2004年9月
農民参加型種苗開発

 ローマの有機種子の最初の世界会議は、地球全体からの植物家育種家を取り結びました。彼らは、同様のビジョン…そして、同様の挑戦をわかちあっていることを発見したのです。

 コミュニティ種子ネットワークの最初の集会は、IFOAMと委員会代表のベルンワード・ゲイエル(Bernward Geier)氏のファシリテートで、公式会議が始まる前の晩になされました。ゲイエル氏は、この集会を、草の根の種子コミュニティが危機的な問題を論じ、将来、会議の組織者と協働することに向けた統一的なアプローチを考える良い機会になる、とみていると言います。第一回の集会では35~40人のグループがつながり、会議後の批評や「ネクスト・ステップ・セッション」、「廊下セッション」でも再び合間見えることとなりましょう。ウガンダ、ペルー、スリランカ、ニューイングランドとコミュニティ種子ネットワークのメンバーたちは、健全な種子制度のかなめとしての農民たちの権利や農民の知識を評価することをわかちあいました。

 ラブラダ博士は、祖国、キューバの経済的、社会的、そして農業史をプレゼンしましたが、それは、ネットワークが共有する目標、ローカル化された種子体制を発展させる必要があることの一つのビジョンを代表するものです。また、ネットワークの全体的な関心を議論するテンプレートとしても役立ちます。

 1980年には、キューバは面積あたりでは世界最大の農薬ユーザでした。ですが、ソ連経済が崩壊したため、キューバはこうした投入資材を購入するパワーを失い、農業生産量は急落し始め、ついには、史上最高生産量の60%以下まで落ち込んでしまうのです。それは低迷し続け、中央集権化された農業生産や研究用の経費も消えうせ、キューバはその農業へのアプローチを再考することを強いられたのでした。

 キューバの国家農業科学研究所のウンベルト・リオス・ラブラダ氏によれば、その際、「農業生物多様性と知識」の『連鎖反応』が引き起こされたのです。ラブラダ氏は、新たに編成された連合、コミュニティ種子ネットワーク(CSN= Community Seed Network)の会員で、2004年7月5日~7日にローマで開催された「第一回世界有機種子会議(First World Conference on Organic Seed)」の「生物多様性セッション」でこう語りました。

 「キューバでは、ほとんどの国のように、上から落ちてくる(trickle-down)の知恵や知識の最終的な「受益者」が人民であって、政治的な方針が研究内容を決めていました。『緑の革命』が絶頂期にあるときには、キューバの農民たちには、どのような作物や品種を植え付けるかという選択肢がほとんどありませんでした。農民たちが手にしたのは、『承認された』品種であって、それは、研究機関、国家科学フォーラム、農業大臣、地元の指導者というヒエラルキー構造を通じて開発され、農場からはなれて篩い分けされた(screened)品種だったのです。生産者たちは、科学者たちが、この過程で最低限の努力しかせず、特色の価値への見解が狭いため、農場や農民に総合的に見て適応性がある品種を時間かけずに選んでいたと感じたのでした」

(指摘:この状況は契約で命ぜられた作物品種を用いる米国の農業者とさしてかわりがありません。その品種は農場から遠く離れたヒエラルキー的な制度のもと育種・評価されているのです)

 キューバは経済危機で、正規の研究予算が削減され、輸出用のモノカルチャー生産から、地元市場向けの多様な生産へと農業経済で全体的にシフトします。

 「この劇的な変化が、有機農業や低投入型農業のもとでの参加型の種子改良や分配の実践に関心を向けるスペースを開いたのです」

そう、ラブラダ博士は言い、研究者がこの進展した分散型制度の結果に周到な関心を寄せたと付け加えます。

化学肥料の大量使用とごくわずかな種子選抜のから多様な有機農業へと、キューバは強いられたことで、持続可能な農業のリーダーへと変わった。ハバナの都市農場には高床とキューバ政府が適用した近代的潅漑施設が備えられている

 品種改良の第一歩は、既存の作物遺伝物質(crop genetic materials)や生殖質(germplasm)に親近感を覚えることです。キューバには農民圃場学校(Farmer Field School)があり、そこの有機評価試験地(evaluation plots)では、正規と非正規の双方の種子体制によって開発された様々な品種を農民たちが選べるようにしています。

「国では、多くの農村で暮らす人民には飢餓が身近であるために、品種特性では収量がなによりですが、農民たちは、また家宝(heirloom)の品種の調理特性(culinary properties)や望ましい豆の形も再発見したのです」

