物心がついた時から、水歌は俺の傍に居た。
何処に行くにも一緒で、何時だって俺の傍に居て、鬱陶しいと思うほど水歌は俺の傍から離れなかった。
元々家族ぐるみでの付き合いだった所為か、水歌と年の同じ俺が必然的に世話役のような形で傍に居る事になった。水歌の両親は仕事で忙しく、滅多に家に居なかったし、水歌の姉である鈴姉も自由奔放な性格が災いして、水歌の世話をすることが無かった。
当時は嫌だった。俺もまだ子供で、誰かに束縛されるのはご免だったし、自由に遊びまわりたかった。けれど水歌の傍に居ろと、水歌と仲良くしろと、家族は俺に強制した。だから反発して水歌を避けてた時期があった。
それから男友達と、楽しく遊び始めた。TVゲーム、鬼ごっこ、サッカー、野球。どれも楽しく、時間が経つのも忘れて日が暮れるまで遊んでいた。水歌の事なんて、あの時はどうでも良かったかもしれない。
ただ、そんな風に、水歌から避けて――何日か経ったある日。
俺は初めて、泣いている水歌を見た。
あの日、水歌の泣き顔を、初めて見た。
星天学園物語
雨川 霧弥の場合/最終話
―――星天学園女子寮 竜胆水歌の部屋
水歌の看病をし始めて幾星霜。永い時を、ただ安らかに眠る幼馴染の顔を見るだけに費やして――まあそれはかなり誇張入った冗談だが、かなり長い時間、俺は水歌の顔を見続けていた。
特に理由は無い。する事も無い。折角眠っている病人を暇だからと言って起こすわけにもいかないし、だからと言って席を外せば看病している意味が無い。風邪とは言え馬鹿に出来ない。それに水歌は風邪を引いたからと行って、大人しく眠っているような奴じゃないし。誰かが見張ってないと。
だからずっと水歌の寝顔を見ている。寝顔を見ながら世話してる。苦しそうにしたら汗を拭いてやったり、布団がずれたら直してやったり。
そんな風に看病し続けて数時間。ようやく眠り姫の目蓋が開いた。
「……ほえ?」
「ようやくお目覚めか」
「……おはよー」
「うん、おはよー。と言ってもまだ夜だけどな」
とろんとした眼で俺を見る水歌に、挨拶を交わす。まあ本気で「おはよう」なんて挨拶を交わす時間帯じゃ無いんだけど。
水歌の部屋の窓から外を見る。見事に暗い。お外真っ暗。良い子は早くお家に帰らなきゃいけない時間帯。こんな時間帯まで水歌の部屋に滞在しているのがばれたら、かなりヤバイ気がする。気がするというより本気でヤバイ。普通なら停学食らう。此処に居て良いのだろうか俺。ちょっと不安。
で、俺がそこはかとなく不安に陥っている傍で、起きたばかりの水歌が何やら布団の中でモゾモゾ動いてる。いや、動いているんじゃなくて自分の服装を見ている感じ。なんか微妙に驚いているような。
「パジャマだ」
「ああパジャマだ。見れば解るだろ」
「……何で私パジャマなの?」
「脱がしたから」
「………」
しばし沈黙。俺も水歌も、一言も発せずに押し黙る。
どれだけ沈黙が続いただろうか。水歌いきなり布団で自らの身体を包み込み丸まって、何故か赤い顔で俺を睨む。
「……きーちゃんのえっち」
「俺じゃないわっ! 着替えさせたのは沢渡!! 俺がする訳無いだろうがっ!!」
思わず怒鳴りつける。勝手にスケベ扱いされるのは心外だ。いくら幼馴染でも、寝ている女の服を脱がす訳ないだろうが。
しかし俺の弁明を信用できないのか、水歌はきょときょとと不審げな目付きで周囲を見回している。
「でも聖ちゃん居ないよ?」
「アイツは俺に看病押し付けて帰りやがったんだよ。まあ、何かあったらすぐ呼べって言ってたけど」
「きーちゃん、看病押し付けられたの?」
「そうだ。ちなみに女子寮に住まう全生徒の希望でもあるらしい。お前のお守りは俺がやってくれだとよ」
俺がこんな時間帯まで水歌の看病出来るのは、単に女子寮全生徒の隠蔽工作がある為。女子生徒が総出で教員にばれないように手を回してくれているらしい。沢渡から話を聞いただけなので、どんな手段で隠蔽しているのかは一切不明だが。
言い方変えれば、女子生徒全員に“押し付けられてる”。まあ星天学園きっての問題児、歩く大迷惑の異名を持つ水歌の看病をやりたがる生徒なんていないだろうから、当然と言えば当然なのかもしれないけれど。
俺が溜息交じりにその事を水歌に伝えてやると、
「……そっか」
と、水歌にしてはやけに素っ気無い口調で応える。そしてそのまま、俺から視線を外す。
……何か、イマイチ自信が無いし、そもそも何でそんな態度を取るのか理解できないんだけど……もしかしてコイツ
「……何さ? 何拗ねてんの?」
「拗ねてなんかないよーだ」
