第55話「新たなる希望」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはアルフレッドを生き返らせる方法が見つかったことだけがうれしいわけではなかった。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは生まれながらの戦士である。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは常に新しい旅、戦いを求めているのだ。
「なあ、早く行こうぜ」
「え?ええ!?今から?」
村長は口にステーキを頬張りながら言った。
「当たり前だろ」
「何いっとるんじゃ。今は宴の最中の上にわしらはその主役じゃぞ。さすがに今からというのは・・」
「ん、ああ、そういえばそうだな」
こればかりは正論である。
「というわけじゃ、今日は宴を楽しむ!出発は明日じゃ」
気合の入ったように聞こえるが村長はずっとステーキを食べ続けている。アルフレッドから前に村長は子供のころから貧乏であまり良い物を食べたことがなかったと聞いた。やはりステーキに異常に固執しているのはここから来るのだろう。
「それじゃあ、出発は明日だね。ところでその首から下げているダイヤモンドみたいな宝石はなんだ?」
「ん?これか?戦利品じゃ」
「戦利品?ってどこで手に入れ・・・あ!」
「わかったようじゃな」
「もしかしてゴスローリの義眼?」
「うひょひょーー、いいじゃろ?」
村長はうれしそうにダイヤモンドに頬ずりしている。
「いや・・・別に・・・」
「なんじゃ、面白くないやつじゃな」
誰もが忘れていたダイヤモンドしっかりとゲットしている。やはりアルフレッドの言うとおりこういうことは細かい。
「まあ、いい。わしももう少し食べてくる」
そういうと再び村長はステーキのあるところへ向かって行った。
村長の食べていたこところは異常に食べカスが落ちている。きっと育ちも悪かったのだろう。エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは今の村長のマナーを想うと少し哀れみを覚えた。
朝の5時半から始まった宴も終わりかけていた。終わりといっても午後5時である。ここの国の人は起きるのも早く寝るのも早いのだろうか。結局村長は終止ステーキを食べ続けていた。村長が食べまわったところはとても汚く、周りの人が注意しようにも宴の主役ということもあり皆黙認していた。
最後はセロン王が一本締めをして終わった。
そして民衆も兵士も王族も日が落ちる前に帰っていった。
宴であまり酒を飲まなかったこともあり目覚めはとても良かった。
「あ〜良く眠った・・・・」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはベッドから出ると準備を始めた。基本的に寝巻きに着替えないので早く終わる。自分の武器、荷物とアルフレッドの使えそうな書物、道具もまとめ鞄に入れていく。準備を終えるとおそらく寝ているであろう村長の部屋に向かった。
予想通り村長はまだ寝ていた。
とりあえず声で起こすのが面倒なので殴って起こすことにした。
ドゴッ!
「げひょ!」
村長は奇声を上げて起きた。
「おい、出発の時間だぞ」
「な、なんじゃ?」
「だからもう時間だよ!」
「わかったわかった。いたたた、いくらなんでもこんな起こし方せんでも・・・」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンがもう一度拳を振り上げると村長は慌てて準備をし始めた。
「じゃあ、先に門の前に行ってるからな」
「ああ、了解じゃ」
村長を見張っていようかと思ったがそうもいかない。他に乗り物などの用意をしなければならない。
数分経ってやっと村長が来た。
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは兵士数人と一緒にいる。
「遅いぞ」
「すまんすまん。で、乗り物はもしかして・・・・自転車?」
「いや、そうだと思ったんだけど今まで軍部が独占してた乗り物があってそれを使うことにしたよ。セロンのやつが2台用意してくれたんだ」
「それでその乗り物とは?」
「これだよ」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが指差す先には雲が2つ浮いている。
「何じゃこの煙は?」
村長の言うとおり紫色をしていてかなり気味が悪い。
「煙じゃなくて雲だよ。魔法雲っていうものらしいんだ。」
「ま、まさかこれに乗れるのか?」
「ああ、それにこれ結構速いみたいだぞ」
「ほほぉ、こりゃラクチンそうじゃ」
村長は物珍しそうに魔法雲を触っている。
「では、乗り方を説明させていいただきます」
兵士の一人が前に出て話し始めた。
「この魔法雲は最新型のもので従来のモデルでは悪い心を持つ者は乗れなかったのですがこの最新型では大幅に改良されすべての人が乗れるようになりました。操作は念じるだけ進んだり曲がったりすることができ、最高時速100キロまで出せます。あと最大高度は2メートルなのでご注意ください」
