2009年 本文へジャンプ


アグロエコロジー 食料危機から食の連帯へ



 今の世界の食料危機は、世界の食料システムを支配する資本主義的な農業や企業独占が原因だ。世界銀行、食料農業機関(FAO)、国際農業研究コンサルタントグループ(CGIAR =Consultative Group for International Agricultural Research)、巨大な慈善団体が推進する食糧危機の解決策とは、バイテク普及を加速化しようという提案だ。緑の革命を蘇らせ、世界銀行や国際通貨基金の条件付きの融資を再び導入し、世界貿易機関(WTO)の貿易交渉ラウンドを再調整しようというのだ。こうした諸機関は、飢餓を減らし、社会不安を薄めようとしているが、いまの世界の食料システムの構造にはなんら実質的な改革もせず、全世界中の小規模な生産者の全体数を減らそうとしている。農民たちの連盟や市民社会組織が全世界で進めているアグロエコロジーや食料主権は、フードシステムそのものを変えようとしているわけだから、このネオリベ戦略は、その提案とはまったく対象的だ。ローマ、北海道の洞爺湖、マドリードでのサミットの衝突や抗議宣言、アグリビジネスに対する反発の高まり、アグロエコロジー、農地改革、食べものの公正、食料主権のために高まり広まる政治的運動は、食料危機が、私たちの未来のフードシステムへの階級闘争で焦点になっていることを示す。


抵抗する農民たち


 全世界の小規模農民たちは資本主義的な農業が広まることで、過去50年も痛めつけられてきた。土地、水、遺伝資源を簒奪され、囲い込み、移住、著作権も侵害され、緑の革命と世界銀行の構造調整プログラム、グローバルと地域貿易協定が分化と脱農民化をもたらした(9)。過去50年で穀物や油用種子生産は4倍にも増加したのに、農民たちが手にする価格は低下している(10)。そして、世界のフードシステム(food systems)は、垂直的にも水平的にも集中化し、産業化している。たった二つの企業、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(Archer Daniels Midland)とカーギル(Cargill)が、世界穀物取引の四分の三を占め (11)、トップ3の種子企業、モンサント(Monsanto)、デュポン(Dupont)、Syngentaが世界の種子市場の39パーセントをコントロールしているのだ(12)。

 だが、グローバル化で都市化が急速に進みながらも、小規模農家は根強く残っている(13)。歴史的に新たな家族農場が工業化で失われた農場の穴をたえず埋めたり(14)、世界のほとんどの農村の貧しい住民には農業以外にはオルターナティブがないためだ。事実、大規模な移住や土地所有が激しい変わりながらも、南側の小規模農民の絶対数は過去40年間、著しく安定しているのだ(15)。

 小規模な自作農民の生産する食料は南側ではかなりの量だし、アフリカ諸国では全食糧生産の90%にも及ぶ(16)。この反小作化(de-peasantization)と再小作化(re-peasantization)との組み合わせが、作物のシフトにつながり、生産のハイブリッド化された形体と農外所得と送金への重い依存につながっている。この過程は、生産形体、暮らし戦略、政治上の要求での変化に特徴付けられる。「小作問題」を再公式化し、Araghi(末尾ノート9)は、歴史的な農地への要求だけではなく、今日の超国家と小規模な所有の追放されたキャラクター、例えば、住宅、ホームレス、インフォーマルな仕事、移住、アイデンティティ、環境、高まる飢餓に関連する要求も特定している。

 大規模な攻撃にどう立ち向かうか、暮らしをめぐる複雑な政治的要求をどう動員するか。これは困難だが、南側の農民運動への挑戦だ。そして、これは、家族農場を守り、持続可能な農業によって大規模な工業的農業の広まりに対抗しようとする北側の組織の問題でもある。農村社会学者たちが、グローバル化、農業生態系の劣化、規制緩和と戦える農と食の運動を進めるための連合を形成する必要性に指摘し、「持続的農業運動のための統一的な力のために役立つ基本的な概念が不足している」と嘆いたのはわずか10年前だ(17)。

