第36話「恐るべし地獄の軍曹」
十五階からは階段か何かを使わなければならないらしい。エレベーターを降りると真正面に階段があった。
「なんじゃ、エレベーターがあるだけで何も変わってないのぉ」
村長はそう言うと、階段を上がり始めた。アルフレッドたちも村長に続いた。
村長が十六階に上がったところで立ち止まった。
「村長、どうかしたんですか?」
アルフレッドが問い掛ける。
「ウエルカム!」
村長の体越しに声が聞こえた。
アルフレッドとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは急いで駆け上がった。誰かがいるらしい。
「何者じゃ、お主。十六階には誰もいないはずじゃ」
「私はピカチュウ軍曹だ。村長チキュウ方面軍団長、いや、前チキュウ方面軍団長だったな。貴様は解任されたピカ」
屈強なサングラスの男は野太い声で言った。
「貴様の叛逆は既に察知しているピカ。ギャンビット様の命で私はここに配備されたピカ」
「糞!ギャンビットめ・・・」
アルフレッドがうめいた。
「何言っとるんじゃよ、わしは裏切ってなどいないぞ」
こういう時の村長の度胸には、毎度のことながら驚かされる。
「え、そうピカか?ギャンビット様は殺せって言ってたピカ」
「お主ここに来て日が浅いんじゃろう。ギャンビット様はすぐに死ねとか殺せとか言うんじゃよ」
「へぇ、そうピカか」
「・・・」
しばしの沈黙があった。
「ピカピカピカピカうるせぇんだよ!」
突然、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンがピカチュウを殴りだした。「ポケモンか?ポケットモンスターなのか?オマエはポケットモンスターなのカ?」
尚もエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは殴り続けている。アルフレッドも村長も止める気はない。ただ見ていた。
「オマエのどこがピカチュウなんだよ!テレ東の分際で調子こいてんじゃねぇぞ!」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは最後にハイキックを喰らわせて、一息ついた。
「ガガガガガッギギガガギギギ・・・ボンッ」
辺りに煙が立ち込めている。どうやらピカチュウはロボットだったようだ。
「・・・ガガ・・・ピピ・ピカカカ・・・」
完全に破壊されたようだ。
アルフレッドと村長は感謝していた。誰もが言いたかったことを言ってたくれたエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンに、心の底から感謝していた。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンに向かって、二人はこう囁いた。蚊が鳴くほどの小さな声である。
「ありがとう・・・」
アルフレッドと村長は初めて心からありがとうと言えた。
三人は十七階へと階段を上がって行った。