第18話「遺体処理」
村を出て一日半で村長は死んでしまった。まったく外の世界は何が起こるか分かったものではない。
ブルックベリー村を出発する前に、アルフレッド、ギャンビット、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの三人は村長のことを話し合っ
た。村長の遺骸は未だ神殿の中である。
「村長のことなんだが・・・」
アルフレッドが切り出した。
「oh、アルさん、自分で言っといてまだ気にしてるんですかー?」
「いや、そうじゃなくてさ。家族には知らせておかないとまずいだろ。うちの村の前村長だし」
「そうだな、葬式ぐらいはやってやんないと」
こんな時でもエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの口調は変わらない。
「そんな必要はありませーん。人間死ぬ時は独りでーす」
アルフレッドは思った。
〈やっぱり三百年も生きてると感情が麻痺するんだ〉
アルフレッドには一つの考えがあった。今、それを二人に伝えようとしていた。
「いや、家族には知らせよう」
「あたしもそうした方がいいと思う」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンも同意した。
「そこでだ。うちの村にはギャンビットに行ってもらおうと思う」
「めんどいでーす」
「ギャンビット、お前は三百年も生きて、大事なものを忘れている。村長の家族に村長の死を告げるんだ。そして、大事なものを取り戻してこい」
ギャンビットはあからさまに嫌な顔をしている。
「あたしもギャンビットはおかしいと思ってたんだ」
一度話を切った。一呼吸置いてから視線をギャンビットに向け、再び口を開いた。
「あんた、行ってきな」
これで二対一だ。もういけなかった。
「分かりまーした。二人が言うなら仕方ないでーす」
ギャンビットは渋々ながら村に行くことを了解した。
アルフレッドの口許が弛んだ。作戦が成功したからである。アルフレッドの作戦とは、ギャンビットを村に行かせることである。その動機は、間違
ってもギャンビットの更正ではない。アルフレッドはエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンと二人っきりになりたかった。とにかく二人っ
きりになりたかった。理由はそれだけである。
アルフレッドとギャンビットは村長の遺骸を寝袋に詰め、ラバの背にくくりつけた。村長の馬にはアルフレッドが乗ることになった。
「うちの村の行き方分かるか?」
「分かりまーす。伊達に三百年生きてませーん」
「そうか、よろしく頼むぞ」
ギャンビットは別れを告げると、馬の腹を蹴った。
「あたしたちも行こうか」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが言った。
「そうだな。いざトレッドストーンへ!」
アルフレッドは突然大声を出した。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが若干ひき気味なことに気付いていない。
アルフレッドによると、トレッドストーン村はブルックベリー村の東、トレッドの樹海の中にあると言われている。
程なくトレッドの樹海の入口に辿り着いた。トレッドの樹海の入口付近には、村とも言えぬ集落がぽつんとある。ぼろ小屋が数軒あるのみであ
る。二人は食糧を買うことにした。
「ところでアルフレッド、金あるのか?」
「えっと、三千ゼニーはあるかな」
「三千?たった三千ゼニーか?そんなんじゃ二日分の食糧も買えないぞ!」
「え、マジで・・・?」
「マジだよ!どうすんだよ!これじゃあ旅を続けられないぞ!」
「・・・じゃあ稼ぐか!」
「稼ぐ?」
「ついてきな」
アルフレッド馬を降り、バーに入った。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンも続いた。
バーには十人ほどのやさぐれた男たちがいた。カウンターにはマスターらしき男がいる。年の頃は十四、五だろうか。
アルフレッドが声をかけた。
「ようマスター、ヤってるかい?」
そう言いながら、アルフレッドは牌をつもる仕草をした。
「奥だ」
二人はマスターに導かれるがままに、奥の部屋へと入った。
「ここ、空いてるかい?」
言い終わる前にアルフレッドは席に座っていた。
第一局
親 アルフレッド
南 エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン
西 メガネ
北 ハゲ
アルフレッドはいつもの通り、二の二のサインを出す。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは軽く頷いた。
あっという間に天和を上がった。次も同じことを繰り返し、一人勝ちした。
〈こんなんじゃ奥技を出すまでもないな〉
バーにいる全員をおけらにした。
バーのマスターが二人に近寄ってきた。
「出ていってくれ!」
これだけ技を使えば、追い出されるのは当然である。だが、お陰で二十万ゼニーもの大金を手に入れた。
これで食糧を買って、二人はいよいよトレッドの樹海へと入っていった。