「・・ふーむ・・・。なるほどなぁ。こんなんなっとんのかぁ。
なんやかわえーなぁ・・わ、うっそ! こんなん伸びるん?」
薄暗い暗闇の中で、少女の声が響く。ヒソヒソと囁かれるほどに小さな声で。
少女の名は八神はやて。つい先日、私立聖祥大附属中学(女子校)の二年生に進級したばかりの快活で元気溌剌を体現したような普通の女の子だ。
でも少しばかり違ったのは、時空管理局という警察のような組織に籍を置く大魔道師(誇張表現一二○%)であるということと、ヴォルケンリッターという四人の騎士を従える夜天の王であることぐらい。
・・いったいどこら辺が『普通の女の子』なのやら突っ込みどころ満載ではあるが、それ以外は本当に、どこにでもいる普通の女の子と代わりがないことに違いはない。
・・衣替えも終わり、日差しも日に日に夏のものへと移り変わるそんな季節。
彼女は今、セミダブルのベッドの上でうつぶせになって、あるものを真剣に、生唾モノで観察している真っ最中だった。
部屋の中は薄暗い。閉じられた雨戸からは外の様子を窺い知ることはできないが、つい先程、新聞配達らしきバイクのエンジンの音が過ぎ去っていった事から、今がどのくらいの時間であるかは容易に想像することができた。
とはいえ、まだ夜は明けきっていない時間帯であれば、冷え込んで然るべき時期でもある。即ち、お腹を出していれば肌寒く感じて然るべき時間帯なわけだ。
「へくちっ!」
可愛らしいクシャミがはやての居室に響く。だが、そのくしゃみは彼女によるものではない。はやてが真剣になって観察している『ソレ』の持ち主によるものだ。
やば!
はやてはの心臓は早鐘のように跳ね上がって脈打った。なぜなら、対象者が寝入っている隙に、夜陰に紛れるようにして行っている観察行為だからである。
後ろ暗い気持ちも手伝って、口から飛び出さんばかりに跳ね上がるのも、至極当然だ。
しかし対象者は寝起きが悪いのか、くしゃみをした後、ムニムニと何事か呟くも、起きる気配をいっこうに見せなかった。だからはやてはフ〜ッと安堵の溜息を吐き出すと、まだまだ成長途中の慎ましやかな胸を撫で下ろしたのである(でっかいお世話や!)。
が、安堵したのもつかの間、ため息とともに下がった鼻の頭に、『ソレ』がちょこんと接触してしまったのである。
まさに青天の霹靂!
その事実に恐れ戦いたはやては、声にならない悲鳴を上げるなり、ワタワタと慌てふためき取り乱した。
それまでの彼女は、興味津々、瞳は爛々と輝かせて、そこにある『ソレ』を、
人差し指の指先でコロコロと転がしてまわしてみたり、
右手で柔らかくフニフニと揉んでみたり、
軽くつまんで引っ張ってみたり、
などして、触診による観察に余念がなかったのだ。
が、まさかその観察対象が、事もあろうに自分の鼻の先に接触する、いやさ自ら接触するとは思いもしなかったのか、その慌てっぷりは、端から見ても抱腹絶倒の笑える光景であった。
そんなはやてを余所に、やはり肌寒さは禁じえなかったのか、『ソレ』の所有者はモソモソと身じろぎするなり、
「んむぅぅ・・アイスゥ・・・」
腹が冷える=お腹を壊すという思考が働いたかどうかは定かではないが、きっと食い意地の張った夢で見ているらしい。そんな寝言を呟きつつ、枕にだらしなく涎をたらし、ゴロリと寝返りを打ってみせたのだ。
しかしそれは、ようやく落ち着きを取り戻して、観察を再開しようと四つんばいで忍び寄ってきたはやての頭を巻き込んで、蟹バサミでホールドするという事態に陥ったのだ。
慌てたのは当然はやてである。いきなり首を九十度、横に捻られたのもそうだが、彼女の頬に、柔らかさの中にも確固たる固さを保った二つの団子状のモノと、親指ほどの長さを持った突起物が、半ば強引に押し付けられる結果になれば、慌てない方がどうかしているというものだ。
しかし彼女は悲鳴を上げなかった。
まかり間違えば痴漢行為なのだが、今現在、彼女の方が痴漢行為を働いている真っ最中で、不可抗力とはいえこのような事態に陥ってしまったとあっては、申し開きようが無いし、末代までの笑い話になる(人、それを自業自得と言う)。
がしかし、二本の足でガッチリと挟みこまれてしまった彼女は、鼻と口を塞がれた状況で、呼吸困難に陥るのも時間の問題だった。だから彼女はジタバタ悪戦苦闘。そしてどうにかこうにか蟹バサミから脱出に成功すると、セミダブルのベッドの上で突っ伏すように、ゼーハー荒い息を吐き出すのであった。
が、ナニとピッタリ密着してゴソゴソすれば敏感な器官である。意識を覚醒させないわけがない。
「・・ん、ん〜〜〜? どうしたんだよはやてぇ。
まだ薄暗いじゃんかぁ・・・」
思わず「どないしよ」と固まったはやての目の前で、大あくびと共にムクリと上体を起こしたヴィータは、まだ重くて開けきらないまぶたを手の甲でこすりつつ、夢うつつの定まらないボヤ〜ッとした視線で、はやてを見つめてきたのである。
ま、まだ何とか誤魔化せるッ。
内心そう叫んだはやては、何事もなかったかのように「おはようさん」といつもの朗らかな笑みでもって、ヴィータに朝の挨拶を返してみせた。
「ちょう目が覚めてもうてな。えーよ。ヴィータはまだ寝とっても」
傍から見れば、アセアセと挙動不審な態度であったのだが、寝起きのヴィータは気がつかない。そこに付け込んで、何事もなかったようにまた寝かしつけてしまおう。というのが彼女の目論見だ。
しかしいっかな夜天の王、管理局にその人ありと詠われるようになった彼女であっても、十四歳の女の子だ。性的興味、好奇心には抗えない。
寝かしつけようと毛布を取り上げ、掛けなおそうとするのだが、その目つきが尋常じゃなかった。平素なら、母親然とした顔つきで、相手の目を見るように毛布を掛けたものだが、この時ばかりは、ヴィータの股間に視線を固定、ガン見していたのだ。
それでは寝起きの悪いヴィータでも、流石に不審に思って当然だ。
行儀悪く胡坐をかいて「どうしたのさ?」とはやてを問い詰めたヴィータは、その時になって、ようやく妙な違和感に気がついた。何やらイヤに股間がスースーする。それに胡坐をかいて引き寄せた踵に、柔らかく、そして妙に生暖かいものが当たっている。
(ひょっとしてはやてが気にしているのは、これか?)
