第31話「デジャヴュ」
車に乗りしばらく経った。
「なあ、ピラフって言ったっけ?」
「はい」
「組とか言ってたけどいったい何なんだ?」
「なんと言いますかね。簡単に言えば家族みてえなもんです」
ピラフは背が低いにもかかわらず運転がうまい。
さらにしばらく経ち大きな家の前に止まった。
表札に梅ヶ崎と書いてある。
「ここに梅ヶ崎親分がいます」
「なんか俺たち付いてきてるだけだがこんなのでいいのか?」
「親分は常に狙われる身です。だから護衛もお願いします」
「ああ、そういうことか」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはうなづいた。
ピラフは表札の下についているボタンを押した。
ピンポーン
「はい、何でしょう?」
ボタンのあたりから声が聞こえる。
「真中瞳組の使いのものです」
「そうか、まあ入れや」
そして三人は大きな門をくぐり城のようにでかい屋敷の玄関前まで来た。
「失礼します」
ピラフは大きな声で言った後玄関を開けた。
中にはスーツ姿の男たちが数人出迎えに来ていた。
「親分いらっしゃいますか?」
スーツ姿の男の一人が前に出て答えた。
「ああ、それがまだ・・・」
「酒を飲んでいらしたのか?」
「ええ、だいぶ酔っちまいまして」
聞いたとおりのんだくれのようだ。
「継承式が明日なんでな。今晩中に来て頂きたいんだ」
「わかりやした。こちらへ」
三人は屋敷に上がり少し歩いたところにある座敷に案内された。
座敷にはとっくりや日本酒の瓶が転がっている。
そしてその真ん中に親分らしき人が転がっている。
スーツ姿の男がその親分らしき人を起こした。
「親分、真中瞳組のものです」
「あ〜?ああ、そうかわしが媒酌人だったな〜」
そういうと親分がアルフレッドたちのほうに振り返った。
アルフレッドたちは言葉を失った。
振り返った親分の顔はアルフレッドとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンには忘れられない顔だった。
「村長!!!」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが大声で言う。
その場にいる男たちが固まる。
「そ、村長?」
ピラフが不思議そうに言う。
アルフレッドが親分に駆け寄った。
「村長、なんでこんなところにいるんですか?」
当の親分はわけのわからなそうな顔をして言った。
「なんじゃお前は?わしは村長になった覚えはないぞ」
アルフレッドは混乱した。
「え?村長じゃ・・・ない?」
「そうじゃ、わしは梅ヶ崎組組長、梅ヶ崎金太じゃ」
アルフレッドとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは顔を見合わせた。
「おい、アルフレッド。こいつ村長じゃないぞ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは小声で言った。
「そうみたいだ、しかし似てる」
「そうだな、生き写しだよ」
知ってる顔だが赤の他人、アルフレッドたちは複雑な気持ちになった。
コソコソ話しているとピラフが近づいてきた。
「あんたたち親分に会ったことあるのかい?」
「いや、人違いだったよ」
「そうなのか、突然村長とか言い出すから何かと思ったぜ」
「ああ、取り乱して済まなかった」
「それよりさっさと連れて行こうぜ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが小さい声でピラフに言う。
「親分、じゃあ行きましょう」
「ああ、行くとするか」
梅ヶ崎親分はそう言い立ち上がった。
先ほどの玄関まで来ると男たちがアルフレッドたちに言った。
「親分を頼みます」
「ああ、任せとけ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは少し笑って言った。
親分は靴を履きコートを着た。
「じゃあ、行ってくるぞ」
「行ってらっしゃいませ!」
男たちが同時に言う。
「それではあちらの車です」
ピラフが親分を案内する。アルフレッドたちはそのあとを付いていく。
車はストレッチリムジンなので後ろには四人乗れる。親分は先に乗り、アルフレッドたちも後ろに乗った。ピラフは運転席だ。
「では出発します」