そう言って、ぷいとそっぽ向く。うん、完全に拗ねてる。珍しい。何が珍しいかって、水歌がこんな風に拗ねる事が本当に珍しい。
風邪引いているからだろうか。こんな不満げな態度を、水歌が取るとは。
まあ病人さんと喧嘩する気は無いので、何で拗ねているのかは解らないが今は水歌のしたいようにさせておこう。
さて、水歌の眼が覚めたとなると、次に俺が取る行動は―――――
子供と言う生き物は、無意識に無自覚に残酷だ。それは善し悪いの問題ではなく、自分の欲望に真っ直ぐだからだろう。
それは水歌にも当てはまる。アイツは俺の事なんて考えてなかった。ただ自分のしたい事を優先して、その結果が危険な発明であったり、俺の傍に纏わりつく行為だったりする。
誰かに構ってもらいたい、誰かに褒めてもらいたい、誰かに認めてもらいたい。そんな幼き願望。
問題は、その願望を果たす際に相手の心を無視する事だ。自らのエゴを最優先し、相手のエゴを侵食する。それは衝突を引き起こし、子供の場合その衝突は喧嘩として現れる。
水歌もそうだった。昔の水歌は、今以上に我侭で大迷惑で、俺を他人を困らせて衝突を引き起こした。
水歌は残酷だった。所構わず、自分の欲望に真っ直ぐだったから。
周囲も残酷だった。そんな水歌を拒絶し始めた。我侭な水歌から離れて行った。
そして――俺もまた残酷だった。
皆と同じように、残酷な子供だった。
――水歌が眼を覚ましたので、病人の定番食を作ってあげました。
米を研ぎ、土鍋に水とともに入れ、強火にかける。沸騰したら弱火にし、かき混ぜずにゆっくりと煮込む。
そして煮込み終わったものを器に載せて――はい、おかゆの出来上がり。
何の工夫も無い料理だが、病人には最適。食欲の減退している風邪引きさんには、食べやすいおかゆは最適な食事であろう。
さあ水歌。さっさと食え。
「きーちゃん、これ熱そう」
「我侭を言うな病人。ホレ、口を開けてさっさと食え」
「あーん」
「はい、あーん…………って、自分で食えや貴様はぁぁっ!!」
思わず水歌に乗せられるところだった。食事まで用意してやったんだから、せめて自分で食べなさい。
しかし俺が水歌にレンゲを渡すと、何故か水歌は不服そうに頬を膨らませる。
「むー」
「何だよ。ホントにさっきから。膨れてたり拗ねたり」
「膨れても拗ねてもないもん」
そう言ってそっぽ向く水歌。うん、これ以上無いくらい膨れて拗ねていやがる。
あれか? もしかして俺に食べさせて貰えなかったのが不服なのか? というかその年で、「あーん」なんて行為を本気でするつもりだったのかお前は?
「その年で強要する行為じゃないだろ? 大体、レンゲも持てないほど重病って訳でもないだろうに」
「……そんなの関係無いもん」
ぶー、と膨れる水歌は現在高校二年生。どこのお子様だお前は。
「しかし……お前が風邪引くのって何年振りだっけ?」
「え? ……えーと……最後に引いたのは中学生の時だったかなぁ」
「すると、もう二年以上も前か」
「うん……」
水歌の言葉を聞きながら、遠い記憶を掘り返す。
記憶の奥にあるのは、今より少し幼い水歌の姿。ベットの上で苦しそうにしていた、彼女の火照った身体が思い出される。
何故思い出すのか。そんなの決まってる。
「あの時も俺が看病したんだよなぁ」
「うん……きーちゃん嫌そうだった」
「“嫌そう”じゃなくて実際嫌だった」
あの時も、今と同じ状況だった。風邪を引いて倒れた水歌の看病を、俺がする羽目になったんだ。丁度水歌の両親は留守だったし、鈴姉は他人の面倒なんて見る人じゃ無かったので、俺以外に適任がいなかったのだ。
当時の中学の担任自らが、俺に頼み込むような状況だったし。中学の頃から水歌の迷惑ぶりは変わらず発揮されていた。
それで、押し付けられた。俺が水歌の看病をするのを、さも当たり前かのように。
「……そっか。きーちゃん嫌だったんだ」
「ああ、嫌だった」
嫌だった。本気で、一片の冗談も無く言える。
「押し付けられるのがさ、嫌だった。俺がお前の傍に居るのが“義務”みたいに思えて嫌だった」
皆が言った。俺が竜胆水歌の看病をするのは当然だと。俺が水歌の傍に居るのは当たり前だと。
家族が、友人が、教員が、他人が、皆同じ言葉を俺に押し付けた。
「昔から嫌だった。家族も友達も、皆俺に“義務”を押し付けた。お前の傍に居ろって、皆に押し付けられた。それが嫌だった」
君がやれと。君以外にやれる人は居ないと。君がやらなきゃ誰がやるんだと。
俺にそんな“義務”を押し付けた。俺は押し付けられた。
