1999年6月29日 本文へジャンプ





キューバの医療

1999年6月29日。ハバナ-ゲリラ戦とは無関係の新たな革命がキューバで展開しつつある。1世紀も前の医療技術に180度転換する中、キューバ政府は、工業的な医薬品のかわりに、低コストの植物薬品を積極的に推進している。そして、医師が自然医学の療法を再び独学することも奨励している。  この新たな革命に向けた努力の多くは、引き続く米国の経済封鎖のためだ。1990年代初めのソ連からの援助の引き上げと、それに続く景気の悪化で、多くの医薬品が得られなくなった。そのため、キューバの医療制度は、オルターナティブを模索することを強いられたのである。  キューバの「緑の薬品」は、何世紀も文化の一部だった。だから、医療関係者たちは、はるか彼方を見る必要はなかった。 「緑の薬品は副作用がなく、キューバに普通に見られる症状、皮膚病、菌類の伝染病、寄生体、とりわけ気管支の病気に、少なくとも通常の医薬品と同等に機能します」
 保健省の伝統・自然医学局のレオンシオ・パドロン局長はこう語る。「自然な療法、例えば、鍼、ホメオパシー、ハーブ治療で治療される患者は、1996年から1998年で300万人へと倍増しました」  オルランド・サンチェス博士は、ハバナ大学医学部を卒業してから、まだ2年目だが、医学への関心が、軍での奉仕の間に、始まったことを想起する。彼は医学校の中退者から助けられたのだが、彼が中国の伝統的な実践、太極拳と気功を教えてくれたのである。北米の多くの医学の同僚たちとは異なり、サンチェス博士は、自然医療と慣行医療との間に矛盾があるとは見ない。  サンチェス博士は、ハバナ郊外のミラマルに新設された政府の診療所で働いているが、こう語る。

 「私どもは、患者を害することなく癒やすため、自然療法と慣行医学とを最高に統合しようとしているのです」

 診療所は、ヨガや太極拳によるストレス解消法の無料講座を開くことで、自然治癒テクニックを積極的に広めている。学校の子どもたちに鍼のツボすら教えている。  厳しい経済危機により、政府は医療予算を1979年時の半分まで大幅削減することを強いられた。だが、いま、キューバには当時よりも多くの医師がいる。パドロン局長はこう述べる。

 「より少ない経費でやれているので、現在の医療はもっと良くなっています。たとえ米国の経済封鎖が突然終わったとしても、キューバは医学を進展させるため、自然療法に関心を払い続けることでしょう」
 キューバの医療改革は、北側先進国からは、これまでは注目されてこなかった。ハバナ州政府の保健省の自然・伝統医療のマルタ・ペレス局長は、昨秋に米国から訪れた十数人の医療の専門家たちに、キューバ政府は自然医療が持続可能で経済的であることから進めているのだ、と語っている。

 「スペシャル・ピリオドは、キューバにとって偉大な教師でした。この困難な状況の最中に私たちは戦う方法を見出さなければならなかったからです」

 1992年、政府は保健省内に自然医療を所管する組織を設置する。そこで、決定されたのは、ホメオパシーや温熱療法(硫黄の入浴と鉱物泥浴)と、とりわけ認められているハーブ療法、植物からの抽出液、鍼、それと関連した技術だった。

「慣行的な体制に、そうした療法を加えるのは簡単ではありませんでした。ですが、私たちは、こうした療法のすべてを支持し、療法の選択肢を幅広く持つ必要があります。私たちは、主に科学的に守ることができるテクニックを探したのです」

 そうペレス博士は語った。  キューバの医療革命は、アルバータ大学で医療人類学を学ぶ、学生トレーシー・スパックさんの関心も引いた。慣行医学のオルターナティブがキューバの医療制度にはどのように組み入れられているのだろうか。スパックさんは、このテーマで、現在9ヶ月にわたる博士課程の現場研究を行っている。

 オタワ出身だが、「1959年の革命以前には、植物やハーブを使うことは、比較的一般的にキューバでは受け入れられていました」と彼女は説明する。 だが、革命により、近代医学が持ち込まれたため、自然医療の背景は弱められた。1960~1980年代にソ連からの援助を受けた経済体制下で成長したキューバ人たちは、必ずしも、手を開いて自然医療を受け入れたわけではなかった。「ですが、驚いたことに、それが実際に機能することに彼らは気がついたのです」そうスパックさんは言う。

 ハバナ郊外のサントス・スアレスのファミリードクター、リタ・ベレテルヴィデ博士は、自然医療が復興し始める以前の1986年に、ハバナ大学を卒業した。旧制度の学校で医学を学んだため、1998年に彼女は、何十人ものその他の医師とともに、毎週の近隣のクリニックで開催されている毎週の自然医療に加わった。リタ博士は「今では、ほとんどのハーブ薬品を投与していますし、それらが機能すると確信しています」と言った。

 スパックさんが、フィールドワークをしているポリクリニコ、ドセンテ・ベダド診療所では、日々100~125人の患者を治療するため自然療法が用いられている。患者たちは、数ブロック離れた崩れたアパートの一階にある外薬局のカウンターに集まる。最も人気が高いハーブ薬品には大きな印がつけられている。薬局の薬剤師は、地区の50人以上の間で最もふつうに見られる症状は高血圧だ、と述べる。そして、高血圧はカナ・サンタと称されるサトウキビからの抽出薬品で治療できる。その値段は6セントだ。

 もちろん、誰もが「緑の薬品」を賞賛しているわけではない。ハーブ療法で皮膚病が治らなかったある女性は、こう述べる。

 「率直に言って、私は緑の薬を信じていません。もし、それが本当に効くならば、米国やその他の豊かな国々の医師たちもそれも使っているでしょう。私たちは、他に何もないので、それを使っているだけなのです」  だが、自然医療は、キューバ文化に深く根差しており、経済上の必要性と保健省の首脳部からの批判がないことから推進され、国内で強い足場を得ている。米国からの医療専門家たちの訪問に際して、ペレス博士は、これと関連したある逸話を語った。

 「保健省の副大臣の口に大きく醜い傷ができました。そして、最善の自然医療での治療がアロエ、ローズマリーと特別なハーブ・クリームの組合せであると告げられました。3日以内に、傷は癒やされ、それで、自然医療について誰も副大臣に悪口を言えなくなったのです」

 

 Andrew Webster, Cuba to Develop Synthesis Between Conventional and Natural Medicine, June29,1999.