次第に覚醒してくる頭でもって、ヴィータは確信した。そしてはやてが止める間も与えず、おもむろに頭から視線を下に落としたのである。
ヴィータの視線の先には、全くと言っていいほどの起伏のない灘やらかな大胸筋があって、それを黒いタンクトップが覆い隠している。
(そう言えばはやてのおっぱい、いつの間にか私よりおっきくなってたんだよなぁ・・・)
なぜか軽い敗北感のようなものを感じつつも、視線は更に下へとうつる。
何故か捲りあげられていたタンクトップは、割れてはいないものの、引き締まった理想的な線を描く腹筋を露にしている。そしてその中腹にはキュッと絞まった臍の穴。
(ゴマなんか全然ねーぞ?)
一体誰に注釈を入れているのか全くもって不明だが、更に視線は何も穿いていない股間に及ぶ。
(え? 穿いてない? なんで穿いてないんだ?
・・って、んなバカな! お気に入りの死神ウサギのアップリケ(はやて懇親の力作)ぱんつを穿いてたはずだぞ?)
その頃になると眠気なぞすっかり吹っ飛んでいる。だから、目を皿のようにして再度確認したのも当然だ。が、やはりぱんつは影も形もない。
はたしてヴィータお気に入りのぱんつは、はやての手によりベッドの脇へと放り出されていたのだが、まさかはやてがそのような破廉恥なことをするはずがないと信じきっているヴィータには、到底及びもしない考えだった。
だが問題は、ぱんつだけではなかったのだ。
食い入るように見つめる視線の先、ヴィータはようやく己の股間に鎮座ましましている『ソレ』に気がついた。
上から覗き込んだ『ソレ』は、地面に伏すカエルのようであり、『山』や『凸』といった漢字のような形をしていたのだ。
「んん? ん〜〜〜〜っ?」
ヴィータは唸り声を上げ、文字通り臍を噛むようにして上半身を折り、『ソレ』を凝視した。
(・・これってひょっとして・・『アレ』か?)
半信半疑、視認しているモノの正体を確かめるべく、ヴィータはゆっくりと手を伸ばして、その『ソレ』に触れてみた。
フニフニと柔らかい真ん中の突起物は、妙な感触ともに、身震いするような怖気を感じさせる。そしてその脇に一つづつ付いている丸いものを、力加減も考えずに掴みこめば、天地がひっくり返るような鈍痛を返してくるではないか。
そしてヴィータは、はっきりと『ソレ』がなんであるか理解したのである。
これまでの長い人生(?)の中で、ヴィータは『ソレ』を何度か見た事がある。大人のものもあれば、乳飲み子のものもあった。だがしかし、『ソレ』がたまさか自らの股間にあるような事は、かつて一度だってなかったはずなのだ。
正に青天の霹靂。
驚天動地。
だからヴィータは、
「なんじゃこりゃーっ!」
と、奇妙なヨガのようなポーズでもって、三軒隣にまで轟きそうな音量でもって、奇声を張り上げたのだ。
そう。ななんとなんと、ヴィータは、半ズボンがよく似合う(ここ重要)男の子(こっちがもっと重要)になっていたのである!
ズバババ――ン!(効果音)
「わーばか、おっきな声出すんやない!」
奇声を張り上げるヴィータに、慌てたのははやてである。
八神家の邸宅が震え上がらんばかりのヴィータの大声に、彼女は慌ててその口を塞ぎに掛かった。
「わ! むぐっむーむ――!」
「ごめん! ゴメンなヴィータ。謝るから大人しゅうして〜〜〜っ」
ヴィータを押し倒して、無理やりその口を塞いだはやては、覆いかぶさるようにしてうつぶせの体勢に。そして足元に丸まっていた毛布を、完全回復した下半身でもって器用に捲りあげると、二人の上に覆いかぶせて、寝入っているように偽装してみせたのである。
一体全体、何がどうしたというのか?
訝しむヴィータは、目をギュッと瞑り、全神経を耳に集中している聞き耳を立てているはやてに気がついた。それを理解すると、同じように聞き耳を立てるべくおとなしくする。
シン・・・ッと、静まり返るはやての居室の中、響いてくる音といえば、目覚まし時計の秒針がたてるカチコチという音だけである。他に響いてくるようなものは、特に感じられない。
しかしヴィータの耳は、他の音を確かに聞き取っていた。それは、はやての緊張に震えて幾分強ばった呼吸の音と、僅かに跳ね上がった心臓の音だ。
スー、ハー、スー、ハー・・・。
トックトックトックトック・・・。
重ね合わせた肌越しに響いてくるそれらは、富に大きく鳴り響いてくるように感じられて、ヴィータを酷く困惑させてあまりある。
そしてさらに当惑させる出来事が一つ。
自分のすぐ横にあるはやての髪から香るシャンプーのそれだ。自分も同じ製品を使っているはずなのに、何故か何倍もいい香りに感じられるのだから不思議である。そしてそれとは別に、石鹸のそれに混じって香ってくる女の子特有の華のような柔らかな匂い。
はやて至上主義のヴィータだからこそ、今ばかりは、軽い眩暈にも似た感覚に陥れて十分な効果を挙げたのである。
「・・大丈夫・・そうやね・・・」
囁くような声で呟いたはやては、ようやく緊張を解いて、ふう。と吐息してみせた。
ヴィータが張り上げた声を聞きつけて、シグナム以下、ヴォルケンリッターの面々が「何事ですっ?」と、居室の扉を蹴り破らんばかりの勢いで踏み込んできやしないかと、戦々恐々としていたのだが、五分経っても、十分が過ぎても、彼女達は一向に姿を現さなかったのである。
まさかその様なことが起こりうるはずはないと思いながらも、「命拾いしたぁ」などと意味不明なことを漏らしつつ、胸をなでおろしたはやてである。
が、起こした体の下で、口を塞がれ、呼吸困難に陥り、グルグルと目を回しているヴィータを発見するや、泡食ったのは言うまでもない。
「・・で、何がどうなって、こういう事態になってんのさ?」
しっかりしてヴィータァ。と心細そうな声を上げて、泣いてすがり付くはやての目の前で意識を取り戻したヴィータは、自身の体に起きた異変に戸惑いつつも、自分の事をよく理解している主の弁を聞くために、胡坐をかいた右ひざに、頬杖をつきつつ問い質してみせた。しかしその口調は、意に反して尋問調である。
だからヴィータの目の前には、神妙な面持ちで正座して、かしこまっているはやての姿がある。
ヴィータの体に起こった変調について何か知っているとしたら、それははやて以外には考えられなかったからだ。その証拠に、
「えっとなぁ・・うんとなぁ・・・」
