第23話「すべてはチキュウのために」
禁断のギャンブルに賭けることにした二人はその扉を開けた。
中は薄暗く先のカジノのような煌びやかイメージと正反対なものだった。
天井についている照明がテーブルを照らしている。
テーブルには一人の男が立っている。
「ようこそ」
その男は我々に話しかけた。
「ここでラビット・ナボコフができるのか?」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが聞いた。
「そうだ。私はこのカジノのオーナーのドン・ガバチョであり、ラビット・ナボコフ世界チャンピオンだ」
「そうかい」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはまったく気にしない。
「絶対やばいよ・・・」
アルフレッドはエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンに耳打ちしたが聞く耳を持たない。完全にやる気だ。
「さっそく、やるよ」
「いいだろう。だがプレイヤーが足りんな。子が4人必要だ」
「ルール上ではそうなってるが別にいなくても大丈夫だろう?」
「ふふ、ならば対面(トイメン)に座りな」
指示通りエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは席に座る。
ついに1対1の真剣勝負が始まる。
「最初は10万ゼニー賭けよう」
「おい、いきなりそんなに賭けるのか?」
アルフレッドは心配そうに言った。
「ちょびちょび賭けててもしょうがないだろ」
ドンはにやりと笑い、無言でカードを用意した。
まずドンが4枚のカードを裏返しにしてエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの前に並べる。そしてドンはもう1枚カードを引き表にして
置いた。クラブの8だ。子はその裏返しの4枚のカードから1枚選びそれで勝負するのだ。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは迷いもせず右端のカードを表にする。スペードの8だ。
「よし」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは小さな声でつぶやいた。
「2倍だな」
賭け金が10万ゼニーだったので20万になって戻ってきた。
ドンの表情は変わらない。
(たしかにこれはすごいゲームだ・・・・しかし・・・)
アルフレッドの不安はこのあと的中することになる。
「もう慣れた。今度は100万だ」
ドンは先ほどと同様にカードを配る。
親のカードはハートの4だ。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは再び迷うことなくカードを選ぶ。
ハートの7だった。
「ふふ、残念だったな」
ドンは笑いながら100万ゼニーを持っていく。
淡々とゲームが進んでいく。
「次は30万だ」
「ずいぶん弱気になったな」
ドンは挑戦的な目で見てくる
親のカードはスペードの2だ。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは思った。これはチャンスだ。ジョーカーを引けば50倍だ。これは行くしかない!
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはカードを選んだ。
その瞬間ドンはいままで以上にニヤリと笑った。
カードは・・・・・クラブの2だ・・・・
「10倍没収・・・」
アルフレッドは頭が真っ白になった。
「貴様!イカサマしやがったな!」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンがドンを睨みつける。
「何を言ってるんですか。証拠などどこにあるのですか?」
テーブルはもう片付いている。
「くそ!」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは今にも襲いかかりそうだ。
「どうします?続けますか?」
残金は20万だった。
「もちろんやるさ。このまま帰れない」
「おい、エリザベータ、さすがにあとがない。止めておこう」
「いや!やる!賭け金は20万!」
(もう・・・終わったかも・・・)
そういってる間にドンはカードを用意していた。
また親のカードはスペードの2だ。
(誘ってやがる・・・)
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは突然斧を振り上げて床に突き立てた。
ものすごい轟音が鳴り響く。
「絶対勝つ・・・」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは気合を入れてカードを選んだ。
そのカードは・・・・なんとジョーカーだ。
「な!」
ドンは表情を大きく崩した。そしてエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンを睨み返す。
「き、貴様・・・」
「さあ、1000万だ」
ドンは無言で札束をこちら側に滑らした。
「もちろん、これで帰るわけじゃないよな?」
「ああ、当たり前だよ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは挑戦を受けるつもりだ。
「また、全額賭け。1000万だ」
重苦しい空気の中カードが配られる。
またもや親のカードは2だ。
もう当然のようにイカサマが行われている。二人はそのことを承知でやっていた。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは笑みを浮かべカードめくる。
カードはジョーカー・・・・
「良かったな・・・5億だ」
ドンはなぜか表情を変えない。
「ふふ、分かってるよ。次のゲームでケリをつけるつもりなんだろ?」
彼女は分かっていた、ドンは次のゲームで10倍没収を狙っていたのだ。
負けん気の強いエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはこの勝負を逃げるつもりはない。アルフレッドは本当に見守るしかなかった。
ドンはカードを配る。
そして、親のカードは・・・ジョーカー。
予想外だった。これでは親は最高でも賭け金しか回収できない。
しかし、子は勝てるカードが一枚しかない、ハートの2だ。ドンはこれを狙っていたのか。
