第12話「死を超越した男」
ギャンビットは椅子に座りなおし、自分のこめかみに銃口をあてた。静かに撃鉄を上げ、目を閉じた。これがギャンビットのスタイルの様だ。
「んごー」
村長は相変わらず眠っている。もはや村長のいびきしか聞こえない。時がゆっくりと流れていた。
ギャンビットはなかなか撃たない。村長のいびきが気になっているのかもしれない。酒の臭いも依然厳しいものがある。
アルフレッドは、村長が負けたらドラゴンボールは諦めると決めていた。
ギャンビットの額に汗がにじむ。鼻の下も湿ってきている。一つ、大きく息を吐いた。引鉄を絞る・・・
乾いた音が辺りにこだました。ギャンビットの頭から鮮血が飛び散った。肉片も混じっている。二つの眼球もあるべき場所にない。
アルフレッドはというと、血の気の引いた真っ青の顔で茫然としている。
そこで当のギャンビットが喋りだした。
「いやぁ、負けちゃったヨ。ドラゴンボール持って行くアルヨ」
飛び散った脳みそを拾いながら喋っている。アルフレッドはただつっ立っていた。ギャンビットはおかまいなしに脳みそを拾い続けている。最後
に目玉を押し込んだ。
「・・・何で死んでないの?」
ようやく口が動いた。アルフレッドは驚きを隠せない様子だ。
「今からアバウト三百年前にドラゴンボールで不老不死にしてもらったことのアル」
「へぇ・・・そうなんだ・・・」
「びっくりしたアルか?」
「と、とにかく、ドラゴンボールは貰ってくよ」
アルフレッドはギャンビットからドラゴンボールを奪うと、村長を起こした。泥酔した村長はちょっとやそっとじゃ起きやしない。長年の付き合いで
アルフレッドは村長の起こし方を会得していた。鼻の穴に指を突っ込むのである。それも力の限り。突っ込んだまま十分は経ったろうか。アルフ
レッドも大分落ち着いてきた。そんな時、村長の瞼がぴくりと動いた。
「村長、起きて!ドラゴンボール四つ目ゲッツしましたよ!」
「ん?そうか・・・アル、今日はもう寝よう」
村長はまた眠ってしまった。
「ギャンビットさん、ここに泊まってもいいですか?」
「いいヨいいヨ。こんなとこで良かったら何日でも泊まってってヨ」
「ありがとう」
その後はギャンビットとアルフレッドで酒盛になった。アルフレッドはここぞとばかりにぐちりまくった。村長へのフラストレーションがたまっていた。
「ん?臭う、臭いますぞ。これは大便の臭いアルヨ」
「しまった!村長は酔い潰れると糞を漏らすんだった!」
「どこまでも使えない爺アルネ」
アルフレッドは村長の傍らまで行くと、腹を思いっ切り蹴った。
「この糞爺が!」
声に怨みがこもっている。
「死ね!死んでしまえ!この役立たずが!」
村長は起きる気配を見せない。アルフレッドも相当に酔っている。アルフレッドは村長の横っ腹を蹴って蹴って蹴りまくった。もう日が昇ろうとし
ている。そんなアルフレッドを、ギャンビットは恍惚の表情で見つめていた。
〈あたい、惚れたかも・・・〉
人知れずギャンビットはアルフレッドに恋していた。
日の出ともにギャンビットはアルフレッドに言った。
「そんな糞爺なんかより、あたいを連れていって!」
瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだ。アルフレッドの右手を握りしめて放そうとしない。
「お願い」
アルフレッドは、ギャンビットの目が恋する乙女のものになっていることに気付かなかった。
「足手まといにはならないわ。あなたの言うことは何だってする!お願い!」
「・・・」
「これからはアルと呼んでくれ」
「そ、それじゃあ」
「ああ、今日からお前は俺たちの仲間だ」
♪たたらたらったった〜
不死身のギャンビットが仲間になった。
ギャンビットは会心のガッツポーズをした。アジアカップ決勝の川口能活を彷彿させた。