 だが、いまの食糧危機や食料主権のための農民に根差した要求、文字通り人民の食品システムの自治統治は、この政治機能を潜在的に実現させられている。
「エコ的に健全で持続可能な方法を通じて生産された健康で文化的に適切な食物への人民の権利、そして、彼ら地震の食糧と農業システムを守るための権利」この最初の定義がされたのは1996年。国際的な農民連盟、ビア・カンペシーナ(La Vía Campesina)によるものだ。食物主権は、企業が独占するよりも、私たちの食べ物についての決定を人々のもとへと提唱する。ただ食料を保障することを求めるだけでなく、生産、加工、分配、マーケティング、そして消費までフードシステムの民主的なコントロールも提案しているから、食料主権は食糧安全保障(food security)よりもずっと奥深い概念だ。国の食糧生産を回復するためにグローバルな南での運動。GMOから種子を守る農業者。自分たちの直売制度を立ち上げる農村や都会のコミュニティ。食料主権は、私たちのフードシステムを民主化して、変えることを目指す。

 全世界の家族農家、農村女性、コミュニティは何十年も自分たちの在来の種子の破壊に抵抗し、その作物を多角化させ、土壌を保全し、水や森を保護し、ローカルな菜園や市場、ビジネスとコミュニティに根差したフードシステムを確立するために懸命に働いてきた。 それは、今の産業や企業独占にとって、公正で、持続可能なオルターナティブだし、文字通り何百万人もの人々がこうしたオルターナティブを進めるために働いている(18)。従来の考えとは異なり、こうした実践は非常に生産的で、世紀の半ばには90億人以上となる世界人口の食料もまかなえるであろう(19)。ラテンアメリカのカンペシーノ運動(Campesino a Campesino)のような運動に携わる小農とアフリカの参加型土地利用(Participatory Land Use Management(PELUM)、アジアの農民ほ場の学校(Farmer Field Schools)のような農民主導の持続的農業のためのNGOネットワークは、何十万エーカーもの土地で高効率なアグロエコロジーを用いて、疲弊した土壌を回復して、収量を上げ、環境を保全している。これらの取り組みは、重要な自治の手段をもたらし、環境と経済の弾力性を高め、気候から誘発される危険と市場の不安定さからの緩衝にもなっている。

 同時に農業改革を進めるために戦う農民組織は、ネオリベラルに立ち向かうことでも忙しい(20)。というのも、これらの農民組織はその仕事をセクターや国境を越えて広げている。
これら運動のグローバル化、内容とスケールの両方で、資本の囲い込みの激化に一部応じて、一部グローバルな支持に従事する戦略的な決定だ。この結果、新たな国を超えた農民運動は、環境的、経済的、そして、文化的な関心で農地改革の要求があって社会的に統合される。

 この傾向から2つの流れが特定できる。ひとつは、ビア・カンペシーノのように新たな農地改革をアドボカシーすることに焦点をおいた農民組織。もう一方は、カンペシーノ運動のように持続的農業の発展に焦点をおきNGOと協働する小規模農民だ。二つの流れは政治的にも制度も起源が異なり、時には相容れず、競合して敵対関係にさえなることもあった。とりわけ、農民益のためにプログラムを実行するNGOと自分たち自身のプログラムを実施したがる農民組織の間でだ。にもかかわらず、農場と国際レベルの両方で、今日の農民組織の農地改革の要求と、生存の手段として持続的農業を実施する小自作農の増加するベースのニーズの間には、明確な客観的な相乗作用がある。食糧危機はこれらの運動を集めるかもしれない。

農民の道を歩もう


 1993年、全世界の農民リーダーたちが、オランダのNGOが主催した政策研究会議のためにベルギーのモンス(Mons)に集まり、多くが北側の大規模な農民からなる国際的な農場連盟、国際農業生産者連盟(IFAP= International Federation of Agricultural Producers)と同盟した。これによって国際的な農民運動、ラ・ビア・カンペシーナ(La Vía Campesina)が出現する。農民主導の国際的な農民連盟が出現したことは、大規模な生産者と小規模な農民に配慮する人道主義のNGOによって運営されるという従来の連盟を変えることを意味した。モンス宣言は、農村で生きるための小規模農民の権利と、すべての人々への健康な食物への権利、自分たち自身で農業政策を決定する国家の権利を断言した(21)。以来、ビア・カンペシーナの主な目標は、ネオリベラリズムを止めさせ、食料主権(food sov1ereignty)に基づくオルターナティブなフードシステムを構成することにある。主にアメリカやヨーロッパの組織から形成されたが、今はアフリカの12カ国、南部と東アジアの何十もの組織を含め、79カ国以上の150以上の農村社会運動を含むまで広がっている。そして、大規模農民からなるIFAPとは違って、ビア・カンペシーナは排除された人々、土地なし労働者、小規模農場主、小作人、畜産業者、漁民、そして都市周辺の貧乏人たちからなる。

