「さよなら」

その言葉を、かつての私達は、救いようのない結末にしか結び付けられなかった。

けれど、一つの物語が、「さよなら」の本当の意味を私達の教えてくれた。

それは、リリアン女学園の薔薇の館のある住人達の物語。

それは、まるで、「さよなら」をするためにした恋の物語。

それは、「さよなら」という言葉が、決して別れの言葉ではない、始まりの言葉なのだと教えてくれた物語。

それは、4人の天使達の、優しさ、迷い、弱さ、過ちが生んだ物語。

すこしの不幸と幸福がつまった物語。










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『始まりの扉』










始まりはいつも何気なくやってくる。本当にそう思う。










「あ、祐巳ちゃん。」
「ごきげんよう、蓉子様。」
「ごきげんよう。」
「いったいどうしたんですか?確か三年生はもう卒業式まで特に来なくてはいいはずだったとおもいますけど。」
「ああ、すこし用事があってね。それに家にいても仕方ないでしょ。だから、わりと学校へはきているのよ。」
「そうだったんですか。」
「ところで、祐巳ちゃん一人?他のみんなは?」
「あ、令様と由乃さんは用事があるとかで先に帰ってしまいまして、祥子様も今日は体調が悪いとかでお昼で帰ってしまいました。」
「そう。なら祐巳ちゃん、私と一緒に帰らない?もう帰るとこだし。」
「はい。」

ん?・・・向こうから歩いてくるのは・・・

「江利子!それに聖。」
「あら、蓉子じゃない。それに祐巳ちゃん。ごきげんよう。」
「ごきげんよう、江利子様、聖様。」
「ごきげんよう、祐巳ちゃん。」
「それにしてもどうしたの?江利子と聖が一緒にいるなんて珍しい。」
「あぁ、たまたまそこで会ったのよ。二人とも今から帰るの?」
「ええ。」
「なら、一緒に帰りましょう。それに、せっかくだし何処か寄ってかない?カラオケなんかどう?」
「あら、いいわね。」
「あ、ごめん。実は私、先生に呼ばれてるんだ。だからパス。」
「聖・・・あなた、また何かしでかしたの?」
「また、とはなによ。失礼ね、蓉子。ただ、なにか話があるから呼ばれてるだけよ。」
「そう。なら、私達三人で行く?」
「三人ねぇ・・・。祐巳ちゃん、他のみんなは?」
「あ、みなさん先に帰ってしまいました。」
「そう・・・う〜ん。」
「悪いけど、私もう行くね。じゃあね〜。」
「あ、ちょっと、聖・・・」
「あ、・・・聖様・・・。」

/

「聖様・・・。」
そう淋しげにつぶやく彼女を見て、私の憶測は確信にかわった。

以前から、もしかしたら、と思っていた。
彼女の聖に向ける視線には、一人の先輩に向けるそれではない、それ以上の想いが秘められているようだったから。

「祐巳ちゃん・・・聖のことが好き?」
「・・・・・・。」
祐巳ちゃんは顔を真っ赤にして、下を向いて黙りこんでしまった。
「そっか・・・好きなんだ・・・。」

そっか・・・好きなんだ・・・。

祐巳は本当にいい子だ。
私が祥子の事を何の心配もなくまかせられるほどに。

だから・・・この子になら・・・聖のこともまかせられるかもしれない。

私は聖とは別の大学へと行く。
だから、今までのように親友に何かあっても、私には助けることはできない。

でも、祐巳ちゃんなら・・・
祐巳ちゃんなら少なくとも私よりも聖の傍にいることができる。
聖に何かあったときに隣にいて支えることができる。

それに、祐巳ちゃんは私にはないものをもっているから。私には望んでももちえないものを。
だから、私には出来なかったことを、私がしたかったことを、祐巳ちゃんならできるかもしれない。

