『Bye Bye Blackbird』
〜1〜
何故だろう・・・
最近よく夢を見る
彼女の夢を
ひさしく見ることはなかったというのに
何故・・・
/
最近、聖さまは変だと思う。
「聖さま!」
「・・・祐巳ちゃん、 ごきげんよう。」
「ごきげんよう、聖さま。」
聖さま・・・・・・
私の恋人。
私が心から愛している人。
・・・・・なんだけど、
「聖さま、春休みに何処かへいきませんか?」
「ん・・・、そうだね・・・・」
なんとなく最近よそよそしいような気がするのは祐巳の気のせいなんだろうか?
いや、 ちがう・・・
聖さまは私にたいして冷たい態度をとっている。
でも、・・・どうして?
つい先週まではあんなに仲良くしていたのに。
いつも笑って私の隣にいてくれたのに。
けれど、今週にはいってから急にそっけなくなって、
あまり笑わなくなって、話しかけてくれることもすくなくなって・・・
私・・・何かしたんだろうか・・・
「聖さま・・・」
「・・・何」
「・・・あ、いいえ、・・・なんでもないです。」
「・・・そう」
聖さまの背中がどんどん遠のいていく。
けれど、・・・歩を前に進めることができない。
さっき聖さまの目に一瞬よぎった感情がはっきりとわかったから。
『拒絶』
どうして・・・
わからない・・・
なぜ、こうなってしまったの?
どうして、・・・どうしてなんですか、 聖さま・・・
私の問いかけに答えてくれる人は誰もいなくて、
気がついたときには私の視界にもう聖さまはいなかった。
/
夢を見た。
私は立っていた。
灰色の空と、雨の降る、何もない世界に。
私は雨の中、ただ歩いた。
傘もささずにただ歩いた。
何もない、無の世界。
視界に写るものは何もなく、
あるのは何処まで続くのか知れない薄闇の世界。
静かな世界。
雨音だけが私の耳に届く。
どれぐらいの時を歩いたのだろう?
もう、かなりの時間歩き続けている気がするのだけど
・・・あぁ、時間なんて気にしなくていいんだ。
ここは夢の中の世界なんだから。
時間なんてものを気にしてもしかたないんだから。
けれど、・・・何故私は歩き続けているんだろう?
何もない、雨が降るこの世界を。
いや、そもそも何故私はこんなところにいるのだろう?
灰色の空の下、この世界に。
どうして私は歩き続ける?
どうして私はこんなところにいる?
・・・・・・誰?
私の視界が一人の女性をとらえた。
いままで誰も、誰かがいる気配さえなかったのに。
女性が立っていた。
彼女は私と同じようにこの雨が降るなかで傘をささずに立っていた。
彼女は空を見上げていた。
何もない、雨が降る灰色の空を。
「何故ここにいるの?」
「・・・・・・」
「何が見えるの?」
「・・・・・・」
「何を見ているの?」
「・・・・・・」
「何か答えてよ! 栞!」
彼女、・・・栞はゆっくりふりかえった。
栞は、 ・・・泣いていた。
雨が降っているけれど、私にははっきりとわかった。
栞が泣いているのだと。
栞は悲痛な面持ちで私を見ている。
涙を流しながら、悲しい目をして私を見ている。
私にはわからない。
どうして栞がそんな悲しい目で私を見るのか。
私にはわからない。
どうして栞が涙を流しながら私を見ているのか。
ただ、 そんな栞を私は見ていたくはなかった。
栞には微笑んでいてほしかった。
だから、・・・何度も栞の名を叫んだ。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も叫んだ。
声がでなくなるまで何度も栞の名を叫んだ。
そうしていれば・・・
そうしていればいつかは栞が微笑んでくれるんじゃないかと何故だか思ったから。
けれど・・・
栞は一度も微笑んではくれない。
ずっと・・・
ずっと悲痛な面持ちで涙を流しながら私を見ている。
「・・・なんで、・・・なんで泣いているのよ?」
「・・・・・・」
「・・・何か、・・・何か言ってよ!答えてよ!」
彼女から何か言葉が発せられることはなくて、
変わらぬ表情で私を見続けるだけ。
「・・・答えてよ、栞。・・・お願いだから、答えてよ・・・」
気がつけば、栞はもう何処にもいなくて、
私は、決して答えの返ってくることのない問いを繰り返しながら、
一人、誰もいない闇のなかで泣いていた。
何処かでひどくいやな泣き声でトリが鳴いていた。
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