第53話「終戦」

「遅いぞ!」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはポリーを見て言った。睨まれたポリーは薄くなったりはっきりとしたり少しむらがある。

「そうじゃ、おかげでかなり走ったぞ」

「いや〜すいません」

頭を掻きながらポリーは悪びれた様子もなく笑った。

「とにかくゴスローリのところまで早く連れて行ってくれ」

「わかりました、こちらです」

そういうと村長も立ち上がりポリーの後についていった。

ポリーは薄くなってからとてもスムーズに動くようになった。汗は掻いているが息はまったく乱していない。というか息すらしてないように思える。

ゴスローリの元へ向かう途中エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはふと窓の外へ目を向けた。

外では未だに民衆と兵隊とが戦いを続けている。それは衰えるどころかさらに勢いを増しているように見える。

「急がないと・・・」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは誰にも聞こえない程度の声で呟いた。

 

走ること約10分。

上がったり下がったりしていて今何階にいるのかエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンたちにはわからなくなっていた。

「おい、本当にこれで合ってるのか?」

「もちろんです、何回も通ったことありますから」

「さっきから上がったり下がったりしとるんじゃが?」

「こう行かないとたどり着けないんです」

少し疑いつつも二人はポリーに従うしかなかった。

「ここです」

そういうポリーは一枚の重厚な鉄扉を指差した。

「うむ、確かにここは悪の根城っぽいところじゃな」

村長はそういいながらエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの方を見てにやりと笑った。

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはその視線を無視し重い鉄扉を押し開けた。

部屋に入るとここがエスカルゴ要塞の一番上の部屋であることがわかった。

この部屋は他の部屋と違い窓が多く光が強く差し込んでいる。そして窓際に逆光を背に一人の男が立っていた。

三人はエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンを先頭に足を踏み入れた。

「お前が・・・ゴスローリか?」

「いったい護衛のやつらはなにをしているんでごりか・・・・」

ゴスローリとおぼしき男はそう言うと音もなく宙に浮いた。

「いかにも俺がゴスローリ、全宇宙の王となる男ごり」

ゴスローリは端正な顔立ちをしていて黒いマントをなびかせていた。

「ゴスローリ!お前が行ってきた大罪は許されざることだぞ!」

ポリーは小汚い手ぬぐいを噛み締めながら言った。

「民を傷つけるとは許せん!」

村長も今までになく怒りをあらわにしている。

「覚悟!」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは斧を持ち構えた。

「待て!少し話をしようごり」

「ん?なんだ?」

「君たちの戦いを透視術によって見せてもらったごり」

「だからどうした」

「我々の軍に入らんでごりか?」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはより一層険しい顔した。

「君たちによってこうむった損害は少なくないがそれほどの力を君たちが持っているということごり。どうごりか?」

「ふざけるな!そんなことするわけないだろ!」

その一言でエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは堪忍袋の緒がついに切れた。

「そうごりか・・・・では死んでもらうしかないようごりね」

ゴスローリは表情を一つも変えず言い放った。

「それはお前のほうだ」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンがそういうと他の二人も事態に備えて体勢を整えた。

ゴスローリは怪しい呪文を唱えると手のひらから握りこぶしぐらいの光の玉を作り出した。

「一瞬で終わりにしてやろうごり」

その瞬間ゴスローリは腕を振り下ろし光の玉をエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン目掛けて放った。

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは前に転がり軽くそれをかわした。光の玉は床に当たり爆発を引き起こし、それにより村長とポリーが倒れこんでしまった。

すぐさま体勢を立て直すがゴスローリのほうが速かった。次の光の玉を作り再びエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンを狙って放ってくる。光の玉自体はそこまで速くないのだがゴスローリの技の間隔が短い。

「逃げているだけでは倒せないごり」

ゴスローリはゲラゲラ笑いながら次々と光の玉を放っていく。

「くっ」

かわすエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンも徐々に息が切れ始めてきた。

ろくに狙いを定めずに小型斧を投げるがもちろん当たらない。

「くそ・・・やばいな・・・」

だんだんとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの反応速度が下がっていき、体をかすってしまうほどまで鈍ってしまった。

「わ、わしには何もできんのか・・・」

最初から戦う気などない村長は安全な場所で立っているだけである。

「とどめごり!」

ゴスローリはさらに力をこめて直径約78.32センチの光の玉を作り出した。

(ば、万事休すか・・・・)

状況が変わったのは次の瞬間である。次の攻撃に備えゴスローリのほうを見ると後ろで誰かが羽交い絞めにしている。

「は、早く!今がチャンスです!」

ポリーだった。身軽になり、今が一番役に立っている。

「それだとポリーが・・・」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは斧を構えながら戸惑っている。