そう思ったから、私は自分の気持ちを心の底、深くへと沈めていった。

「だったら祐巳ちゃん、聖にその想いを告げないとだめよ。言葉にしないと想いを伝えることはできないんだから。」
「でも、私にはお姉さまが・・・。」
「祐巳ちゃん、姉妹は決して恋人ではないのよ。」
「・・・。」
「大丈夫よ、祥子ならわかってくれるわ。
 それに聖もきっと祐巳ちゃんの想いを受け止めてくれる。」
「だから、本当に聖の事が好きなのなら、想いを告げなさい。」
「・・・はい。」



私が始まりの扉を開いたんだろう。
私が、自分の気持ちを偽ることがなかったのなら、この物語の扉はきっと開かなかった。きっと。



/

「聖様・・・。」
走り去る親友の背を見ながら、そうつぶやく祐巳ちゃんを見て、私は知った。
この子は聖のことが好きなのだと。

私は祐巳ちゃんの笑顔が見たかった。
だって祐巳ちゃんは本当に笑顔のすてきな子だから。

だから、想い人の隣を手をとりあって歩く祐巳ちゃんの幸せに満ちた笑顔を見たかった。

それに、蓉子が祐巳ちゃんに『想いを告げなさい』と言ったから。

だから、私も・・・

「そうよ、祐巳ちゃん。聖に告白しちゃいなさい。
 聖ってば、あれでいて案外鈍いから言わないときずいてもらえないわよ。」

「・・・・・・江利子様、・・・なんか楽しんでません?」
「えっ!?そんなことないわよ。私は純粋に応援をしているだけよ、祐巳ちゃん。」
「・・・・・・目が輝いていますけど・・・・・・」
「だって、おもしろそうじゃない。」
「やっぱり、楽しんでるんじゃないですか!」





本当に祐巳ちゃんと聖のことは応援する気持ちだった。友人として。


でも・・・


もし、祐巳ちゃんと聖が結ばれたら、彼女は聖のことをあきらめるだろう。
そうしたら、私は・・・・・・きずいてくれるかもしれない。
聖のことばかりを見ていた彼女が私にきずいてくれるかもしれない。
私のことをみてくれるかもしれない。


そんな気持ちも確かにあった。





結局、私は自分のために祐巳ちゃんを利用しようとした。

だから、私もこの物語に関わらずにいることなんてできなかった。

途中で逃げ出すこともできなかった。



だって、私もこの身勝手な感情によって確かに『始まり』に関わっていたんだから。



/



「・・・何?蓉子。」
「聖、今日の放課後・・・・・・用事でもある?」
「いや、今日はなにもないけど。」
「なら、ちょっと付き合ってよ?」
「別にいいけど・・・何?」
「あぁ、話はあとでね。とりあえず丘にきてくれない」
「丘ぁ!」
「そっ!あ、一人できてね。お願いだから。」
「何で?」
「なんでも。ちゃんと来てよ。もし来なかったら許さないわよ。」
「わかった、わかったって。」

しかし、いったいなんなんだ。わざわざ、人を呼び出したりして・・・
それに一人でこいなんて・・・

「それにしても、蓉子が私に用があるなんかめずらしいじゃない。また、蓉子お得意のお節介?」
「・・・・・・そうね、多分そうね。」

なんだ?その遠くをみるような目は・・・

「聖・・・ちゃんと来てね。」

「う、うん・・・わかった。」

断ることなんてできなかった。
蓉子は・・・どこか寂しげな顔をしていたから・・・。





/





でも、ずっと後になって時々思うんだ。
もし、この時、私が約束を破っていたら、未来は変わっていたんだろうか?
変わっていたら、私達はどんな未来を歩んでいたんだろうか、と。





/





まだ来てないのか、蓉子。

丘の頂上にくると、あたり一面に草木の香りが漂っていて、そこは確かに冬の終わりを告げていた。

しかし、大事な話ってなんだろう。

一人で来いなんて・・・

まさか、蓉子・・・

でも、蓉子は・・・



ガサガサ・・・



「あっ、・・・・・・ご、ごきげんよう、聖様。」
「え・・・祐巳ちゃん?」
「どうして・・・もしかして、祐巳ちゃんも蓉子に呼ばれたの?」
「えっ、・・・あ、はい。」