「ああ、自転車より簡単そうだな」
「うむ、安心したわい」
二人は兵士から食料を受け取ると魔法雲に乗り込んだ。
「そうだ、言い忘れたよ」
「何でしょうか?」
「アルフレッドの遺体なんだけど一応冷凍保存しておいてくれないか。すぐ帰ってこれるとは限らないし」
「かしこまりました」
「もう忘れ物はないな」
村長はエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンに確認した。
「ああ、じゃあ行くぞ!」
掛け声とともにエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは念じた。するとすぐさま魔法雲は反応し前に発進した。続いて村長もぎこちなかったが村長の魔法雲も無事発進することができた。
「いってらっしゃいませ〜」
兵士の声を背にエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンたちはアルフレッドを生き返らせるために旅立った。
1時間後
何か遠くに棒状な建物が建っていることがわかる。
2時間後
ちょっとだけはっきりしてきた。
3時間後
徐々に尋常じゃない高さに気付いてきた。それと村長が乗り物酔いをして吐いた。
4時間後
かなりはっきり見える。どう考えても人間が作れるようなものではない。神というのもあながち嘘ではないかもしれない。
5時間後
「やっと入り口に着いたな。かなり朝早く出たのにもう昼前だよ」
「ただ乗っているだけじゃがかなり疲れるものじゃな」
大分前からコリン塔自体は見えていたが間近で見ると本当にすごい建物である。直径30メートルほどの建物で頂上は霞んでいてまったく見えない。
「それにしてもすごいな」
「そうじゃな」
「ちょっと『世界の伝説』の詳しいところを見てみるよ」
そういうとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは本を取り出しコリン塔に関する部分を読み始めた。
「えーっと『古代の神が建てたといわれるコリン塔は5000階建てで一つ一つの階に試練がありそれをこなしていかなければ神のいる頂上までたどり着くことはできない。』」
「そりゃあ、面倒くさいのぉ」
村長は顔をしかめながら言った。
「『しかし、それはかなり昔のことで試練を受け持つ神の使いが今では数人住んでいる。なぜ神の使いがそこまで減ってしまったかは謎に包まれている』」
「うひょひょ〜〜〜」
村長の喜び方にエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは引いた。
「とにかく入ろうぜ。こんなにでかくちゃ移動だけでも時間かかるだろうし」
「そ、そうじゃな」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはさっそく扉を開けてみた。
やはり本に書いてあるとおり中はかなり荒れている。
「うわ〜本当にこの建物だれか住んでるのかよ」
「まあ、これだけでかい建物じゃ。そもそも何回にその神の使いがいるのかわからんのじゃから油断はできんぞ」
「そりゃあそうだけどよ」
相当荒れているが誰かがここに住んでいた形跡はあった。かなり古いものだがキッチンらしきものが備え付けられている。
「とりあえず上るしかないな」
「ふぅ〜腰にくるわい」
二人はやりきれなさを感じながらも階段を上り続けた。
階段には一応階数が書いてあるのでわかりやすいといえばわかりやすいのだが逆にそれが負担になる。やっと3桁台にはのったものの5000階というのは二人にとっても途方もない数字だった。村長は誓った。絶対にこの塔を作ったという神からこのダイヤモンド以上のものを頂くと。
「ハァハァ・・・いったいなんのためにこんなクソ塔を建てたんじゃ?」
「さあね、それにしても何もないんじゃ本当に暇だな」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは村長とはうってかわってあまり息切れしていない。
ちょうど200階に着いたところなにやら旨そうな匂いがしてきた。
「なんじゃ?料理?」
「ああ、確かになんか匂いがするな」
階を上がるたびに匂いがはっきりしていく。どうやら坦々麺のようだ。
「もしかして神の使いがすぐ上にいるんじゃないか?」
「そうかもしれんな」
そして204階に上がったところでその上の階から匂っていることがわかった。
「やっと試練かもしれないな・・・・」
「うむ、階段を上り続ける以上に暇なのがきつかったからの。とりあえず試練にしてもそうじゃなくてもここに住んでる人なんじゃから何か聞けるじゃろ」
「それは言えるな。できたらコリン塔の神について詳しく聞きたいしな」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンを先頭にして二人は205階へと上がった。