 ビア・カンペシーナは食料主権を政治的に推進するうえで大成功をおさめている。農業からWTOを排除、女性の権利、持続的農業、GMOの禁止令、そして、農業改革だ。運動はシアトルから香港までWTO閣僚会議の抗議を組織化する手段となった。また、農業改革(Agrarian Reform)と農村発展(Rural Development)についての2006年のFAOの国際会議でビア・カンペシーナは主役を演じ、市場主導の世界銀行の農地改革計画に抵抗キャンペーンを仕掛けた。

 ビア・カンペシーナは世界の食料危機への制度上の対応(institutional responses)にも最も批判している。マドリードでの食糧危機へのハイ・レベルのタスク・フォースのミーティングで、ビア・カンペシーナは、食糧危機の解決策が何よりも危機を引き起こす責任ある団体(すなわち、IMF、世界銀行、WTO、CGIAR)から完全に独自であることを要求する宣言をリリースした。宣言は、食料主権のために呼びかけ再び断言し、アグリ産業と外国食糧生産のために土地を握ることの終わりを要求し、国際社会に緑の革命を拒絶し、その代わりに国連の「農業知識科学技術開発のための国際アセス」(IAASTD=International Assessment of Agricultural Knowledge Science and Technology for Development)に調査結果を支持するよう呼びかけた。5つの国連機関と世界銀行に後援され、80以上の国からの400人以上の科学者と開発の専門家により書かれた、この発達の可能性のアセスメントは、ローカルな適正で民主的に管理する生産のアグロエコジーの手法の更なる研究と採用を増やし、強化する緊急の必要があると結論を下している。ローカルな専門的技術、ローカルな遺伝子、そして、農民が管理するローカルな種子システムに依存してだ。

アグロエコロジー的な転換の実践:農民から農民へ


 「農民たちは彼らの兄弟を助けます。自分たち自身を助けられるように。解決策を見つけ、技術者や銀行に依存しないように。それがCampesino a Campesinoなんです」
アルヘリオ・ゴンサレス(Argelio González)サンタ・ルシア(Santa Lucía)ニカラグア1991年

 これが、30年にわたるラテンアメリカでの農民主導の持続的農業の運動への農民たちの定義だ。いま、何十万人もの農民兼技術者から編成されるカンペシーノ運動(El Movimiento Campesino a Campesino)は10カ国以上で動いている。

 運動は1970年代前半に、エコロジー的には脆弱なグアテマラの丘陵地の先住民(indigenous smallholders)たちの農村プロジェクトからスターとした。NGOの支援を受け、マヤ族の農民たちは、農民主導のワークショップによって彼らの発見をわかちあい、比較的簡単な小規模な実験を用いて農業を改良する手法を開発したのだ。彼らの生産水準は比較的低かったから、土や水など、小規模農業の一般的な制限要因を克服することに専念した。土に有機物を加えて、土壌や水を保全する技を実行することで、100~400パーセントもの増収を達成したのだ。目に見える成果は急速に農業者の中で熱意を築き上げるのを助け、彼ら自身で農業を改良できるとの認識につながった。リスクを冒したり、環境ダメージを引き起こしたり、緑の革命に関連する資金的な依存を開発することなしに。堆肥化の方法、土と水の保全、種子の選択は、持続可能な技術とアグロエコロジーのマネージメント・アプローチの洗練された「バスケット」へとすぐさま発展した。それは、農場と流域規模での緑肥、作物多様化、統合有害生物管理、生物的雑草防除、再植林とagrobiodiversity管理を含んでいた。

 有効で、農民が生み出す低コストの技術と農民から農民への知識転移は、農業開発で働くNGOによってすばやく拾われた。中米での小規模農民の暮らしを改良する緑の革命の失敗は、1970年代と80年代の地域での革命の高まりと反革命的な闘争が、カンペシーノ運動となるニーズと手段の両方を作成した。融資、種子、普及サービス、市場が絶えず小作人に失敗すると、小自作農は農業ニーズを満たすために政府よりむしろNGOに向かった。1980年代と90年代の構造調整プログラムは小作人の状態を悪化させ、これに対応して、カンペシーノ運動は、 NGOを通してアメリカ大陸中の何十万人もの小自作農に広まった(22)。運動は「科学を欠いている」として国際的な農業研究センターからきまりきって捨てられたが、ハリケーン・ミッチ(1998)後に中米で持続性の未証明の主張がなされた。カンペシーノ運動からの約2,000人のプロモーターが科学的研究を実施したのだ。彼らの農場が彼らの慣行の隣人よりかなり弾力があって持続可能であることを立証するために(23)。

