2003年11月21日


 
キューバへの旅行者全員が太陽と砂を欲しているわけではない
 キューバは経済面で苦闘しているが、その経済は、海外への医療技術の輸出と国内でのヘルス・ツーリズムの成功で高まりつつある。開発途上世界におけるキューバの位置にはある種のパラドックスがある。

 物質的な生活水準は低く、経済危機によって一人あたりの所得収入は低いものの、このフィデル・カストロ国家評議会議長のカリブ海の社会主義はヘルスケアを発展させ、人間開発指標における別のリーグに、キューバを位置づけているのだ。実際、基本的な健康指標では、西ヨーロッパの福祉医療システムの成果に匹敵している。そして、1959年の革命の礎石である教育、科学、健康が、キューバの進んだ医学セクターの発展と密接に結びついている。

製薬品、ワクチン、バイテクの輸出は、高まる医療の研究資金や総合的な無料の医療制度のコスト支払いの一助となっている。現在、医学セクターは、輸出とサービス面において第6位を占め、国に欠かせない外為を提供し、その価値は2002年には2.5億ドルに及んでいる。うち、バイテクだけで1.5億ドル以上を占めている。

■ワクチン

キューバはワクチン開発に莫大な投資を行っている

 1980年代、キューバ政府は、近代的なワクチン実験室やバイテク用の大規模なセンター開発に何百万ドルも投資した。

 そして、1989年にソ連からの援助が終焉し、1990年代の深刻な経済危機により、キューバは、その優れた医学機関を輸出用の新たな医薬品のための戦略的資源と考えている。

 医学研究における最初のブレークスルーは、1980年代後半の髄膜炎B型ワクチンの発見と特許取得であった。それは、ブラジルとアルゼンチンを含め、南米諸国で流行する病気の治療薬として、成功裏に輸出されている。ワクチンは、現在ヨーロッパでは、販売用に「GlaxoSmithKline」の許可を受けており、米国においてすら求められている。

■政治上の障害

カストロは医学部門の開発に賭けた

 だが、国際的な製薬市場で足掛かりを得ようとするキューバの試みは、厳しい米国による輸出禁止によって、商業面でも政治面でも障害に直面している。キューバの強みは、マーケティングや輸出ノウハウにはではなく、製品そのもの品質にある。ここ数年間、キューバのバイオテクの最大の外貨獲得源となっているのは、30カ国以上への髄膜炎B型ワクチンの輸出だが、このキューバのワクチンは、ベルギーや米国により生産されたワクチンよりも効果があることが広く認められているのだ。

 キューバは、おそらく物質的な生活水準においては貧困とされるのだろうが、その医学セクターは人的資源において、その豊かさを強力にデモンストレーションしている。中国、インド、ロシアでは合弁事業によって、キューバの技術に基づくワクチン・プラント設立が進んでいる。

■ヘルス・ツーリズム

多くの患者が治療のためにキューバを旅する

 増えつつあるこれとはまた別の外貨獲得源は、ヘルス・ツーリズムである。多くの専門病院、クリニック、フィットネスクラブとリゾートが、海外からの訪問客を満足させている。

 2002年には、目の手術、多発性硬化症(multiple sclerosis)、パーキンソン等の神経障害、整形外科を含めた幅広い治療を受けるため、5000人以上の外国人の患者がキューバを訪れた。ほとんどの患者はラテンアメリカからのものだが、鳥目としてよく知られている色素性網膜炎(Retinits pigmentosa:訳者:この病気にかかった人 3500人に1人は視力を失う恐ろしい病気だが、これまで有効な治療法がなかった)のキューバのユニークな治療が、ヨーロッパや北米から多くの患者を引き付けている。ヘルス・ツーリズムは、毎年約4000万ドルの収入を生み出している。

 1980年代には、500以上もの様々な医療品が製薬業工により製造され、国内需要の80%を満たしていた。そして、全世界に向け、キューバの連帯組織から国際協力として、多くの医薬品が病院に提供されてきた。だが、現在は、抗生物質やその他の薬品製造用の原料のほとんどは中国から提供されているものの、その生産はいまだに1990年代以前の水準には回復してはいない。

■合弁事業

 西側市場に参入するにあたっての障害から、現在、キューバは、カナダ、ドイツ、スペインの企業を含めた合弁事業のパートナーを見出す政策を取っている。とりわけ、首の癌や乳癌用のキューバの最先端の治療薬は、世界のバイテクに大きな波紋を引き起こした。ヨーロッパ市場でドラッグ「TheraCIM h-R3」を開発する権利は、ドイツの製薬会社の認可を受けたところである。こうしたキューバの多くの医学面でのイノベーションは、商業面でも利益を得る可能性の一部にすぎず、まだ先のことだと分析するものもいる。だが、「TheraCim h-R3」が規制当局の許可を受けるならば、4~5年後にはヨーロッパの標準的な癌の治療薬になるかもしれない。それは、年間30億ドルの売上げになると予測されている。

 バイテクに対する巨額の国家投資というカストロの大きな賭けは、長期的には、医療の恩恵の負担を支払うのみならず、最高の「経済的な報酬」も最終的にはもたらすことになるかもしれない。また、キューバの科学者たちの研究開発は、利益という動機によっては動かされないのだが、世界市場で成功をおさめることは、キューバの科学者たちも大いに満足させることだろう。

 


  Tom Fawthrop, Cuba sells its medical expertise, 21 November, 2003.

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