2005年6月 本文へジャンプ


キューバの育児休業



なぜ、キューバでは育児休業が長いのか

 1970年代の前半以降、キューバでは、その収入に関らず、家事や子育てや保育を妻やパートナーと平等に負担することが、家族法によって男性には求められている。だが、こうした男女平等を実現するうえで、家長的な伝統で世襲されてきたマチスモが障壁となってきた。キューバの法律や規則の多くは、子育てを行い、家事をするのは女性だというステレオタイプな女性の役割を反映・維持するものだった。例えば、1980年代までは、子どもや家族のメンバーに同伴でき、病院に泊まることができたのは女性だけだった。

 キューバは1963年に早くも有給での12週間の育児休業を女性に提供する産休法を採択している。それ以降、法律は何度か改正され、有給での育児休業期間は伸び、産婦や親についてのキューバの法制度は西半球で最も進歩的なもののひとつとなっているのだ。

 妊娠した女性は、職場復帰するまで、出産前6週、と出産後に12週と18週の完全有給での育児休業を取得する権利があるし、給与の60%ではさらに40週が取得できる。母親たちが赤ちゃんともっと多くの時間を過ごしたいこと、そして、赤ちゃんが一歳になるまでは助成金を支給された保育園には入園できなかったことから、女性たちは出産後の有給産休を12週から一年までのばす運動をしてきたのである[1]。そして、これは母乳育児を重視する医師たちからも支持される。

 2001年の法改正以前は、親戚や友人がいない女性は、赤ちゃんが一歳になるまで(1990年以前は45日間)、赤ちゃんの面倒を見たり、その仕事をやってくれる誰かを雇うための財政的な支援がなければ、自分自身で面倒をみるために仕事を止めなければならなかったのだ。

 とはいえ、ごく最近までは、この権利は父親には与えられず、結果として、女性だけが赤ちゃんを育てるべきだとの考え方を強化することとなっていた。だが、2003年には12週から最高1年は給料の60%で育児休業が取得できることとなる。しかも、父親か母親かどちらかがそれを選ぶことができるのだ。カップルが結婚しているかどうかに関係なく、その休暇は父親が取得するかもしれない。つまり、伝統的な家族の義務の隔てを壊すことに向けて、政府は新たなステップを取ったのだ。

 この法律は「子育てへの両親の共同責任」を促進することと明らかに連動はしているが、同法は、父親が出産に立ち会ったり、出産後に数日~数週間を母親を手助けするための有給休暇は認めていない。同法の草案づくりに携わった労働問題を扱う弁護士の一人、ジェルモ・フェリオル氏は、「出産における父親の休暇の問題は、新法では議論されず、結果として考慮されなかった」とコメントしている。男性が、子どもの誕生に立ち会い、母親を手助けするために、出産後に続けて数日を休むには、30日間の年次休暇を使わなければならないのだ。新しく母親となった女性は、出生直後の数週間は、家族や友人たちから助けられるのが一般的だから、立法者は、最初の数日に父親が休めるという状況を考慮していないのかもしれない。

ごく少人数しか育児休暇をとらない父親たち

 歴史的なマチスモ文化からすれば、父親を子育てに全面参加させることを政策的に奨励していることは、まことに革命なことだ。これと同じ権利を父親が得ている国は、西半球ではそれ以外ではカナダしかない[表1]。とはいえ、これまではごく少人数の父親しかこの新たな法律を活用していない。キューバ中央労働組合(CTC)の週刊紙、トラバハドレスは、2年ほど前から新法が施行されて以来、母親が職場復帰し、その代わりに在宅での育児休業を伸ばして家事や赤ちゃんの子育てをしている父親はたった17人だけだと報告している[3]。

 表1:各国の育児休業政策

  産休の期間  給料の受領率  コメント
アルゼンチン 12週  100%
ペルー 12週 100%
 チリ 18週(出産前に6週、出産後に12週)   100%
メキシコ 12週(出産前に6週、出産後に6週) 100% 妊娠か出産のために働けない場合は、50%の給与で産休がさらに60日間延長されることがある
キューバ 18週(出産前に6週、出産後に12週) 100% 60%の給与で、母親か父親のどちらかがさらに40週間の育児休暇が可能
カナダ 15週 55% 母親か父親のいずれかがさらに37週の育児休暇が取得可能
米国 12週 0%