「そっか、祐巳ちゃんも呼ばれたんだ。」

私一人が呼ばれたんじゃなかったんだ・・・。

私はそのことに何故だかがっかりしている。
まったく、何を期待していたんだか・・・。

「よいしょっと」

私は斜面に腰を下ろした。

「祐巳ちゃんもこっちに来て、腰をおろしたら。もうすぐ蓉子も来るだろうし。」
「あっ、はい。」

今日は祐巳ちゃんも様子がおかしい。
さっきからほとんどしゃべらないし、それに、何かにおびえている感じ。
その何かが怖くてしかたないのだけど、必死で耐えている、そんな感じ。

「蓉子に教えてもらったんでしょ、この場所。・・・いいところでしょ、ここ。」
「・・・・・・はい。」
「三年生になってすぐにこの場所を見つけてね、それ以来私のお気に入りの場所なんだ。」
「・・・・・・」
「夕日、きれいでしょ。」
「はい。」
「私はこの場所から、リリアンや町全体を見渡せるこの場所から見る夕日が一番好きなんだ。」
「あ、あとね、夏にここから見る星空も好き。あの夜空一面に広がる星空の景色はここらへんではなかなか見れないよ。」
「・・・・・・」
「ねぇ、祐巳ちゃん。何かあった?さっきから様子が変だけど。」
「・・・・・・」
「まぁ無理に話してくれなくてもいいけどね。」

「知っていました。」
「えっ?」
「ここが・・・聖様のお気に入りの場所だって、私・・・知っていました。」
「聖様がこの前、昼休みに学校から出ていって、私それを偶然見ていて・・・それでどうしようかなって思ったけど、そのままついていって、
 そしたら、聖様はここに来て、・・・・・・聖様ほんとうにいい顔をしていて、それでここが聖様にとって特別な場所なんだって・・・」
「そっか、・・・知ってたんだ。」
「ご、ごめんなさい。」
「ははは、別に謝ることなんてないよ。すこし探せば誰にでも見つけられる場所だしね。」

「祐巳ちゃん、あそこ見て。」
「えっ」
「ほら、あそこ。白い砂浜がみえるでしょ。夏になったら山百合会のみんなで海にいこ。」
「海ですか?」
「うん。祐巳ちゃんは海嫌い?」
「嫌いじゃありませんけど、・・・どうしてですか?突然海にいこうだなんて。」
「う〜ん、それはね・・・」
「それは・・・」
「水着姿の祐巳ちゃんをこんな風に抱きしめたいからだよ〜ン!」
「えっ?ちょっっ!・・・・・・・・ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」
「ぷっ、クスクスクス、あっはははははははは。」
「ひ、ひどい!そんなに笑うことないじゃないですか!」
「ごめん、ごめん。」
「でも・・・やっといつもの祐己ちゃんらしくなったじゃない。祐巳ちゃんはいつもの祐巳ちゃんでいるのが一番いいよ。」

祐巳ちゃんは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
でも、やっぱり思うんだ。
祐巳ちゃんはいつもの祐巳ちゃんでいるのが一番いいって。
そんな祐己ちゃんといると、何故だか私は心が温かい気持ちになるから。

「それにしても、蓉子の奴いつになったら来るんだか。人を呼び出しておいて。ねぇ祐巳ちゃんもそう思わない?」

祐巳ちゃんのほうを向くと・・・
祐巳ちゃんはもう顔を真っ赤にしてはいなかった。
笑ってもいない。
ただ・・・私を見ている。
私が見たことのない表情をして、私を見ている。

「蓉子様はここには来ません。」
「え・・・。」
「聖様を呼んだのは・・・私です。だから、蓉子様は来ません。」
「それは・・・」

・・・いったいどういうこと?
何故だか私はひどく緊張している。
私を見つめる祐巳ちゃんに。
自分の心臓の鼓動が聞こえるほどに。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「好きです!私、聖様のことが好きです!」

