2001年6月11日 本文へジャンプ


キューバの看護師



山村での看護の仕事


 正看護師であるプリスカ・エステル・ミランダ・ヘルナンデスさんは、ハバナにあるミゲル・エンリケ病院の高齢者病棟の看病長だが、38年もこの施設で働いている。給料は安いが、介護へのコミットメントは強いままだ。

 ビニャーレス渓谷では、最高級のキューバ産タバコが栽培されているのだが、その気候や豊かな赤土のおかげで、その葉巻は世界一のものとなっている。ビタミン成分をたっぷり含んだ果実や野菜も地区スタンドで売られている。そして、この豊かな渓谷には、10ものコンスルトリオがある。10年以上も前に設立されて以来、キューバの医療制度の背骨をなす地区診療所だ。

 共同墓地通りに面した、とある小さなコンスルトリオに、7カ月になる赤ちゃんの体重を図りに母親が入ってきた。総合看護士であるナディリア・ラモス・ベルナル(41歳)さんは、彼女を暖かく迎え入れる。ラモスさんは、地元医師とともにこのコンスルトリオに11年も勤めている。

 赤ちゃんの体重を図りながら、ラモスさんは、長年の隣人である患者と情報を交し合う。ラモスさんは、看護師として働き始めて23年になる。16~19歳まで3年間、学校に通った後、ピナル・デル・リオ市内の病院に勤務することから、そのキャリアを始め、集中治療、火傷、産婦人科、小児科で働いてきた。

「このビニャーレスのポリクリニコには緊急で戻りました。コンスルトリオの制度が89年か90年の時の状態に戻るまで、ここで働きます」と語る。ポリクリニコとは、病院とコンスルトリオの中間段階の診療所だ。

「私の勤務時間は、8~12時と1~5時までですが、24時間サービスが可能です。そして、人々のところに立ち寄りながら、毎日患者の家にでかけるのです」

 ラモスさんがコンスルトリオで目にする主な健康問題は、高血圧、糖尿病、寄生虫症と肝炎だ。

「エイズ患者は2人しかいません。そして、彼らの治療もそれ以外の人と同じです。安全な状態を保ちながら生きられるように教育することが最優先されています」

供給不足

 キューバではどこでも医薬品が不足している。とりわけ、喘息用の医薬品が足りない。キューバにやって来る多くの米国からの訪問者に、米国の経済封鎖で入らない医療品を持ってくれるように、彼女は心底から願っている。

「喘息薬を持ってきてくれるよう伝えてください。このビニャーレスのコンスルトリオNo.6に。ここでは、都市よりもさらに不足しているんです。抗生物質やバンド・エイドすら不足し、使い捨ての注射器すら十分ないのです。ですから、HIVやB型肝炎やC型肝炎患者等のために、殺菌して使いまわしをしなければなりません」

 ビニャーレス等のようなムニシピオでは、エイズについての意識も高く、よく教育されている。都市では、さらに多くの人々が観光のためにエイズにかかっている。

 ラモスさんは、子どもの頃から、医療にあこがれてきた。そして、とりわけ、子どもやお年寄りと一緒に働くのが好きだ。というのも、教育と医療がキューバでは尊敬される職業だからだ。ラモスさんは自分の仕事に誇りを持っている。

「私たちがまずやることは予防医療です。それは、どんな医療制度にとってもセンシティブな基礎であると同時に、国内経済の現実への論理的な反応です」

 10年毎にする免疫摂取と同じく、細胞チェックや血液検査を含めた3年毎の検診をどの患者さんも受けられます、とラモスさんは言う。乳癌検診も可能で、女性たちは毎月の胸を自分で検査するよう教えられている。

 栄養や母乳育児のメリットを教えるクラスもあり、コンスルトリオは、大がかりな胎教も行っている。そして、8病床ある産院では、リスクについて休息ルームと栄養を重視している。

 キューバの低乳児死亡率は1,000人当たり、7.2人だが、それは、胎児期、産後、幼年時代の予防健康管理の国の政策を反映している。最低でも4カ月は母乳で育てる世界保健機関のガイドラインにも応じています。とサンノゼ州立大学の看護学のジョン・エーデルスタイン教授は語る。


