第15話「斧使いは突然に」
謎の男、諫早権之助が去ると村長は言った。
「とにかく今は進むのではなく、ラポウィン村に行くしかなさそうじゃ」
「そうですね」
「ところで、そのラポウィン村はどこにあるんですか?」
ギャンビットが尋ねた。
「なんだ、知らないのかこのブルックベリー村よりさらに南にあるんだ」
「そうじゃ、確か盗賊や泥棒が集まる村として有名なんじゃ」
「かなり危険な村ですが行くしかないですね」
三人は神殿を出るとそれぞれラバ、馬に乗り山を降りた。
ちょうど村まで降りたところで村長が思い出したように言った。
「ちょっと待った」
「どうしたんです?」
「食料と水を買っておこう」
「あ〜そうでしたね」
三人はとりあえずブルックベリー村の八百屋に向かうことにした。
村民が20人前後ということもあり八百屋は今にも潰れそうな掘っ建て小屋である。
「へい、らっしゃい!」
潰れそうな店の割には店主の威勢はよかった。
「パンを三つ、米を10キロ、水を50リットルお願いします」
「毎度!ずいぶん買いますね。旦那」
「ああ、長旅なんじゃ」
食料と水を馬に乗せるとアルフレッドを先頭にブルックベリー村をあとにした。
「そのインディさんという人早く見つかるといーですね」
ギャンビットはパンを頬張りながら言った。
「そうじゃな」
村長は両手にパンを持ち貪っている。
もちろんアルフレッドは食べていない。村長の馬に食料を乗せたのが間違いだったようだ。
普通はちゃんと進めるところを独り占めしている。村長らしいといえば村長らしい。
しばらく馬を歩かせているとすっかりまわりは暗くなっていた。
「とりあえずここで野宿にしましょうか」
「そうじゃな」
アルフレッドはラバから降りると木にラバをつなげた。
残る二人も同様に馬を木につなげ
「さて、どうしましょーか?」
アルフレッドは少し考えて指示を出した。
「じゃあ、ギャンビット、お前は薪を集めてくれ。できるだけ乾いてる薪だ」
「オーケーです」
「それじゃあ、村長は米を砥いで下さい」
「わかった」
珍しく村長は頼みを聞いてくれた。おそらく食べ物に関してのことはやるのだろう。
アルフレッドは適度な大きさの石を並べ、その中にギャンビットが持ってくる薪をうまく入れていった。そしてポケットからマッチを取り出し薪に火
を付けた。
「村長、準備はできましたか?」
「おお、できたぞい」
村長は重たそうに三つ飯盒を持ってきた。
「いやー、近くに川があって助かったわい」
アルフレッドは村長が持ってきた飯盒を火の上に吊るしていった。
「あとは炊くまで待つだけですね」
「そうじゃな」
村長は舌鼓を打ちながら言った。
「ところで、アルさん」
ギャンビットが薪をくべながら聞いてきた。
「なんだ?」
「どうしてアルさんはドラゴンボールを集めているのですか?」
核心をつくような質問だった。
「特に決めてはいない。ただ、自分の知らない何かを見てみたいだけだ」
アルフレッドは本意を悟られぬようにもっともらしいことを言って誤魔化した。
「そういうギャンビットはなんで不死身になったんだ?」
「かっこいいからデース」
「か、かっこいい?」
「そうデース」
「ま、まあ、それはいいとして、どうやって集めたんだよ?」
「龍針盤というドラゴンボールの場所を示す道具があったんです。それを見て集めました。普通に落ちてるだけだったので簡単デース」
「それはよかったなぁ」
今もそのままでほしかったとアルフレッドは思った。
「できたぞ!」
今まで黙っていた村長が言った。飯盒からずっと目を離さず見張っていたらしい。
三人はご飯を平らげると疲れの所為かすぐに眠ってしまった。
翌朝・・・
荷物をまとめると再びラポウィン村に向けて馬を歩かせた。
歩き始めて1時間ほどすると村らしきものが見えてきた。
「これがラポウィン村か・・・」
「さっそく誰か人に聞いてインディン・ジョーンズなるひとを探さなくてはならんな」
「情報収集といったらまず酒場デース」
こんな治安の悪い村で酒場なんていって大丈夫かと思ったが他に考え付かなかったのでアルフレッド一行は酒場へと向かった。
酒場に入る午前中にもかかわらず多くの人が酒を飲み交わしている。
「これだけ人がいれば誰か知ってるじゃろ」
そういうと村長はカウンターの席に座りテキーラを頼んだ。くいっと一口飲むと店員に尋ねた。
「マスター、この村にインディン・ジョーンズという人がいるはずなんじゃが知らんか?」