 ひとたび、品種が選ばれれば、農民たちは、育種プロジェクトを設計する研究者たちと協働します。正規の研究者たちは、農民たちがプロジェクトのパラメターを定義することを認めつつ、その後ろから基本的なデザイン戦略を教えます。

「科学者は、自分たちをスターやリーダーとは対照的に、ファシリテーターとみなしているのです」

 ラブラダ博士は言います。

 キューバの研究者たちは、遺伝子の改良を測定するため、データも収集しています。4年間で、プログラムに参加した農民たちの86%には、遺伝子で前向きな進展がみられました。収益性も測定され、比較されています。

 ヘクタール当たりのコストを見れば、カボチャの収量と所得は、有機の条件下で育種されたものは、同様の有機の条件下においては、収入率で1.5対1でしたが、高投入システム下で育種されたものは、0.34対1だったことが、研究者によって見出されました。これは有機ではヘクタールあたり372ペソの純収入(net gain)がありますが、高投入システムでは462ペソの赤字があるということです。

 農民たちは、地元の有機の条件に対して、有益に遺伝子を適合させることに加え、流通制度も分権化させています。

 このように協力して育種された品種を農場で増殖(multiplication)し、農民たちのネットワークの中で、地元で分配することは、種子投入の経費削減になり、農場の純益を増やします。ラブラダ博士は、ローカルな種子体制を開発することは、オルターナティブとして絶対的に必要なわけではないとしながらも、プロジェクトの長期的な性格を指摘し、国家的、国際的な種子開発と提携できる、と示唆しています。

 ラブラダ博士は、キューバは過去10年に困難でしたが、そこから重要な教訓を学んだと感じていると口にし、それからは誰しもが利益を得るだろうとの望みをいだきます。

「地元の種子体制を強化する中で、多様性と参加を奨励することが、作物育種をよりエネルギッシュで効率的にし、社会的に利用できるようにし、より有益にするのです」

 農業生物多様性と知識の「連鎖反応」。そう、博士が言及したもので、農民たちは元気になり、胚形質(germplasm)の開発で、尊重される立場へとかわりました。もう、農民たちは単なる「エンドユーザ」ではなく、いま、作物改良の完全なサイクルにかかわっているのです。

集合的な種子遺産をどう保護するかを論ずるため初めてローマで会議を開いた新たに結成されたコミュニティ種子ネットワークのメンバーたち

 同じ、成功の物語を、アルゼンチン技術社会的公正協会(Argentinean Association of Technology and Social Justice)のハビエル・ロビラ(Javier Rovira)氏も共有します。協会は、「命の種(The Seeds of Life)」と呼ばれるプログラムを動かしていますが、それは、地元での種子生産や分配、生物多様性の保全、コミュニティレベルでの有機農業用の種子を手に入れられるよう支援しているのです。ふつう、このようなコミュニティ農場、あるいはウエルタス(huertas)は、自給自足が基本で、種子を手に入れることができません。プログラムは、コミュニティで管理されるシードバンクと役立つ生産システムを作り出すために働いており、こうしたウエルタスで暮らし働く、7,000以上の家族にサービスをしています。イタリアのクリスティーナ・ミチェローニ(Cristinia Micheloni)、エジプトのアフマドシャラビー(Ahmed Shalaby)、スペインのマリア・ラモス(Maria Ramos)、ペルーのマリオ・タピア(Mario Tapia)も、会議の合間の平行セッションでプレゼンをし、廊下や食事の席でなされた健康な議論で聴衆たちを奮い立たせました。農場での育種、生産、分配への豊かで多様なアプローチに、参加者の多くがイメージを刺激されたのです。

 IFOAMは、多様なアイデアや出席者のその出所を判断し、国際的な研究会議で見られる北側と南側の溝に橋を架け、北米と欧州を超えた「言葉」を引き出すという愉快な仕事をしたのでした。こうした研究者たちの総合的で積極的で進歩的なアプローチのプレゼンは歓迎され、産業界への苦情や活動家たちの猛烈な懸念とは対象的なものでした。この前進は、すべての国が直面している種子ジレンマの先を見越す解決策なのです。

 私が働く組織、「有機種子同盟(OSA=Organic Seed Alliance)」は、農民たちに根ざして、生産や育種用の種子教育の創設にかかわっています。ですから、私がコミュニティ種子ネットワークのメンバーやその話に引き寄せられるのは、必然のことでした。

