第38話「卑劣なり親父」
十八階は、何畳もの畳が敷きつめてあった。
中央に、額の禿げ上がった男が立っている。
「あんた、毛沢東だな?」
アルフレッドが言った。
「その通りです。よくご存知ですね」
「文献で読んだことがある。これでも本屋の端くれでね」
「ならば話は早い・・・」
そう言うと、毛沢東は正座をし、両手をついた。
「うちの馬鹿息子が誠に申し訳ないことを・・・」
深く頭を下げた。
土下座である。
「まぁまぁ、頭を上げて下さいよ」
「いえ、これぐらいしないと私の気が済みません」
顔を上げた毛沢東の目に光るものがあった。洟も垂れ流しだ。
「さ、これを」
アルフレッドは白いハンケチを差し出した。
「かたじけない・・・」
毛沢東は大きな音を立てて洟をかんだ。
毛沢東は、べとべとになったハンケチをアルフレッドに返した。
「少しは落ち着きましたか?」
「ええ・・・」
「一体何があったんです?」
「伜が皆さんにご迷惑をかけたと聞きました」
「伜?」
「私の伜はギャルビッシュ・毛です」
「十七階にいた奴か?」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが聞いた。
「そうです。全く申し訳ありません」
「いや、迷惑ってほどじゃないよ。だいだいあたしが一発でのしちゃったし」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは得意そうに力こぶを作って見せた。
「隙あり!」
毛沢東は突然、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンのみぞおちを突いた。
「うぐ・・・」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはもんどりうって倒れこんだ。
「おい、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン!」
アルフレッドはエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンを揺すったが、起きる様子はない。
「糞!どういうつもりだ・・・」
「あなた方のことは調べさせて頂きました」
「・・・」
「一番強いのは、斧使いのお嬢さんだと分かりました。後はゴミです」
「それでエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンを・・・」
「飲み込みが早いですね。彼女がいなければ、あなた方も大したことはありません」
毛沢東は懐から拳銃を出した。それを見たアルフレッドは短剣を抜いた。
しばらく、睨み合いが続くかと思われた。
そこで背後から声がした。
「とうとう始まってしまいました。二回戦も好カードですねぇ、親方」
「ええ、毛沢東vsアルフレッド・ボンバーヘッド、中々見れませんよ」
「二回戦ということもあって、両者とも武器を携帯しています。アルフレッド選手は祖父譲りの短刀です」
「少し錆びてますね。手入れしてないのがばればれです」
「対する毛沢東選手は拳銃。普通に考えれば毛選手の勝ちですが・・・」
「そう簡単にいかないところが、この闘いのおもしろさですよ。ルールなんて無いですから」
「親方、ルールはありますよ。降参するか死んだら負けって大会規定に書いてありますよ」
「それもそうですね(笑)」
「おーっと、毛選手早速乱射だぁ!アルフレッド選手避けるので精一杯!」
「弾が無くなるのを待つ作戦ですね」
「!」
「毛選手いきなり崩れ落ちた!何があったんでしょうか!」
「あ、後ろに誰かいますよ」
「エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン選手の乱入だ〜」
「大会規定上、乱入も認められますね」
「毛選手は失神してしまったようです!この勝負エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン選手の勝ち!」
勝負が決すると、村長は物陰から出てきた。当然のように毛沢東の金品をあさっている。
村長を置いて、二人は十九階へと歩を進めて行った。