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 世界に食料をどう供給するか



2001年6月 ラッセル・スコッチ氏と対談


ラッセル 世界飢餓の原因について一般的にはどのように理解されているのでしょうか。

ミゲル 大半の人は、飢餓問題や栄養不良問題のことを人口と食料生産とのギャップとして捉えています。

ラッセル
 この地球上には60億もの人がいて、十分な食物がないということですね。

ミゲル そうです。マルサス主義者は、食料生産よりも早く人口が増えているのだから、飢饉は当然だと言います。ですが、この見解を支持するデータはありません。実際のところ、いま世界には90億人を十分食べさせられるほどの食料があるのです。真の課題は、貧困と分配にあります。30億人の人々が一日あたり2ドルで暮らしており、必要な食料を産み出すための農地を利用できていません。その上、生産された食料の大半が牛の餌になっています。米国では、穀物の7割が家畜の餌となり、ラテンアメリカ、アジア、アフリカでは、大量の農地がヨーロッパ輸出用に使われています。ヨーロッパ人たちが狂牛病のために殺している牛に食べさせる大豆生産に使われているのです。

ラッセル この国では穀物の70%が牛の餌になっているのですか。

ミゲル ええ。ですから、牛の餌にする代わりに、人々に食べさせるようその食料を再分配できるなら、すぐにでも飢餓はなくなることでしょう。

ラッセル 緑の革命、生産力を高めるために高収量の作物、農薬や化学肥料を利用する西洋の技術的なアプローチはどうなのですか。この技術が数百万、そして何千万人もの飢えた人々を養うのではないですか。

ミゲル 緑の革命が穀物の総生産量を高めたことは否定しません。ですが、緑の革命から恩恵を受けたのは化学肥料代、農薬代、技術アドバイス料を支払うゆとりがある平地の大規模なお金持ちの農家でした。貧しい農民たちはそうではありません。「もし、緑の革命が起きなければ、いま現在、20億人が飢えていたであろう」と言う人もいます。ですが、本当にそうなのかどうかはわかりません。とはいえ、現実に今10億人もの人々が飢えています。第三世界の農村の貧困水準は、平均で50〜70%で、こうした人々は丘陵地や準乾燥地、辺境で暮らしていて、こうした地域は緑の革命とは一切かかわりがありませんでした。

 ラテンアメリカでは、2割の農家が全農地の8割を所有しており、これは最も優良な農地なのです。そして、こうした農家はいずれも、ヨーロッパの牛の餌用に作物を輸出している。残りの2割は、農家の8割を占める小規模農家の手にありますが、彼らがジャガイモの50%、トウモロコシの60%、そしてマメの70%を生産している。いずれも小さく貧しい農民たちがです。

 今、グローバル化が進む中で、各国はその比較優位を活かし、農産物を輸出することを強いられています。チリが夏のときには米国は冬なわけですから、販売用の果物が作れる。ならば、チリで穀類を作る理由性はない。それが、比較優位の考え方です。ですが、それではチリの人民たちを養えません。いま、辺境の農村には3億7000万もの貧しい家庭があり、こうした人々は、食料安全保障上とても大切な役割を持っています。私は、彼らに関心があるのです。

ラッセル こうした小規模な農民たちのためには、どんなことをする必要があるのでしょうか。

ミゲル 開発途上国の小規模な農民たちは、多くの作物を栽培し、あるときには木や家畜も育てていますから、一種類の作物ではなく、全体の生産性を高めることが重要です。そこの農業はとても複雑なのですが、西洋の農学者たちは、一面的なものの見方でしか農業を理解できないように訓練されています。

 一例をお示しましょう。フロリダで研究をしていたとき、国際的な農業開発プロジェクトでグアテマラにでかける機会がありました。彼らが私を同行した主な理由は、私がスペイン語を話せたからなんです(笑)。そして、農学者、農業経済学者、大学院生たちがいて、農民たちとインタビューをしていました。農民たちのトウモロコシ畑は雑草だらけで、トウモロコシよりも生い茂っていました。農民たちは、トウモロコシの種5粒と3粒のマメを蒔き、その間に雑草がはえていたのです。その様を目にしたある米国の科学者は「君らの生産性はなんと低いことだろう」と口にし、畑で計測をした後、「こうやれば、君らの生産性も高まるだろうね」と、アイオワ州ではどんなに濃密度で栽培しているのかを描いて見せたのです。私が翻訳をして、農民たち全員がそれを見ていたのですが、最終的に一人の農民がこう言ったのです。