 4日間のコースの間、私は、コミュニティ種子・ネットワークのメンバーと共に、プレゼン、昼食中の議論、夜間の食事会に参加しました。ローマではスローフード運動も健在だったし、多くのサクセス・ストーリーを楽しめたのです。

 ですが、こうした高揚した瞬間も、グローバルな種子問題や地元体制へのその影響の恐怖や強い怒りで抑えられました。「共存」は激論を巻き起こす恐れのある問題です。コミュニティ種子ネットワークのメンバーたちは、種子規制のハーモナイゼーション(harmonization of seed regulations)は、欧州や北米の農民たちには役立つかもしれませんが、データベースで「登録」された有機の種子だけが、増殖できるとの命令のように、小さい国に不合理な負担を加えることになるのではないか、との懸念も表しました。

 どんな規制のステップも農民たちの遺伝子の選択肢の歴史的な権利を弱めることができない。この想いがなんども繰り返されたのでした。

5つのポイント

  1. 遺伝子組換え汚染から世界の遺伝資源の中心を保護することを含め、農民たちの権利を担保し、保護すること。とりわけ、地元の食料安全保障の基礎として、農場で栽培される種子に頼る14億の個人農民たちのものを
  2. 農民たちや消費者の選択を尊重し、有機農業の地元のニーズを満たす作物の供給と育種を担保するため、公的な植物と動物の育種能力を回復させるため、協力すること
  3. 有機農業の基礎となる種子のストックが、GMOで生み出される偶然のDNA配列からフリーになることを担保すること
  4. 地元の食料安全保障と環境へのGMOの影響の独立した評価をはじめること
  5. 予防と汚染者負担の両原則の採用を含め、GMO作物の責任を直すためのプロトコルの必要性、そして、GMO作物の周知を図る必要性に対処すること

 こうした関心は、私たちがまず、5点の文章と呼ぶものとなりました。文章は、全員の懸念や趣旨を包む完成品とはなりませんでしたが、主要な課題に焦点をあわせたのでした。現在、その言葉は、コミュニティ種子ネットワーク内の個人提案へと発展し、会議のまとめ役に送られ、開発戦略に可能な基金へとなることでありましょう。

 この文章の視点の多くを、初期のプレ会議集会での論点として、議題にもちこんだのは、米国の国際農村発展財団(RAFI= Rural Advancement Foundation International)のマイケル・スリフ(Michael Sligh)政策担当部長でした。氏は、同盟が広範な国々を代表する主要な問題を越えたコンセンサスを持ち、グループはフロアーに大きな問題をもたらす良い仕事をすると感じたと言ったのです。スリフ氏は、次のステップの提案もしました。

「FAOは、農場における品種改良と地元種子体制に資源を提供すると公約いたしました。私どもは、このコミットメントをフォローする必要があります。私どもは、具体的な提案をしており、適切な挑戦を続けています」

 スリフ氏は、グループが種子システムのモデルを探り続けることを示唆しました。それは、ネットワークに加わるためのグループや個人を特定し、農民に根ざしたプロジェクトの資金のためのメカニズムを構築する仕事です。

 コミュニティ種子ネットワークでのプレゼント議論を反映し、コスタ・リカの全国有機プログラムのフェリシア・エチェベリア(Felicia Echeverria)さんは、「私たちは、農民たちの間で交流ことの価値を大いに学びました」と言います。彼女は、高まる農民主導で農民に根ざした教育こそが、グループが取るべき広がりだと言います。

「私たちは、この交流を促進し続けています。通常の『普及』や『大学システム』は、地元の有機農家のためには働いてくれません。それが、新しい何かを作り出すまで私たちを高めているのです」

 マット・ディロン(Matt Dillon)氏は、まずは種子農民として、その後は、「豊かな命の種子財団(Abundant Life Seed)」の事務局長として、何十年も種子資源の保護と開発にかかわっています。1年前に財団は、農民教育、自然受粉種子(open-pollinated seed)の研究やその流通を重視し、その機構を「有機種子同盟」に再編成しました。

 マット氏は、同盟の事務局長として、その教育や研究、「世界種子基金(World Seed Fund)プログラム」を管理しています。また、現在、州の農業大学、種苗産業の専門家、有機農家と一緒に地方の種子教育プログラムの監督もしているのです。

  Matt Dillon,First World Conference on Organic Seed, Rome, Italy:Community Seed Network builds international model to preserve biodiversity and protect farmer knowledge, September 28, 2004.
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