第52話「ポリーの遺産の化学兵器」
※この話には過激な内容が含まれています
村長とエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは執務室を目指していたが、詳しい場所は分からない。時折ある案内図を見ては走り、少しずつエスカルゴ要塞の罠にはまりつつあった。
「こっちじゃないのう」
行き止まりである。
「ポリーはどこに行ったんじゃ?やつがいなければ、執務室まで辿り着けん」
せめて民衆軍の一人を連れてくるべきだった。ポリーがいなくとも、村長やエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンよりはこの要塞に詳しいはずである。
「あ、村長!あれ見ろ!矢印があるぞ!」
壁に紙が貼ってあった。
『←執務室 御用の方は受付まで』
「行ってみよう」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは何も考えずに、走って行ってしまった。村長が追い付くと、誇らしげな顔をしたエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが立っていた。
「みろ、当たりだ」
受付には誰もいない。二人は警戒しながらも、執務室の扉を蹴破った。扉が壊れると同時に、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは斧を投げた。が、斧は虚しく本棚に突き刺さるのみである。執務室には人影一つなかった。
「ふっふっふ、外れのようじゃ」
村長は勝ち誇ったように言った。
「あ、何かあるぞ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは机の上にある便箋を手に取った。
「何じゃ、読んでみい」
村長が促す。
「えーと、『てるくはのる』・・・」
「何じゃ、それだけか?」
「うん、これだけ」
「暗号かもしれん」
「まあ、いいや」
二人は、とりあえず便箋を燃やした。燃やし終えると、村長は執務室を物色しだした。本棚や机の引き出し、宝箱を引っくり返している。
「ほう、こりゃ値打ちもんじゃわ」
水晶玉を手に取り、光りにかざした。
「村長、そんなことしてる場合じゃないだろ。もう行くよ」
その時、水晶が淡く輝きだした。
「水晶が・・・」
徐々に光りが強くなっていく。
BOOOOOOOOOOM!!!
水晶が爆音を轟かせて破裂した。村長は、その衝撃をもろに受けて倒れている。気を失っているようだ。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは執務室の扉近くにいたため、大した怪我はしていない。それでも、廊下まで吹き飛ばされた。
「何だ、今のは・・・」
さすがのエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンも驚きを隠せない。そんな状況でも、エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは素早く斧を構えている。白煙が薄くなり、安全なことを確認すると、村長に駆け寄った。
「大丈夫か?」
揺すってみたが、村長は起きる気配をみせない。
「おい!しっかりしろ!」
村長は微動だにしない。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは諦め、立ち上がった。辺りをみまわすと、四方を囲んでいたはずの壁の大半がなくなっている。天井もない。爆発の凄まじさを物語っていた。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは空を見上げた。青い空の真ん中に太陽がぎらついていた。どうするともなく空をみつめていると、小さな白い布が舞っているのが分かった。ゆっくりと落ちてくるその布は、ぴたりと村長の顔の上に舞い降りた。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの目に涙がにじんだ。
「ぶはぁ!何じゃ、この臭いは!げほっげほっ!」
村長は起き上がり、その布を親指と中指でつまんでいた。布の隅にはマジックで『服部ポリ夫』と書いてある。
「もしかしたら、ポリーのじゃないのか?」
「かもしれん。げほっ!吐きそうじゃわ・・・」
村長は涙を流している。悪臭が目にしみるらしい。
「うおぇぇーーーー!げぼげぼ〜」
吐瀉物が辺り一面に広がった。ポリーの手拭いの臭いとあいまって酷いものがある。
「うっ・・・」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンも鼻を押さえるほどだ。村長は吐き続けている。ゲロの中には朝食のラーメンがあった。所々にメンマもある。それをみたエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンも催してきた。
「もろろろろー!」
こちらはステーキである。血のしたたるような肉片が次から次へと口から出てくる。村長も負けていない。おびただしい量のラーメンを生産している。ラーメンが終わると、赤い液体が出てきた。昨晩に呑んだワインである。
一通り吐き終えて一服していると、どこからか声が聞こえてきた。
「いやぁ、やっと追い付きましたよ」
声の主はポリー・ハッターだった。相変わらず滝のような汗を流している。一つだけいつもと違う点は全身の色が薄く、体が透けていることと、足がないことだった。やはり、右手にはクリーム色に変色した手拭いがしっかりと握られている。これにも『服部ポリ夫』としっかりと書いてあった。