と、ツンツン突付き合わせる両の人差し指を見つめつつ、歯切れの悪い口調とともに、ヴィータの様子を伺うように、チラチラと視線を彷徨わせるはやてさん。その様は、事の一部始終を私は知っていますので、どうぞ突っ込んでください。と言わんばかりに怪しさ大爆発な態度で、怪しすぎるにもほどがあった。
そんな彼女の様を見たヴィータは、落胆するような勢いで大きく溜息を吐き出した。それに併せてはやての肩が、ビクッと跳ね上がる。
「・・怒んないからさ。正直に話してよはやて。私とはやての間柄じゃん」
女の子らしい丸みのあった線が消え、少年特有の細くもしなやかで、且つ、引き締まった四肢を付き、身を乗り出してみせたヴィータは、はやてにやさしく囁いた。
そんなヴィータにちょっと、いやかなり胸をドキドキさせながら、「怒んない?」と前おいて、はやてはヴィータにソッと耳打ちするように、小さな声で話し始めたのである。
「え? なに? ガッコの授業で?」
「きゃーきゃー! だーめーっ、声出して言うたらあかんーっ」
きゃあきゃあと両手を突き出してヴィータの口を塞ぎにかかったはやては、顔を真っ赤に染めると、「お口にチャック!」なゼスチャーしてみせた。
その慌てっぷりに「なんだか、かわいいなぁ」と率直な感想を持ってみたヴィータである。
そんなすったもんだがあって、ようやくはやての口から事の顛末を聞きだしたヴィータは、途方もない脱力感に苛まされることとなった。
「・・へ、平気か? ヴィータ?」
問いかけるはやては気に病んだ風で、ヴィータの頭をやさしく撫でてくる。
「ふざけんな! そんなくだらない理由で、私のプログラム書き換えて『男』に代えたって言うのかよ!
信じらんねー!
そんなことするなんて、私の知ってるはやてじゃないやい!」
と、ヤメテヨシテサワラナイデアカガツクカラッ! 的な拒絶反応を示してみせ、ミストルティン級の石化魔法が直撃したみたいにはやてを固まらせて然るべき事態に発展しようものなのだが、既に五年余りにわたって飼いならされてきたヴィータは、大人しく懐柔されてしまうのだった。
でも、思うところはある。なぜ自分なのだろう?
「・・そんなに『コレ』見たいんなら、ザフィーラにでも頼めばいいじゃん・・・」
蚊の鳴くような声で、ポツリとした呟き。黒くても白と答えよと教え込まれた主従の関係においての、それは精一杯の反抗だったのかもしれない。
だが尤もな意見だった。何もわざわざ、ヴィータのプログラムを書き換えるまでもなく、彼なら不承不承、主の命に従い、黙って応えてくれただろうから。
しかしはやては、
「え〜でも〜・・なんやえらいゴッツそうやん? そんなん見たら、私・・恥ずかしくて死んでまう〜」
と、純情可憐な乙女ップリで、頬を赤く染めてイヤイヤして見せたのだ。
なんという自己中心的な、年頃の女の子特有の独善的である回答だろう。
だからヴィータは、そんなはやてをジト目で見やりつつ、
「・・じゃあリーダー・・・」
「休火山が突然噴火したみたいな勢いで怒りそうやしなぁ。もしかしたら、私が付いていながらなんということか! とか言うて、レヴァンティンで腹切りするかも」
その光景が易々と想像できて、ヴィータは思わず苦笑ってしまう。
「あり得そう・・シャマル・・は、調子ぶっこいて押し倒してくるかもなぁ」
「やろ?」
一体なにが、やろ? なのか。と態度で語りつつ、
「なんだかんだで、ビンボーくじ引くのはいっつも私のような気がするんですけどぉ」
と、確かに消去法でいけば私しか残らないけどさ、とヴィータが愚痴ってみせれば、
「ごめんなぁ。私のつまらん好奇心で、こないなこと頼んでもうて・・・」
と、手を合わせて謝ってみせるヴィータの主様である。しかし浮かべて見せているそれは、正しく極上の小悪魔スマイルのそれで、本当にすまないと思っているのかどうかは、怪しいところだ。
そんな主の姿を見るにつけ、ハーッと溜息をついてみせたヴィータは、
「いいよ別に。はやてのお願いだったら、南極の氷だって一晩で溶かしてみせるし、なのはだって墜としてみせらい」
「・・ありがとうなぁ・・・」
はは。と乾いた笑いを一つして、後半あり得そうだと思いながら、はやてはヴィータの冷たくも、芯では確かな熱を保ったまま体をギュ〜ッと抱きしめたのである。正しくそれは、母親が愛しい子にしてやるそれだった。
だから彼女は気づいたのだ。身を寄せるように身じろぎしたヴィータの僅かな動きを。
「寒いんか? ヴィータ?」
そう呟いたはやては、腕を回して彼女の頭も抱きしめてみせる。胸の谷間に隠れるような格好になったヴィータは、別にと小さく否定してみせるのだが、居心地が良いのか、拒絶の態度はしてみせない。
「別に。これっくらいヘーキだよ」
そう呟きつつも、ヴィータははやてに抱きつき返してみせた。
しかしヴィータは内心ドキドキだった。なぜなら、鼻先がくっつきそうなほど近くに、はやての顔があったからだ。亜麻色のサラサラな髪。瑞々しい桃色の唇。宵闇のような群青色をした杏の種の形をした瞳。それらを見つめるたびに、胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われる。それに追い討ちを掛けるように、シャンプーや石鹸、そして先ほどよりも強く感じるようになったはやての甘く香る体臭。
知らず跳ね上がる心臓は、布越しにはやてに伝わってしまうんじゃないかと言うほど、早く、そして強く、脈打ってみせるのだ。
気恥ずかしさからそれを気取られまいとして、思わず強がりを言ってしまう辺り、彼女(今は『彼』だが)の損な性格の現れだろう。素っ気なく視線をそらし、体を離そうと腕を突っ張ってみせた。
しかしそんな強がりを許すはやてではない。
「いつまでも下、すっぽんぽんのまんまじゃ寒くて当たり前やん。強がらんと・・な?」
はやてはヴィータを抱きしめ返し、放さない。
だがそれは無理矢理な、強引なものではなかった。母親がグズる乳飲み子にするように、やさしい、やさしいものだった。
勿論、ヴィータも抵抗しようとしたが、押し倒されるようにキュ〜ッと抱きしめられると、借りてきた猫のように大人しく、はやてのされるのがままになった。
エエ子エエ子と頭をなでられ、包み込まれるようなその暖かさに、次第にヴィータは陶然となった。
