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第五章 社会的発展の将来



 1990年代の経済危機にキューバがさらされた時、普遍的な価値に継続的にコミットメントできるのか、政府がすべてを運営することが、社会的なセーフティ・ネットの開発の枠組みとなっているが、それが、可能かどうかを多くの人々は疑った。だが、このコミットメントは明らかに有効だった。

経済危機の間も、キューバは一連の社会的サービスを普遍的に維持することを優先した。子どものために毎日提供される配給ミルクを与えるセントロ・アバナの母親

 経済危機の10年間も、一連の社会的サービスを全く打ち切らずに保つという政治的な意思が政府にはあったのだ。とはいえ、投資は続けられたものの、時とともにサービスの質は落ちた。 1989年事のサービス水準を取り戻すのに必要な社会的サービスへの投資は、今は以前よりもはるかに大きい。これまで、キューバはGNPの多くを社会サービスに振り向けることで住民ニーズをカバーしてきた。だが、その経済再建に向けて国が動くにつれ、従来の枠組みの下で、社会的な制度を継続することは難局に直面している。 ・高まるサービス需要に対処する緊急性が高まっている。傷つけられた人々の幅広い分野からのニーズがあるうえに、その社会的ニーズを簡単に満たされることに慣れてきた住民からそれが出されているだけに、こうした要求はより緊急的だ。

  • 政府の資源が減る中で、急速に進む高齢化が生み出す問題に対処するという緊急性もある。これは、国家予算にとって重要で、国家予算は年金の全額をカバーしなければならない。
  • 経済危機の時期にダメージを受けたサービスの質を改善することへのプレッシャーもかなりある。予算は、ペソでも交換可能通貨でも全面的に増えてはいるものの、いまだに1980年代の予算での購入力には達していない。


 これらは、悪いニュースといえる。だが、キューバはかなりの強さをもって、この一連の難局にも対応している。

  • まず、キューバ人たち自身に自助のノウハウがあることだ。教育水準は高く、国民の健康状態を改善・維持し、文盲を根絶し、西半球で最も教育された労働力を維持している成功体験がある。このいずれもが、ソーシャル・サービスに合理性と真実味をもたせている。
  • また、キューバが直面する最も深刻な社会問題は、まだガチガチなものではない。最悪の貧困の影響、売春、ドラッグ、犯罪の増加、学校の中途退学の増加はいずれも比較的新しいもので、結果として強力な介入が可能だ。
  • キューバには健全なサービスの制度がある。それには、ただ適合が必要とされているだけなのだ。現在挑戦されていることは、新たなものを再構成するよりも、むしろ既存のものを変更・改善していることだ。そして、こうした調整はなされ始めている。


    • サービス向上が必要との認識があること
    • 協働や横の連携の認識や実践が高まっていること
    • 個人、家族、そして、コミュニティが協働する多様なアプローチの重要性への認識が広がりつつあること
  • ユーザの意志決定にかかわることで、効果的な参加型のやり方も増えている。
  • ユーザを伴いながら、コミュニティや各家族のニーズを特定する経験がある。
  • それは完成させることが必要であるとはいえ、人民委員会を通じて、コミュニティ段階でサービスの質をモニタリングする機構がある。


 そして、最後に、その教育水準からして、キューバ人たちには、過小評価されるべきでないイノベーションや改革の能力がある。このことが主に示されたのが1990年代に「スペシャル・ピリオド」を経験する中で、なされた経済の転換やコミュニティ開発運動、都市農業運動、代替エネルギー源の適用、環境的に健全な農業への取組み、その他の数え切れないほどのイノベーションを生んだ小さな改革だ。とはいえ、まだ挑戦すべきことが残されている。

  • 「セーフティ・ネット」の受益資格があることで生じる予算増という課題に対処するため、決定的な選択をしなければならないであろう。キューバには無限の資源があるわけではない。にもかかわらず、ますます増える一連の需要に直面している。革命が最も重きをおいている価値観のおかげで、現在のところは、その補償範囲は維持され、最も傷つきやすい人々を守るために確実にあらゆる努力がなされてはいる。だが、もし、さらに需要が広がり続ければ、今の優先度の設定は危機的になるだろう。キューバはサービスを民営化したり、新たな構造を再発明することよりは、むしろその効率性を高めることで、ゆるやかに制度を改革することを選んでいる。このプロセスにこそ、いくつかの鍵となる問題がある。


    • キューバは、医療、教育他のサービスで成果をあげてきた長い歴史がある。とはいえ、それらはコストのかかるアプローチだ。その制度は、高度な教育を受けた職員、例えば、ファミリードクターに大きく依存している。

      新たな経済環境では有効性と同じく、効率性の問題も必要だ。現在のサービスの構造は、サービスの形式や実践を再設計することにどれほど柔軟性があるだろうか。

キューバ人たちは、これまで手にしていないものを発明することで、経済危機を乗り切った。道路清掃のために清掃ブリガーダが手づくりの送風機に燃料を入れている

 現在では各部局毎にサービスが厳密に組織化される傾向がゆきわたっているが、例えば、医療分野だけでも、さらに効率的にサービスを提供するために、効果的な横の連携がデザインできるのだろうか。中央集権化された体制は、このような縦割りの壁を越えた協働をまっとうなものとして認められるのだろうか。サービスの制度は、とりわけ、サービスが提供されるポイントで、どうすれば協働が促進できるのだろうか。どうすれば、ローカル政府とコミュニティに基づく組織との間で、サービス制度の協働が促進できるのだろうか。

 

  • 効果的なサービス提供をデザインするうえで、何が必要だろうか。私たちの最善の知識からすれば、それはユーザのニーズやユーザーからのフィードバックに関心を向けることだ。だが、キューバには、ユーザからの声を集め、それを適用する経験がほとんどない。サービス制度を構築している政策立案者や専門家とユーザとの新たな連絡方法はどのようなものになるのだろうか。

 キューバが直面している難問は、前進するにつれて、あらゆる場面で、社会的便益システムが直面するものとは異なってきている。予算を破壊する年金や医療費、経済危機によって増加する需要から、効率性と有効性の双方の改善が求められている。

 誰しもが、コミュニティ・レベルで、消費者の参加やサービスの利用、その範囲、そして、質をモニタリングするための有効な機構を生み出すという難局に直面している。とりわけ、社会的弱者のためのサービスにおいてだ。

 とはいえ、それ以外の多くの他国とは違い、キューバは公正であって人間味のある社会を構築してきた民族として、こうした難局に直面している。キューバが未来に向けて前進していけば、こうした価値観やその経験が、新たな制度を誘起することであろう。

 Miren Uriarte, Cuba:Social Policy at the Crossroads: Maintaining Priorities, Transforming Practice, Oxfam America,2002