第39話「臭い巨塔」
19階へ上がると白衣をまとった一人の男性が立っていた。
この階はなにに使うのかわからない道具が山ほど敷き詰められている。
「ようこそ」
男は礼儀正しそうに言った。
「だんだん番人を倒すのが飽きたから潔く退いてくれないか?」
男は小さく笑った。
「まあ、待ちたまえ。少し話しを聞いてくれないか」
「毛沢東みたく不意打ちは効かないぞ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは警戒している。
「そうだ、信用できない」
アルフレッドも続けて言う。
「そんなに警戒するな。私はプロフェッサー・ゼンザイ、ここの技術局長だ」
「技術局長?」
「そうだ、戦闘民族ではない。安心したまえ。とりあえずここへかけなさい」
ゼンザイはそういうとテーブルの方に歩いていく。
どうやらゼンザイは戦う気はないようだ。
「話なら短くしてくれよな」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンもそういいながら椅子に座りアルフレッドも腰をかける。
「なぜこのように話をするかというと・・・・実はギャンビット様を止めて欲しいんだ」
「と、止める?」
「ああ、ギャンビット様は恐るべき計画を進めているんだ」
「計画?どういう計画なんだ?」
ゼンザイは少し間をあけるとその計画について話し始めた。
「その計画とは人類土管計画・・・・世界中の人間を土管に敷き詰め補完しようという計画だ」
「な?なんだと!?」
アルフレッドは驚きを隠せなかった。
「そう、私が発明した特殊な土管に人間を入れると洗脳され一生ギャンビット様のものになってしまうのだ。そうすることで反乱分子がいなくなり永遠にその地位を保とうとしている」
「お、恐ろしい計画だな」
「もう私にはギャンビット様を止めることができない。時間をかければ改心し良い国が作れたかもしれない、だが私には時間がないのだ」
「どういうことだ?」
ゼンザイは口を震わせている。
「私は病魔に犯されている。もって・・・・1ヶ月だろう・・・」
「そ、そんな・・・」
「私の発明を人々の役に立てたかった・・・・やるべきことはたくさんあるが・・・もう私にはできない。悔しくはない・・・ただ・・・・ただ・・・」
ゼンザイの目に涙が浮かんでいる。
「ただ・・・無念だ・・・」
「ゼンザイ・・・」
しばし沈黙が続いた。
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「わかった。ギャンビットのことは任せてくれ」
アルフレッドが沈黙を破った。
「ああ、もともとあたしたちの仲間だしな」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンも真剣な目をして言った。
「あ、ありがとう。君たちと話せてよかったよ」
ゼンザイが少しだけ笑みをこぼした。
「それにしてもなんでギャンビットがそんなこと考えるようになったのかな」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは一番の問題を聞いた。
「確か・・・」
「何かわかるのか?」
「確実性はないが、前までは温厚で無欲だったんだ。それが崖から落ちて頭を打ってから人が変わったように支配欲を持ってしまった。そこからじゃないだろうか?」
(いや、それはもう確実だろ!)
とツッコミしたかったがアルフレッドはこらえた。死期の近い人間を刺激してはいけない。
「もともと我々は平和を保つために結成されたんだ。それがこんなことになってしまうなんて・・・」
「まあ、気にすんな。悪いのはギャンビットなんだから」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは相変わらずフランクである。
「うむ、ではギャンビット様を頼む。ゴホッゴホッ」
「ああ、ゼンザイこそお大事にな」
そうアルフレッドが言うと二人は席を立ち、20階へと向かった。