第24話「ポリの屍を越えていけ」
「う、何だこの空気は・・・!臭い!呼吸するだけで気分が悪くなりそうだ」
チキュウでの第一声はアルフレッドだった。
「ああ、こんな空気、吸えたもんじゃないな」
そんなやりとりをしてる間に、ばたんと音をたてて扉は閉じた。傍目には二階建ての家屋の扉の様だ。これが異世界への入口とは誰も思うまい。
アルフレッドたちの世界では二階建ての建物は珍しい。城以外で二階建てとなると、諫早権之助の主、多久の二階茶屋くらいのものである。
「おい、これ二階建てだぞ!はじめて見た」
「あたしもはじめてだよ。でっかいなぁ」
数分見とれていた。
「とりあえず、この路地を出よう。そこを右に行けば表通りがあるだろ」
「うん、そうしよう」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはアルフレッドの意見に従った。二人は路地から表通りに出た。
表通りに出たところで二人は絶句した。おびただしい人々が縦横無尽に歩きまわっている。しばらくしてからアルフレッドが口を開いた。
「何て人の数だ・・・祭りでもあるのかな」
「いや、戦争しかない。こんなに人がいるんだぞ」
祭りも戦争も的を射ていないことは分かっていた。
二人は目的もなく彷徨しはじめた。
「それにしても明るいな。今って夜だよな」
「多分。看板が光ってるから明るいんだろ。見ろ、空は暗い」
「ほとんだ。あ、アルフレッド!あの店に入ってみようよ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが目指す先には『ドンキホーテ』と書かれた店があった。
「ちょっと待て。ガイド見てみるから」
アルフレッドはガイドの目次からドンキホーテが何なのかを調べた。
「どうやら雑貨屋のみたいだ。看板には『ドンキホーテ』って書かれてるけど、それは間違いで本当は『ドンキ』と言うらしい」
「とりあえず入ろうよ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの目は輝いている。二人はドンキへと入って行った。商品の全てが何に使うのか分からない。
衣類だけは着るものだというの認識はできたが、あとは何が何だか想像もつかない。店内を物色しているうちに興味深いものを発見した。
「おい、麻雀牌があるぞ!」
「ほんとだ!チキュウにも麻雀あるんだな。これで金なくなっても大丈夫だな」
麻雀牌を発見しただけで二人はドンキを後にした。
「宿どうする?」
唐突にアルフレッドが話し出した。
「そんなの野宿でいいよ」
「でも寝てる人なんかいないぞ。それに寝袋もござも持って来てないしさ」
言い終わると同時にアルフレッドの肩が何かに当たった。
「おい兄ちゃん、どこ見て歩いてんだよ」
「は?あんたが当たったてきたんだろ。俺は真っ直ぐ歩いてた」
肩をぶつけてきた男は三人組だった。三人供人相が悪い。
「んだと?喧嘩売ってんのか?」
予想外の展開にアルフレッドは怖じ気付いた。こうなるとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの出番だ。
「喧嘩売ってんのはお前だろ。アルフレッドは何もしてない。喧嘩ならあたしが買うよ」
「いい女連れてんじゃねぇか。てめぇにゃもったいないねぇよ」
そう言って三人揃ってにやにや笑っている。これにはアルフレッドも頭に来た。
「本屋を馬鹿にするなー!」
言うより早くアルフレッドの拳がうなった。男の顎を正確に捉えた。男は抵抗する間もなく倒れた。失神している。これには仲間の二人も驚いた
。この三人組はこうして因縁を付け、金を巻きあげることを生業としていた。唖然としていて仲間の二人は行動が遅れた。既にエリザベータ・ア
ンゲルトリューテン・ウォンチョンは斧の柄で殴りかかっていた。斧の名手、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの一撃をかわせる
はずもなく、残りの二人も失神した。気付くとアルフレッドとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの周りに人だかりができている。そ
ろいの帽子と妙な服を着ている屈強な男たちが、人だかりの前に出てきてエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンにこう言った。
「武器を捨てろ!」
口々にわめいている。手にした短い棒を構えている。
「ちっ、仲間がいたか。アルフレッド、油断するなよ」
「分かってる。俺も本気を出そう」
アルフレッドを祖父譲りの短剣を抜いた。それを見た男たちが妙なことを言い出した。
「銃刀法違反だ!機動隊を呼べ!」
アルフレッドたちには何のことだか分からない。男たちはおとなしく投降しろだの、抵抗するなだのと叫ぶばかりで一向に攻めてこない。業を煮
やしたエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが斧を一人の男に向かって投げた。斧の柄が男の額に当たり、ブーメランの様にエリザ
ベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの手許に戻ってきた。男は昏倒したまま動かない。
「畜生!」
男たちの頭領らしき人物がにがにがしく叫んだ。
「機動隊はまだか!」
「もうすぐです!」
気付けば、男たちの手には棒ではなく、拳銃が握られている。けたたましいサイレンと共に重武装した男たちがやって来た。援軍のようだ。ア
ルフレッドたちを取り囲むやいなや、突進してきた。二人は押し倒された。
「確保!」
重武装の男の一人が勇ましく叫んだ。アルフレッドは短剣の術を披露する間もなく、失神していた。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは果敢に戦っている。妖艶のほど斧の技が冴えていた。重武装の男たちを全滅させるのに時
間はかからなかった。