「なるほどね。でも、家畜の餌はどうしているんかね」

「家畜だって」

 科学者は驚きました。アイオワ州のトウモロコシ畑には家畜はいないし、穀物だけを栽培しているのです。

「おら方は、こうしているがね、作物の間の雑草は家畜の餌になるんでね」

 農民たちは丘陵地にいるので、雑草が土壌を保護していました。農民たちはヘクタールあたりの生産性には関心がなく、作物あたりの最適な穀物の数に興味を持っていました。翌年に最良の種子を選ぶためにです。ですが、こうした農民たちの穀類を作る理由は、ことごとく無視されています。

ラッセル
 そうはいっても、農薬は小規模な農民たちにも助けとなるのではないですか。

ミゲル いいえ。まずなにより、彼らは農薬を手に入れることができません。そして、南側ではいまだに北側で禁止された多くの農薬が使われており、それは環境や健康の点からも望ましくありません。中毒、花粉を媒介する昆虫やそれ以外の益虫を殺したり、魚や野生生物が損われることを含め、農薬がもたらす社会や健康への外部コストは、米国だけで年間80億ドルにも及んでいます。しかも、米国では毎年、環境に対して約10億ポンドもの農薬を投下しているのですが、それでも収穫前に病害虫で作物の33%を損失している。その割合は、農薬が大量に使われる以前の1942年の損失割合と同じです。まさに同じなんです。ですから、農薬の技術は破綻しているわけですし、いま、失敗に終わった化学農薬革命をもたらしたのと同じ主体が、再び失敗するであろうバイオテクノロジー革命をまたもたらそうとしているのです。

ラッセル いま現在、農業バイオテクノロジーはどれほど広まっているのでしょうか。

ミゲル 世界の遺伝子組み換え作物は、1994年の400万ヘクタールが、いまでは4200万ヘクタールとなっています。うち、72%が米国にあります。米国では、人々が消費するトウモロコシや大豆を原料とした製品のほとんどが遺伝子組み換え産物なのですが、表示されていないので消費者はそれを区別する術を手にしていません。

ラッセル 米国環境保護庁(EPA)、食品医薬品局(FDA)、農務省(USDA)、そして科学アカデミー (National Academy of Sciences)さえも、どこも遺伝子組み換え食品は基本的にそれまでの作物と同じで、食べても安全だと報告しましたね。

ミゲル そのとおりです。ですが、スターリンク(StarLink)のように家畜の餌としてだけしか認められていない遺伝子組み換えトウモロコシが、人の食品にもなっている現状を目に付けるに付け、首をかしげたくなります。そのトウモロコシは消費者にアレルギーの反応を引き起こして、農務省により回収されました。ですが、一部のトウモロコシはそのまま放置されています。それにもかかわらず、スターリンクを開発したヨーロッパの企業、アベンティス(Aventis)社は、スターリンクが食べても安全で、製品の流通を認めるべきだと論じ、米国環境保護庁に、規制撤回をするよう求めています。

ラッセル 遺伝子組換え農産物のそれ以外の影響にはどんなものがあるんですか。

ミゲル 多くの研究から潜在的な影響が環境にあることがわかっています。例えば、バチルス・チューリンゲンシス(Bt)の毒素を持つ遺伝子組み換えトウモロコシがありますが、この毒素は、最大で230日間も土壌中に残留するのです。それは、大切な有用細菌や無脊椎動物を殺してしまうかもしれません。また、コーネル大学の研究者は、遺伝子組み換えトウモロコシの花粉がついた葉を食べたオオカバマダラが、正常な花粉を食べた幼虫よりも成長が悪く、死亡率も高いことを示しました。この研究のポイントは、高校生でもやれた研究だということです。ですが、米国環境保護庁は、この研究を必要とせず、企業からの働きかけに譲歩して、遺伝子組み換え作物が、実質的に慣行栽培作物と同等であるとみなしました。やれることができるし、しなければならない研究はたくさんあります。ですが、どんな研究の成果も、企業の科学やその研究結果と戦うことを強いられるのです。

ラッセル ご自身の分析からみて、政治的な偏向があるというわけですか。

ミゲル ええ、そうです。これは政治的な議論なのです。バイオテクノロジーをとりまくいま現在の議論は、全体的に政治上で科学的ではありません。こうした国際農業会議には、私は私のデータを持参しますが、別の誰かは、それとはまったく違って近代農業技術が貧しい人々の助けになることを示すデータを持ってくる。そういうことが起きています。ですが、問題は独立した科学者がそれをやっているのだろうか、ということなんです。