抱きしめられる胸の内、トックントックンと穏やかに刻まれるはやての心音は心地よいリズムで、ヴィータを酷く安心した気持ちにさせてくれる。寝巻きのパジャマ越しに伝わってくる体温と、豊かに育ちつつある乳房は、ヴィータを羽毛布団に包むようにして温めてくれるのだ。夢見心地にならない方がどうかしていると言うものである。
だが普段の彼女であれば、そんな安心感に抱かれれたまま、眠りに落ちることは容易いことだった。がしかし、今の彼女の体は少年のものである。とどのつまり男である。
はやてに抱きしめられることで、初めて『ソレ』が反応し始めたのである。
(え? わ、うそ! ヤメ・・止めれ! なに硬くなってんだよ!)
それを知覚したとき、ヴィータは必死になって『ソレ』を鎮めようと躍起になった。が、悲しいかな男のサガは言うこと聞いてくれない。そればかりか抱きしめられる事で、はやての発展途上にある乳房に、意識は集中してしまう。更には先程実感した彼女の体臭だ。フェロモンと言い換えてもいいだろう。
それを知覚してしまうと、もうどうにもならなかった。そこには血が偏り始め、硬く、そして伸長していってしまう。
もぞ・・・。
お互い体を密着させていれば、違和感を感じて当たり前だ。
「・・ヴィータ・・なんやお腹に硬いモンが・・・」
赤ら顔で、はやてが僅かに体を離して聞いてくる。
(うわーん。おしまいだーッ!)
はやてに倍するほど顔赤く染めたヴィータは、
「わ、わーっ。それ以上言っちゃダメ! お願い・・だから・・・」
気恥ずかしさに体温を沸騰させ、ヴィータは俯いて黙り込んだのだ。そんな初々しい態度を見せられては、はやての中で何かが弾けて飛んだのは、半ば当然の事であった。
「・・なぁ・・ヴィータ・・・」
「? な、なに?」
不意に抱きしめられていた腕が解かれ、右腕がヴィータの脇から背中を通って右肩を掴み、左腕は脇を撫で擦るようにして、ゆっくりと下へと移動していった。
まさかはやてがそのような行動に出るとは夢にも思わなかったヴィータは、「え?」と小さく戸惑いの声を上げた。その矢先、
「もっと・・温めてあげるな・・・?」
ゆっくりと告げられたその言葉と共に「やめて」と告げようとしたヴィータの唇は、はやてのそれに塞がれたのである。
んむ・・ちゅ・・・。
ついばむ様なやさしいキス、キス、キス。
下唇を挟んで引っ張っては放し、瞬間たわむそれを舌で端から端へと舐め擦る。
僅かに出来た隙間に舌をチロチロと進入させると、前歯の一本一本を丁寧に舐めあげてまわる。やさしくやさしく、神経を集中させて行われるそれは、不思議な感覚でヴィータを酔わせてまわった。
「・・あふ・・・」
思わずついた溜息。そして僅かに開いた口の隙間。
その隙を逃さず、はやての舌がヴィータの口に割って入り、その奥にある舌に絡みついた。裏側にもぐりこみ、右に左に転がして回る。さらに奥を求めて伸ばそうと舌が動けば、二人は固く固く唇同士を重ね合わせることになる。
ん・・む・・・プハッ。
深く深く重ねあわされた唇を一時、開放して僅かに呼吸をするや、はやては再度、貪るようにヴィータの唇を奪いなおした。
蛇のように動く舌は、絡め絡めて絡み取り、互いに蠢きあってひたすら求め合い、そして互いの唾液を交換し合う。
僅かな息継ぎに合間に、ヴィータはそれをコクリと飲み込んだ。
(あまい・・・)
はやての唾液は甘く、甘く甘く感じられた。
はやてと舌を絡ませると、それは更に甘く感じられた。
はやての舌と絡ませるのはひどく扇情的で、ひどく蠱惑的に感じられた。
もっと、もっともっと、はやてを感じたい。
何時しかその行為は、麻薬のようにヴィータから思考能力を奪っていく、禁断の蜜となっていった。
そうしてヴィータの四肢から次第に力が抜けていき、最後にはクテッと脱力した格好になったのだ。そんなヴィータの弛緩を感じ取ったはやては、唇を離して、ヴィータのタンクトップをめくり上げると、露になった乳首に、本能の赴くまましゃぶりついたのだ。
はやてを煽り立てたのはヴィータの唾液だ。ヴィータから思考能力を奪ったその行為は、はやての内に刹那的に、激しい情動を揺り動かしたのだ。
だから手枷を填められたような格好のヴィータを、はやては別の誰かのようにして、蹂躙し始めたのだ。
「あ・・・っ」
ピクッとヴィータの体が反り返る。だがはやてはお構いなしに吸い付き、甘噛みし、転がしてまわった。
そんなはやての荒々しい愛撫の一つ一つに、ヴィータは確かな反応を返してみせる。
それがたまらなく愛しく感じられて、一四歳の少女は、暴れ馬の如き衝動に突き動かされるままに、夢中になって目の前の相手を求めてるべく、より積極的に動き始めた。
はやてはヴィータの腕からタンクトップを完全に脱ぎ去った。そして右手を手に取り、きつくきつく握り締めたのである。まるで放してしまったら、二度と会えなくなってしまうのではないかと言わんばかりにだ。
そしてはやての右手は、ヴィータの肩から離れ、脇腹から臀部を撫で擦り、股間の固く屹立したそれに伸びていく。
突然の感覚。突然の事態。それらがない交ぜになってヴィータに襲い掛かる。
抗うように、思わず顔を背けたヴィータなんかお構いなしに、はやての右手は袋の部分を転がすように撫で擦った。
一回、二回・・・。
指先で転がす度に、ヴィータのそこはビクビクと反応してみせ「あ・・・」という、切なそうな声が洩れ、聞こえてくる。
そこを転がすだけでこの反応だ。まだ皮を被ったままのそれを、筋に沿って優しく撫でさすれば、どのような反応をして見せてくれると言うのか。
はやては無我夢中になって、ヴィータのそれに手を伸ばすと、その欲望の赴くままにその通りに実行してみせた。
と、たまらずヴィータが切なさそうな声で、
「・・はぁっ、はぁっ・・はやて、はやてぇぇ・・・っ」
と切なそうに声を上げてくるではないか。
予想以上のその声に、胸がキュ〜ンッと締め付けられるような感覚に襲われたはやては、
「なんや? ヴィータ。私はここにおるよ」
と、ヴィータの乳首を舌で愛撫するのもそこそこに、耳元でやさしく囁いてみせた。
するとヴィータは、まるで生まれたばかりの子ヤギが乳を求めるように、はやての唇にしゃぶりついてきたのだ。
ぺちゃ。ぺちゃペチャ。っんく。んんぅ・・む・・・!
