■WORKS■

紙と私

いま、関心を持ち追求している私のモチーフは『触覚』です。紙をステージに、紙との対話を通して、このモチーフを顕在化させてみました。現在、すべてが表層的で、視覚が優先されてしまい、『触覚』が忘れさられています。
ぶつぶつ、ざらざら、ふわー、つるー、すべー、ごわごわ、これらの感覚は、直接手に触れ、あるいは、視覚を通じて私たちの感情に深く作用します。この表面の感覚『触覚』への関心が、私をとらえて離さないのです。溶かされた原料が、そのステージ上で、手、指先を通して作り上げられるのです。その手、指先の偶然をも含めた軌跡と、光、風、水、との共同作業、私の力の及ばぬところで、光が、水が、風が、味方になったり、敵になったり、緊張と受け身と、そして新しい作品の誕生です。
かずかずの素材のなかにあって、墨色と紙のただならぬ関係に、私は祈りにも似た、深い思いにとらわれます。墨色、その匂い、それは無意識に私たちの心身全体で受け取っていて、身近なもの、その豊かなふくらみを、深さを、この紙を通して味わってほしいのです。眼を閉じた時、視覚をさえぎられた時、触覚が生きかえってくるのを感じます。内部で、安息の状態で、活動を始める『触覚』とその振動をふれあってほしいのです。

友田多恵子

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