第42話「トイレ・ハンター」

「こっちに刺客が来てるかもしれないんだろ。さっさとレイモンド王国に行こうぜ」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが言った。

「そうじゃの。まずは旅支度じゃ。一時間後に村の門の前に集合じゃ」

村長はそう言うと、本屋を出ていった。

「とりあえず準備だな。ギャンビット、食糧を調達してきてくれ」

アルフレッドはギャンビットに金を渡した。

「エドモンド」

ギャンビットはうれしそうな顔をして走り出した。これで本屋にはアルフレッドとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの二人だけになった。

「アルフレッド、手紙に書いてあるモンゴリアン駅ってどこにあるんだい?」

「さあ・・・」

「は?知らないのか?」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは呆れた様な目をしている。

「まぁまぁ、うちは本屋だぜ?地図で調べりゃすぐ分かるさ」

アルフレッドは本棚から大きな地図帳を引っ張り出し、モンゴリアン駅を探しだした。

「えーと、モンゴリアン・・・モンゴリアン・・・」

数分たっても、アルフレッドはまだ地図と格闘している。

「モンゴリアン・・・あった!」

「どこにあるんだ?」

「スピン市だ。スピン市のど真ん中の地下鉄の駅だ」

「へぇ〜へぇ〜」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはレジの置いてある台ををばしばし叩いた。

アルフレッドは平然とエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの行動を無視した。

「うちの村からだと西に五十キロってとこだな」

「馬で行けばすぐじゃないか」

〈俺はラバだけどな!〉

アルフレッドは心の中で叫んだ。

「ギャンビットが帰ってくる前に準備を終わらそう」

「あたしはもう終わってるよ」

「いやいや、さっきから何もやってないじゃんか」

「あたしはこれがあれば他は何もいらないよ」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは、ベルトに差してある大きな斧と携帯に便利な小型の斧を見せた。

考えてみれば、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはずっと同じ格好をしている。普段は香水でごまかしているが、近寄るともの凄く臭い時がある。真性の風呂嫌いだった。

アルフレッドは自分の部屋に戻り、荷造りをした。短剣と古文書だけは忘れてはいけない。これがアルフレッドがレイモンド家の落胤だということを証明するものに他ならない。さらに、母からもらった指輪とペンダントを身に付けた。

「おーい、ギャンビットが帰ってきたぞ!」

「分かった、すぐ行く!」

アルフレッドが店に出ると、二人が待っていた。

「エドモンド」

ギャンビットは何故かにこにこしている。

アルフレッドが荷造りをしている間に食糧も積み終わったようだ。

「じゃあ、門まで行くか」

三人は馬とラバを連れ、村長の指定した門までやってきた。あれからきっかり一時間たっている。村長はまだ来ていない。

「ったく、一時間後つったの村長だろ。何で来ないんだよ」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが不満を漏らした。

二十分はたったろうか。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが度を増していらつき始めた。右へ左へ行ったり来たりしている。

「遅いな、もう行こうぜ」

「エドモンド」

「あの糞じじい何考えてやがるんだ!」

アルフレッドがかんしゃくを起こした。

「遅くなってすまん」

「!」

ようやく村長がやってきた。

〈今の聞かれたかも・・・〉

アルフレッドの額に汗がにじんだ。

「それじゃあ、行こうかのぉ」

どうやら聞こえていなかったようだ。アルフレッドは胸をなでおろした。

村長が馬の腹を蹴り、馬を走らせた。それを見てエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンとギャンビットは馬に跨った。アルフレッドはもちろんラバである。

 

馬を走らせること数時間、スピン市に着いた。スピン市は毎週三回、市が開かれている。しかし、市が無い時には人はほとんどいない。市長の政策が悪いと専らの風評である。最近になって、市長を操っているのは市長補佐ではないかとの憶測も飛び出し、十日後の選挙に合わせた一斉蜂起も噂されている。

今日は市が無いようだ。商店のシャッターは軒並閉まっている。人がいないせいか、モンゴリアン駅は簡単に見つかった。

「人がいなくて良かったのう。女子便所になんなく入れるじゃろうて」

村長がにやりと笑った。

「村長、一体何をするつもりですか?」

アルフレッドの目だけが笑っている。

「ナニを」

「くっくっく・・・はっはっは!」

二人は声を合わせて笑った。アルフレッドが何かを言おうとした時、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの斧が唸った。

ギャンビットの首を落としたのだ。

「エドモンドー!」

「あんたらいい加減にしな!さもないとこうなるよ!」

頭を拾っているギャンビットを指差した。

「は、はい、分かりました」

アルフレッドはエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンに少なからず畏れを抱いた。

「誠に申し訳ない」

村長は頭を下げた。

 

一行はようやく女子便所を発見した。

 

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