二人はどちらからともなく、夢中になってお互いの舌を絡ませ合わせた。その間にもはやての右手は、ヴィータの固くいきり立つ『ソレ』を絡みついて放さず、上下に動かして刺激を与え続けていた。
そして不意に親指だけ放して先端を捉えるや、クリクリと皮を割って尿道口を転がし、新たな刺激をヴィータに加え始めたのだ。
その刺激に堪えかねたヴィータは、重ね合わせていた唇を離し、背を仰け反らせて激しく反応してみせた。そして乱れるのも構わず、声を上げ、ヴィータは鳴いてみせた。
「ンン・・ンァ! だ・・め、はやて。それ・・だめ〜っ」
「ンフフ・・・。かわえーよヴィータ」
イヤイヤするヴィータに、はやてはなおも先端に刺激を加え続けた。そして彼女は気づいたのである。親指の腹が、ヌルヌルとした液体で濡れそぼっている事に。
「感じとるんやねヴィータ・・・。ええよ。もっともっと感じさせてあげる。だから、もっと、もっともっとかわいいヴィータを・・私だけに見せてなぁ」
甘く囁きながら、はやては先端のくびれた辺りを、親指と人差し指で輪を作って挟みこむと、ぬめりを利用して、そのまま上下に動かし始めた。シュリシュリという衣擦れにも似た音を立てて行われるその行為に、ヴィータは気も狂わんばかりに反応してみせた。
シュリ、シュリシュリ、シュリ・・・
「わ・・わ、あ、あ、んん〜〜〜〜・・んぁ!」
送り続けられる未知なる感覚に、ヴィータは首を左右に振っていやいやしてみせる。
だがその表情は決して嫌悪のものではない。その感覚があまりにも気持ちよく、どのように反応していいのかわからないといった様相だ。
これが快感なんだ。と霞がかった頭の中でボンヤリと考えた矢先、ヴィータはある事に気がついたのだ。体の奥底から何かが堰を切ったように、押し上げてくることに。
だからヴィータはその事をはやてに伝えようとした。しかし肝心な言葉は口から出てこず、
「あ・・あっく・・んぁ!」
代わりに、息も絶え絶えな喘ぎにしか出てこないのだ。
しかし爪が食い込むばかり握り締められた左手で、ヴィータの絶頂が近いことを察したはやては、
「そうか。気持ちええんやな、ヴィータ〜〜〜♪
ん。いっぱいいっぱい感じてくれな。私もいっぱいいっぱい気持ちよくしてあげるから」
夢中になって、その行為に没頭し始めた。
親指と人差し指を使った行為は、いつしか手全体を使ったものになっていた。
まだ皮を被ったままのそれを擦り、快感を送り続けるにはなかなかにコツが必要だったが、はやては巧みにそれを汲み取って、ヴィータに快感を送り込み登りつめさせていった。
そして親指の腹で、再度尿道口を刺激したとき、ヴィータは絶頂に達したのである。
「ん、む〜〜〜〜〜〜っ!」
ヴィータが唇をきつく結び悶絶した次の瞬間、はやては、その先端から白く熱いものが吹き出すのを目の当たりにしたのである。
吹き出したそれは、勢いよくヴィータの臍を越え、鳩尾の辺りにまで飛び散った。
そして止め処もなく溢れては、はやての右手をネットリと絡んで汚していったのだ。そのあまりの勢いに、はやては言葉を失い、暫し茫然自失してしまう。しかしそれもほんの僅かだった。ヴィータが顔を真っ赤に染めて、ワナワナと震えていたからだ。
なんて事をしてしまったんだろう。
きっとそんな風に考えている。母性逞しいはやては、ヴィータの心情を察してみせると、二人に浴びせるようにして吹き出したそれを拭ってみせると、躊躇なく口に含んでみせたのだ。
「な! ダメだよはやて! きたな・・・」
「汚くなくない」
ビックリして声を荒げるヴィータを制して、はやてはにっこりと微笑んでみせた。
「よかったんやろ? 私にされて気持ちよかったんやろ? ならそれでオッケーやん。もーまんたい。ちゃうか?」
「で、でもさぁ・・・」
「私はうれしいんよ。私がして、ヴィータが感じてくれて、そうしてこんなんしてくれたんやから。それに・・ん・・んん。これ、おいしいよ♪」
初めて口にしただろうそれを、戸惑いもせずにおいしいと言ってみせ、ヴィータの腹に飛び散ったそれすらも拭いとったはやては、まるで蜂蜜でも舐めるかのように音をさせて舐めあげるなり、ンクッと嚥下してみせたのだ。
「それに・・な・・・」
モゾモゾと動きにくそうに腰を持ち上げ、膝立ちになってみせたはやては、ヴィータに見えるようにして、パジャマのズボンをゆっくりと下げていった。
その様を不思議そうに見つめていたヴィータは、次の瞬間、目をみはるような表情へと代えてみせる。そんな彼女(?)の反応に満足の笑みを浮かべたはやては、
「ヴィータの感じるところ見とったら、私のココも、こんなんなったんやよ・・・」