この状況でもエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは笑っている。
「いくよ・・・」
すべての時が止まったようだった。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの動きがスローモーションのようだ。
これで地獄に行くか・・・・それとも・・・
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはカードの上に手を置き、一呼吸してからゆっくりとカードをめくった。
・
・
・
そのカードは・・・・赤い・・・数字だ。
カードは・・・ハートの・・・・・2・・・・
「やったーーー!!!」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは大きくガッツポーズをした。
「そ、そんな馬鹿な・・・そのカードは・・・・あ、ありえない・・・」
ドンの顔から血の気が引いていく。
「さあ、出しな。500億だ。」
ドンはうつむいたままだ。
アルフレッドは何も言わない。
すると突然ドンは引き出しを開け拳銃を取り出した。
「残念だな。金はわたさ、」
その瞬間エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはテーブルごと拳銃を打ち下ろし、破壊した。さっきより大きな轟音で建物が揺れる。
「ここで死ぬか、500億出して生きるか。どっちだ?」
もう床は原型を留めていない。
部屋は台風が起きたように散らかっている。
「わ、わかった。出す。出します。」
ドンは壁についている金庫から札束を引っ張り出しエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンに渡した。
ドンは泣いている。
かわいそうだが旅のためだ・・・・
二人はカジノをあとにした。
ホテルのオーナーは言った。
「よくぞやった!感謝するぞ」
「いえ運が向いたんですよ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは頭を掻きながら言った。
「しかし、そんな大金があるのでは残りの250万など小銭だな。どうだ?なにか他の希望はあるか?」
「いえ、金さえあればとりあえずチキュウには行けるので・・・」
アルフレッドはこんな巨額の金を抱えてねだるのは良くないと思った。
「なるほどチキュウか。ならば準備をしてあげよう。代金も払おう」
「そんな悪いです」
「チキュウはこことはわけが違う。我々が用意する装備やチキュウガイドを持っていかなくてはあちらで困ることになるぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えます」
アルフレッドは素直に受け入れた。
ホテルから離れたところにチキュウへのゲートがあった。
オーナーが手配したスタッフがいる。
「まず、こちらに着替えてください」
出された服はトレッドストーン村でも自分たちの村でも見たことがないものだった。
拒否してもしょうがない。
数分後、二人は着替えてスタッフの説明の続きを聞いた。
「チキュウへ行くにあたり大切なことがあります。それは自分たちがチキュウ以外から来たことを知られてはならりません。」
「え?どうしてですか?」
「安全のためです」
「ああ、そうなのか・・・」
「あとチキュウにはガイドがいませんのですべてご自分の責任でお願いします」
「それは大丈夫だ」
「詳しいことはこちらに書いてあります」
そういってスタッフは本を渡してきた。
「チキュウは我々にとってもまだ未知のところです。すべてではありませんがこの本である程度助かるでしょう」
アルフレッドは本をパラパラとめくってみる。
『困ったときはポリに助けを求めよう』
最初のほうのページに書いてある。
「ポリ?」
「ポリってなんだ?」
横で見ていたエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンがスタッフに聞く。
「ポリと言うのはチキュウでの職業名なのですが、残念ながら詳しい内容はわかりません。過去チキュウに行った方が何回かポリに助けられた
ので助ける職業だという学説があります」
「そ、そうか」
「次に貨幣です」
「金ならたくさんある。困ることはないさ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは大きな鞄を指差した。
「いえ、チキュウでは貨幣が違うので両替していただきます」
「え?そうなの?」
「ええ、単位はイェンといい、1イェンが100万ゼニーになります」
「は!?ひゃ、100万ゼニー!?」
「でも行くんだからしょうがないな」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはスタッフに500億0250万ゼニーの入っている鞄を渡す。
そしてスタッフは紙幣5枚とコイン三枚を差し出した。
5万3イェン。
「50万ゼニーは両替できないのですが今回は特別です」
「なんか少なくなったように感じるな」
「まあ、チキュウの貨幣単位は大雑把なんだろ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは全然気にしていない。
そして、スタッフに案内され奥の部屋まで入っていった。
部屋の真ん中には一枚扉がある。
「何だこれ?」
「この扉がチキュウへと繋がっています」
「これが?」
「はい」
「不思議なもんだな〜」
アルフレッドは興味深そうに扉の裏も見る。
「チキュウというのはかなり大きな範囲の地名でこの扉はチキュウの真宿というところに繋がっています」
「シンジュク・・・」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは聞き慣れぬ地名を言ってみた。
「いきなり町なんかに出たら怪しまれるんじゃ?」
「ええ、そのため扉を通るところが人目にさらされないように路地裏に出るようになっていますのでご安心ください」
「そうか、ありがとう」
「それではお気をつけて」
スタッフは一礼する。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはいつもの斧より小さなものを鞄に入れこう言った。
「よし、準備はオーケー」
アルフレッドも鞄の中のガイドと古文書を確かめた。
「ああ、じゃあ行きますか」
ついに未知のチキュウへ扉を開けた。