「インディン・ジョーンズ?どんな人ですか?」
「いや、俺たちも名前しか知らないんですよ」
アルフレッドは村長の横の席に着きながら言った。
「それでは申し訳ないですが私にはわからないですねぇ・・・あっ、彼女に聞いてみたらどうです?」
「彼女?」
店員が指差す方向を見るとそこには一人で日本酒を飲んでいる女性が座っていた。
「そうか、じゃあ、彼女にでも聞いてみますよ」
アルフレッドたちは立ち上がり彼女の方へ向かおうとすると
「待ってください!」
「なんじゃ、まだあるのか?」
「あの、、これはアドバイスなのですが・・・彼女は気性が荒いことで有名なので気をつけてください」
「なーに、僕ほど女性の扱いに慣れてる人はいないデース」
「まあ、何とかなるじゃろ」
村長とギャンビットはほとんどそのアドバイスを聞き入れることなく彼女の方へ向かった。
あわててアルフレッドも後に続く。
村長は彼女の向かいの席に座り
「インディン・ジョーンズという者を探しているんだが・・・」
彼女は女神のような絶景の美女で怪しい雰囲気を放っていた。
「インディかい?知ってるがただでは教えないよ」
「できることならする」
アルフレッドは一歩前へ出て言った。
「表に出な」
すると女は隣に立てかけてあった斧を持ち、出口に向かった
それが置物だと思っていた三人は驚きながらも後についていった。
「あんたらあたしが誰がか知って聞いたのかい?」
「いや、マスターに聞いてな」
「そうかい」
すると女は大きな斧を振りかざし地面を叩き切った。
ものすごい地響きがなり三人は驚愕した。
「あたしはこの町のあらゆる情報を握っている情報屋であり斧の達人・・・・エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンだ。覚えとけ」
「なに!?エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンだと!!」
村長は大声を上げた。
「村長さーん、彼女を知ってるんですか?」
「ああ、ものすごい美貌と斧の腕前で有名なんじゃ。なにより戦いを好む性格で恐れられているんじゃ」
「なら話は早い・・・インディンのことについて知りたかったらあたしと戦いな。もし、戦わないなら有り金全部置いてきな」
「いや・・・そんな無茶な」
エリザベータはギロリと睨んでくる。
「そうじゃ、いくらなんでも理不尽すぎる。聞いただけなんじゃぞ」
その瞬間エリザベータは斧を水平に振りぬいた。アルフレッドは慌ててしゃがみこんでかわした。
村長は微動だにできなかったが背が低かったため頭をかすめただけだったが、ギャンビットは呆けていたため首を飛ばされた。
一瞬のうちに場は騒然とした。
人一人が死んだならこの村では日常茶飯事だが首のなくなった体が首を追いかけているのだ。
さらに頭の上をかすめた村長の頭がアルシンドのような頭になってしまった。
ギャンビットは首をつけて戻ってくるとエリザベータは驚きを隠せない様子だった
「と、突然何をするんだ!」
エリザベータはそれには答えずこう言った。
「貴様・・・・ドラゴンボールで不死身になったものだな」
「そうデース。よく分かりましたね」
「インディンもドラゴンボールで不死身になったものだからな」
「な!なに!!」
アルフレッドは驚いた。
「しょうがない、あたしの一撃を避けた褒美にインディのもとに連れて行ってやろう」
そういうとエリザベータはずかずか行ってしまった。
「お、おい」
アルフレッドたちは慌てながら彼女についていった。
彼女は予想外のところへ入っていった。酒場だった。
エリザベータは中に入るとマスターを呼び出した。
「おい、彼は知らんと言っておったぞ」
「彼がインディンだ」
「なに!!!」
村長は一歩前に出て言った。
「おぬし、嘘を付いたのか!?」
「インディンは人付き合いが嫌いで、この村では身分を隠している。インディン、お客さんだ」
「エリザベータが認める人でしたか。それで何用ですか?」
村長は抗議をしたかったが我慢した。
「神殿の罠を突破するためにあなたの手帳が必要だと聞きました。よければ僕たちにいただけませんか?」
アルフレッドは簡潔にそう言った。
インディンは少し間をおいて胸ポケットから古ぼけた革製の手帳を取り出した。
「エリザベータが認める人たちならあげましょう」
(え〜そんな簡単に〜!!)