ヴィータの左手を手に取り、はやてはコットンの無地の下着、その股間の部分に宛がうように導いてみせた。
「ぬ、濡れてる・・の・・・?」
ヴィータは生唾を飲み込んで、その事実に目を白黒させた。
「そーや。それにな・・・」
クスリと小さく笑ってみせたはやては、チラッとヴィータの股間に向き直り、
「ヴィータのかわいい亀さん見とったら、そこ、ジンジンしてきたんやよ」
え? という表情を作ったヴィータは、顔を持ち上げて己の股間を注視する。するとそこにははやての指技によって、いつのまにか一皮向けて露になったばかりの、生ハムのような赤い色をした亀頭の姿があるではないか。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
羞恥で真っ赤になるヴィータを他所に、はやては股間にあてがったままのヴィータの手を前後に動かし始めた。するとそこからは、クチュクチュといういやらしい水音が響いてくるのだ。
「ん。んん・・ん〜〜〜っ」
そしてヴィータは確かに見たのである。はやての微かなあえぎ声と共に、下着から溢れて滲んだ蜜が、はやての腿と自分の手をつたって流れ落ちていくのを。
「なぁ?」
はやては初めて見せる艶然とした笑みを浮かべ、如何にえっちな衝動に駆られて、ヴィータを求めているのかアピールしてみせた。
「私、こんなに感じてるんや・・よ。ヴィータの亀さん見て・・うん。感じてるんやよ。だから・・・」
ヴィータの手を介して自分の股間を擦り続けるはやては、屈みこむにしてしな垂れ掛かり、再度覆いかぶさった。そして、まるで舌なめずりでもするようにして、
「だから私も、気持ちよーさせて・・な?」
そう呟いた彼女はヴィータに拒否する暇も与えず、唇をキスで塞ぐと、その体を再び蹂躙するように求めていったのである。
「ん。んふ。んあ。はぁ、はぁ、あ、あぁぁぁんんん!」
二人は一糸纏わぬ姿になって、淫らに蠢きあい、求めあった。
はやては、ヴィータの腰に跨る姿勢のまま、自ら腰をゆっくりとゆっくりと、前後に動かし続けていた。そしてまだまだシグナムには到底及ばぬ胸(形は十分、負けてないと自負している。本当のことやで?)を、ヴィータの手を導いて揉みしだかせた。
ヴィータははやてに導かれがまま、既に、二回目の射精を済ませていた。だから居室には、男と女の匂いが立ち込め、それが二人を燃え上がらせた。
はやては、たどたどしくも、だがしっかりと胸から与えられる刺激に背を仰け反らせ、そして自分の意思とは無関係に動く腰からの刺激に我を失っていた。
ヴィータもまた、はやての体の柔らかさに酔いしれ、そしてはやてがもっとも感じるタイミングにあわせるように、自らも腰を動かすのだった。
互いに互いの性器をこすり付けあうペッティング行為ではあったが、二人はその刺激だけで十分であるかのように、その行為に没頭し、陶酔していった。
「ん・・んん・・ええよぉヴィータ〜。そう。そうされると・・アン! 胸が切ない・・んや。もっと・・もっとしてぇ。もっと強く・・・」
うん。と呟いたヴィータは、求められるままにはやての胸をまさぐった。
掌に収まる程度の大きさでしかなかったが、はやての乳房は張りがあって、僅かな指の動きでも、発展途上の乳腺に激しい刺激を与えるらしく、はやてを悦ばせた。特にピンと尖った乳首は感度が良いらしく、中指と薬指の間に挟みこんで乳房と共に揉みしだくと、電流でも流れたように、はやてはビクビクと背を仰け反らせて嬌声を上げてみせるのだ。
頭の中が真っ白になって、夢うつつにいるような表情を浮かべたはやてだったが、それでも貪欲に、もっと刺激を求めるかのように、はやては腰の前後運動を再開し始めた。
ヴィータの亀頭でもって自らの痴丘を押し割ると、露にしてみせた陰核を擦り合わせて、はやてはよがり続ける。
「ん。んん。うん。うんん。うぁ。あ! あ! はぁん!」
腰の一振り一振りを大事にするように、はやてはゆっくりゆっくりとした動作で、昇ってくるその快楽を味わい、そして溺れていった。
「ふぅ。ふぅ。ふぁ。ああ。あぁ。んぁっ!」
一方、まだ露出したばかりの雁首は、ほんの小さな動きであっても、痛みと共に大きな刺激を返してくる。しかし精液と愛液がブレンドされた潤滑油が、その刺激を得もいわれぬ快感へと変化させ、少年の身たるヴィータを夢中にさせていく。
そしてその刺激は、麻薬のようにヴィータの精神を支配し始め、積極的に、はやてに刺激を送り込み始めたのである。
主従の関係なんかどうでも良い。ただただ、目の前の女の子を感じさせたい。そして自らも真っ白な世界の、その向こうへ・・・ッ!