ラッセル 独立した科学者と言われますと。

ミゲル 独立とは、大企業からの資金提供を受けていないという意味です。私たちは、今ゆきづまっています。私には私のデータがありますが、あなたは、あなたのデータもおありでしょう。ですが、全く違った世界観から、物事を分析していることが認識されていません。それは、私には私の価値観がありますが、あなたには、あなたなり価値観があるからです。そして、あなたの価値観では、近代化のために農民たちに化学肥料や農薬を与えることが必要だということになる。あるいは、あなたは知識を、金銭的な価値がある市場向きの商品であるとみなしますが、私はそれを公共物であるとみなすのです。私は、自分の役割についてこう思っています。つまり、私たちに必要なことは、貧しい農民たちを助け、エンパワーし、農民たちが発展してゆきたい道を自分たち自身で決められるようにすることなのです。私は、何も押しつけたくはありませんし、ただファシリテートするだけで良いと思います。彼らの持つ知識も尊敬したい。それが違いです。

ラッセル ですが、農薬を減らせることが、バイオテクノロジーの大きなセールスポイントになっていますよね。

ミゲル Bt綿を使えば、全国では約4万5,000トンの農薬活性成分を減らすことができ、遺伝子組み換えトウモロコシでは約3万2,000トンが減らせるとの研究があります。これは平均農薬散布量の9%にあたります。ですが、輪作や被覆作物を使ったり、益虫を放つといったやり方をする統合的有害病害虫管理プログラムでは、30~50%も農薬を削減できます。どうしてたった9%しか削減できない技術が必要とされているのでしょうか。もうひとつの点は、バイオテクノロジーは昆虫の農薬抵抗性のために、いずれは失敗するということです。抵抗性があるという事実を疑問視する昆虫学者はいません。モンサント社の昆虫科学者でさえ、そうです。企業はこの失敗を見越して、既に次世代の遺伝子組み換え作物の準備を進めています。<
 農薬を散布し続けたため、560種類もの節足動物種が農薬抵抗性を持っています。100万ヘクタール以上も作付けられた遺伝子組み換えトウモロコシや綿で、毎日、毎時Bt毒素に昆虫がさらされればどうなるかは想像できましょう。昆虫は、確実に抵抗性を身に付け、このきわめて近視眼的で経済的なアプローチを克服することでしょう。つまり、バイオテクノロジーのアプローチは失敗だといずれ非難されることになるんです。
 
おわかりですか。私たちがいま話しているのは、科学の異なる概念についてなんです。私は、科学は正しくもなく、普遍的でもなく、特定の社会の産物であるとみなしています。それは、西洋でも「私たちは自然を支配し始めた」と口にする人々の世界認識の方法です。

 ですが、私はラテンアメリカの在来民族の500ものグループの世界認識の方法を目にしています。いずれも農民や小作農たちの何千年もの実践を背景にした科学的なアプローチです。ですから、ラテンアメリカには501のアプローチがあることになります。ですが、西側ではただひとつのやり方が席巻している。しかも、それは、傲岸なものです。というのは、ひとつのやり方だけが真実であると口にし、南の貧しい農民たちの知識を認めようとしないからです。南には、1000もの植物種がわかり旱魃や病害虫に耐える種子を選び、色や味で土壌を分類している在来民族もいれば、海抜3,800メートルもの霜の中で作物を育てる農法も開発されているのです。私は、絶対的に何が正しいとか悪いとかを言っているわけではありません。ただ、世界を認識するには違ったやり方があるということです。私たちが確立しする必要があるのは、尊敬しあう智恵の対話です。そして、それが欠けているものなんです。

ラッセル それはまたどうしてですか。

ミゲル 賢い対話とは、助けられていると思える人々を同じテーブルに付ける必要があるということです。例えば、カリフォルニア大学は土地を寄付されているのですから、少なくとも一人の農民が理事会にいて、そのミッションとして農民たちの支援があるべきです。少なくとも一人です。私どもの天然資源カレッジは、農民や畜産農家、環境保護活動家に対して定期的なコンサルタントをするべきです。

ラッセル 教授、西側の技術的な解決策を、是非ともオルターナティブな方向へと転換しましょう。確かにカリフォルニアでは、有機農業についても耳にすることが多いですよね。

ミゲル 有機農業が環境を保全し、土をつくり、食べ物の栄養価がもっと高いことを示す多くの研究があります。米国では、約1万2,000人の有機農家がおり、経済的にも最も急速な成長部門となっています。ですが北側の米国やヨーロッパの「有機農業革命」は認証基準にかけられ、有機であることを認証しなければならず、第三世界の農民には値段がかかるものとなっています。南側では、それとは全く異なる革命「アグロエコロジーの革命」が起こっているのです。