俺と水歌の周囲に居た人達は、皆無自覚に無意識に残酷だった。
「そうやって押し付けられるたびに、俺達の関係すら“義務づけられた”関係に見えて嫌だった」
だから、反発した事もある。俺に強制させる周囲の人間に対して、そして水歌本人に対して反発した事は何度もある。
だってそうだろう? 反発だってしたくなるさ。
水歌が俺の傍に居たのは、俺が水歌の傍に居たのは――
「傍に居たいから、傍に居ただけなのに――“義務”にされたのが嫌なんだ」
「――え?」
呆けたような水歌の声を聴いて、我に返る。
水歌を見ると、呆けたようなではなく実際呆けていた。まだ熱が下がってないのか、ほんのりと紅潮した顔を俺に向けて、ぽけーっとしていた。呆けている、そうとしか言えない。
そして俺が茶碗によそってやったお粥は、綺麗に食べつくされていた。俺が喋っている間に平らげたようだ。
「ほれ、食ったならさっさと寝ろ。治るもんも治らんぞ」
「う、うん」
俺が急かすと、さっきまで拗ねてたのが嘘のように素直になって、布団を被さり横になる。何故か布団から眼だけ覗かせて、俺の方にきょときょとと視線を送ってくる。眠る気あるのか、こいつ。
とは言え、大人しくしていることには変わりないので、看病役の俺は、布団に包まっている水歌を黙って見守る事にした。
怒鳴るのは、水歌が無茶した時だけで充分なのだから。
水歌の容姿はとても目立つ。それは今も昔も変わらない。
染めたのではなく、生まれつき持った純粋な金髪。正真正銘のブロンド。絹のように滑らかで、そして艶がある。
髪だけでなく、水歌の瞳も反則だ。空色の瞳。澄み切った蒼空そのものの、宝石のような瞳は人を惹き付ける。
加えて水歌。皮肉すら言う隙が無いほど美しい。目鼻の整ったその造形。太陽のように鮮やかな金髪と、蒼空のように澄んだ瞳が相乗して、水歌自身が陽光を振りまいているとさえ錯覚する。
それぐらいに、水歌は昔から美少女だった。誰もが認めるほどに。
けれど――その美しさは異端でもあった。
日本人にはありえない髪と瞳の色。そのあまりに異なる容姿に、周囲の人間は奇異の目を向ける。
ましてや自分と同じ年の子供には、水歌の存在は異物でしかなかった。どんなに美しくても、どんなに綺麗でも。
だから水歌の周りには、誰も居なかった。誰一人、寄り付かなかった。
だから水歌は一人で、ずっと独りで――泣いていたんだ。
気になっている事があるのだ。水歌が風邪を引いたと解ったその瞬間に沸いた疑問。
そもそも水歌は理系の人だが、別に身体が弱いって訳じゃない。運動神経が良い訳では無いけれど、風邪を引いたぐらいで突然倒れたりはしない。人並みの体力ぐらいはある。
にも関わらず、教室でいきなり倒れた。前触れもなく突然。
これはおかしい。何か理由がなければ、ここまで弱ったりしない。何か無理をしない限り、普通そこまで身体が弱る訳が無い。
だから――問い詰める。
「……何で風邪なんて引いたんだ水歌?」
「そんな事私に言われても……空気中に浮遊しているウイルスが息を吸うことによって鼻に入り、鼻やのどの粘膜で増殖して」
「んな事は聞いてないから。風邪の性質なんてどうでもいいから」
「むー」
布団の中から不満そうな水歌の瞳が見える。その態度からすると、俺に講釈垂れたかったようだ。
だが、今は風邪の講釈なんて聴く気も無いし、聴く理由も無い。俺が問うているのは、
「……徹夜で何してたんだよ。毎晩毎晩寝ずにいれば、そりゃ風邪くらい引くってことぐらいお前にだって解ってただろうに」
「……うん」
布団に包まりながら、しゅんと落ち込むような態度を水歌は取る。何か怒られる前の子供のような態度。小動物っぽい、こんな怯えた態度を取るという事は――まあ、水歌が徹夜でする事なんて一つしかないけど。
俺は水歌から視線を外し、部屋に散乱している実験器具のようなものに視線を移す。とても言葉や文字で表現出来ない、意味不明摩訶不思議な機械が視界に入る。水歌の実家と同じく、寮の部屋まで人外魔境。
俺は、その意味不明な機械に近づき、
「あー、触っちゃ駄目だよきーちゃん。その、色々危ないから」
「解ってるよ見てるだけだ……大体、竜胆家の人間の発明が危ないってことぐらい、とっくに知ってる」
「むぅ」
「なんですかその顔は? 不満そうですね、人を爆弾で吹っ飛ばしたことのある水歌くん?」
「む、むぅー」
またしても膨れる水歌。でも反論の言葉は無し。まあ反論なんて出来る訳無いが。俺が爆弾で吹っ飛ばされた回数なんて、数えるのも馬鹿らしくなるぐらいあるんだから。事実を列挙していくだけで、水歌は反論出来なくなる。
