girl friend
チャリン・・・
私が店のドアを開けると待ち合わせていた親友はもう既に来ていて、カウンターに座ってカクテルを飲んでいた。
「おひさしぶり〜蓉子。」
「ええ、ひさしぶり、聖。まったく、あなたは本当に変わらないわね。
昨日、突然電話をかけてきて飲もうと誘ってきた本人が普通約束に30分もおくれる?
もうそろそろ帰ろうかと思ったわよ。」
「ごめん、ごめん。道が混んでて。」
「それは日曜に車に乗ってくるあなたが悪いんでしょ。」
「いや、車じゃなくてタクシーで来たんだけどね。それに道が混んでいたのは事故のせいだし。」
「あら、そうなの。なら、しかたないわね。ごめんなさい。」
「別にいいんだけどね。蓉子、何飲んでるの?」
「ああ、これ。ジントニックだけど。」
「ふ〜ん、私もそれもらおうかな。マスター、彼女と同じのください。」
「しかし、それにしてもどうしたの?突然呼び出して。」
「特に何もないんだけどね。ただ突然会いたくなっただけ。
高校を卒業してからは、まあ何度か電話したり、町であったりもしたけど、時間をとってゆっくりと話をする機会はなかなかなかったでしょ。
だから蓉子、今どうしてるのかなとおもってね。」
「そうね・・・確かにこうやって会うのは二年ぶりね。
リリアンにいた頃は毎日顔をあわせていたのにね・・・。
本当にあの頃は・・・。」
私は、おや、と思った。
蓉子の声には過去を、リリアンにいた頃をひどくなつかしんでいる感じがして、
宙を見るその目はあの頃を思い描いているふうだから。
何かあったんだろうか。
だって今私の目の前にいる蓉子は私の知っている蓉子とは違っていたから。
蓉子は強い人間だ。
すくなくとも私なんかよりはぜんぜん強い人間だ。
常に前を見て、そしてそれに向かって突き進んでいける人間。
今、つらいことがあったとしても過去に逃げ込むような人間ではない。
でも、今私の目の前にいる蓉子はなんだか過去に逃げ込んでいる人間に見えた。
「ねぇ、蓉子。何かあった?」
「え・・・。どうして・・・。」
「だってなんだか様子がへんだもん。」
「そう?」
「うん。ねぇ、本当に何かあったんじゃないの。私でよかったら相談にのるけど?」
「・・・・・・。」
蓉子がそう簡単に話すわけはないか。
自分で何でも解決できるような人間だから、
たとえ何かあったとしても誰かに相談するようなことはしないだろう。
それに・・・もしかしたら今の蓉子には自分の心のうちを相談できるような友人がいないのではないだろうか。
私は思い切って一つの可能性を蓉子に聞いてみた。
「蓉子・・・今もしかして‘孤独’?」
「・・・・・・。」
私が問いかけると、蓉子のグラスを持つ手が一瞬とまった。
それを見たとたん私は、ああ、やっぱり、と思った。
別に蓉子に友人がいないというわけではない。
いや、きっと蓉子のことだ。大学に友人がたくさんいるだろう。
でも・・・はたしてその中に蓉子が心許せる人間はいるのだろうか?
おそらく一人もいないのだろう。
けれど・・・その原因は蓉子自身にあるのだろう。
蓉子は人よりも頭がキレる。
頭のキレる人というのはそれだけでかなり孤独だ。
大勢の、普通の人達にはみえない、そしてみなくてもいいものが見えてしまうから。
例えば人間関係の中に・・・。
人が大人になればなるほど新しくできる人と人との関係には一種の利害関係が絡んでくるものだから・・・。
それは例えばお金がからむものだったり、他人の損得勘定だったりする。
もちろん高校時代にも全くそんな人間関係がなかったわけではないだろう。
でも、まだそのころは自分も含めて周りにいる子達はやっぱり子供なわけで。
そして子供は残酷なまでに純粋だから。
だから善意や悪意といったものをそのままだしてしまう。いちいち裏側にあるものを考える必要もないくらいに。
でも大学生にもなると周りの人達も変わってくる。
大学は高校までのどこか排他的な環境とはうって変わって社会に開かれた環境だから。
だからみんな自然に大人の世界に染まっていく。
そして知らず知らずのうちに物事にたいして無意識に打算的になっていったりする。
もちろん人間関係においてもだ。そしてそういうものを簡単には外に出さない。
でもそれは仕方の無いことだ。
だっていつまでも純粋なままで生きていけるほどこの世界はきれいではないから。
それに多くの人はそんなことに気づかない。
でも蓉子のように頭が良くて、そして何事も論理だてて考えてしまう人間は、
無意識のうちに他人からのやさしい言葉や親切を解体してしまって、損得の通る一本の道を見つけてしまうんだろう。
そうして見える世界は、冷たい、からっぽの世界・・・。
「ねぇ、蓉子。今日は朝まで飲みあかそ。」
「・・・・・・。」
「ほら、もういつまでも黙ってないの。」
「・・・・・・。」
「蓉子ってば。」
「・・・そうね。今日は朝まで飲みましょうか。」
「そうそう。じゃんじゃん飲もう。」
でも、私は蓉子に今しっかりと伝えたい。
あたたかな世界があるのだということを。
あなたの隣には、あなたとの純粋な友情を持つ人間がいるのだということを。
結局、私達はその後酔いつぶれて、日が昇り始めた頃に店を出た。
私と蓉子は今互いに無言で朝の公園を歩いている。
まだ誰も吸っていない新鮮な酸素を吸いながら。
蓉子が足を止めた。
「どうかした、蓉子。」
蓉子は短く、
「今日はありがと。」
そう言った。
だから私も短く、
「どういたしまして。」
そう答えた。
私達はまた無言で歩き始めた。
私は青い澄んだ朝の空を見上げて歩きながら、
言葉がなくても互いをわかりあえる、そんな女友達ってすばらしい。
と、そんなことを思っていた。
fin.
〜あとがき〜
も〜なんか支離滅裂で・・・。今はため息しかでません。
もしかしたら、しばらくして書き直すかもしれません。グス(>_<)
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