステーションや数多くの自動遠隔ステーションが地震活動の動向をおさえ、サンチアゴ・デ・クーバにある中央研究所に情報を送っていることは、驚くべことではない。おそらく、国内で最も脅かされた都市のひとつで、大地震ので破壊される危険性もある。この緩和に向けた動きでは、全国地震調査センターがリスク・マップを開発し、地震の傾向がある地域で、どこで何を築きあげるべきかのアドバイスをしているが、この緩和のアドバイスがどの範囲までフォローされているのかは、筆者にはわからない。

 非常に厄介なことは、ハリケーンや地震に由来する危険性に対し人工環境が深刻なまでに脆弱で、それによってもたらされる被害を最小とし緩和することを試みる公的プログラムの不足である。バシスタ・シルヴァ(2009)博士が記載し、キューバの専門家にもよく知られているように、ハリケーンはキューバ社会の生存にとりますます深刻なリスクとなってきている。全国気象研究所の予報センターの研究者、マリツァ・バジェステル博士は、全国予報モデルの作成者で、ハリケーンのリスクの高まりを記録している。

 バチスタ・シルヴァは、徹底的な歴史研究に基づき、キューバに影響をもたらすハリケーンの数と深刻度がここ約150年で増加していると指摘している。最新の2008年のハリケーン・シーズンには深刻なダメージがもたらされ、公式の政府情報によれば、約100億ドルに及び、60万戸が破壊されたり損害を受けた。この評価に基づけば、たとえ控えめの仮定であれ、約25年間で平均6~8回のハリケーンが毎シーズンにキューバに影響を与え、うち、3つがカテゴリ3か、さらに強い嵐になると予想されよう。このため、ハリケーンと関連したコストが非常に高まっていることは明確である。問題はそれに対して実施できることにある。

リスク・マネジメント


 米国、カナダ、ヨーロッパ他の国で用いられているリスク・マネジメントの原則や実践では、ハリケーン等の自然災害や人災で引き起こされる課題の解決策として、工学、地質学、水理学、地理学、土地利用計画、社会学、疫学の諸学派が作りだした科学が背後にある。言及した分野のうち重要なものは、キューバの専門家にもよく知られており、意思決定者にとり比較的よく知られてアクセスしやすいはずである。それらは、堅固な統治機構を発展させ、キューバのリスクを変えるうえで必要とされる技術的なマンパワーが得られている。ここでそれらを繰り返すことは価値がないし、いずれにせよ、ここはそのための場ではない。

 とはいえ、キューバのいくつかの習慣が、国民の脆弱性を高め、そのレジリアンスや環境他のリスクを最小とする能力を減らしていることは、極めて重要で言及されるべきである。おそらくここで最も重要なものは、その社会の軍国主義化と真の民主的な市民参加を抑制する、社会のあらゆる分野に及ぶ社会組織のヒエラルキー的、中央集権的なトップダウン方式の使用である。ソ連の終焉後に見出されたように、中央集権化された経済と軍国化された政権は、東欧やロシアの汚染地区で社会問題を緩和しようとする市民社会の試みに水をさしていた。こうした体制は、環境汚染や災害等の複雑なリスクを削減、または緩和する公的プログラムの有効性も引き下げる。その結果は、自然災害のリスクを抱えた人々に、直面する集合的な危険性を理解させ、その暮らしを改良するという新たな文化を創り出すことに社会的に失敗することである。

 バチスタ・シルヴァ(2009)は、2008年にハリケーン・パロマで発生した破壊的な海の波で被害を受けた町、サンタ・クルス・デル・スルが内陸部に数キロ移転したと書いている。もし、それが起きていれば、ハリケーンに対する人々の脆弱性を減らすために、それは私が知る土地利用計画の最初の事例となろう。とはいえ、コミュニティに相談せず、そのニーズを分析せずに不当に再定住を行い、再定住に用いられた新たな場所が、もとの場所よりもさらに脆弱であるという問題が他国でしばしば起きていることから、さらにいろいろな事がこのプランに関して知られる必要がある(Oliver-Smith, 1991)。

 世界中では、災害に対する軍事的な解決策やトップダウン型の中央集権化された対応が減っている(Dynes, 1994)。軍事組織の機能や責任は、まさにその本質において、災害で産み出される市民社会のニーズを解決するうえでは、非効率である。軍は秩序を科し、人々を避難させ、外観上のコントロールをもたらすことはできるが、コンフリクトを解決し、社会にとって重要なコミュニティ・ニーズの解決策を作り出せない。どこで何を築きあげるのか、そして、コミュニティはいかに回復すべきか、そして、緩和のコストを誰が負担するのかといった政治プロセスへのダイナミックな人々の参加も作り出せない。

 キューバの未解決の主な問題のひとつは、国内にあるすべてのローカルな地域の特定状況を認識し、その抱える問題の持続的な解決策を提供し、自然界を保護するとともに、河川や沿岸の洪水、海の大波、断層に対し総合的に環境を維持する大衆が利用できる詳細なリスク・マッピングに基づく知的で効果的な土地利用計画である。そして、もうひとつは、激しい風に対して、よりレジリアンスのある住宅ストックを国内でいかに作るかである。