昔っから理解してる。水歌の発明は、常に危険と隣り合わせのデンジャラスなものだって事ぐらい。そして、どれだけ危険だろうと“何かを創り出す”という行為は、水歌の唯一趣味――いや、生甲斐みたいなものだってことも。
だから、こいつが徹夜でする事と言えば、発明しかない。
「で? 今度は何作ってたんだ?」
「……薬。新薬」
「……お前な、テスト前ぐらい自制しろよ。体調壊してまで作るもんでも――」
「それは体調壊してまで作るものだもん。体調壊してでも作らなきゃいけないものだもん」
はて? やけに断言するな。水歌がここまで言うってことは、ただ趣味で作ってた訳じゃないのかもしれない。
徹夜で、それも自分の体調を崩してでも作るべき発明品。
それはつまり
「そんなに大発明な訳? 今回の発明は?」
「……私ときーちゃんにとっては」
「は?」
布団の中で小声でぼそぼそ言う水歌。聞こえ辛かったが、どうやら今回の発明品は“俺と水歌にとって”大発明らしい。
……何だ? はっきり言って、俺は科学とか発明とかそんな物にあまり興味は無い。水歌が作る発明品を見て凄いと思う事は多々有るが、それでおしまい。凄いと思っただけで、そこから先の感情が俺には無い。
にも関わらず、今回の発明は俺にとっても大発明らしい。
何だと言うのだろう? 正直、本気で見当がつかない。水歌が体調を壊してまで作ろうとしていた発明品について、何も思い浮かばない。どれだけ考えても、どれだけ悩んでも。何一つ浮かばない。
俺がそうやって、うんうん唸って考えていると、水歌が布団の中から目だけ出して、言った。
「…………きーちゃんの身体を元に戻す薬だよ」
――思考停止。何かよく解んない言葉を、水歌が言った。
……とりあえず、水歌の傍に行く。一歩二歩と歩み寄る。水歌がきょときょとと不安げに俺を見てるが、そんな事は知らない。今ちょっと頭に来てるから、水歌の様子なんて知らない。
水歌の傍に来る。目前には、ベットの中で布団に包まっている水歌が一人。
目標補足。俺はただ、感情に任せて右手を振り上げて――水歌の頭に、拳骨をお見舞いした。
「い、痛いよ!? 何するのきーちゃん!?」
「お前はお馬鹿だ。本物のお馬鹿だ。蓮以上の馬鹿だ」
「れんちゃんよりも!?」
「当たり前だ」
俺は、布団に包まった馬鹿に向かって言う。
ああもう、本当に馬鹿だコイツ。頭の良い馬鹿だ。蓮以上のお馬鹿だ本当に。何考えてんだよ本気で。
「……はぁ」
「た、溜息吐いたー。きーちゃんが私の顔見ながら、馬鹿の子を見るみたいな目で溜息吐いたー」
「的確かつ正確な描写ありがとう。まさにその通りだ」
「むぅーーーー!」
俺の受け答えが気に入らなかったのか、水歌は顔真っ赤にして俺を睨んでくる。しかも何か涙目。思いのほか拳骨に力入ってしまったようだ。両手で頭抑えてるし。
でも謝る気にはならない。何ていうか呆れてものも言えないと言うか、このお馬鹿に対して何を言えばいいのか解らない状態。
本当に、何やってんだか。テスト前だったというのに徹夜して。その挙句、風邪引いて倒れて。
本当にコイツは――――
「……俺の身体なんて後回しでも良いだろうに」
「……ほえ?」
――――どうして、俺なんかの為に、そこまでするのだろうか。
水歌は泣いていた。一人ぼっちで、誰も居ない公園で、泣いていた。
恨み言を言っていた。こんな髪の毛要らないと。こんな蒼い眼なんかいらないと。泣きながら、自分自身に対して恨みを語っていた。
黒い髪が欲しいと言っていた。黒い瞳が欲しいと言っていた。皆と同じ身体が欲しいと泣いていた。
慟哭だった。幼い子供が行う、無邪気で無自覚で無意識な残酷な仕打ちに対する、慟哭。
苛めたくて、悲しませたくて拒絶していた訳じゃないんだ。ただ、自分達と違う存在だったから、皆は水歌から離れていっただけ。その結果が水歌本人を傷付けるだなんて、きっと皆考えていなかっただろう。子供は、本当に残酷だから。
俺も残酷だった。一人で泣いている水歌を見るまで、どれだけ残酷な仕打ちをしてきたか理解しようともしなかったんだから。
周りに反発して、押し付けられる義務を嫌って、水歌の傍から離れた俺。その裏で、水歌が泣いていただなんて、考えようともしなかったんだから。
だから俺は、自分の欲望を捨てた。自分のエゴを捨てた。
義務にされたくないけれど、当たり前になんてされたくないけれど、それに反発して水歌が傷付くのは、絶対に間違ってる。
だってそうだろう? あんなに綺麗で、お日様みたいに明るい水歌が涙を流すなんて、それだけで間違ってる。