「くそごり、ポリーごりめ!役立たずごりが俺様に逆らうごりか!?」

ゴスローリはもがいているがポリーも必死に押さえつけている。

「私は大丈夫です!早く!」

「よし、わかった!」

「な、やめろごりーーー!」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは即決すると勢いよく斧を投げた。

斧は目にも止まらぬ速さで回転しながら飛んでいく。

「ち、ちくしょうごりーーーー」

ゴスローリの断末魔ともいえる絶叫がこだまする。

斧はその進路を変えることなくゴスローリを真っ二つにした。

「ゴリゴリ〜〜〜〜」

そしてゴスローリの体がすこし膨張したかと思うと大きな爆発を起こした。

 

「どか〜〜〜ん!」

 

窓ガラスも砕け散り爆風でエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンもよろけてしまった。

「お、終わったのか」

村長は一歩前に出てゴスローリがいた宙を見るとそこには不自然な白い煙のようなものが漂っている。

「ま、まだなのか・・・・」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは疲れきった体に鞭を入れ立ち上がった。

徐々に白い煙が形をはっきりさせていく。

そこに出てきたのは・・・・・・・・・・・・・ポリーだった。

「いや〜やりましたね」

ポリーは何食わぬ顔でそこに浮いている。

「お、おい、大丈夫かよ」

「まあ、なんとか・・・」

「とにかく、やったな!」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは強敵ゴスローリを倒し大きく安堵した。

「そうじゃ、これで平和がくる」

「そうですね・・・・・・」

ポリーは浮かない顔をしている。

「どうした?何かあったのか?」

「実は・・・・そろそろお迎えが来たようです」

「は?」

村長とエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは声をそろえて言った。

するとポリーの頭の上から光が降り注いできた。

「この体では30分ほどしかいられないのです」

そういうとポリーはポケットから三角形の白い布がついた紐を取り出しそれを頭につけた。

「必要な時に呼んでください、すぐに駆けつけますので」

ポリーはぎこちなく笑うと光に包まれて消えてしまった。

「ポリーって会ったときと少し変わったよな」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはポリーが消えてしまったことを気にせずだるそうに言った。

「まあ、元々変わったやつじゃからな」

「じゃあ、とりあえず民衆に敵将を倒したことを発表しよう」

「そうじゃな」

村長はその部屋に備え付けてあったマイクを手に取り窓際に立った。

「皆のもの、聞けーーーー」

その声に気付きエスカルゴ要塞前で乱闘を繰り広げていた民衆と兵隊は戦いを止めこちらに目を向けた。

「敵将ゴスローリの首は討ち取ったぞーーーーー!!!もう圧政はなくなった!!!戦いを直ちにやめろ!!!!」

民衆と兵隊はお互い顔を見合わせワンテンポ遅れて歓声を上げた。

「ついに平和を勝ち取ったぞーーー!!!」

「ゴリゴリ野郎はやっつけたぞーーーーーー」

「ウォーーーーーーーーー」

村長の声に合わせて民衆たちの歓声もより一層大きくなっていく。

今まで殺しあっていたのが嘘のように民衆と兵隊が抱き合っている。

「兵隊もみんな、平和を望んでいたんだな・・・・」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは窓から見える平和の光景を見ながら言った。

「明朝より宴を行う!!!」

「ウォーーーーーーーーー」

民衆は拳を突き上げ今までで一番盛り上がっていた。

 

その夜

「とうとう終わったな」

「ああ」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンたちは用意されていた料理を食べていた。

「明日の宴が楽しみじゃな」

村長は屈託のない笑顔で言った。

「ああ」

村長は雰囲気を察して表情をを戻した。

「これからどうするんじゃ?」

「・・・」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは黙々と食事を続けている。

「とりあえず一段落するまでここにいるかの」

「ああ」

「アルフレッドがいたらなんと言うかのぅ」

村長もすこし神妙な面持ちだ。

「ご馳走様」

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは食べ終えると席を立ちダイニングから出て行った。一度は自分の部屋の前まで行ったがふと思い出したようにアルフレッドの部屋へと向かった。

アルフレッドの部屋はあの時と変わらないままである。荷物もそのままだ。

「アルフレッド・・・・」

机の上にはアルフレッドのあの晩読んでいたのだろうか多くの本が積み上げられている。

エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはその一冊を手に取った。

『世界の伝説』

その本には唯一付箋がつけられている。

(なにか気になる内容でもあったのかな)

付箋のついているところを開いてみるとそこには驚くべき内容が記されていた。

 

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