1997年11月 本文へジャンプ





キューバの医療

 キューバに対する米国の経済封鎖とソ連に依存してきたため、ソ連崩壊は、以前には十分にあった医薬品と医療機器の供給不足を引き起こした。だが、医療品にまで及ぶ米国の経済封鎖にもかかわらず、キューバは、その実効性があり、人間味のある医療制度を生かし続け、オルターナティブな自然医療での改革も進めている。キューバは重要な慣行医療の利点は堅持しつつ、自給を試み、伝統医療を再導入するという現代世界の中では空前の努力を始めている。この転換の成功は、製薬会社を除いて、この地球上の全人類ためになることだろう。自然薬品の生産は、適切になされれば、非再生可能資源への依存が少なく、人や環境への有害な副作用も少ない。

 米国では、自然医療は「オルターナティブ」と考えられている。だが、キューバ人たちは、それを「オルターナティブ」と呼ぶことを好まず、「伝統的な緑の薬品」と呼ぶ。経済封鎖が終われば、キューバの医学研究者たちは再び医学研究のリーダーになることだろう。そして、経済封鎖があったとしても、彼らは、伝統的な医療の復興が科学技術先進国にとっても適切であることを世界に示し始めている。

 以下の統計をみれば、キューバの医療がいかに成功しているかが理解できるだろう。キューバの保健部局は、1,000人あたりの乳児死亡率を7.9人と報告しているが、それは他のラテンアメリカ諸国よりもはるかに低い。プエルト・リコのすぐ近くにありながらも、性病やエイズも流行していない。エイズ感染者用の特別な診療所があり、患者たちはそこで給料をもらい続ける。常時、無料の治療を受け続け、他のどの国のよりも良好な食事も手にしている。米国では、エイズ患者は健康保険を失う恐れがあり、たとえ、保険を手にしていてさえ、仕事や収入を失い、住宅さえなくす恐れがあるというのにだ。

 1994年の世界統計概要によれば、キューバの平均寿命は76歳で、米国のそれに匹敵している。キューバ人たちが米国の経済封鎖により、ペースメーカーや腎臓透析機器を購入できないという事実にもかかわらずそうなのだ。医療は全国民に無料である。住民174人毎に一人の医師がおり、1,000人あたり6病床があり、平均入院日数は10日間である。そして、キューバは、他国出身の学生を支援し、国内の医学校に無料入学させ、一人あたりでは世界のどの他の国よりも、多くの医師を海外に派遣している。ちなみに、米国は一人あたりで、どの他の国よりも多くの軍人を海外に派兵している。


戦うために価値あること

 企業が販売競争をしないおかげで、キューバの医薬品はすさまじく経済的に節約されている。研究者たちは、競争するかわりに協働している。広告用に大きな出費をする必要も全くない。米国では、医薬品に使われる資金の大半が宣伝や販売促進に費やされ、宣伝の多くが、医師の習慣に影響を及ぼしている。

 キューバにおける企業は、米国のNPOと同じである。キューバの病院や診療所の目的は、金銭を稼ぐためではなく、人々をケアすることにある。キューバのシステムのひとつの原則は、ヘルスケアは全人民の権利であることだ。そして、また別の主義は、病気は利益に利用されるべきではないということである。

 キューバ人たちには、本当に戦うために価値がある何かがある。キューバ革命以前には国全体で1つの大きな医療設備があるにすぎないことを中米の事実は報告している。たった1つの医学校とわずか6,000人の医師しかおらず、その医師もほとんどがハバナの裕福な地区で働いていた。病気は蔓延し、1,000人あたりの幼児死亡率は60人だった。国民の健康や衛生のための部局は皆無で、平均寿命は60歳だった。

 そして、革命直後には半分の医師が米国に逃がれた。だが、今は6万2500人の医師、看護婦、技師、病院職員を含め約80万人もの医療従事者がいる。2の医学校、52の医療技術学校、21の大規模な医療機関、4の歯学校が14州に配備されている。妊娠中の妊婦死亡率は12.5から2.4%に減少した。1995年には、4,500人の新たな医師が卒業し、全員が仕事に就いた。しかも、キューバの医師や教師には、完全に給与を支給されながら、研究し学びなおすための1年の休暇が7年毎にある。加えて、キューバの労働者たちは、給料を完全支給され3カ月の産休、さらに60%支給でさらにもう3カ月の産休が利用できる。


壮大なる実験

 米国の経済封鎖のため、キューバ人たちの平均カロリー摂取量は、北米人のそれの半分で、1992年から1993年には、普通的なキューバ人男性は11ポンド、女性は7ポンド体重を失った(グローバル・イクスチェンジのニュースレター95年夏)。女性の体重減と関連するのは、出産時の未熟児の増加である。それは、子どもの長期的な健康問題にも影響する。だが、このきわめて厳しい損失もある面では、注目に値する利益があった。低脂肪と肉食の減少ため、おそらく発癌率は低下している。人々は主に、豆、米、じゃがいも、パン、朝食用の卵、そして、時折鶏肉を食べている。1990年代以前には、キューバ人の20%が肥満体で37%は太りすぎだった。だが、今、眼にされる太った人々は主に西洋の旅行者だ。