その一心で、ヴィータははやての腰に両手を回して固定すると、これまでの倍の力でもって自らの腰を、打ちつけ始めたのである。
グッチュ、グッチュ、ニチャ、ネチャ、チュプッ・・・
「あ! あ! あん! あん! あん! あふん! ああっ! ああっ! ヴィータ! ヴィータァッ!」
「はやて! はやて! はや・・うぁ!」
「「あ、あああああぁぁぁぁぁぁんんん・・・♪」」
そうして二人は、共に絶頂を迎えたのだ。
荒い息がようやく静まったころ、ヴィータを胸の谷間に埋めるようにしてまどろんでいたはやては、余韻を楽しむように、ヴィータの小さな臀部を撫で擦り続けていた。シグナ無やシャマルには及ばないまでも、ヴィータのそこは中々に柔らかいこと発見したからだ。思いもよらぬ発見であり、収穫だった。
そんな時だ。されるがままになっていたヴィータが、
「・・なぁ、はやて・・満足・・した?」
とポツリと呟いてきたのだ。
(これじゃどっちが男の子役かわからんなぁ)
まるで和姦の後に、自らの体の評価を聞かれているような錯覚を覚えて、はやてはそんなことを考えた。だが、ヴィータの真意はそこではない。ヴィータの思いは、主の慰み物になるのだとしても、主の欲求を満たすことが、満足させることが出来たのかどうか。ただその一点に絞られていたのだ。正に乙女が如き、ガラス細工のような純粋な思いだった。
だが当のはやては、気だるそうにして、
「・・今は、なぁ・・・」
と、ポツリと返したのである。
その言葉の意味を、ヴィータは即座に理解できなかった。
が、すぐさまガバチョと上半身を起こすなり、ヴィータは声を荒げたのである。
「今? 今、今はって言った? なんだよ・・なんだよそれッ?」
学校で受胎の授業を受けたため、Hに並々ならぬ興味を覚えてしまったという。
だから自分の性別を反転させるなり、あんなにすごい勢いで求めてまわったくせに、『今は』と夜天の王は仰せになられる? 冗談じゃない。それじゃ体張って受け止めた甲斐が、全然、全く、これっぽっちもないじゃないか!
ヴィータの余りの憤り方に、はやてはちょっとビックリした様子。だが次の瞬間には、クスッと小さく笑みを浮かべると、
「そうやよ〜。今は。って言ったんやよ〜♪
だ・か・ら、これからもヨロシクな。ヴィータ♪」
そう言って、はやてはちょんとヴィータの唇を、人差し指で触れてみせたのだ。
これからもヨロシク。
それはつまり・・どういう意味だ?
え?
もしかしてそういう意味ですか?
マジですか?
え? ウソ。ホント。そのウソホント?
「ええええぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっ!」
だからヴィータはドカン! と爆発するような勢いで顔を赤く染め上げると、やにわに「ばか・・・」と小さく呟いて顔を背けたのである。恥ずかしくって、はやてのことなんかまともに正視できなかったからだ。
そんな反応をしてみせるヴィータは何よりも可愛いくて、愛おしく思えるのだ。
(なんや本当に愛の告白を受けたウブいお嬢さんみたいやなぁ。でもカワエエからOKやけど。・・って告白した男の子役は私なんか?)
だからはやては、クスッと小さく笑みを浮かべるなり、少しばかり意地悪そうな顔を作ると、態度をはっきりさせない愛しのお姫様に問いかけたのだ。
「お返事は? ヴィ〜タ?」
だがしかし、ヴィータの応えは決まっている。断じて否などあるはずがない!
「・・はやてが望むんなら、何回でも何十回でも、百回だって二百回だってやってみせらい! お、俺は、はやての騎士だからなッ!」
しどろもどろになりつつも、小さな騎士は誓いの言葉立ててみせたのである。
だが応えられた方はといえば、ポカンとした表情でヴィータを見つめているばかり。
「な、なんだよ〜。そんな顔することないじゃんかぁ・・・」
またもや肩透かしを食らう格好になってしまったヴィータは、激しく意気消沈。セミダブルのシーツの上に体育座りで縮こまると、のの字を書くいじけ虫となった。
が次の瞬間、ヴィータはこれでもかというぐらい、思い切り抱きしめられたのである。
「おれ、俺やて〜〜〜。
ヴィータ、ごっつカッコエエやん! 私キュンってなってもうたよ〜♪」
何のことはない。ヴィータの誓いの言葉に感極まったはやては、かる〜くアッチの世界にトリップしていただけのことだったのだ。
その証拠にはやては、超ご機嫌の様子でヴィータ♪ ヴィータ♪ と額や頬、そして唇へとキスの嵐を降らせてまわったのだ。
しかし戸惑っているのは当のヴィータである。浮き沈みの激しいこの状況は一体どうしたものなのか。地獄の底に突き落とされた気分になっていたところへ、いきなり女神の祝福と言わんばかりのご褒美の雨あられなのだから。誰か説明してくれと考えるのも無理はない。
「ちょ・・はや、て・・む〜むぐぐぐ・・・!」
む〜〜〜〜〜ちゅぽん!
最後のキスは肺の中の空気、全てを持っていかれるような勢いで吸い上げられ、軽く死ぬかと思った。とヴィータを言わしめるほどに熱烈なものとなった。
そんなゼーハーと呼吸を整えるヴィータを愛しげに見つめ、
「ほな、よろしく頼むで? 私のカワイイ騎士様♪」
ヴィータの隣にチョコンと座りなおしたはやては、もう一度、ヴィータの頬に軽く触れるキスを送ったのである。そして今度は壊れ物を扱うように、やさしくやさしく、キュッと、ヴィータを抱きしめたのだ。
「・・・・・・・・!」
だがはやてはヴィータが、何事か小さく呟いているので、およ? と怪訝な表情を浮かべると、
「なに? どないしたん? ヴィータ?」
俯き、呪詛を穿くような勢いでブツブツ呟くヴィータ。
(機嫌、損ねてもーたか)
あいや失敗したわ。自分の茶目っ気に自戒しつつ、はやてはヴィータの正面に回り込むようにしてその顔を覗き込んだ。が、それを見計らってか、今度はヴィータの方から荒っぽい動作で、はやてを仰向けに押し倒しに掛かってきたのである。
これには少々面食らったはやてである。
「あんっ。どないしたん〜ヴィータ〜〜」
甘えるような声色をあげるはやてのそれは、最早、睦言に勤しむ本当の恋人同士のそれそのものだ。そしてはやては見たのである。自分の脚の間に割って入って静かに佇んでいるヴィータの股間に鎮座益します益荒男が、一呼吸ごとにゆっくりと、だが確実に、屹立していくその様を!