 カンペシーノ運動の最も劇的なサクセスストーリーはキューバだ。農民主導のアグロエコロジーの実践が国の転換を助け、その農業の多くを高投入の大規模システムから小規模で戸井投入の有機システムへと変えた。ソ連の崩壊に続いて、スペシャル・ピリオドの間の食糧危機を克服するのを助ける際に、この変換は手段になっていた。

 キューバのカンペシーノアグロエコロジー運動(MACAC= Cuban Campesino a Campesino Agroecology Movement)はANAP、全国小規模農民協会を通して実行された。 MACACはキューバの多数の農業研究ステーションと農業大学がバイオ肥料、統合有害生物管理他の低い外部の入力農業のための技術を見いだすために働いていた構造的環境で成長した。改革は、集合体と協同組合を縮小させるために制定され、直接小自作農の手に農耕とマーケティングのより大きいコントロールを置いた。農村と都市の農業者は土地、クレジット、市場に簡単にアクセスできるよう提供された(24)。8年でキューバのカンペシーノ運動が10万人以上の小自作農を育てた。その規模まで育つにはメキシコと中米では、20年間の運動がかかったのだ(25)。農民から農民へのアプローチは、アグロエコロジー開発で働くNGO内では公正に一般化されており、世界中で非常に成功している農民が生み出すアグロエコロジーの実践につながっている。(国際的な農業研究センター側でのかなりの方法論的な協力と同様に)

 マダガスカルで誕生したSRI(The System of Rice Intensification)は反収800キロを達成し、20カ国以上で100万人もの農民に広まっている(26)。アフリカ17カ国の45の持続的農業プロジェクトの調査からは、アグロエコロジーにかかわる73万世帯が食料生産や家庭の食糧安全保障を実質的に向上させたことが明らかになった。このプロジェクトの95%は、穀物収量を50~100 %改善させたのだ(27)。有機農業の研究でも、小規模な近代的有機農法がサハラ以南のアフリカで広まり、収量向上、収入、環境改善でかなり貢献していることが示されている(28)。東南部のアフリカ9カ国の170以上の組織が、参加型の土地利用マネジメント(PELUM=Participatory Land Use Management)に属し、13年も東や南でのアグロエコロジーの知識をネットワークでわかちあっている。低投入持続可能農業センター(LEISA=Low External Input Sustainable Agriculture)は、20年にわたってアフリカやグローバルな南の農業の制限因子の多くを克服する何百ものアグロエコロジーのオルターナティブを記録している(http://www.leisa.info/)。


実践とアドボケートとの間の分断


「ただ農場の物理的な姿や経済だけを見ることでアグロエコロジーの発展を見るという罠に陥ってはいけないと思います(略)。アグロエコロジーは実践のコレクションではありません。アグロエコロジーは生き方です…。私たちはカンペシーノ運動なくしてはアグロエコロジーの変化を手にできません。私たちNGOはそれらに伴うことができますが、私たちはそれができません。私たちはプロジェクトを推進し、プロジェクトは寿命が短く、それらは持続可能ではありません。
ネルダ・サンチェス(Nelda Sánchez)、持続的農業のためのメソアメリカ情報システム

 農民から農民のNGOのパートナーシップは、ローカル・プロジェクトを支援し、持続可能な実践を草の根で発展させるうえではとても効果的だ。だが、彼らはビア・カンペシーナとは違って、持続的農業に必要な政策に対してはわずかしか対応していない。構造的に不利な条件もあって、アグロエコロジーの実践は例外であって全国的には普及していない(29)。何百ものNGOがつながる農民から農民への広範なネットワークがあるにもかかわらず、運動に関わる農民たちは、圧力をかけられても、ロビー活動をせず、直接的な行動もしない。西アフリカのPELUMもアグロエコロジーでは優れていても、国際的に資金供給される緑の革命の普及を止める政策的な仕事には最近までかかわってこなかった。アジアの有名な農民圃場の学校(Farmer Field Schools)も、統合有害生物管理を改革し、参加型の品種改良(participatory plant breeding)を開拓したものの、農業生物多様性の保全や農民の権利を守る政治上の勢力とはなっていない。