だから俺は、水歌の泣き顔を見たあの時だけは、その時だけは自分から水歌の傍に―――――
「……起きるなよ。治るまで寝てろよ。絶対に。でないと絶交」
布団の中から出たがっている水歌に釘を刺す。どうやら食事が済み、充分な睡眠を摂った所為か水歌の容態は良くなったようだ。顔の赤みも殆ど引いているし、熱も大分下がっているだろう。
とは言え、まだ油断は出来ない。風邪は治り掛けが一番危ない。だから釘を刺す。このお馬鹿な幼馴染が起きて騒ぎ出さないように、寝ずの番までする覚悟である。
「う……きーちゃんが酷い」
「そりゃ酷くもなる。お前さんが無理しようとすれば、俺だってそれ相応の態度を取る」
甘やかす気なんぞ微塵も無い。病人は病人らしく寝てろというのだ。だからジロリと睨んで水歌を黙らせる。びくっと、肩を竦めて布団に潜り込む水歌を、ちょっと可愛いなんて思っちゃたりするけど。
「で、でもきーちゃん、早く元の身体戻りたいでしょ?」
「そりゃまあ。透明人間なんて何の役にも経たないし。というか損にしかならないし」
「だ、だからさ」
「でも優先順位が違う。最初がお前の体調で、俺の身体は二の次三の次」
俺がそう言うと、水歌は呆気に取られたような顔をする。
何だよ。おかしな事言ったか? 俺?
「だ、だって……早くきーちゃんの身体治さないと……絶交だって言われた」
「……お前。俺の台詞を鵜呑みにしすぎ。あんな言葉軽く流せ。こんな事ぐらいで絶交したりしない」
「こんな事ぐらい?」
きょとんとした顔で聞き返してくる水歌。「?」顔のまま、水歌は腕を伸ばして俺の手を掴む。何をするでもなく、水歌は掴んだ俺の手をジロジロと見つめるだけ。
まあ、どんなに見つめたところで、今の俺の腕は
「………透明だよ?」
「解ってるよ」
んな事言われなくても解ってる。腕を掴まれた感覚はあれど、俺の腕は――いや、身体は視認する事が出来ない。どんなに眼を凝らしても、俺の身体は透明で、髪も顔も見ることが叶わない。
「………本当に、“こんな事ぐらい”?」
「こんな事ぐらいさ。たしかに一大事だし、ずっと透明のままじゃ俺の今後の生活に多大な影響を及ぼすけど、“こんな事ぐらい”だ」
“こんな事ぐらい”さ。たしかに色々と問題の有る身体だ。自由に街中を歩く事すら出来ない、不自由な身体だ。
でもな――これぐらいで、お前を嫌ったりしないよ。水歌。
「……何で?」
「……言わなきゃ解らんのか?」
問うてみると、水歌はコクコクと頷く。本気で、俺が水歌を絶交しないのが不思議らしい。
全く……何を今更って感じなんだが。大体、これぐらいで嫌うぐらいなら、俺はお前と幼馴染なんてやってないと言うのに。どうしてそう根本的な事に気付かないのだろうか。
爆弾で吹っ飛ばされても、透明人間にされても、それでもお前を嫌わない理由なんて……一つしかないだろうに。
簡単な事だ。
俺は
「俺は水歌のお守りじゃないから。そんな理由でお前の傍に居るわけじゃないから」
俺は、俺の理由で傍に居る。
ただ、それだけだ。
「気づいた時から傍に居た。仲も良かった。それで皆勘違いして、俺にお前の世話役押し付けた――でも、俺はお前のお守りなんかじゃないから。手綱なんかじゃないから」
物心がついた時から一緒に居た。気が付けば水歌は俺の傍に居て、考える前に俺が水歌の近くに居た。
そこに、強制や強要なんて無い。誰かに押し付けられた義務なんて存在しなかった。俺は、水歌は、ただ自分達の感情に従って傍に居ただけだ。自分達の気持ちに逆らわずに見つめていただけだ。
そんな俺たちを見て、俺を水歌のお守りにしたがってた人は大勢居たけれど。
それでも俺は
「俺はただ、傍に居たかったから居ただけだ。竜胆水歌の傍に居たかっただけだから」
それだけだ。俺が水歌の傍に居る理由は、水歌を拒絶しない理由はそれだけだ。
誰に言われた訳でもない。雨川霧弥がそうしたかっただけで、義務でも強制でも強要でもない。
「……爆発や騒動に巻き込まれるのは、たしかに困るけど、別にどうでも良いんだ。爆弾で吹っ飛ばされたり実験体にされたら、そりゃ確かに怒るけど、別にそんな事どうだって良いんだ」
水歌が誰かに迷惑かけるような発明をすれば、そりゃ怒る。勝手に人を実験体にしたら、それも怒る。
でも――どうだって良いんだ。そんな事で嫌ったりしない。拒絶したりしない。
そもそも、嫌えるぐらいなら――子供の頃に、泣いている水歌さえ無視していた。
俺の望んでいるものは、今も昔も一つしかない。