 経済封鎖のために、海外から購入される医療機器や医薬品は、購入できる場合であっても、経済封鎖がない場合の3~4倍かかっている。だが、にもかかわらず、キューバの医学研究者たちは、優れた肝炎ワクチン、脳卒中を治療するため米国の調剤のストレプトキナーゼ(注2)よりも血中コレステロール上昇には安全な薬を含め、新たな対症療法を開発している。

 研究者たちはまた、皮膚の乾癬、脱毛症、白斑症、色素性網膜炎の新たな療法も開発している。多くの米国人が、不必要にこうした状態に苦しみ続けている。その一部は、自然療法的な医薬品を手にできず、キューバから革新的な技術の交換を防ぐ経済封鎖にさらされているからである。キューバは、国際通貨基金と世界銀行が「再生」プログラムを設けていない数少ない国のひとつである。こうしたプログラムは、ラテンアメリカ、アフリカ、と東欧全域で失業、学校と病院の閉鎖と本質的な公共サービスの除去の原因となっている。キューバでは今までただひとつの学校も病院も閉鎖されていない。


国際比較

 以下は、第14回世界・青年フェスティバルの一部として、キューバの健康についてのサークルで議論された統計や他の事項である。様々な国からの代表が、祖国の状況について論じた。

 チリは社会民主主義政権を導いた医師、サルバドル・アジェンデ大統領の下、大きな社会的な進歩をなしとげた。だが、アジェンデがCIAにより打倒された後、チリの医療制度は民営化され、劇的に悪化した。ひとつの事例は、病気になったときに、人々が朝4時には起きて治療を受けるために列に並ばなければならないということだ。

 グアテマラでは、米国の介入以来、CIAが支援する戦争で10万以上が死んでいる。これはメンタル・ヘルスでの深刻な問題、広範囲の伝染病、寄生体、エイズ、下痢と他の病気を引き起こしている。グアテマラはキューバとひとつの統計数値を共有している。両国では約10万人が米国により支持された様々な血の政権下で死んだということである。

 ニカラグアでは、米国からの圧力により、人々の60%が失業中で、80%は貧困状態におかれ、70%は極貧状況におかれている。そして、幼児死亡率が劇的に高まっている。ラテンアメリカで2番目に貧しく、多くの子どもたちが栄養不良である。この状況をキューバと比べてみると、キューバでは人民は憲法上の就業の権利を手にしている。

 メキシコには、住民1万5000人あたり1人の医師しかいない。
 ブルキナ・ファソは、無料の医学教育でキューバの医学校に6人の学生を入学させている。彼らは、国内での医療を改良する助けになるだろう。
 コンゴは、この夏まで、米国が支持するモブツ政権下だった。コンゴの平均寿命は51歳で、1,000人あたりの幼児死亡率は93人で、文盲率は74%である。天然資源にもっとも恵まれたアフリカの国でこうなのだ。人々は巨額の対外負債を負わされており、その対外負債の大部分はコンゴから逃れたモブツやその友人の私有財産である。
 インドでは、IMFと世界銀行によって「改革」が要求されたので、医療費はGNPの6%ときわめて低い数字となっている。栄養不良はすさまじく、コレラの率は倍増し、マラリアと腸チフスは30%も増加した。これとは対照的に、キューバではコレラは根絶されている。
 パレスチナのガザ地区には、看護婦も精神科医もいない。
 カナダでは、保守政権が普遍的な医療制度の民営化を推進しており、病院は閉鎖し、看護婦は首になり、医師の給料はあがっている。
 米国の統計は、カリフォルニアでは、裕福な白人の地区では幼児死亡率が3%で、黒人居住地区では11%であることを示す。
 北朝鮮では、1947年以来全人民のための無料の医療がある。コレラ、マラリア、回帰熱は根絶された。戦傷による多くの身体障害児がいるため、障害者の治療でも大きな進歩をとげている。
 韓国は、米の夏にハバナで開催された第14回世界・青年フェスティバルに参加する許可を与えなかった国以外の唯一の国だった。

  • (1) 米国の政治家。保険コミッショナーになる以前は弁護士として、消費者、中小企業、労働組合の権利を守ってきた。業界からは嫌われているが、ラルフ・ネーダーは、彼女のことを「米国の最良の保険コミッショナー」と評価している。
  • (2) 血栓の主要タンパク質であるフィブリンを分解することから血栓溶解剤としても用いられ、他の薬剤より安価であるため欧米では心筋梗塞や肺塞栓症に対して用いられてきたが、副作用の問題が大きい。
  • ジョン・ルーランドは、昨年、シアトルのBastyr大学で自然療法医学を研究した。そして、最近、サンフランシスコに拠点を置くグローバル・イクスチェンジと関係して、キューバからの旅から戻った。


 John Ruhland, Good Medicine for Cuba, Washington Free Press, November/December,1997.