台風のくるある日



黒い雲が空を駆けていく。
風が吼え、ばたんばたん、と家が音を立てている。



「志摩子さん・・・・・・。」
乃梨子が目を覚ましたようだ。
「志摩子さん。」
私の肩に体をあずけ、手をにぎってきた。
その手は私の心までも温めてくれる、そんな手。
けれどその手は今かすかにふるえていて・・・。

「乃梨子。こわいの?」

「うん・・・・・・少しだけ、少しだけこわい。」
「そう。どうして怖いの?」
「どうして・・・・・・。ねえ、志摩子さんは台風が怖くないの?」
「私?私は怖くはないわね。むしろ好きね。」
「好き?台風が?」
「ええ。おかしい?」
「おかしくはないけど・・・・・・。」

乃梨子は理解できないという風に私の目をみるけれど、
私は台風が好きだ。
特に九月に来る台風がいい。
あの夏の名残りを含んだ生暖かい風が荒々しく吹くのが好きだ。
空が灰色でもない、黒色でもない色に変わって、
あたりに湿気った、あのなんともいえない匂いの空気がたちこめてきて、
そして雨が降る。
それはもう本当によく降る。
ざあざあと音をたてて、おもわず気持ちよく思ってしまうほどだ。

降りだした雨と荒々しい風は町に住み着いている空気を洗い流し、何処かへと運んでいってしまう。
タバコの煙の匂い。
自動車の排気ガスの匂い。
人の出すゴミの匂い。
工場の煙突からでる煙の匂い。
そういった人の生み出す不快な匂いをきれいさっぱり消し去ってくれる。

そして待ちに待ったクライマックスがやってくる。
わたしも2,3度しか経験をしたことがないのだけど、
それは町がすっぽりと台風の目に入るその時だ。

その時、世界は一つの異界に変わる。

雨も風もやみ、あたりには木々の匂いが鮮明にたちこめる。
私は、自分の服が濡れることもお構いなしに外に出て、
体全体で、体全ての感覚でその世界を感じる。
それは本当に気持ちが良くて、これ以上の幸福はないのではないかと思えてしまう。

しばらくして、再び風が吹き、雨が降り、
世界は元に戻っていく。



いつの間にか乃梨子の手の震えがとまっていて、
私がしゃべり終えるとその手を離して、扉のほうへとむかっていった。
「乃梨子・・・。」
「ねえ、志摩子さん。外に出ない。」
「外に?」
「うん、外に。
 志摩子さんといたいの。志摩子さんの好きな世界を私も感じたいの。」
「そう。なら一緒にいきましょう。」

私と乃梨子は一緒に外へと出て行った。
空は暗く、もうすぐ雨が降りそうだ。
今日はあの世界を感じることができるんだろうか・・・。



〜あとがき〜
え〜何が書きたいんでしょうね。書いてる本人にもわかりません。すみません。

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