「俺は別に、見返りなんて求めてないから」
良いんだ。どんな目にあったって。爆発巻き込まれたって、身体が透明になったって、どんな目にあったって良いんだ。
怒るけど、困るけど――それでお前を嫌ったりしない。嫌える訳がない。
一方通行で良い。少しは大人しくなってもらいたいと思う事はあるけれど。それに応えてくれなくてもいい。水歌は水歌のままで居てくれればそれで良いんだ。
俺は
「お前が好きなだけで―――――それだけで良いんだから」
水歌が好きなだけだから。
雨川霧弥は、竜胆水歌が好きだから。
だから嫌えない。理由なんてそれだけなんだから。
「え……あ、う……ぁ……ぅ……」
ふと気が付くと、水歌が変な声を上げていた。鼻の頭まで布団に包まり、微妙に潤んだ眼で俺の方をきょろきょろと見ている。
見えている顔の部分は半分程だが、その見えている部分の顔が妙に赤い。つか真っ赤。耳まで真っ赤になってる。布団に隠れて見えないけれど、多分頬は紅潮どころの騒ぎじゃなくなってるだろう。大丈夫かコイツ?
「……なんか顔真っ赤だぞ水歌。熱出てきたんじゃないのか?」
「―――――ぁ」
不安になって水歌の額に手を当てる。
熱は……それほど無い。別に病状が悪化した訳では無い様だ。とりあえず安心。……けれど、ならば何故ここまで顔が赤くなるのだろうか。理由が解らない分、不安は消えない。
「……で、でも……それでも、きーちゃんの身体は……頑張って治すよ。絶対に」
「当たり前だ。治してくれなきゃ困る。これじゃ買い物にすらいけないし」
「う、うん。頑張る」
ごそごそと目元まで布団を引き上げて、水歌はやけに気合入った返事をする。顔が未だに赤いままだからなんとなく不安だけど、ここまで気合入っている以上、俺の身体はすぐに元に戻るだろう。なにせ水歌は、本物の天才だし。
「ねぇ、きーちゃん」
「何?」
布団に包まりながら眼だけ出し、やけに不安げに水歌は俺を見つめてくる。……本当に大丈夫だろうか。何か水歌の態度が、普段とかなり違う。なんか小動物みたく可愛くなってる。
これも風邪の所為なのかなーと思っていると、水歌が口を開く。
「ホントに……私の事好き?」
「好きだよ。だからずっと傍に居たし、ずっと見てきたんだから」
「う、うん……あの、私も……その……好きだよ」
「そっか。ありがと」
見返りなんて求めてないとは言え、好きだと言われて嫌な訳が無い。だから俺は素直に応えて、水歌の頭を撫でてあげる。サラサラとした絹糸みたいな髪の感触が心地良い。
「ふぇ……」
と、頭を撫で付けていると、またしても水歌が変な声を。む、よく考えたら病人の髪弄くるというのは、あまりよろしくない行為のような。それに髪が痛んでしまうとアレなので、手を離す事にする。
手を離して後、水歌の顔を覗き込むと――何だか恨みの篭った視線が、俺に向けられる。
「……やっぱりきーちゃんは酷い人だよ……」
「え? ……ああそうか。ごめんな髪痛むかもしれなかったし」
まあ確かに、いきなり髪撫で付けるのは良くなかったか。つい手を出してしまったけれど、水歌も男に頭撫でられるのは嫌だろうしちょっと軽率だったか。うん、反省。
「こんな事ばっかりされるから……私はきーちゃん離れ出来ないんだよぉ……」
「ん? 何か言ったか?」
「……何にも言ってないよーだ」
何か小声で水歌が話した気がするのだが、聞き返しても拗ねたようにそっぽ向きやがる。むぅ、そんなに嫌だったか。
しかし視線を外したのも束の間、水歌はすぐに俺の方に向き直る。機嫌が直るのが早いというか何と言うか。
「……早くきーちゃんの顔見たいなー」
「何を突然訳の解らん事を。今日も昨日も見てただろうが」
「きーちゃん。今、透明」
「……………」
確かに。すっかり忘れていた。というか気にならなくなっていたが、今の俺は透明。顔も身体も何にも見えない身体だった。俺の周囲に居る人間の殆どが、普段と同じような対応をするので自分が透明だという認識が薄れがちになってしまう。
まあ、昔から水歌の発明に巻き込まれて“慣れてしまっているだけ”という気もしないではないけれど。
本当に慣れるつもりなんて無かったんだけどな。水歌の傍に居すぎた所為だろうか――まあ悪い気はしないから良いが。
「……ありがと、きーちゃん」
突然、そんな言葉が掛けられる。視線を向けると、水歌が布団の中から赤い顔を覗かせて微笑んでいた。
子供みたいにあどけない笑顔。ずっと見続けてきた水歌の笑顔が、そこにあった。
「私の幼馴染でいてくれたのが、きーちゃんで良かった」
