第10話「仲間への殺意」
「アイタタタタ!じ、持病のしゃくが!」
村長の下手な芝居が始まった。
〈さっきまでの勢いはどこいったんだか〉
アルフレッドは無理矢理にでも村長を精神と時の洞窟に押し込みたくなった。精神を崩壊させてブルックベリーに置いていこうかとも思った。だ
が、アルフレッドは仕方なくこう言った。
「精神と時の洞窟には俺が行きます。村長は休んでいてください」
「そうか!すまんな、アル。わしはこの青年と出口で待っとるよ」
村長とアルフレッドは青年に案内を乞うと、数分ほどで洞窟の入口まで連れていってくれた。洞窟をのぞくと、内部は意外にも整備されていた。
蛍光灯が取り付けられていて、床はタイルが敷きつめられている。
アルフレッドは村長に別れを告げた。
「無事を祈っていて下さい」
「うむ、わしは信じておるぞ」
「アルフレッドさん、この左側の穴を二十メートルほど進むと鉛の扉があります。そこに試練が待っています。どうかご無事で・・・それではご老
体、参りましょう」
青年は村長を連れてさっさと行ってしまった。洞窟は内部で二手に分かれていた。その左側に精神と時の洞窟、右には出口があるようだ。取り
残されたアルフレッドは孤独を感じる前に、左手の穴へと歩を進めていった。しばらくすると、もっともらしい扉があった。古い文字で呪文の様な
ものが彫ってある。
「ゴート文字だ!」
思わず口に出してしまった。
「光と影・・・あとは削れてて読めないな」
鉛の扉をゆっくりと押し開けた。六畳ほどのこざっぱりした部屋である。時計が一つあるだけで、物は何もない。
「すいませーん、誰かいませんか」
その時である!扉が急に閉まり、がチャリと鍵のかかる音がした。アルフレッドは力任せに開けようとしたが、びくともしない。
〈これが試練なのか?〉
アルフレッドは諦めて座り込んでしまった。時計を見ると昼の十二時である。村を出てから数時間も経っていた。
その頃、村長は青年と共に出口を目指していた。
「村長さん、この扉の向こうが出口です」
村長は言われるがままに扉を開けた。
バタン!村長と青年が部屋に入ったとたん扉は閉まってしまった。
部屋の中には百人ほどの群衆が車座を作っていた。村長はその中央に立たされた。訳が分からずおろおろしている。そこで青年が喋りだした。
「ようこそ、精神と時の洞窟へ」
村長は何のこと分からず唖然としている。
「鈍い野郎だ。まだ分かっちゃいないらしいぜ」
青年が周囲を見回すと、群衆がどっと笑った。村長への嘲笑である。青年が続ける。
「俺が精神と時の長老だ」
「な、何!?騙したな!」
「今頃何言ってやがんだ。それよりさっさと対決を始めよう。俺に勝てば球はやる。俺が勝ったらお前は一生俺の奴隷だ。お題は酒だ。俺と飲
み比べをする」
しばらくの沈黙があった。
村長は落ち着きを取り戻していった。村長は村一番の酒豪として知られていたのだ。
「フォッホッホ。酒にはちこっとうるさいぞ。さて、はじめようか」
まずウォッカが用意された。大きな樽である。それをジョッキでたいらげていく。村長も酔ったそぶりを見せていない。互角の勝負だった。三十分
ほどでウォッカはなくなってしまった。精神と時の長老が言う。
「なかなかやるな。酒はまだある。おい!次はポン酒だ!」
ほどなく日本酒が運ばれてきた。一升瓶で数十本ほどだろうか。
村長は勝負を無視し、独りで飲み始めていた。ジョッキも使わずにラッパ飲みをしている。日本酒の数も少なくなってきた頃、ばたりと人の倒れ
るような音がした。精神と時の長老が酔い潰れて眠っていた。
「わしの勝ちのようじゃ」
村長は誇らしげに言った。そして、精神と時の長老を起こした。ドラゴンボールを頂かねばならない。
精神と時の長老は酩酊しながらも懐から白い球を取り出し、村長に渡した。
「アルフレッドはどこにいるんだ?」
「おっと、忘れるところだった」
精神と時の長老はそう言うと鍵を村長に渡した。
「入口のとこを左に曲がって・・・zzZZZ」
最後まで言わずに眠ってしまった。
村長も酒がまわってきた。
「冷や酒と親の小言は後で効く、なんつって。ガッハッハッハ!」
もう、キャラが変わってきている。アルフレッドの閉じ込められた部屋に着く頃には泥酔状態だった。
部屋の鍵を開けるやいなや、アルフレッドに抱きつき、こう言った。
「・・・前から、、好きでした・・・」
そして眠ってしまった。
アルフレッドはというと、がたがた震えていた。
〈このまま旅を続ければ、この老人に何をされるか・・・いっそヤッちまうか・・・〉
祖父から譲り受けた短剣が脳裏をかすめた。
アルフレッドは《ヤル》という言葉にいろんな意味があることを知らなかった。