1999年
農民参加型種苗開発

 1989年にソ連が崩壊してからというもの、キューバの農業部門は、投入資材や貿易援助が格段に減ってしまったことに対して、徐々にではありますが、より自給的で合理的な生産形式に向けた転換をしなければならなくなりました。この挑戦で、多くの目覚しい技術的、社会的な変化が起きていきます。

 1980年代には、キューバの貿易量の実に87%が有利な価格のものでなされ、必要な肥料や除草剤の95%が輸入され、農場125 haあたりに1台のトラクタが所有されていました。ところが、社会主義圏が崩壊した後は、海外からの購買力は1989年の8,10000万ドルから1993年には1,70000万米ドルへと落ち込み、農業投入資材の購入に大きく影響を及ぼします。幸いなことに、1970年代の初期から、キューバの研究所は低投入やオルターナティブの概念を意識していました。そこで、直ちに代替肥料と病害虫防除手段の開発や普及が講じられていきます。

 ですが、品種改良においては、その対応はずっと時間がかかりました。インフラ面においては、既存の上下依達型の技術転換ができましたが、種子での代替解決策はそれほど容易いものではなかったのです。工業化された制度のもとでは、生物多様性も乏しく、脆弱な作物遺伝子という枠組みが奨励されてきましたが、高投入資材を利用することで維持されてきた以前の均質な環境で、同じ作物品種を支えることはもはやできませんでした。国家種子供給体制を緊急に拡充することが必要でしたが、その財源も欠いていました。1989年と比べ、トウモロコシやマメの種子生産力は50%も落ち込んでしまいます。育種部門は、中央集中的な国家計画体性の中で稼動し続けてきましたが、それは農村の現実には対応していなかったのです。

 現在の育種戦略は、地域による違いを間接的には考慮に入れています。しかし、体制段階においては、外部投入資材が十分ないという現実の状況に応じた育種を最優先させるまでにはいたっていません。そこで、正規の種子供給体制の上に立脚している現状を、非正規なアプローチで補完する必要があるのです。1989年以前からの依存によって、直接農民たちが農民自身のために自分たちで運営する非正規の種子体制は、脆弱化していましたが、存続していました。幅広い対応力を種子に持たせることが、小規模な圃場において伝統的に実施され、そこでは、農民たちは、自分の家庭の役立つと思える植物を生きたまま保存してきました。つまり、キューバの主食の基礎となる種子生産は、国内の多くの地域で、非正規の体制を通して続けられてきました。そして、こうした遺伝資源は、実用的な遺伝子型(genotypes)を選抜する基盤を植物育種家に提供してきたのです。しかし、この非正規の種子管理体制に対しては、さほど関心が向けられず、既に多くの遺伝子の変異性(variability)が損なわれていました。ですから、この近代的な概念や開発に接してきた植物育種家の中には、オルターナティブなアプローチを捜し求めるものもいて、キューバの東部では、参加型のアプローチを重視した品種改良プロジェクトが立ち上げられていました。また、ハバナ州でも、一人の一匹狼の育種家が、この記事の元となったプロジェクトに着手し、同じような概念のイニシアティブに独自に取組みはじめていました。そして、この育種家は、州による収穫高の衝撃的なまでの違いを目にします。それは、管理技術や支援、そしてまた、地元の環境状況の違いに関連するものでした。つまり、安定した高収量には、作物遺伝子の豊かな多様性が必要だ、という仮説です。種子の流れは、この多様性、とりわけ、遺伝資源の変異性が豊かな領域から少ない領域までの流れを奨励する一助となっています。遺伝資源が豊かな領域の多くは、孤立した環境にあり、それが、正規の種子セクターの普及プログラムから種子を保護することになってきまいたが、一方、それは、僻地の集落間での非公式な種子のネットワークも妨げてきました。

国家農業科学研究所の参加型育種

 このプロジェクトの目的は、低投入状態に見あったトウモロコシや一般のマメ作物の品種を多角化し、改良することにあります。参加型育種(PPB=Participatory Plant Breeding, MPP =El mejoramiento participativo de plantas)プロジェクトが始まる前、国家農業科学研究所(INCA = Instituto Nacional de Ciencias Agricolas)の育種部は、当時のキューバ有機農業協会(ACAO)と共同して、種子ワークショップと種子フェアを組織します。1999年4月に、全国農業科学研究所において2日間のワークショップが開催されました。

 研究者たちは、トウモロコシに重点をおいて、小規模な生産者組織の品種への要望を明らかにし、多様な品種を紹介し、その地区状況に適した品種選抜を奨励し、農民たちの実験や増殖用の種子を普及させようと望んでいました。種子フェアの役割は、農民たち相互間よりも、研究機関から農民たちへの種子の流れを促進することにあったのです。

 ハバナ州から、あらゆる農民たちが招待されました。その核となったのは、進行中であった「アグロエコロジカル灯台」プログラムに参加していた3ヵ所の農業協同組合でした。「灯台」の農民たちは、研究の相互作用や介入に比較的慣れていました。

 ハバナ州は、環境が比較的均質な特徴をもっています。そして、ここ数10年というもの、その生産体制は高投入型の投入資材に依存してきましたし、いまだに正規の種子供給セクターにも依存しています。ですから、現在のところ、遺伝子の多様性はほとんどありません。オルターナティブな種子源は、その近隣よりも、遠方のピナル・デル・リオ州からもたらされなければならないでしょう。同州には、外部からの投入資材が少なく、植物遺伝資源が豊かで、正規のセクターからも独立していたという特長があります。農民たちは15年以上も前から地区に提供された系統を維持していますが、それ以外からも必要な特性を定期的に導入することで、その種子を「リフレッシュ」していることが、多く報告されていました。あまりに近くで農業がされていたため、自然な他家受粉も簡単に生じていました。トウモロコシの種子を交換することは、農民たちの間では、一般的な習慣で、とりわけ、年間に二回作付けをする乾燥した高地の農場と、より湿潤な低地の農場との間では、そうだったのです。