 皮肉なことだが、農民から農民のネットワークの強さ、つまり、水平、広範、分散型でアグロエコロジーの農民の知識を生み出す能力は政治上では弱点なのだ。一方、社会的圧力、アドボカシーや政治行動のために農民を動員できるこのネットワークの調整組織も全くない。ローカルレベルでの持続的農業を発展させるうえでは有効性だが、持続的農業のために政治上、経済的な条件に対処するよりもむしろ、アグロエコロジーの実践を改善することに焦点を合わせ続けている。

 食料主権をアドボケーとするグローバルな農民連邦とアグロエコロジーを実践する広範な小規模農民の運動の間に、潜在的相乗作用が明白に見えるとはいえ、農民から農民へのネットワークへの農業アドボカシーは、農地改革論者支持に持続的農業プロジェクトを実行する開発NGOと新たな農業運動をなす小作農民組織との間の歴史的な不信に直面し、仲直りする農民組織に新しい農民のアドボカシーをもたらすために、努力している。

 タスクの多くが以前には国が期待だったとの仮定は別として、NGOは市民社会の議論された政治上の地勢の中で、社会的・政治課題で進むための制度上の手段となった。農業開発の制度上で、直接か間接的なネオリベラルプロジェクトに登録されるNGOもある。それ以外のものは、ただやれることにベストを尽くし、自分自身のプログラムを探す傾向がある。だが、他のものは、持続性のための状態を対処せずに持続的農業の実践を進めることは結局失敗に終わることを深く懸念している。これらのNGOは農業を転換することにコミットする小自作農の広大な非公式ネットワークへの潜在的リンクだ。

 この30年間、これらのネットワークでの農民たちは、情報と知識を共有する彼らの能力を示している。そのアグロエコロジーの実践へのコミットメントは、持続可能な小規模農民の特定の農業の重要のボディーをもたらした。食糧主権という言葉を聞くのは、現在、これらの農業者の中で一般的だ。とはいえ、これらの農民の大部分は、政治的にこのコミットメントを政治的に実践するための運動が少なく、ビア・カンペシーナを構成する農民組織に所属していない。

ブラジルの土地なし労働者の運動


 アグロエコロジーの実践と農民のアドボカシーとを統合する。この二つを組織内で統合している農民運動が転換力の一例となる。ブラジルの土地なし労働者運動(MST)だ。ビア・カンペシーナを創設メンバーのひとつで、アメリカ大陸最大の農村社会運動だ。MSTはビア・カンペシーナにも大きな影響力を持ち、世界の農政改革にも奥深い効果を持つ。MSTは100万人以上の土地なし農民からなり、ウルグアイの広さに及ぶ3500万エーカーacresもの農地の再分配を断行した。MSTは1970年代後半の農民たちの土地占拠にそのルーツがある。1979年12月に、土地なし農業労働者のグループは、今はEncruzihalda Natalinoとして知られるクロスロードにキャンプを設立した。土地は社会的に役立つべしとのブラジル憲法に基づき、農民たちは、政府にその地区の遊休地を再配付することを要求し、3.5年の多くの動員の後、グループは約4,600エーカー与えられたのだ。Encruzihalda Natalino の成功他から、土地占拠がMSTの第一の戦術となった(30)。

 1984年、全ブラジルの農地占拠者たちの代表がパラナ州(Paraná)に集まり、将来のための運動の4つの基本目標を出す。
a) 農村貧困者たちの広く包括的な運動を秩序だって維持する
b) 農地改革論を達成する
c) 土地はそこで働き、それから生きる人々のものであるとの原則を進める
d) 公正な友愛(fraternal)のある社会を実現し、資本主義の廃止を可能とする(31)。

 以来、約400の生産協会、1,800の小学校、成人識字率プログラム、クレジット協同組合、ヘルスクリニック、そして自分たちMST農民のための有機の種子も確立した(32)。MSTは当初はメンバーの工業的農業を促進していたが、次に、この戦略が持続不可能で、多くの居住者に経済的にも悲惨なことが立証された。