エリザベータも含めた全員がそう思った。
「少し聞きたいのじゃが、おぬしがドラゴンボールで不死身になったと聞いたがドラゴンボールと関係があるのでは?」
「いかにも・・・・その神殿の設計者は私なんです」
「oh!ホントですか?神殿できるまえからあの村にいましたが気付きませんでしたよ」
「設計のお礼としてドラゴンボールを使わせてもらったのです」
「なるほどそういう経緯があったのか・・・・」
「あの罠は自力で解くのは非常に困難です。ですからこれを受け取ってください」
アルフレッドは手帳を受け取った。
「ありがとうございます!」
「いえいえ」
そう言うとインディンは酒場の客に呼び出されて店の中に帰ってしまった。
「なんかあっさりでしたね」
「そーでしたね」
まだ昼にもなっていない。ホントに早く用が済んでしまった。
「なあ」
エリザベータが声をかけてくる。
「あんたらなんでドラゴンボール集めてるんだ?不死身になりたいのか?」
「いや、わしらは旅をしているだけじゃ。世界のいろいろなものを見たいと思ってな」
村長は少しかっこつけて言ってみせた。たしかにこの村では調子が良かったがアルシンドヘッドで言われても・・・・とその場の全員が思った。
「じゃあ、あたしも連れてっておくれよ」
「え!!」
アルフレッドはこれ以上トラブルメーカーは勘弁してくれと思った。
そんなアルフレッドをよそにエリザベータは喋り出した。
「インディンは設計士になる前は冒険家だったんだ。あたしは酒場の用心棒ということでよくインディの話を聞いたんだ。そこであたしは思ったん
だ。世界は広いって。」
三人とも黙って話を聞いている。
「だから・・・だから、あたしもいつか世界を冒険しようって思ってたんだ。でもきっかけがなくて・・・」
「じゃあ、来なさい」
村長があっさりOKを出した。
(何言ってやがんだ、このジジイ。この暴力女が仲間になったら命がいくつあっても足らん!)
ギャンビットは少し嫌がるかと思って見てみるとなぜか放心状態である。
(やばい・・・この流れ止められない)
アルフレッドは血の気が引いた。
「じゃあ、よろしくね」
エリザベータは握手を求めてきた。
魂の抜けかかった二人を差し置いて村長はがっしり握手した。
(もうどうでもいいや)
「じゃあ、残る3つを」
「取りに行くかの」
「そうデース」
いつの間にかギャンビットが元に戻っていた。
「そうね」
これで新しい仲間が増えた。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン
暴力女だが強いから役に立つかな・・・・
エリザベータはインディンに許可をとり、一度家に戻って支度してきた。
やはり馬に乗ってきた。腹が立ったが反抗するわけにもいかない。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
エリザベータは先頭に立ち斧を突き上げて言った。
厳しい寄り道を済ませアルフレッド一行は再び神殿に向かった。