そんなの、俺だって同じだよ。水歌。
よく言われる事がある。昔から言われ続けてる事がある。
なんで幼馴染をやっているのか、とか。なんで水歌を嫌わないんだ、とか。
なんで、傍に居続けることが出来るんだ、とか。
水歌の傍は危険だらけだ。爆発や爆風なんて日常茶飯事だし。痛い目に酷い目に死にそうな目、そんな状況に陥る事がそれこそ何度も遭遇した。
だから言われる。霧弥は人が良すぎるとか。霧弥は優しすぎるとか。
でも、それは間違いだ。俺はただ、自分のやりたい事を行っているだけ。それがたまたま“水歌の傍に居る”という行為になっているだけの話。俺は優しい訳でも、人が良い訳でもない。
水歌は良い奴だ。嫌いにはなれない。でも、それだけでは傍に居続ける事は出来ない。それだけで傍に居続ける事が出来る奴は、正真正銘のお人好し。それが本当に優しい奴。
俺は傍に居続けているけど、お人好しなんかじゃない。
俺が水歌の傍に居続ける理由なんて、ホント単純で解りやすい事なんだから。
要するに―――――惚れた弱みって事さ。
―――星天学園男子寮 雨川霧弥の部屋
「あ、あははははははは……まさか、きーちゃんに移るとはねぇ……ゴメンネきーちゃん」
「……別にいいけどさ……」
水歌の謝罪の言葉を聞きながら、自室のベッドの上で俺は横になっている。時刻は朝。早く登校しないと遅刻してしまいそうな時間帯。けれど登校なんて出来そうに無い。身体の節々が痛くて動かせそうにない。すごくだるい。
つまり――水歌に風邪移された。
「よく考えたら一晩中居たんだもんねー、風邪移って当然かもねー」
「全くな……ものの見事に移されたよ……フフフフフ」
「大丈夫きーちゃん?」
「全然。もう駄目。頭痛いし喉も痛いし、色々駄目」
心配そうに水歌が問いかけてくるが、元気な様子をアピールする気力すらない。ホントに頭痛い。風邪の影響は思いのほか大きく、雨川霧弥はグロッキー。なんか、だるくて死にそう。
とは言え――実は今回の風邪は嫌な事ばかりではない。頭痛いし吐き気もするし熱は下がらないし、散々な目に合っているのだが風邪を引いたために起こった身体の異変は、俺に嬉しい誤算をもたらした。
水歌の風邪が移されて、しばらく経った後。俺の身体は
「でも……まさか風邪のウイルスが透明化を治してくれたとはねぇ」
火照った体にうなされながら、自分の手を見る。透明ではない肌色の手。
そう、何の因果か風邪を引いた途端、俺の身体はみるみるうちに元の姿に戻っていったのだ。これは俺も水歌も、予想だにしていなかった事。まさか風邪引いて元の雨川霧弥に戻るとは思ってもみなかった。
そんな訳で、俺の身体は現在元通り。日本人特有の黒髪も、目立った特長の無い平凡な顔立ちも、久々に俺の日常に帰ってきてくれた。その為、今回の風邪は嬉しい出来事でもあるのだ。
……まあ、だからと言って、このだるさが無くなる訳じゃないんだけど。
「んー……風邪のウイルスが原因じゃないかもしれないよ?」
「は? 何で? 風邪引いた途端、身体見えるようになったんだぞ?」
「そうだけどー……ウイルスが原因じゃないと思う。むしろ風邪を治そうとする人間の抵抗力が原因なんだと思う。多分、炎症を起こしたときに発生する発熱物質サイトカインが発熱中枢を刺激した際に、身体が熱を帯びそのため」
「あー、いい。説明いらない。聞いてるだけで頭痛くなってくる」
「うい? そう?」
小首傾げて水歌が聞き返してくるけど、本気でもうどうだっていい。つか話聞く前から、頭痛いんだからそんな状態で水歌の小難しい話を聞く余裕なんてない。大体聞いたところで半分も理解できないだろうし。
身体が元に戻った。それだけで充分だ。
俺が原因究明する気無しと解ったやいなや、水歌は左手に巻いた腕時計を見て――ちょっと慌てる。
そういや頭朦朧として半分忘れかけてたけど、早く登校しないと遅刻してしまうんではないだろうか。
「それじゃきーちゃん。私学園行くけど、帰ってくるまでちゃんと寝てるんだよ?」
「わーってるよ……さっさと行きなさい」
水歌に言われるまでも無い。こんな辛い風邪はさっさと治すに限る。治るまでは安静にして、布団の中で眠り続けるとしよう。ぐぅ。
……しかし、学園に行くとか言ったくせに、何故か水歌は俺の部屋から出て行こうとしない。
それどころか
「……な、何ですか水歌さん? そんな素敵な笑顔を携えて?」
妙に綺麗な笑み浮かべて、俺の方に滲み寄ってきやがる。
いや、お前の笑顔は可愛いですし、ずっと見ていたいって気も確かにありますが――そんな笑顔で何する気ですか?
