春風と旅人






十二月。外では雪が舞っていた。
「・・・・・・旅に出ようと思うの。」
「何処へ行くの?」
私が聞くと、聖様は、
「わからない。・・・・・・ただ、思いのままに、自分の心の求めるほうへと行きたいの。」
「いつ、出発するの?」
「あさってにでも・・・。」
そう、と私は短く返事をした。
だって何を言っても無駄だと思ったから。
この人はそういう人だから。
自分が悩んでいることは他人に言わずに、一人で勝手に答えを出してしまう。
ふと、私は思う。
私は今でもこの人のなかではただの人でしかないのかと。
そんなことはない、この人にとって私は大切な、他の誰よりも大切な人なんだとはわかっている。
ともに歩んでいる月日はまだわずかだけど、
この人が、自分のことをそう思っていてくれていることがわかるくらいには私の心とこの人の心は繋がっているから。
だからこそ・・・だからこそ言ってほしかった。
この人が自分の中で答えを出すまえに。
だって、顔を見ればわかるから。
どれほど悩み、どれほど辛い決心をしたのかが。
話してほしかった。
何に悩んでいるのかと。
私では、その悩みを消し去る力になる事はできないかもしれないけど、
ただ支えることぐらいはできるかもしれないから。
話してほしかった、答えを出すまえに・・・・・・
でも・・・、それでも私は、わずかな、本当にわずかな希望を抱いて、訊ねた。
「ねえ、わたしも一緒にいってはだめ?」
私は、ごめんなさい。と謝っていた。
言葉がなくとも、
聖様のつらそうな、必死でなにかに耐えている、その表情が答えを物語っていたから。
だから私は謝った。
もうこれ以上この人を困らせたりはしたくなっかたから、
でも、目からは、私の意志とは関係なしに涙があふれてきて、
聖様は腕に力をこめて私を抱きしめた。
そして、何度も、何度も、ごめんね。とくり返しつぶやいた。

突然、からだをはなして、私の顔を、目をみて、
「私はかならず祐巳のもとへ帰ってくるから。」
と言った。
かならず帰ってくるから。何ヶ月、何年たっても、どこにいても、どんなに祐己が変わったとしても、かならず祐己を見つけるから。
そう言う聖様の顔を見て、
私はこの言葉が信じられると、他の誰が何と言おうと、この言葉だけは信じられると、そう思ったから、
だから、私は涙でくしゃくしゃになった顔で精一杯笑って
「いつまでも、いつまでも待っているから。聖が帰ってくるのを待っているから。」
と私は答えた。



冬のその日は、最愛の人の誕生日だったけれども、私の人生の中で一番悲しい日になった。
外では雪が何事もなく、ただ、ただ、舞っていた。



あの人のいない、二回目のあの人の誕生日がすぐそこまでやってきていた。



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〜一息〜
まず初めに、本当にすみませんでした。突然サイトを放棄してしまって。
こっちの勝手な都合で本当に」すみませんでした。
理由はいろいろあるんですが、とにかくこんなにはやく再開できてよかったです。
はじめは2,3ヶ月は無理かなと思っていたんですが。

このssですが、しばらくはこれをメインにやっていこうと思います。
書くペースがおそいのでいったいいつ終れるのかわかりませんが読んでくださればありがたいです。
感想などがありましたらbbsに書き込んでください。お願いします。まあ、まだ第一話なんであれですが。