赤ちゃんに優しい政策

 エーデルスタイン博士は、カリフォルニアにあるカイゼル・パーマネート・ヘイワードの統合教育コーディネータでもあるのだが、母乳保育率ではキューバは、世界でトップの10カ国のひとつだと語る。

「キューバの57の産院のうち、52が『赤ちゃんに優しい』認証を得ており、他の5院は公認される証明書をファイルしています」

『赤ちゃんに優しい病院イニシアティブ』とは、1991年にWHOとユニセフとが立ち上げた全世界的ネットワークで、母乳養育が標準となる医療環境を創り出すことで、すべての赤ちゃんに、人生の始まりから最良のスタートを与えることを目標としている。そうすれば、各国で乳児の病気や死亡率を減らす一助となる。

 サン・フランシスコにある人権グループ、グローバル・エクスチェンジが後援する最近のキューバへのヘルス・ヒーリング・ツアーに参加し、エーデルスタイン教授は、キューバの首都、ハバナにあるアメリカ・アリアス産院の新生児集中治療部を訪ねた。

 赤ちゃんは母乳だけで育てられていた。というのも、キューバには電気やマニュアルの搾乳器,がないからだ。 エーデルスタイン教授は、看護婦と患者の率を目にして、それが米国のそれに匹敵しているのがわかった。アメリカ・アリアス病院では約200人の患者がおり、毎月約400人の新生児が産まれ、典型的な入院日数は2~3日で、帝王切開の場合は5日だ。一方、北カリフォルニア州にある一般的な200病床の病院では、毎月250人が生まれるが、正常の分娩では1~2日、帝王切開の場合は3日ほど入院する。

 だが、エーデルスタイン教授は、石鹸、タオル、トイレットペーパー、便座といった基礎品目が不足し、時には水さえ足りないために、いくつかの病院の状態は不衛生だと指摘する。最悪の場合には、通りからバケツで水を運び込まなければならないのだ。


生き続ける伝統

 キューバでも看護師は、看護婦長や監督のように、その経験や権威のレベルを特定する白い制服やキャップをかぶっている。精神病院でさえそうだ。とエーデルスタイン教授は語る。

「キューバでは看護師は不足していません。保健専門家のための教育制度は優れており、かつ、無料です。3~5年の学習コースをフォローする看護婦のためには2層からなるプログラムが利用可能ですが、2つの間にはまったくつながりがありません。3年のプログラムを終え、次のレベルに達したい人は最初からやり直さなければならないのです。合計8年です」とエーデルスタイン教授は言う。

「70年代初期の米国ほどそれは大差がありません」と彼女は言う。それが、教授が看護学よりも、むしろ心理学の学士号を求めた理由だ。

 プリスカ・エステル・ミランダ・エルネンデスさんは、38年も働いており、ハバナにあるミゲル・エンリケ病院の年配の看病のヘッドなのだが、彼女のスキルを最新に保ち、彼女が最初に追えた3年の看護の単位を保管するため特別な技術看護コースを取り続けている。彼女は主に精神病者にサービスする通院患者ユニットで働く6人の看護婦と5人の医師のひとりだ。

 キューバのすべての看護婦のように、彼女も月に300ペソ、約15ドルを稼ぐ。医師は525ペソ、26ドルだ。これはこの職業の最近の賃金増加を反映している。

「給料は安いのですが、医療を含めて、多くが無料ですから、私たちは暮らしをアレンジして、必要なものを買います。私たちを傷つけるのは、医療において欠かせないことが不足していることです」
ミランダ・ヘルナンデスさんは語る。

 彼女の典型的な就業日は、月曜日から土曜日まで、午前8時から午後4時30分までで、1年に二度の15日間の休暇がある。典型的な定年は、女性で55歳、男性は60歳だ。彼女は69歳だが、まだ力強い。

「私の心がクリアーな限り、働き続けます。ここは、私の故郷、私の専門、そして、私の祖国へのコミットメントなのです」

 Carol Canter,Commitment to care:Nurses in Cuba offer a glimpse into the island republic's health system,
nurse week,June 11, 2001.