第34話「村長帰還」
ムラマツがオペ室に乗り込むと、そこには頭に包帯を巻いた村長が、手術台に横たわっていた。村長の他には医師も看護婦もいない。
「ほう、意外と早かったのう」
村長は横たわったままで、起き上がろうとしない。
「う、動くな!」
ムラマツの拳銃がぴたりと村長に向いている。
ムラマツの背後からアルフレッド、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン、ピラフの三人が顔を出した。
「村長、おとなしく捕まってくれませんか?この人数を相手にはできないでしょう」
アルフレッドが言った。
「フォッフォッフォ、今までのわしとは違うぞ」
確かに並々ならぬ闘気が漂っている。ギャンビットから何か特別な力を授けられたのかもしれない。アルフレッドたちは攻撃に備えて身構えている。ピラフに至ってはうずくまって震えている。
村長が手術台から降り、ゆっくりと三人の方に近づいて来る。
次の瞬間、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが斧を投げた。村長に命中するはずの斧は壁に突き刺さった。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが外すはずがない。
「おい、村長!何をした?」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンがたまらず聞いた。
「何もしとらんがのう。お主の腕が落ちただけじゃろう、フッフッフ」
村長はふくみを残した。何か裏があるのは間違いないだろう。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは自身を無くしたのか力なくこう言った。
「アルフレッド、どうする?」
「心配するな。こっちは四人いるんだ」
そう言うと、ピラフとムラマツに合図した。ムラマツが村長の背後に回り、アルフレッド自身も村長の右手に立った。左はピラフである。自然とエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが村長の正面になった。徐々に輪を小さくしていく。アルフレッドがちらりとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの目を見た。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはピラフ、ピラフはムラマツの目を見た・・・と同時に全員が村長を殴った。村長は失神した。失神した村長を椅子に座らせ、紐で縛る。ピラフが水を運んできた。それを村長にぶっかけた。
「ゴホッゴボッ」
村長は咳き込みながら目を覚ました。
「さて、質問に答えてもらおうか」
手をもみながらアルフレッドが言った。
「・・・」
「黙ってると為にならないぞ」
「・・・」
「アルフレッドさん、ここは私に任せて下さい」
ピラフが村長を殴り始めた。慌ててアルフレッドとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが止めた。
「わ、分かった・・・知ってることは総て話そう」
「チキュウに来たのは村長一人ですか?」
「いや、二人だ」
「もう一人はどこにいるんですか?」
「隣にいるだろう」
「え?」
「ピラフじゃよ」
「!」
「ピラフに殴られたということは、ギャンビット様に切られたようだな。何しろ非情な方だ」
ピラフの存在を確認したが、その姿はもう無かった。
「裏切ったと思ったら裏切られてしまった・・・」
「なら・・・またあたしたちの仲間になればいいよ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが縄を解き、村長を抱き起こした。「ピラフは元の世界に戻っているはずじゃ。まずは元の世界を目指そう」
村長は相変わらずいい調子だ。
アルフレッド、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン、村長の三人は元の世界へと急いだ。