ラッセル それはどう違うのですか。

ミゲル まず、貧しい人々に直接的にもっと役立つよう、テクノロジーが小規模な農家が暮らしている厳しい条件下に適用できるものでなければなりません。環境にとって持続可能で、地元や地元の資源の利活用に基づかなければなりませんし、必ずしも外国の基準に従う必要はないのです。有機農業や慣行農業でも強調されるように、特定作物の生産高ではなく農業生産性全体の改善が重視されなければなりません。農村の貧しい人々にとってもメリットがあるように、どのような農業革新であれ、住民たちの知識や天然資源のようにすでに入手できる資源や、地元住民に基づくボトムアップのアプローチで運営されなければなりませんし、小規模な農家のニーズや要望、状況にも大いに配慮しなければなりません。ですから、私は、貧しい人民自身や彼らの土着の農業知識から出現する草の根アプローチに関心があるのです。私たちは、伝統的な農業を近代的なアグロエコロジーの知識に基づいて構築したいのですが、それは、エコロジーや人類学・社会学といった社会科学の成果も盛り込んだ最も近代的な農学と言えます。というのは、農業は、自然と社会システムとの共進化(coevolution)の産物であると解釈する必要があるからです。それは、伝統的な知識を基に築かれますから、伝統的な知識を押さえ込みませんし、システムを動かすうえで地元資源に依拠しているので経済的にも実施可能です。農民たちの参加型の研究ですから、社会的にも動きます。

 つまり、それらが研究課題の一部となる必要があり、農民たちに必要なことを代弁する必要があるのです。また、それは、システムを変更しないのでエコロジー的にも健全です。小規模な農民たちが手にしているものを置き換えず、最適化するのです。緑の革命は、小規模な農民たちに対して「お前らの今のやり方から抜け出すんだ。モノカルチャーの高収量品種があるんだぜ」と言いましたが、私は「皆さんがその場でお持ちのシステムを最適化する必要がありますが、それは伝統的な農業を基礎にしましょう」と言いたいのです。

ラッセル アグロエコロジーの結果はどうなものなんでしょうか。

持続可能な農業の会議に続き、2001年1月15日にミゲル・アルティエリはロンドンのセント・ジェイムズ宮殿でチャールズ皇太子と対談した(右側)

ミゲル 私が今年の初めにチャールズ皇太子にお会いするために英国にでかけたわけは、アフリカ、アジア、ラテンアメリカでの208もの持続可能な農業プロジェクトとアグロエコロジカルなアプローチの結果を報告するためでした。この研究では、900万人もの農民たちが、2900万ヘクタール以上で取り組み、全体としては収量を50~100%も高めたことを示しました。しかも、丘陵地や準乾燥地域といった辺境環境で、緑の革命の10分の1のコストで彼らはそれを成し遂げているのです。人民たちのエンパワーメントは言うまでもなく、生物多様性、土地の再生、資源保全といったこともなされているのです。

ラッセル アグロエコロジーを幅広く実施するうえでは何が問題なのですか。

ミゲル 農薬への補助金やこのより貧しいアプローチの実施に向けての政治意志の不足などいくつかの政策障壁があります。それは、北側が主導権を握りたく、政治的アジェンダを組んだからだと思いますね。北側の国際的な農業専門家である科学者たちにとって、南側がものごとを良く知っているという現実を受け入れるのはとても難しいのです。

ラッセル でも、彼らはあなたとなら話すかもしれません。

ミゲル もちろんです。バイオテクノロジーに反対し、世界の貧しい農民たちを弁護している奴がこのバークレーにいると言う人もいます(笑)。ですから、ある意味で、私はささやかな象徴となっているのです。そして、たいがい、マイノリティ側の見解を提示するため、こうした国際会議に招かれます。ですが、私以外の多くの人々は、科学的レベルではこれをやっていません。はっきりとモノを口にしたがらないからです。

ラッセル それは、またどうしたわけでしょう。

ミゲル その結果が見えているからです。もし、はっきりとバイオテクノロジーに反対だと口にすれば、不公平で、政治的で非科学的だと呼ばれるようになります。故ロバート・バン・デン・ボッシュ教授が農薬産業に批判的な声をあげたとき、教授はエセ科学者と呼ばれました。私もモノをはっきりと口にすることから、三流科学者と呼ばれてきました。だから、私は言うんです。私を第三世界の科学者と呼ぶことはよろしいでしょう。私は、そう言われることを誇りにしていると。

(バークレー大学のHPに掲載)


 By Russell Schoch A Conversation with Miguel Altieri, A messenger from the South brings word to the North: There's a better way to feed the world.