 1990年、この運動は、アグロエコロジーを実践する他の農民運動にも広がり、2000年の第四回国内会議で、MSTはその居住者を生産に向ける全国政策としてアグロエコロジーを採用した。今、ビア・カンペシーナ・ブラジルに参加する7組織が、アグロエコロジーを公式方針として採用している。国際的なビア・カンペシーナ・インターナショナルの多くの組織がそうしているようにだ。MSTとビア・カンペシーナ・ブラジルは、アグロエコロジーの11の中等学校を設立し、アグロエコロジーで大学コースを導入した。農村地域でカンペシーノの家族に技術的な援助を提供し、運動の若者を養成するためだ。新たな農民運動へのアグロエコロジーの統合は喜ばしい展開だ。MST学校は食糧主権の政治社会的な目標と一致した生産形態を進める助けとなり、州や連邦レベルで、アグロエコロジーの政策を進めるための運動の能力を持つことになるからだ(33)。


連帯感を培う

 農業開発におけるネオリベは緊縮していたが、この世界の食料危機でそれは補強され、落ち目の緑の革命を蘇らせ、いま、アジアやアフリカと各地で復活してきている。新たな緑の革命もそれ以前のものと同じく、本質的には資本主義的農業を拡大するために資本を動員するよう設計されたキャンペーンだ。以前にフォード、ロックフェラー財団が演じたように、ビル・メリンダ・ゲイツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation)が国際的な農業研究コンサルタントグループを復活させ、社会や政府の広い協定を得て、農民たちのコミュニティにアグリビジネスの資本を広げる、緑の革命のためのフィランソロピー(博愛)のための新たな旗となっている。アフリカの緑の革命のための同盟(Alliance for a Green Revolution in Africa)は、アグロエコロジー、持続可能性、そして食料主権という言葉さえ、浅い定義にしてしまい、その深い農業改革の内容をそこから奪い取り、NGOやそのステークホルダーを緑の革命にいれ込もうとしている。

 食糧危機は問題だが、別の緑の革命はさらに物事を悪化させるであろう。小規模農民たちが動かすアグロエコロジー、オルターナティブは農業再建の最良の戦略としてIAASTDからも認識され、農村での貧困や飢餓を終わらせ、南での食糧安全保障を確立する。しかしながら、機会を与えられるならば、この戦略は、よく融資された緑の革命から反対意見を克服するために強力な政治的意思と草の根での大規模なアグロエコロジーの実践の組み合わせを必要とする。

 更新された緑の革命の形でのネオリベラル襲撃に直面し、農民運動と農民から農民ネットワークは連携して動いているように見える。PELUMが持続可能な開発のためのヨハネスブルグ世界サミットで彼ら自身の演説するために300人もの農民リーダーを一緒に連れて来たとき、東と南部アフリカ農民フォーラム(Eastern and Southern Africa Farmers Forum)が設立された。アフリカの農民組織と彼らの同盟国は、緑の革命(2007、2008)へのアフリカのアグロエコロジーのオルターナティブを進めるため、マリ、ボン、セネガルで集まった。ローマでの食物危機の会議に引き続き、ビア・カンペシーナは、モザンビークで集まり、そこで食糧危機(2008)への小自作農民の解決策のための宣言書に署名する。これら食料主権のための国際的な呼びかけは、食料と農場の危機に立ち向かう特定の小自作農イニシアチブに根づき始めていることを提案する。新たなアドボカシーと実践のミックス、境界とセクターと団体の間を越えたものが、日々、鍛造される予定だ。これらの希望に満ちた開発には、国を超えたアドボカシー組織と共に、アグロエコロジーの実践のためのローカルなネットワークを一緒にする可能性がある。もし、ふたつの流れが、大規模な社会的圧力を生み出せる広域的な運動に溶け込むならば、それらは食料主権を支持して政治的意思のスケールをくつがえすかもしれない。

 つまるところ、世界飢餓を終わらせるには、独占的なアグリフード複合体(industrial agrifood complex)をアグロエコロジーと分散型の食品システムに転換しなければならないであろう。農民(peasant)のアドボカシーと小規模自作農(smallholder)のアグロエコロジーの実践という二つの流れ。これが団結するという新ステージが産まれるかどうかを判断するにはまだ早い。とはいえ、団結のための種子はまかれた。もし、この傾向が進めば、おそらくグローバルな食糧危機と世界のフードシステムに国際的な決着がつくであろう。

ノート
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