「お? おお、おおおお〜〜〜〜〜〜っ?」
だから、思わず素っ頓狂な声を上げるなり、見入ってしまったはやてである。
方や膝立ちで、はやての肢体の隅から隅を見つめるヴィータは、真剣、まっすぐな眼差しだ。その眼光にクラッと来ないわけがなんであろう。
「・・言ったはずだぜ。何回でも何十回でも・・って!」
不適な笑みを浮かべてヴィータ。
早くも少年の体に順応し、そしてそれを使いこなす気満々、ヤル気十分、気合百二十%といった具合だ。しかし鼻息荒くがっついた印象はこれっぽっちもない。まさしく我が身は御前の為にと言わんばかりの騎士そのままの姿である。もっとも捧げるべき剣はその手には無く、股間にそそり立つ長さ十cm少々の男性器ではあるのだが。
だがしかし、そんな勇ましき姿を、雄々しいモノを見せ付けれては、あははぁ。と苦笑いを浮かべるしかないではないか。だからはやては観念したように、
「うん・・ええよ。私の初めて・・ヴィータにあげる。
だから・・優しゅうして? な?」
脚を開いて、ゆっくり持ち上げたつま先をヴィータの腰に絡ませる。先の行為で濡れそぼった膣穴を露にして見せ、はやては「きて」と口だけで囁いた。
そんな彼女を愛おし気に見つめ、少年らしい笑みをフッと浮かべるなり「わかった」と呟いた少年騎士は、その剛剣を、ゆっくりとはやてという鞘の中に納めていったのである。
◇
「・・という、頭ン中膿んでるんちゃうんかっていうぐらい、おバカなもん見てもーたんやけど・・・」
「・・ってなによ、夢オチなの!」
いつものメンバーで、いつものように開かれたパジャマパーティー。
そしていつの間にやら始まった猥談は、初っ端からとんでもないオチがついて、ようやく終わりを迎えたのだった。
「おおぅアリサちゃん。ないすな突っ込みおおきにな。百点あげやう」
「ヤ・カ・マ・シ・イッ! なんかすっごいあり得そうなシチュエーションだったから、ドッキドキの生唾モノで鼻血ブーだったのに!」
わずか四、五年前までは『他人の恋路にゃ全力全開』を旨としていた可憐な少女も、朱に染まればなんとやら。鼻血を止めるティッシュ装備で不満をぶちまける、我らがアリサ・バニングス嬢。その人であった。
「ハイ! はやてちゃん」
「はい。すずかちゃん。・・って、なんやのん?」
どこから見ても美しい正座の月村すずかがピッと挙手。それを躊躇なくはやては指差した。
「だったらわたし、シグナムさんリザーブするね」
「なんやそらッ!」
すずかのボケに、超音速の裏手突っ込みをいれるはやての絶叫がこだまする。
まさしく関西人の血が遺憾なく、最高潮に発揮された瞬間であった。
だが当のすずかはそれをボケ流しでかわしてみせた。
「やだなぁ。邪まな目的はないよ〜? ただお姉ちゃんの恭也さんと張り合わせたいだけだモン♪」
パーティー出席者中、一番の性徴具合を誇る月村すずか嬢が、胸を張りながら言えば、一体ナニを競ろうというのか言わずもながだ。
「・・十分、邪まやと思うけどなぁ・・ってなに? なのはちゃん。私の手、ギュッと握り締めて?」
「・・半ズボンのヴィータちゃん・・私に貸して!」
ハァハァと息荒く、ジュルリとよだれを拭う壊れなのはに、悲鳴が二つ。
一つは赤い瞳と金の髪の少女のもの。いま一つは、
「ヴィータはやら〜〜〜〜〜〜んッ!」
という、まるで「お父さん! 娘さんをください!」と土下座してきた馬の骨を、蹴飛ばすような勢いで吼えたてるはやてのものだった。もちろん何所から取り出したのか、大阪名物巨大ハリセンでスパーン! と快音響かせる事も忘れない。今のはやてなら、某新喜劇の舞台でもトップをはることだって、夢ではないかもしれなかった。
「そ、そもそもなのはちゃんには、ユーノ君がおるやん! 浮気はあかん! あかんで! ましてや二股なんてもってのほかや!」
「え〜だってぇ〜・・・っ」
お母さんは許しませんとばかり、正論で諭そうとするはやて。
だがなのはは、父親と兄が聞けば卒倒しそうなことを、事も無げに暴露してみせたのだ。
「だってユーノ君、この前のデートで一所懸命お膳立てて、キス以上オッケーな状況に持ちこんだのに尻込みしちゃったんだもん! フラストレーション貯まっちゃうの、判るでしょ?
だからヴィータ君で!」
「・・なんや、その泣きながら撤退するどこぞの弁護士さんみたいなオチは・・・」
はやてがげんなりするその横で、乾いた音が響いたのはその時だった。
ブチッ!
「・・ヱ? なに今の音。まるで悔し涙流して噛んでたハンカチ思いっきり引き裂いたような音わ?」
状況解説ありがとう。正確に言えば、枕をねじ切った音なんだなこれが。
「あ、ふぇ・・フェイトちゃん・・どこいくん? いきなりザンバーフォーム背負ってからに」
「・・ちょっと、お花摘んでくる・・・」
「さ、さよか。なるべく早よう戻ってな?」
「・・努力するよ」
(ユーノ君かんにんなぁ)
はやては殺気を十重二重に纏った剣鬼を、戦々恐々と送り出した。
そしてメンバーは一巡する。
「あーでもアレだな。その順当でいくとわたしシャマルさん相手? ま〜いいかもね〜」
「一体何の話・・ってなんやアリサちゃん! その邪な笑みわ! むっちゃ怖いやん!」
「は〜や〜て〜ちゃ〜〜ん。ヴィータく〜ん貸〜し〜て〜〜」
「却下! 却下却下! 半ズボンは私んや!」
「クスッ。シグナムさんてどんな使い手なんだろう? 蛇? 蛇なのかなぁ?」
「ウットリしながら変な想像すな! やらんで! 家の騎士らは私だけのもんなんやから! 誰にもやらんったらやら〜〜〜んッ!」
「うっわ、すご! 四○だってよ○P! はやてってば実は淫獣だったん・・」
「・・それ以上言うたら、いっくら親友ゆうたかて石像に代えちゃるで? あ〜ん?」
「ぶ、ぶれいくぶれいく。落ち着いてはやてさん。
剣十字かざしながら言われたら、流石にシャレにならないわよ?」
「半ズボン・・・」
「まだ言うか!」
「・・ところで、ザフィーラさんってこの場合・・女性になるの・・・?」
すずかのその一言で、場は一気に盛り下がったのでありました。
終われ!
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