・・・・・・えっ?
今、祐巳ちゃんはなんて・・・

「ほ、本当は想いを告げようなんて思っていませんでした。・・・でも、・・・聖様の卒業式が近づくにつれて・・・聖様がいなくなる日が・・・
 一日、また一日と近づくにつれて・・・・・・・想いがどんどん大きくなっていって・・・・・・・だから、好きです!」

祐巳ちゃんが・・・私を好き・・・
姉の祥子じゃなくて、私を。
それは、もちろん『愛している』という意味で。



私は・・・



「・・・・・・・」



祐巳ちゃんは下を向いている。
今にも泣き出しそうな顔を隠して。
不安で、その小さな体を震わして。



私は・・・

どうしたらいい・・・

私は・・・

確かに祐巳ちゃんのことは『好き』だ・・・

けれど、その『好き』は・・・

でも、今の祐巳ちゃんは・・・




















「・・・好きだよ、祐巳ちゃん。私も。」




















顔をあげた祐巳ちゃんは明るい表情をしていた。
今まで私が見たことのないような明るい笑顔。

「・・・ありがとうございます。・・・・・・・うれしい・・・・・・・。」

祐巳ちゃんは目に涙を浮かべていた。

その涙はうれし涙なんだろうか・・・










私は・・・










/





わかっていた。初めから。
でも・・・それでも・・・私は・・・

あの時、私がもし・・・もし・・・

物語の扉は開かなかった。きっと。





/

プルルル、プルルル

「はい、佐藤ですが?」
「あ、聖。私。」
「蓉子・・・いったいどうしたの?電話なんて珍しい。」
「うん、やっぱり気になってね。・・・祐巳ちゃんに告白されたでしょ。なんて返事した?」
「okしたよ。私も好きだって。」
「・・・そう・・・そっか・・・」
「うん。」
「・・・聖、わかってると思うけど祐巳ちゃんは本当にいい子よ。それに祥子の妹。私にとっても大事な子。だから、泣かせたりなんてしないでよ。」
「わかってるよ。」
「そう、わかっているならいいけど・・・。」
「蓉子、もう電話切るよ。夜も遅いし。」
「ああ、ちょっと待って、聖。最後に一言だけ。」
「何?」
「祐巳ちゃんは離れていかないわよ。」
「・・・・・・」
「それじゃあね、おやすみ。」
「うん、おやすみ。」

離れていかない・・・か。

でも、きっと・・・・・・。

蓉子、本気で怒るだろうな。
私はきっと祐巳ちゃんを泣かしてしまう。

祐巳ちゃんのことは好きだ。でも、それは祐巳ちゃんがいった『好き』ではない。

私は、ただ祐巳ちゃんを悲しませたくなかった。

祐巳ちゃんの泣いている姿なんか見たくない。
祐巳ちゃんの笑顔を見ていたい。
私の心をどこか温めてくれるあの笑顔を。

だから、私は嘘をついた。





怖かった・・・





あの笑顔が見れなくなってしまうかもしれないことが。
もし、あの笑顔が祐巳ちゃんが傷つくことでかわってしまったら。





怖かった・・・
























祐巳ちゃん、本当にいい笑顔していたな

























ごめん・・・ごめんね・・・




















/



後になってこの時のことをすごく後悔した。
あんなことが起こるなんて。



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〜あとがき〜

どうも、神城昴です。

今回は連載ものです。(本当に続けるのか?)
一応『君が望む永遠』とのクロスオーバーのつもりです。
まぁ、けれど管理人、アニメで見た『君が望む永遠』のストーリーが気にいって、それをマリみてでやりたいと思っただけなので、
最終的にかぶっているのはストーリーのおおもとだけということになると思います。

だいたい、『君が望む永遠』では主人公達同学年ですから、マリみての人物達の設定をそのままにしてやるなんて無理ですし、
時間軸も確かあっちは夏でしたしね。
このお話は卒業式のすこし前ぐらいの設定でかいています。(そうしないとめんどくさくて書けない)
そもそも管理人、クロスオーバーの意味を正しく理解しているかもあやしいですし。

こんないい加減な感じですが読んでいただければありがたいです。それなりにアレンジもするつもりですし。
ではでは〜。




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