第8話「死合い」
ここで暗がりから黒のスーツの男が出てきて、何やら説明しだした。
「ルールは単純明快。降参するか死んだら負けです」
「死んでも負けか・・・」
アルフレッドは唸るように呟き、こう思った。
〈老人を闘わせるにはいかないな〉
「村長、僕がやります」
「そ、そうか。頼むぞ」
アルフレッドはヒラリと有刺鉄線のリングの中へと降り立った。
「なかなか使うようじゃの」
天武が言った。
「多林寺で八年ほど」
「その程度でわしとやろうなどとはな」
「ふん、その程度かどうかやってみれば分かるさ」
「試合開始!」
審判のおっちゃんの声が響いた。
「いや〜、とうとう始まってしまいました。わたくし、実況を務めさせて頂きますカオリ・マナーベでございます。そして今日は素敵なゲストをお呼
びしています。元横綱九重親方です!よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「まず仕掛けたのはアルフレッドの方だ!
!!!
き、消えた!天武選手、消えた〜!」
「これは高速移動してるんですねぇ、はい」
アルフレッドが振り返るとそこには天武が立っていた。
「ふっふっふ、どうやら実力に差がありすぎたようじゃ。降参するかね」
「降参なんかしないさ、負けても殺されるんだろ?ここはこいつの出番のようだ」
アルフレッドは懐から44マグナムを取り出し、天武に狙いを定めた。
「おっーと、武器の使用は禁止ですよ!いやぁ、エライことになりましたねぇ、親方」
「今、大会規定を読んでみたんですが、武器の使用は問題ないですよ」
「た、確かに大会規定は降参するか死んだら負けとしか書いていません!アルフレッド選手、ルールの盲点をついた作戦です!天武選手はど
うすることもできない!」
「しかし、人として武器使いますかね。相手は武術の達人と言っても素手ですよ。あまりにも非道だ」
「えー、ここで電報を紹介したいと思います。アルフレッド選手の母と名乗る方からです。
私はあんたをそんな子に育てた覚えはないわ。もう帰ってこないで。メアリー・ボンバーヘッド。
さらにアルフレッド選手の弟さんと中継が繋がっています。中継のウガンダさん!ウガンダさん?」
「はい、こちら中継のウガンダです。アルフレッド選手の弟さん、アンソニー・ボンバーヘッドくんです。お兄ちゃんのやり方、どう思う?」
レポーターのウガンダはアンソニーにマイクを向けた。
「お兄ちゃんの卑怯者!」
「ありがとう、ウガンダ。アルフレッド選手は弟から卑怯者呼ばわりされてしまったー!」
「精神的ダメージは大きいですよ」
アルフレッドは思った。
〈俺は何と言われようとも勝つ!〉
マグナムの照準を天武に合わせて、引鉄をゆっくりと絞った。