| 2007年2月 | |
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欧州とキューバの育種戦略と種子制度を論じ、比べるため、種子産業、育種業、研究者、栽培者の代表がHDRA(ヘンリー・ダブルデー研究組合)にて邂逅
キューバ農業は、ソ連から廉価な石油や農薬の援助をずっと受けてきました。ですが、ソ連の崩壊とともに、このすべてが1990年にがらりと変わります。投入資材をほとんど手にできない中、キューバはその人民に自力で食料を供給しなければならなくなったのです。 今、キューバはその国力をあげて、生物多様性保全のイベントや種子保全のネットワークを推進しております。この分権型で参加型の育種と選抜のパイオニアが、ハバナ国家農業科学研究所のウンベルト・リオス・ラブラダ(Humberto Ríos Labrada)博士です。博士はこのネットワークを「参加型の種子普及」と銘銘しておりますが、種子や作物資材の選抜に農民を関与させることで、従来の育種モデルを転換したわけです。この全過程で、リオス博士はいくつかの重要な事実を目にします。 「とても重要な発見は、狭い地域内でさえ、農民たちの品種への好みが大きく違っていたことでした。ですから、栽培者が自分たちの農場の条件に最もあった品類を選べるように、様々な品種や遺伝子の多様性が保たれ、それを手にできることが大事なんです」 なんとなれば、育種家の役割もこの過程を促進することに変わります。その過程を評価してみますと、適切な生殖質(germplasm)を管理し、それにアクセスできることで、資金やエネルギーが以前のたった数分の一で、従来の高投入型システムの収量と品質をいずれも達成できそうなことが見えてきたのです。そして、農民たちは、金銭的な利益だけでなく、「育種の過程が自分たちのモノであり、それに関わっているのだ」という意識も得ていきます。また、文字で書かれた資料以外にも圃場で知識を伝えるやり方があることを認めることも大事なことでした。 「生産者たちの多くは無学ですが、頭の中には育種や選別過程の知識が入っています」 だから、栽培者グループとの間では、歌を含めた文化活動が広く用いられたのでした。ラブラダ博士は、この点を繰り返します。 「もし、自分が国際ジャーナル誌に何かを公表しても、全世界で数年の間に150人がそれを読むだけでしょう。ですが、もし、私が農業のCDソングを作れば、300人の地元住民がたった1日でそれを取りあげるんです」
遺産種子図書館(Heritage Seed Library)のヘレナ・サンチェス・ギラルデス(Helena Sanchez-Giraldez)さんの発言は、欧州種子ネットワークを代表するもので、ネットワークには、和蘭陀、独逸、チェコ共和国、デンマルク等の国々が参加しております。 「仏国には、デュラム、パン用小麦、トウモロコシ、ヒマワリ、トマト、ラディッシュ、カリフラワーでは強力な参加型品種改良計画があり進展しています。ですが、慣行的な育種プログラムと比べれば、とても少ないのです」 英国にも参加型の研究イニシアチブは多くあります。ニレ農場研究センターのマーティン・ウルフ(Martin Wolfe)教授は、小麦の「進化育種プログラム(evolutionary breeding)」で遺伝子の多様性がどう増えたかを研究しています。有機農業であれ、慣行農業であれ、野外で受粉する多くの小麦品種が栽培されてきました。 「こうしたシステムが美しいのは、うまくやりくりするためにそれらが残せることです。彼らは、不適切な特性のある品種が収穫されて次世代に継承されない前に、自然にその環境に順応して自分で選抜されていくのです」 マーティン教授は、様々な状況に適合する兆候があると楽観的です。 HDRA研究所の幹部フィル・スムプチオン(Phil Sumption)氏は、選抜過程に農民たちをもっと関与させようと、過去2年にわたって英国の栽培者グループと参加型の品種選択を実施しています。栽培者たちは、害虫抵抗性や耐病性品種のような特性を持ったり、味や有機等の際立つ品質を持つレタス、ニラ、ジャガイモ、キャベツを評価し、また自分たちで品種を栽培できるかどうかを尋ねました。キューバで見られたことと同じく、各個人により品種において優先されるものは違っていました。ですから、多様な品種を維持することがとても大事だったのです。キューバと同じく、とりわけ、オープン・デーにおける農民同士の会話のように、文字に書かれない形での知識伝達もとても重要でした。
英国では各作物でごく少数の品種しか栽培されなくなり、それが遺伝子の多様性を大きく減らすことになり、逆境に対応できる潜在的なパワーが落ちております。気候変動で農業気候は変わりやすくなり、地元の味や食品への消費者の関心の高まりもあって、より地場の参加型の選抜や作物を取り入れることにはメリットがあるかもしれません。例えば、2007年1月に開催された土壌協会(Soil Association)の有機農業会議では、数人の農民が、エコロジーの原則に従って自家採取や品種保全することに関心を示しました。 ですが、英国や欧州には、克服する必要がある障害がいくつかあります。欧州種子法(seed laws)では、未登録種子(non registered seed)の商業利用を禁じており、未登録品種を商業生産したため、起訴されている栽培者のケースがあるのです。かかる法律は、キューバやラテンアメリカにもあります。ですが、数多くの小規模農業がある中、こうした法がもたらす影響は小さく、警察も取り締まれません。地域で栽培されるトウモロコシの実に95%以上が未登録品種とされるのです。欧州においては、この姿勢は英国ほど緩くはなく、バイオダイナミック種子運動(Biodynamic Seed Movement)は、毎年新たな保存品種を登録しようと試みているのですが、登録料金が高いため、なかなか新品種が導入できず、小規模な栽培者も排除されているのです。 英国においては、出来具合を判断するため、農民たちは、自分で観察し、非公式なやり方で品種選抜実験に取組んでいます。とはいえ、先進諸国においては、労働賃金が栽培上で最大の経費を占め、農民たちは、時間外労働で種取りをしたり、種子を選抜することを実行可能な提案とは思わないに違いありません。キューバにおいては、労働費は安く、その労力は農家内部で調達されるというのにです。 総じて見れば、キューバにおいて改革がなされたのは、投入資材や燃料が突然に絶たれたからであります。ですから、英国においてもかかるアプローチが取られるにあたっては、同様の危機的状況の形をとるかもしれません。はたして、気候変動や石油価格の高騰は、そうした改革の契機となるのでありましょうか。 |
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