ごくわずかの父親しか、この選択をしていない理由は様々だが、トラバハドレスの情報によれば、基本的理由は二つだ。
1) 多くの男女が、この選択肢があることをまだ意識していないか、その適用を完全に理解していないこと
2) 男性の参加を奨励する努力にもかかわらず、女性が主に子育てをし続けていること。

 ある男性労働者は、なぜ、赤ちゃんの面倒をみないのかの理由を説明する。

「赤ちゃんが泣いて、その理由がわからなければ、食事を与え、おしめを変えたり、抱っこをしたり、哺乳瓶を与えたりするのが大変です。そんな状況で何をしたらよいかわからないのです」

 また、たいがい女性たちは、最初の一年は赤ちゃんと一緒にいたがる。母乳での育児が医師たちから奨励され、新しい母親は、毎日仕事から1時間離れる権利すら与えられている。だが、多くの女性は、これでも不十分と思っているかもしれない。手動や電気式の搾乳器がまだ広く利用可能ではないからだ。娘が2002年に娘が生まれた弁護士、アレハンドラ・ゴンサレスさんは、子どもと一緒にいたかったので、自分が子育てをすることにこの伸びた産休を使ったと語る。夫もたくさん助けてはくれるが、ゴンサレスさんは「別の子どもをもっても、やはり夫ではなく自分が産休を取るでしょう。まるまる1年も専門職業をほったらかしにしておくのは難しいのですが」と語る。

なぜ、父親も産休を取得するのか

 あるリポートによれば、赤ちゃんと一緒に家庭で主夫業に専念することを選ぶ父親がいるわけは、経済的な理由や男性の性格によるという[4]。いくつかの場合は、女性の給料の方が男性よりも良いために、父親が子どもと家にいるべきだとカップルが決めることにつながっている。

 また、新法が採択される前から、生まれたばかりの赤ちゃんの面倒を見ていることを数人の父親は詳しく話している。

 トラバハドレスの報告では、報道カメラマン、ランディ・ロドリゲス氏は、幼い娘をお風呂に入れて、保育園に連れて行く前に毎日朝食を作っていることから、職場の同僚からは冷やかされているという。別の父親、ピナル・デル・リオ州のある産業整備士は、妻の方が稼ぎが良いため、妻がキャリアを続けられるよう、娘の世話のために仕事をやめた。氏は法律がなかったことを嘆く。 さて、新法では、もしも、出産中か出産後に母親が死去した場合は、父親はさらに仕事を休める。以前は、子育てのためには父親には仕事を止める以外の選択枝がなく、母親が受けられる補助金や保証の資格もなかった。だが、新法では、そうした状況では、出産後の12週はフルの有給での育児休業、給与の60%では最大1年の休暇が父親には与えられる。しかも、この育児休業の権利は、祖父母やそれ以外の親戚が父親に代わって行使するかもしれない。

健康なお産と赤ちゃんのためのさらなるメリット

 キューバの制度は、健康な子どもの誕生を促進するために構築されているから、明らかに母親だけを対象としている。多くの労働法も妊娠中に害があるかもしれない活動から女性たちを守ることを意図している。しかも、女性たちは妊娠した時点から、胎教のために6日(または、半日の12日間)の有給休暇を取得するかもしれないし、法律により34週間(多胎の場合は32週)仕事を休むことを求められ、お産までは完全に有給だし、出産後も12週間はフルの有給での育児休業が取得できる。おまけに、子どもが生まれた後も、0~一歳児の間は、定期的に健康な赤ちゃんの健康診断を受けることを法律は促進している。だから、もしも子どもが病気にかかって、どちらの親も助成金を支給された育児休業を取らなければ、父親であれ、母親であれ、子どもを小児科医に連れていくために月に一日を休む権利が与えられるし、賃金なしにもっと休むかもしれないのだ。


 Debra Evenson , Cuba's Maternity Leave Extended to Fathers, But Few Dads Take It, , MEDICC Review, No.6,June 2005.