準備とやり方

 ワークショップに数カ月先立ち、2人の育種家が、ピナル・デル・リオ州の農村集落でトウモロコシの種子を収集するという仕事を引き受けます。低投入の条件のもとでは、選抜は困難でしたが、ハバナ州の集落産のものを含めて、66種の在来品種が集められます。さらに、4種類の実用品種(commercial variety)が研究所で選抜されます。これらは12月に研究所の実験圃場に植え付けられていたものでした。それぞれ、70系統が3列に播種され、別の系統が混在したものは、もっと広く蒔種されました。資金が不足していたために、実験圃場では一度だけしか潅水がなされず、無肥料で農薬も散布されませんでした。

 ワークショップに出席したのは、農民、正規のセクターのトウモロコシ育種家、土壌専門家、それ以外の研究所からの社会科学者、全国小規模農民協会、キューバ有機農業協会の代表と18名でした。参加者たちは、種子の管理や利用と関連した一般的な問題を特定するため、4チームに分かれ、農民たちはブレーン・ストーミングを行って、最も深刻な要因として6課題を位置づけます。そして、この問題で最も影響を受ける5種類の作物名をあげるよう、農民たちは頼まれました。ワークショップの2日目には、農民たちは、トウモロコシの実験地を訪れ、各自が最も都合がよい5種類の系統を選抜するよう、この実験地にあるすべてのトウモロコシ系統のトウモロコシの穂軸を調べました。その後、実験用にこの系統の種子は、農民たちに提供されることになります。また、なぜ、この系統を選んだのか、簡単なアンケートで、農民たちの評価の情報も集められ、その結果が議論されました。

選抜評価基準

基準農民たちの受け入れ率
収量
作物の高さ
茎の幅
葉の位置
葉の枚数
穂軸数
穂軸の包被の色
穂軸の形
穂軸の重さ
葉の色
穂軸の長さ
病害虫の被害
葉の大きさ
穂軸の高さ
穂の数
穂軸の大きさ
穂の色
穂軸の直径
包被の色
87.5
87.5
76.3
62.5
60.0
57.5
55.0
55.0
50.0
45.5
45.0
42.5
41.3
40.0
40.0
35.5
32.5
37.5
28.7

種子の管理や利用に関する主な問題点は、種子の質、種子の有用性、そして、病害虫の発生と特定されました。一方、トレーニングや普及、種苗交換や投入資材の問題点は、より少ないと考えられました。圃場では、農民たちはすばやく、提供された多くの系統から品種を選抜しました。低投入状態では、モノカルチャーの品種よりも、混在品種の方が良い成績を示しましたから、それが優位であることが示されました。各選抜で農民たちが、評価した重要度は表1に示したとおりです。この選抜では、農民たちの80%が、自分たちの様々な好みで5系統を選抜していましたが、最も一般的だったのは、ピナル・デル・リオ州の在来種で、それは、ハバナ州のものよりも良い成績をあげていたのでした。

洞察

 単一の品種を植え付けるよりも、混雑品種の方が結果が良かったことは、正規の制度で主張されるように厳密に孤立種を維持することとは矛盾します。研究者たちは、この矛盾を解決しなければならないと結論することとなりました。また、農民たちが、収量だけでなく、作物の高さや茎の大きさ、トウモロコシの穂軸数、葉の枚数や位置等を評価していることも明らかになりました。これは、オルターナティブな育種戦略により多くのポテンシャルがある証です。

 トウモロコシ品種の選抜の評価基準からは、農民たちが一般的には種子保存に取組んではいないことが示唆されます。実際、議論する間には、「どうやって種子を保存するのか」と問いかけてきた農民が何人かいました。もしも、農民たちが種子保全をはじめれば、これとは違った選抜がされるかもしれません。さらに、農民たちは、各品種を様々な個人的な選抜基準を用いて選抜していました。研究者はハバナ州等のように比較的均質な領域でさえ、参加型育種のアプローチが多様性の増加につながるという事実が際立つことを研究者たちは、目にしたわけです。

前向きの反応

 農民たちは上位下達型の管理になれ親しんできましたが、この新たな参加型アプローチへの反応は、総合的に見て前向なものでした。農民たちは、急速、かつ、簡単に示された70系統を選抜し、広範な種子系統を新たに広げてみせたのです。

 育種家たちは、ワークショップに関わることで、低投入状態でトウモロコシの穂軸の質を改善できる新たな種子管理の概念が必要なことが示されたと感じました。遺伝資源の変異性の流れを刺激すること、試験圃場での収量成績を高めること、そして、農民たちの受け入れに有効な可能性が見えてきたのです。また、参加型育種は、たいがいより辺境の環境と関連していましたが、均質な状態でも重要な手段になるかもしれないとの結論も下されました。

 キューバの政府機関は、正規ではない種子制度についてオープンであるように思えます。しかしながら、保守的な植物育種家には、さらに説得力のある議論が必要かもしれません。

  Humberto Rios Labrada and Julia Wright, Early attempts at stimulating seed flows in Cuba, LEISA Magazine, December 1999.
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