第16話「認められし物」
一行はブルックベリー村へと帰ってきた。一回目の訪問と違う点は、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが同行していることだ。
早速、三人の長老が待つ神殿へと向かった。神殿に着くと、アルフレッドはインディンの手帳を開いた。小さな文字でごちゃごちゃと書かれてい
る。所々図面も入っている。
アルフレッドたちは、ギャンビットが一度死んだ通路の前までやってきた。
「手帳によると、この通路の先の部屋まで仕掛けは何もない」
アルフレッドが先導し、扉の前まで辿り着いた。
「開けるぞ」
一言の後に、扉を開けた。
部屋には、一人の白髪の老人が甲冑を着て座っていた。兜はかぶっていない。
「待ちわびたぞ。お主らがはじめての客だ」
老人は話しだすなり、抜き打ちにアルフレッドを斬った・・・はずだったが、そこにはエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの斧があった。
「そう簡単にはいかなくてよ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンのお陰でアルフレッドは命を拾った。
「あ、ありがとう」
アルフレッドはこう呟くのが精一杯だった。
「ほう、こんなかわいいお嬢さんがこんな所に・・・」
老人はそう言うと、剣を構えた。
「名を聞こう。葬る時に困るのでな」
「あたしはエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン」
「エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン!」
老人は驚きの表情でエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの名を繰り返した。
「ふん、あたしの名前を知ってるなら、この斧・・・」
老人はエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの話を遮った。
「いや、知らん。言ってみただけだ」
「・・・」
老人は剣を構え直した。
ところが、老人はふらつき、胸を押さえ、苦しみだした。
「山本さん、何やってるの!ちゃんと寝てないと駄目でしょ!」
意外な闖入者は看護婦だった。
「すみませんね」
看護婦は山本さんを引きずって奥の部屋へと消えていった。
一同唖然としていると、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが先陣を切って奥の部屋へ追った。仕方なく、残った三人も奥の部屋
へ入った。そこには三つのベッドがあったが、うち二つは空だった。一つには山本さんが横たわっている。山本さんが手招きをしてエリザベータ・
アンゲルトリューテン・ウォンチョンを呼び寄せる。
「これを・・・」
発作が起きたのだろうか、先程の元気はない。山本さんの掌に乗っているのはドラゴンボールだった。
「有り難く頂戴する」
一番後ろにいた村長が前に出てきて、ドラゴンボールを受け取った。その後の口上はアルフレッドである。
「ここには三人の長老がいるはずでは?」
「三人の長老は兄弟だった。上の二人は二百年前に死んだ。一番下の弟は、不死の水を飲んで生きながらえた。しかし、水の効能にも限界が
きたようだ。そのドラゴンボールは持って行くがいい」
「しかし、あと二つあるはずです」
「そこに杯が並んでいるだろう」
確かに、たくさん杯が並んでいる。きらびやかなものから、粘土で作ったものまで多種多様である。
「その杯を一つ選んで、瓶から水を汲んで飲め。それが聖杯なら永遠の命を得るだろう。永遠といっても精々二百年だがな」
「聖杯じゃなければ?」
「死ぬ」
「その杯とドラゴンボールとどういう関係があるんですか?」
「見事聖杯を選べば、ドラゴンボールを授けよ。それが兄たちの遺言だ」
「二つ貰えるんですか?」
「そうだ」
〈アイディアの限界かもしれない〉
と、何故かアルフレッドは思った。
「なるほど、早速やろう。ギャンビット!」村長が仕切り始めた。
「待て」
山本さんが制止する。
「不老不死の人間でも、聖杯選びに失敗すれば死ぬ」
ギャンビットは自分の出番がなくなって、残念がっている。他方、村長は何故か自信に溢れている。
「これでもわしは考古学と陶器学(総合科目)を修めておるんじゃ」
アルフレッドは疑ってかかっていたが、村長の真剣な目に譲ってしまった。
「わかりました。村長、選んでください」
村長は吟味しだした。杯を手に取っては置き、取っては置きを繰り返している。数分で一つの杯を選んだ。
「これに間違いない!」
「水を飲め。答えが分かる」
山本さんが言った。
村長は瓶の水を汲み、一気に飲み干した。
「ハハッ、何ともない!聖杯を当てたぞ!」
「やりまーした!さすが村長!」
「あたし、見直したよ」
ギャンビットとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは喜んでいるが、アルフレッドだけが浮かない顔している。アルフレッドは山本さ
んと目を会わせた。山本さんは小さく首を振った。
村長の髪の毛が少しずつ伸びてきた。目が窪んで、皺が増えていく。
「こ、これは・・・!」
村長は自分の手や腕に目をやり、異変に気付いた。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンに助けを求め、抱きついた。
「きゃっー!」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは叫びながら、村長を蹴り飛ばした。村長は壁にぶつかり、動かなくなった。ミイラ状態になっ
ている。誰が見たって死んでいる。
「俺がやろう」
アルフレッドはできるだけ冷静を装った。
いくつもの杯の中からたった一つの聖杯を見つけ出さねばならない。失敗すれば死ぬというのは嘘ではなかった。現に村長は死んでしまったの
だ。一つの杯が目についた。木製の杯だ。腐りかけていて、何箇所か欠けている。
〈これだ〉
アルフレッドは瓶の水を汲み、無造作に飲んだ。
何も起きない。
山本さんの顔色を伺う。
山本さんはにこりと微笑んだ。
「これが聖杯ですか?」
「見事だ。ドラゴンボールを与えよう」
アルフレッドは小さくガッツポーズした。ギャンビットとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは泣いている。村長の死を悼んでいた。
長老(山本さん)からドラゴンボールを受け取った。これで七つ全て揃ったことになる。