第32話「再会、そして昇天」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはじっと梅ヶ崎の親分を見ている。アルフレッドも同じだった。
「アル、久しぶりだな」
「!」
「あんた梅ヶ崎親分だろ?」
「今はな」
「今?」
「そうだ。昔は村長と呼ばれていた」
「じゃあ・・・村長なんですか?」
梅ヶ崎親分はにやりと笑った。
「でも、村長は死んだじゃないか」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンがアルフレッドに言った。その問いには、梅ヶ崎親分自身が答えた。
「ああ、確かに死んだ。だが、偉大なるギャンビット様の魔力によって蘇ったのだ」
「ギャンビット?あいつ魔法でも使えるのか?」
「お前たちはギャンビット様の真のお力を知らないのだ。今、向こうの世界はギャンビット様が支配しておられる。人口は三分の一ほどになってしまったがな」
「ギャンビットが世界を支配してる・・・?何てことだ。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン、すぐに帰ろう」
「ああ、ギャンビットの野郎をぶっ殺してやるよ」
もっとも、ギャンビットは殺したところで何度でも蘇る。
「ところで、村長はなんでこっちに来たんですか?」
アルフレッドが率直な疑問をぶつけた。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは血気にはやっている。
「わしはチキュウ人の討伐を命ぜられたのだ。これから真中瞳の頭を殺って、関東を取る」
とうとうエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの堪忍袋の緒が切れた。
「ピラフ!クルマを止めろ!」
クルマは急停車した。右手には斧が握られている。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが先に車を降りた。後にアルフレッドが続き、梅ヶ崎親分はその後だ。最後にピラフが降りた。ピラフには何のことだか分からない。展開が読めていなかった。
「さあ、かかっておいで!」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが斧を振り上げた。
「待て、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン。村長の相手は俺がしよう。長年の付き合いもあるしな」
「・・・分かった。後詰めに撤しよう」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは一歩後ろに下がった。
「村長、そういうことだ。決着をつける時がた」
「くっくっくっ・・・お前も言うようになったな」
梅ヶ崎親分は不適に笑っている。
「天にかえる時が来たのだ」
アルフレッドが右ストレートのうなりをあげた!
梅ヶ崎親分は倒れた。ぴくりとも動かない。本当に死んだかもしれない。
「ピラフ、真宿まで連れていきな!」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの威勢のいい声が響く。
「は、はい」
ピラフはすぐに車を出した。
五分もせずに真宿に着いた。相当とばしたようだ。後ろからパトカー数台がついてきている。
車が止まるや否や、ピラフが止めるのも無視して、二人は走り出した。急いで元の世界に戻らなくてはならない。ピラフが逮捕されているのを横目に、全力失踪でチキュウと元の世界の出入り口を目指した。あの細い裏路地に着くと、アルフレッドは躊躇せずに戸を開けた。