「薬飲ませてあげる♪」
「いりません」
速攻で即答。脊椎反射の如き速度で返答したよ。
「ぶー。遠慮しなくていいのにー」
「結構です。ありがた迷惑です。君の作った薬を飲んでも悪化するだけなので、大きなお世話です」
「うい? 私の薬じゃないよ? 市販されてる普通の薬だよ?」
「……嘘じゃないだろうな?」
「うん」
頷く水歌の手には、錠剤の詰まった瓶が一つ。その瓶は紛れもなく市販されている薬品であった。子供の頃に、何度か服用した覚えのある瓶だし。市販されている薬と言うのは嘘ではないだろう。
「ふぅ……じゃあ、後で飲ませて貰うから、水歌は早く登校しろよ。そんなに時間無いぞ」
水歌の作った薬で無いと解って思わず脱力。だって水歌の薬飲んで良い思いした記憶なんて無いし。折角元の身体に戻ったのに、また奇人変人になんてなりたくないし。安心するに決まってる。
だから脱力――したと言うのに、何故か水歌は笑顔を崩さぬまま、俺の部屋に居続ける。早く出て行かないと遅刻すると言うにも関わらず、ニコニコと子供のような笑顔のまま俺を見つめている。
「おい、早く行けって―――――――んんっ!?」
それは突然の出来事で。それは一瞬の出来事で。
水歌の唇が――――俺の唇に重ねられていた。
「ん……んふぅ……んん……」
くぐもった声。柔らかな水歌の唇の感触。
寄せたい寄せたい、もっと寄せたい。あまりに心地よすぎるその感触は、俺の脳を麻痺させる。快楽に溺れそうになる。水歌の舌と、俺自身の舌が重なり合って、境界が解らなくなる。
何もかもがあやふやに。
やがて、ごくんと何かを飲まされる。口移しで呑まされたものは、多分錠剤。水歌の持っていた薬を飲まされたんだと思う。
確信は持てない。持てる筈が無い。
今俺の脳裏を占めているのは、水歌と唇を合わせているって言う事実だけ。
「ん………んん……!」
接吻、キス、口付け。
呼び方なんてどうでも良い。重要なのは、俺と水歌が重なっているって事だけ。敏感で柔らかな器官が、お互いに触れ合っている、お互いに重なり合っている。
ただ、それだけだ。
「あ……はぁ……」
水歌が身を引く。唾液が糸を引いて、銀色の橋を創り出す。
その光景を、水歌は真っ赤に染まった顔で見つめている。どこか呆然と、夢うつつな表情で。
そして水歌は、ちらちらと俺の顔を見始める。恥ずかしさに逃げるような、そして不安に怯える子猫のような態度で、ちらちらと見る。
水歌はそんな態度を維持したまま、首まで赤く染まった顔を伏せて、ぼそりと言う。
「……早く良くなってね、きーちゃん……」
たった一言。たった一言そう告げて、まるで逃げるように俺に部屋から退室。その間、二秒にも満たなかったと思う。脱兎の如くと言うのはきっと今の水歌の事を指すのだろう。
まあ俺は―――何をするでもなく、そんな水歌の様子を見てるだけしか出来なくて。
「……あの馬鹿」
ただ、俺に出来るのは、とんでもない事しでかした幼馴染に向かって憎まれ口叩く事だけで。
ただ、唇に手を当てて、先程の感触を思い出す事だけで。
それ以外に、何も出来そうに無くて。
「余計に熱上がっただろうが、馬鹿たれー」
風邪とは無関係な所で、火照りに火照りまくったこの身体の熱をどうすればいいのかと。
そんな場違いな事を考えていた。
とりあえず
俺、雨川霧弥は
一生涯、竜胆水歌に惚れたまんまなのだろうなー、と
そんな確信をした