2006年1月17日 本文へジャンプ




キューバのバイテク産業

 

 

キューバの医薬品輸出は、外貨獲得の一助となっている

 キューバは、長らく生きのびるために、観光と葉巻やニッケルの輸出に依存してきた。だが、いま静かにその困難な経済を転換できる印象的な医療部門を築きあげつつある。

 キューバの保健省の職員は、18億ドルをあげ、伸びている観光産業は、ナンバーワンの外為獲得源として、バイテク合弁事業、ワクチン輸出、他国への医療サービスの提供に追いつかれると語る。

 癌研究や治療では既にキューバは、数カ国で成功をおさめた臨床試験で、世界のリーダーとされている。2005年には、キューバの医療福祉予算は、バイオテクノロジー輸出の倍増により3億ドルに高まり、キューバは外国人の患者と他の医薬品、診断設備と機器を輸出することで稼いでいる。2005年には、ハバナからの癌治療の技術移転で、中国に合弁事業のバイオテクノロジー・プラントが開設された。そして、今年は、キューバは西洋に目を注いでいる。

 ドイツのバイテクOncoscience商会は、登録を希望し抗ガン剤「TheraCIM h-R3」の臨床試験を行っているし、米国政府が貿易封鎖の例外に同意した後には、カリフォルニアのCancervaxがこれとはまた別のキューバの癌治療薬を試験することが期待されている。

 「もし、私どもが西側市場にアクセスする手段を得るならば、このハイテク部門は、キューバ経済全体の機関車になるかもしれません」

 分子免疫学センター(CIM)の科学者、ロランド・ペレス博士はそう語る。

成長のためのエンジン

 

カストロは、キューバの人的資本は豊かであると主張する

 1959年に権力を掌握して以来、フィデル・カストロ国家評議会議長は、世界的な医学の力を創造することを欲していた。もっとも、医療部門が収入源と考えられるようになったのは、財政的に援助していたソ連が1991年に崩壊した後のことである。

 1990年代に、キューバは髄膜炎B型ワクチンを初めて開発・販売する最初の国となり、これによって輸出収入は高まった。その後、B型肝炎ワクチン輸出は急増し、現在では、中国、インド、ロシア、パキスタン、ラテンアメリカ諸国を含め、30ケ国に出荷されている。

 現在、期待されているのは、40年以上もの懲罰的な米国の経済封鎖の重さにうめき、カストロ首相のもと何10年間もの経済政策の失敗のため、貧しいままにおかれている経済から、キューバが転換する一助に医療部門が、なることである。キューバの困難の原因が何であれ、多くの老朽化した建物や今にもくずれそうな店、そして、頻繁な停電という発展不良の経済と、高度な医学的、科学的な部門とがともに存在しているのだ。

 79歳になるカストロによれば、キューバの開発モデルは、国の人的資源と科学の富を利用し、医療周辺域に重点を置くナレッジ経済を構築することに基づいている。カストロは最近の会議でこう語った。

「我々が破産していると考えるものがいるかもしれない。だが、そうではない。我々は前進している。人的資本には、金融資本よりもはるかに多くの価値があるのだ」

皆無の頭脳流出

 

キューバには170人の患者あたり1人の医師がいる

 カストロは、1980年代に初めてバイオテクノロジーに投資し始めた。20年間を経て、その医療部門の拡充とナレッジベースの経済の萌芽で、ポスト・カストロ時代のキューバの見通しはばら色に見える。

 だが、このサクセス・ストーリーは懸念も呼んでいる。もし、キューバの医学の専門家が、以前にかなりの金銭的な報酬で米国に誘い出された何人のキューバのスポーツのスターの跡に続くと決意したらどうなるのだろうか。

 だが、ペレス博士は多くの科学者がいる実験室を示し、こう述べる。

 「私どもは、米国では科学者が高給を得ていることを知っています。私の月給は、40米ドル以下、665ペソだけです。ですが、私どもは満足し、イノベーションのある環境で働いているのです。あなたはここの誰とでも自由にインタビューできます。私ども金銭や商業的利益に動機づけられているのではなく、より高い命を救うミッションに動機づけられているのです。私どもはそのいずれも失っていません。米国に亡命するものは誰もいません」


国際的医療

 

「私どもの科学は経済の一部です」と、語る癌の専門医ペレス博士

 だが、このことは、キューバの医療従事者が海外で働いていないと言うわけではない。人道主義的ミッションにより、68カ国に2万5000人ものキューバの医師が配備されており、医療チームは、ツナミとパキスタン地震の犠牲者を援助している。

 さらに、2005年には、47カ国の発展途上国からの1,800人の医師がキューバで卒業した。そして、発展途上国からの医大生が学ぶための奨学金も提供されている。南アフリカなどのそれ以外の海外のミッションでも、キューバは保健省の予算で、海外の医療制度を援助しており、ベネズエラはキューバの医療サービスと石油との貿易に同意している。

 最近の協定のもと、ベネズエラのバリオス、貧民街に居住する人々に無料の医療活動を行うため、キューバは1万4000人もの医療従事者を送り込んでいる。そこでは、多くの住民は以前には一度も診察を受けたことがなかったのだ。しかも、ベネズエラの患者は、キューバの病院で無料で外科手術や専門的治療を受けられる。その見返りとして、ベネズエラは15年間、キューバへの石油価格を最大4分の1まで値下げすることとしている。それは、10億ドル価値に相当する。結果として、現金不足のキューバ経済は、日量9万バレルの石油供給が担保されているのだ。


国内の医師不足

 にもかかわらず、人々が無料で包括的な医療制度に慣れたキューバ人民は、この大量の医師の流出に苦情や不平の声をあげている。WHOによれば、米国では医師と住民との比率は1対188だが、キューバでは住民170人毎に一人の医師を提供している。もっとも、最近は、キューバは、より少ない医師でやりくりせねばならず、治療を受けるにあたって時々順番の列が作られることもある。そのうえ、2005年9月の白内障やその他眼病に苦しむラテンアメリカやカリブ海の約600万人もの貧しい人々の視力回復を行う「手術の奇跡」プロジェクトの立ち上げに続き、いくつかの病院はその翼をむしりとられ、いくつかのホテルは眼科手術患者を収容するために休業した。だが、癌の専門家ペレス博士にとっては、それは価値あるトレードオフなのだ。

「キューバの癌患者全員が無料の治療を受けられることを目にしたいので、私どもは公共医療への資金が必要ですし、生活水準を改良するのにもお金が必要です。私どもの科学は経済の一部なのです」


 Tom Fawthrop, Medical know-how boosts Cuba's wealth, 17 January 2006.