国際援助


 ハリケーンはそのネガティブな特徴を強調するよりもむしろ、この知的な再建プロセスに着手するため、国際支援を得るチャンスとして、キューバ内外のキューバ人から見られるべきものである。国債社会では、何10年も、社会の適応能力が改善されているのであり、キューバ政府は、国際支援が必要なことを認める必要がある。それには、公的管理と透明性のあるアカウンタビリティ制度を創設する必要がある。そのことは、キューバで意図されるコミュニティやプログラムに支援が流れることを保証するであろう。国際的なドナー、政府、そして、世界中のそれ以外のキューバ人と同様に、キューバの追放共同体(Cuban exile community)に対しても、必要とされるこの再建や回復を支援するよう奨励する必要がある。ハリケーンや地震に対し、よりレジリアンスのある環境を構築する目標のため、一時的な政治上的な違いや派閥を超えた国家的努力があるべきである。

 さて、国際支援の使用にあたっては利用可能な原則がある。災害再建における国際支援の約束は万能薬ではないが、現時点でも、数多くの優れた批判やガイドラインがあり(Maren, 1997; Cuny, 1983; Easterly, 2006)、それは、キューバ政府がリスクを管理しつつ、これした問題で最も有害なことを取り除く助けとなろう。
世界銀行の開発援助プログラムに対するEasterlyの重要な批判は、一連の原則を提供しており、それは、キューバで災害に対してレジリアンスのある開発プロジェクトを行うために必要とされる努力をガイドするのに用いられるべきである。それらは以下の通りである。努力とその結果との関係が透明で測定できる目標のあるプログラムを重視すること、明確な目標と解決できる問題を満たすことに向けること、地元の住民が欲し必要としているものにリンクされていること、人々が必要とするサービスを提供するため地元のエージェントに特定の利益を提供することである(179–180)。私は、そうしたプログラムが、既知の災害リスクを緩和するため、持続可能にデザインされているべきだと言い足したい。

 キューバの建築環境の再建との関連では、それをよりレジリアンスにするため、いま進められている分権化は、この国家的努力のガイドとなろう。Dainty and Bosher (2008: 363)は、レジリアンスを建設といかに統合するかを論じた本のあとがきで、私が推薦する7原則を記載している。それらは以下の通りだ。

  • (1) ホリスティックなパースペクティブを採択すること
  • (2) レジリアンスのある技術を開発し、適切に適用すること
  • (3) レジリアンスの努力にコミュニティを引き込むこと
  • (4) 適切な既存のガイダンスと枠組みを用いること
  • (5) 災害後にレジリアンスな手段をビルトインする機会を設けること
  • (6) 環境づくりや緊急マネジメントの専門家を災害のリスクマネジメントに統合すること
  • (7)環境カリキュラムに主流のレジリアンスを組み入れること


 いま、必要とされているのは、国内にある建物の建築の再考をリスクマネジメントの不可欠の要素とし、地元ニーズに適合した適切な建築基準を採択し、建築法規を一貫して実施することである。重要なことは、別のハリケーンがキューバに襲来するのを待つ必要はなく、このプロセスは、構造的な緩和によって直ちに始められるということである。日常生活においてそれ以外の緊急問題に直面しているキューバ人たちにとっては、緩和は待てると考えるかもしれないが、それ以外の世界の国々の経験は、こうした問題をケアするための貴重な時は、経済発展以前でさえあることを示している。将来、何らかの自然災害によって脆弱性が明らかにされてから脆弱性を解決するのでは意味をなさない。その時にはそれは行えないし、経費もはるかに大きくなるからである。

結論


 キューバはハリケーン問題を解決しなければならない。そして、多くの人々が考えることとは逆に、ハリケーン問題は、神や運命、あるいは自然の行為ではなく、人間によって引き起こされる問題である。その解決策は知られており、さもなければ、命を落としたり苦しめられるリスクのある人々がかかわらなければならない。それは、土地利用、建築業、人々がその住宅を所有して支払う能力、学会等が関係する複雑なものとなろう。そして、定義上、それは、政治や法制度もかかわる。

 キューバはハリケーンと関連する死亡者や病的状態を減らす際には、凄まじい発明の才を示している。だが、そのアキレス腱は、激風、氾濫、そして、海の大波に対するその建物他のインフラの虚弱性である。増加するリスクを考えれば、その政治指導部はこの全国的問題に直面しなければならない。解決策はわかっている。人的資源も利用可能である。問題は、この必要なことをするための政治的意思があるかどうかなのである。

 B. E. Aguirre, Cuba’s Emergency Management and the Need for a Holistic Understanding of Risk, Cuba in Transition: Volume 19, Association for the Study of the Cuban Economy, July 30, 31–August 1, 2009.